歪んだ認識
一部ショッキングな描写があります。気になさる方は読まずに閉じてください。
【 必ず お 読み ください 】 この 文章 は 自傷 行為 (リストカット、アームカット、レッグカット)の 描写 を 含み ます 。 助長 する 目的 は あり ません。 お 辛い 方 は 閲覧 を お 控え ください 。 今 お 悩み の 方 は 、 必ず 相談 窓口 へ ご 相談 頂ければ幸いです。
あれはまだ和香が介護福祉士として新人の頃だった。「宗像さん、今度新しい利用者さんが入ってくるから。これ、看護サマリー。読んどいて。」先輩から渡された用紙は二枚。どれどれ。男性、80歳か⋯。サマリーは精神科の病院のものだった。既往歴はと⋯高血圧症、認知症⋯大体そうでしょうね⋯ん?自傷行為あり?自傷行為?自傷?えっ、じしょう??カッターナイフで手首を切ったことがあるため刃物は要注意⋯自傷行為か⋯女子中高生がするイメージ。そんな人もいるんだぁ。最初はそんな印象だった。程なくしてその「自傷」男性が入所してきた。その男性は事ある毎に「私は殺されるのですか?」と尋ねてきた。「そんな事しませんよ。ここは病院じゃないですから。安心してくださいね。」と返していた。
ある日、休憩室で独身男性職員が電話している会話が聞こえた。「え?いないいない。ここの女どもはブスの子持ちの、おばさんばっかだからさ⋯バツイチばっかだよ!下手すりゃバツサンもいるしさ⋯アハハ。」容姿はともかく、子持ちだと恋愛対象からは外れるんだ。別に恋愛したいとか彼氏が欲しいとかは思っていなかったけど、男性の本音が垣間見えた瞬間だった。
大輝は小学校に上がる頃になり、近所の大手スーパーに連れて行き、ランドセルを選ばせた。「もう大輝1年生か。大輝、どんなのがいい?」大輝はスポーツブランドのエンブレムがついた5万の紺色を選んだ。5万か⋯ランドセル高いな。でもこれ気に入ったみたいだし⋯。5万を持っていない訳じゃない。大丈夫。「よし、じゃあこれにしようか?」レジでお金を払い、ふたりで帰ってきた。家に帰ると和香の母親が「(大輝の父親が)養育費も払わないし会いにも来ない、大輝が小学校に上がるってのにランドセル位買ってあげようって思わないのかね?」と言ってきた。正直前夫のことは考えるだけ無駄なので忘れていた。「そういう人間なんだよ。」和香は返事をした。その日の夜、前夫から受けた平手打ちを思い出し呼吸が苦しくなった。それから同僚の「子持ちのおばさん」という言葉が頭の中をぐるぐる回る。とにかく不安だった。耳と喉が詰まる感じがして自分の心臓音がバクバク聞こえた。なんだろうこれ⋯そんな時、洗面所に置いてあった剃刀が目に入った。和香の母親が顔剃りに使ったものだろう。自傷行為をした男性を思い出した。切ったら楽になるんだろうか。やってみようか。皆寝ている。ひとりでひっそりと剃刀のカバーを外し左腕手首に当てさっと引いてみた。意外と簡単だった。あっ。切れた。これが最初の感想だ。次第に呼吸は落ち着いた。何だか慰められた気がしたがあまり覚えていないことも確かだ。すっとした。これがリストカットというものなんだ。それから何か辛いことがある度に切った。同僚が心配してくるが、和香はやめられなくなり終いには「やめろと言ってもやるなら目立たないところでやりなさいよ。利用者さんだって気味悪がるでしょ!」と呆れられた頃から太ももの内側に転換し「レッグカット」になってしまっていた。誰にも迷惑かけてない。悪いのは私。生きてる価値がない。罰してやる。こんな歪んだ認識が次第にエスカレートしていった。
この文章は決してリストカットやアームカットを助長するものではありません。もしあなたが苦しんでいるなら相談窓口にご相談されることをおすすめ致します。




