石楠花と姫金魚草
「宮島さん、面白い土地があるんですよ。」佐野から俊介へ電話が掛かってきた。「きっと興味湧くと思います。」佐野が言うなら間違いないだろう。「今度施主に会ってみませんか?」目が回る忙しさだが断る理由もなかった。佐野が持ってくる話がどの程度のものなのかも興味があったし純粋に知りたい。佐野の所では予算に見合わなかったのだろうか。とりあえず先方の都合に合わせる形で会うことにした。施主は女性で40代後半といったところ。全体的に飾りっ気がなく地味な感じの素朴な印象だった。美佐子の様な煌びやかさや華やかさがまるでない。美佐子が石楠花ならこの施主は道端にひっそりと咲く姫金魚草といったところか。美佐子と比べてはいけないが。介護の仕事をしていると言っていたので納得した。少し癖のついた髪をふんわりとショートヘアーに切り揃え、ヘキサゴンタイプの眼鏡。その選択は彼女自身なのか眼鏡店の店員なのか、彼女のその雰囲気にぴったりと似合う。爪は職業柄か短く切られている。美佐子が施しているようなネイルカラーには全く興味がなさそうだ。ナチュラルテイストの、飾らず背伸びをしないコットンのシャツにチノパンツ。その服装が彼女にとてもマッチしていた。いや、寧ろそのチョイスや好みは自分と全く同じだった。彼女の土地は色々制約があり、一言で言えば「割に合わない仕事」だろう。然し断りたくない。寧ろやりたい。やってみたい。純粋にそう思った。彼女は宗像和香と名乗った。バツイチなのだという。本人は施設で介護福祉士をし、責任者になったばかりだと言った。「昇格したっていうと聞こえはいいんですけどね!」コロコロ笑いながら話す。高齢者に対してもこうやって話しかけているのだろうか。息子が一人おり高校の社会科教員をしているという。一人で育てて大学まで行かせたんだろうか。女性のパワーに圧倒されてしまう。強い人なんだな、きっと。彼女の家づくりに協力してあげたい。自分の力が必要なら。




