宝物
図面の確認後に俊介と和香は俊介の車でショールームへ向かった。今日はキッチンのショールームを予約している。
「あの眼鏡店へ行ったらね、私の前に同じ物を求めた男性がいたって。まさかそれが宮島さんだったなんて。本当信じられない感じ。それにあの店長さん面白いですよね!」車の中で僕たちはまた眼鏡の話題で盛り上がりその勢いはずっと消えなかった。眼鏡店での事と今日の事が繋がる。点と点が漸く繋がった様な。きっとこれは未来にずっと語り草になろう出来事。宗像さんとは話題に事欠かなかった。だけどずっと会話している訳でもなくて勿論互いに無言の事もあるけど、それが苦痛だとか何か話題を振らなくちゃ、といった焦りは全くなくその静寂すら愛おしく隣に宗像さんがいてくれて見守っていてくれさえすればそれだけで、本当にそれだけで僕は救われる気がした。もう少しほんの少しでも同じ時間を共有できたらいいのに。そんな願いどうやったら叶えて貰えるのだろうか。
キッチンのショールームに着くとアドバイザーが事細かく宗像さんに説明をし始めた。彼女は真剣に聞き入っている。調理器具の収納扉や引出し、昇降式の吊り戸棚に感動したり。くるくる変わる彼女の表情に魅入ってしまった。アドバイザーから換気扇の手入れの説明を受け両手で整流板を外そうとするも中々取れず、あたふたしている姿に助け舟を出したくて思わず背後に周り、彼女の両手の甲に自分の掌を重ね
「ここのボタンを両手で押して下へ降ろす。」と手解きしてしまった。あっ、と思ったけどここで自分の手を引っ込めるのも不自然だし。
「大丈夫?」
彼女の瞳を確かめた。
「ありがとう。」
頬が紅潮しはにかんだ笑顔。
「掃除するときは僕に言って。外せるから」
思わずそんな言葉が出てしまった。掃除の時に僕が隣にいる前提。188cmの僕なら楽に取れるから。宗像さんは155cm位しかないから。
「こんなときにしかこの身長役に立たないから。」
なんて言い訳してみたりして。お互いに笑い合う。隣にいたアドバイザーが
「あら。ご夫婦仲が宜しいんですね!」
なんて言うもんだから。お互い恥ずかしかった。でも満更でもなく。寧ろ嬉しかったりして。こんな時間が僕の大切な宝物になった。




