2
「ああ、俺の運命……。」
うっとりと言われてうんざりとする。
「あの、何度も言いますが、俺は貴方の運命ではなく、それを邪魔する虫けらですよ。」
そう伝えると、伯爵のご子息を前世にもつ目の前の男は大きく目を見開いた。
「まさか、前世は前世だろう。今の貴方は可憐な花の様な存在でしょう?」
電波か?電波なのか?
前世の記憶と、恋人を間違えたショックで人格に異常をきたしてしまったのだろうか?
「エレナさんはもういいんですか?」
思わずそう声をかけてしまって直後に後悔する。
前世はあくまでも自分の経験でもなんでもなく、いわば知識でしかないのにそんな事を聞いても意味が無いのだ。
ただ、単なる知識とはいえ、普通だったら悪役令嬢は嫌だ。少なくとも俺だったらそうだ。
だから、わざわざ教えてさしあげたのに、何故かこの男は相変わらず俺に愛を囁く。
◆
あまりにも意味が分からず、友人に相談してしまった俺は悪くないと思う。
「所作っていうの?は上品な気はする。」
言われてみればって程度だけどなと友人は言った。
「昔は好きだったのか?」
「さあ?」
記憶は曖昧な部分も多いし、残っている感情の残骸のようなものは好きとかそういうものではなくただただ憎悪を募らせていただけだ。
「エレナ?だっけ?その人と結ばれたアレを見ていて憎かったって話か?」
「さあ?」
実際に知らないのだ。
記憶が抜け落ちてしまったのではなく前世の悪役令嬢様はエレナが誰と結ばれたかを知らない。
国外追放されてしまって知りようが無いのだ。
ネットも無い世界だ。噂話のようなものは聞いた気がするが、誰がという情報はどれも曖昧だったはずだ。
「あの人が誰と添い遂げたかは知らないし、そもそも興味も無い。
しかも今の自分とは何の関係も無い事だろ。」
イライラしてしまって思わず強い口調になってしまう。
まるで前世のあの女を引き継いだようなこの性格はあまり好きにはなれなかった。
「ふうん。前世っていうからもっとすごいの想像してたけどそうでもないのな。」
「まあな。すごい事になってるのはあの人の頭の中だけだろう。」
前世持ち用のカウンセラーも世の中には沢山いる。前世の自殺の記憶が残っているだとか、戦争中の記憶とか主にそういうものを取り扱っているらしいがぜひとも話をしにいって欲しい。そして俺に付きまとわないで欲しい。
「顔もいいし、頭もいいし、スポーツもできるのに残念だよなあ。」
「まあな。」
かなり直接的に友人にお前と違ってと言われた気がするが事実なのでどうしようもない。
前回もはどうかは知らないが、少なくとも今回は全くつりあいなんて取れないのだ。
早く前世の記憶なんて忘れて、自分にあった人間と楽しく人生を送って欲しいものだ。
そう思わずにはいられなかった。