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髭と眼鏡

 宗像さんの土地⋯北側斜線制限⋯きついな⋯どうしようかな⋯考えあぐねていたころ、何気なく俊介は自分の鼻から下がった眼鏡を上げた。あぁ、これは美佐子が選んでくれたフレーム⋯もう美佐子に囚われてはいけない。変えた方がいいかもな⋯元妻が選んでくれた眼鏡をいつまでも愛用しているなんて未練たらたらも甚だしい限りだ。最近乱視が進んだ様な気もするし。勿論老視も⋯。よし。今度の休みに眼鏡店行こう。何となく一新したくなった。思い切ってイメージチェンジしちゃおうかな。今までやったことないタイプにも挑戦してみよう。そういえばこのところ髭剃りのとき肌が負けるから髭伸ばそうかな⋯何か肌も老化現象なんだろうか。弱くなってきた気がする。自分の「老い」を認めつつ受け入れる準備をする。でも何だか心は笑ってる。これが皆言ってることか!って。漸く自分もそういったことを噛み締める年になってきたようだな、なんて。結構あっけらかんとしていた。年を取るって案外素敵なことかもな。悪いことばっかりじゃないかも。もみあげから顎まで顔の輪郭をなぞるように髭を揃えた「チンストラップ」と呼ばれる髭の整え方にしてみた。髭に白髪が混じってる。あらら。もう会社員じゃないし、今までやれなかったこと、我慢してきた事に挑戦してみようか。生まれて初めての髭だった。それから眼鏡を丸眼鏡に⋯自分でも驚く位に変わった気がした。眼鏡屋の店員にも「お似合いですよ。」と言わしめたのだ。眼鏡と髭。これだけだけど。あっ。再来週宗像さんに会うよな。図面完成させておこう。その時眼鏡変えたこと気づいてくれるかな。「あ!眼鏡変えたんですね、髭も!素敵ですね。」なんて言ってくれたりして⋯ん?何やってるんだ僕は⋯気がついたら宗像さんと会う日までそわそわ落ち着かなかった。離婚してからはしばらくこんなウキウキした気分にならなかったしなれなかった。僕を前向きにそして明るくしてくれたのは紛れもなく彼女、宗像さんの存在だった。

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