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あの人は最初のとき以来、不必要にエレナともエリザベータとも口にした事がなかった。

その事に気がつかないくらい、過去にとらわれていたのは自分の方だったのかもしれない。



「あの、もし間違っていたらごめんなさい。でも……。」


転校生が話しかけてきたのは、体育館裏手の日差しの穏やかな階段に座って弁当を食べているときだった。

といっても話しかけられたのは俺じゃなくて俺の隣で飯を食べている人の方だ。


はにかみながら話しかける転校生は、文句なく可愛い。


前世でのはらわたが煮えくり返る様な感情はない。前世でのそれが恋愛の絡むものだったのか、貴族としての義憤にかられたからなのかさえももう思い出せないのだ。

だから、少なくとも今は普通に可愛いと感じられる。


それなのに前世が伯爵のご子息だった隣の男は、なんの感情もなさそうに転校生を見た。


それは前世のときエレナを見ていたときの様な表情ではなく、まるで事務的に目の前のものを目に写しているみたいに見えた。


そこで違和感はあった。だって、前世ではそんな表情でエレナの事は見ていなかったはずだ。


「前世のお話と言ったら信じてくださいますか?」


考えをまとめようとしていた思考は、転校生の言葉でばらばらになってしまった。


ああ、彼は覚えているのか。しかも可愛らしい少女になって再び自分の目の前にいる。

しかもあの時と同じように、まるで俺のことは眼中に無い様だ。


同じ登場人物のお話しはいつも同じ結末を迎える。そんな事良く分かっている。


「信じる、信じない以前に君の話しに興味がないんだよ。」


あれだけ、仲睦まじかったのにばっさりと切り捨ててしまう姿に違和感しかなかった。


それはゲイだとかの恋愛面での何かというよりもっと別のものの様に見えた。


「前世にはもう、興味がないからだ。」


だから、もう話しかけなくていいから。


ここまで強い拒絶をするとは思えなかった。

理由が分からない。


前世に意味を見出さない人間がいるのは確かだ。

じゃあ、あの告白の時の話しは?その後の嫌がらせはなんだったのだろう。


思わずマジマジと伯爵のご子息を見てしまった。


「ああ、やっとちゃんと見てくれた。」


蕩けるような笑顔で男が笑った。

それは最初の告白のときの様な顔だという事に初めて気がつく。


「……俺には前世のやり直しも、ましてや贖罪をするつもりだってないよ。

それは単なる記憶でしかないんですから。」


エレナの生まれ変わりであろう少女にはっきりとそう告げて、俺に向かって手を差し出した。

その手を思わずとってしまったのは自分自身のミスだったと思う。


彼は嬉しそうな、どこかほっとしたような顔をしていた。


「学校サボっちゃおうか。」


伯爵ご子息としても、優等生としてもありえない台詞を彼は言った。

エレナも驚いた顔でこちらを見ている。


「すごい顔ですね。」


彼は面白そうに笑った。

よくない事なのだろうけど、授業に出るよりも気になることがあった。



まだお昼休みだったので通学用鞄を持ち出す事は案外簡単だった。


二人で連れ立ってどこへ行くのかと思ったが、つれてこられたのは住宅街のど真ん中の公園だった。

お昼過ぎという時間帯の所為だろうか。人は俺たち以外誰もいない。


「前世はもういいんですか?」


誰もいないことをいいことに、二人でそれぞれブランコに座る。


暁史あきひとだよ。」


返事としてはあまりにもかみ合わない言葉に思わず「は?」と素っ頓狂な声を上げてしまった。


「だから、名前ですよ。暁史って一度も呼んでくれないから。」


横でブランコに座っている男の名前くらい知っていた。別によぶ必要がなかったから言わなかっただけだ。


「暁史さん。なんで俺なんですか?」


最初から疑問はそれしかないのだ。

何故、俺なのか。


それが、勘違いか嫌がらせか、その位しか思い浮かばないのだ。

少なくとも前世で大切だったはずの人を無視してまで俺を選ぶ理由が分からなかった。


「……最初は本当に具合の悪いところを助けてくれたからだったんですが。」


君には全く信用されてませんでした。暁史さんは自嘲気味に笑った。


「前世の話を出してしまった自分がいけなかったのは分かっています。」


蒼士が伯爵の子息としてしか見てくれなくなったのも自分の所為だ。

暁史さんは断言した。


「だって、俺がエリザベータだと知って驚いていたじゃないですか?

疎ましく思っていた相手だったんですよ?」

「正直、何も思わなかったと言えば嘘になります。

だから、状況が良くない方向に進んでいるのに放置しましたから。」


なら何故?俺が聞く前に暁史さんはブランコから降りると、俺の目の前に立った。

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