裸の王様
美佐子の浮気相手が誰なのか、突き詰めてやりたい気分だが美佐子は絶対に口を割らない。それくらいは想定内だ。しかし何故、俊介は自分のどこが悪いのかさっぱりわからなかった。あの時は美佐子の指摘が本当に理解不能だったのだ。恥ずかしながら。自分に自信がある事も己を信じる事もいいことだがその自分の価値観や型に相手を無理矢理はめ込むのは絶対にやってはいけないことだった。それに自分が全く気が付かずあたかも「相手の為にやっている」と押し付けになってしまっていたことに気づくのは漸く離婚を決意する頃だったと思う。何度となく修復は試みた。まだやり直せるとも思っていた。陽菜もいることだし。美佐子の気持ちは離婚に傾いているようだった。だからパートに出たいと言っていたのだろうか。自分の完璧な構造計算が脆くも崩れかけているようにも見えた。陽菜の気持ちは⋯?陽菜が一番大事だ。自分の知らない所で美佐子が過呼吸になっていることすら知らなかった。自分はまるで裸の王様だった。
何度も話し合いを重ね、美佐子の要望を受け入れる形にした。この家のローンはほぼ終わっていたため、美佐子と陽菜、そしてモカに家は託し自分が賃貸のマンションを借りた。「自分の城」は自宅から「宮島設計事務所」を新築してステージ変更し新たにスタートを切った。
「僕は君の事、好きだったよ。その表現の仕方がどうやら間違っていたようだったんだね。ずっと気づかなくて申し訳なかった。初めて会った時だって今でも鮮明に覚えているよ。君は社内の高嶺の花だったんだ。その君が僕を好きになってくれて、結婚してくれて、陽菜が産まれて僕は幸せだった。でもその愛し方が、そのやり方が歪んでいたのをわからなくて。ごめん。もうやり直せないんだね。でも陽菜の父親であり続けることには変わらない。陽菜のサポートはふたりでやっていこう。」
僕たちは離婚した。




