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宮島設計事務所

 和香は父親が亡くなってから土地と家屋の名義を父親から自分に変更した。その際初めて知ったのたが土地が二つに分割されていた上、別の名義の土地もあった。その土地には家は建っていないが、実質和香たちが使っているようなものだった。こんなことが実際あるのか。父親は何故教えてくれなかったのだろう。そもそも知らなかったのか?そして旗竿地のうえ、家の裏は急斜面といった問題だらけの土地の上に建物を建て替えるということが如何に難しいことなのか、こうやってまざまざと見せつけられることになろうとは。こんなに大変なことに片足を突っ込んでしまった。しかし、後戻りできない。殆どのハウスメーカーや工務店で断られ、それに追い打ちをかけるように和香の収入では予算オーバー。ほとほと困っていた折、とあるハウスメーカーの佐野健太という営業の男から建築士事務所を紹介された。健太の手にも負えない土地ゆえの罪滅ぼしなのだろうか。その建築士は以前、健太と同じハウスメーカーに勤めた後に独立したとのことで、難癖ある土地や建物が兎に角大好物で得意なのだという。きっと和香の役に立てるんじゃないかと名刺を渡された。どうしよう。もしかして設計料とかべらぼうに高くつくんじゃないだろうか。でも話だけでも聞いてみようか。こんな時父親だったら何というだろうか。名刺を再度見てみた。宮島設計事務所⋯宮島俊介⋯一級建築士⋯何かすごく偉い人なんだろうか。怖いな。これが和香が最初に抱いた感情だった。

健太が「一度お会いしてみませんか?相談するだけなら無料ですから」と俊介と引き会わせてくれた。シフトの入っていない平日を選びその事務所に向かった。

一言で言ってしまえばおしゃれな建物。そりゃあそうか。建築事務所だもんね。外構は流行りのロックガーデン。赤とも紫とも言えないコルジリネが建物のガルバリウム鋼板のブラックに映えた。この無機質な、生活感のないような、もっと陳腐な言葉で表現するなら倉庫のようなこの鋼板の表情が和香には何とも言えなく惹きつけられた。全てが計算されつくされた組み合わせなのだろう。シンプルにオーナーのセンスの良さを感じた。私もこんな家に住めたらいいな。そう思った。まぁ、そう思わせなきゃならないのだろうけど。尋ねるとひとりの男が応対してくれた。俊介だった。随分背の高い人だなぁ。これが和香が最初に抱いた感情だった。「すみません、僕一人しかいなくて」と言いながらお茶を淹れ始めた。事務所を立ち上げてまだ日が浅いこと、今の所一人で事務所を回しててんてこ舞いで、等と話してくれた。建物はまだ新築の何とも言えない清潔感のある、日常生活に侵されていない、いい香りが漂う。外観のあの冷静な鋼板の印象とは対照的に内装はほのかに薄いグレーのクロスにチェスナットホワイトの床材に白の巾木。天井には木目のクロスが1ミリの誤差も許さないほどに正確に走っている。この組み合わせも計算ずくなのだろう。オシャレな今どきのナチュラルテイストカフェ風スタイル、とでも表現すべきか。ここにうちの黒猫たちを連れてくれば「可愛い猫カフェ」になるかな?和香はまだ決まってもいない未来の想像をした。

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