表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
境界の夜  作者: ハープ
6/6

動機境地

5月11日日曜日の夜

月城家に定ではなく真理有がいた。

真理有「ここもハズレね。これだけ時間を費やして成果ゼロは流石に堪えるわ」

光彩「今日はもう無理そうだし、また当たりをつけて出直すしか無さそうね。この街には居ないかもしれないわね」

真理有「そうね。この街には潜伏してない可能性が日に日に増してきてるし、今日は解散して明日から市外にも捜索範囲を拡げてみましょ」

光彩「了解、じゃあまた明日」

真理有「ええ」

2人はそのまま現地解散した。


5月12日月曜日の放課後

定は月城家にいた。

あれから3日が経ち訓練は初日含めまだ2日しかできていなかった。

土日は光彩と真理有が襲撃者の件で動いてたらしく2日間、定は完全にオフだった。

光彩「大分物になってきたわね。少し休憩して、ステップアップしてみますか〜」

ああ、と頷きその場に座り込んで定は続けて「そういえば月城、あの2人の手掛かりはあったのか?」

光彩「正体不明、消息不明。せめて潜伏先だけでも割れればと思ったんだけど、手掛かりゼロだったわ」

定「もうこの街にいないとか?」

光彩「それもあり得るわね、隣町とかにいる可能性も十分に。この街居ないと決まったわけじゃ無いから、まだ何とも言えないけれど」少し疲れているような表情で言った。

定「寝てないのか?」

光彩「土日は出突っ張りだったからね、珍しいことじゃないけど」

定「常に忙しいんだな、俺も何か協力出来れば良いんだけど」

光彩「じゃあそろそろステップ2始めましょ。早く半人前ぐらいにはなってもらって、手伝ってもらわないと」と不敵な笑みを浮かべた。

何かを察して定は「お手柔らかに頼むよ」と困惑した表情で言った。

光彩「それじゃまず魔法の使い方からレクチャーね。

遠夜君はどうしたら魔法が行使出来ると思う?」

定「う~ん、呪文を読み上げるとか、魔法陣を描くとか?」

光彩「2つとも正解よ。でも教科書があったとして、それを全部覚えるのって非効率じゃない?何十、何百と複雑な文字の羅列、魔法陣の細かい書き込みを違わず覚えるのは」

定「確かに、いざという時に使いづらいのか」

光彩「そういう事。例えばここに火を起こしたい時にあなたが言った呪文や魔法陣は長いから、自分なりにショートカットキーみたいなのを用意して使用するの」

定「パソコンみたいにか?」

光彩「ええ。一つのキーでも良いし、簡単な言葉に紐付けしたりやり方は人それぞれよ」

定「そんなに簡略化出来るものなんだな」

光彩「だからこそ無詠唱で使えたり出来るの。複雑すぎなければ声に出さずとも、使いたい魔法をショートカットで呼び出すだけだから」

定「なら課題は基本を覚える事か」

光彩「基本は時間がある時に覚えなさい、もう一つ魔法を行使できる方法があるの。それが()()して()()する事」

定「それ本気で言ってるのか?冗談じゃないのか?」

光彩「本気よ。でも全部が全部使えるわけじゃない所謂、得手不得手ね。治癒は出来るけど攻撃系はからっきしだったり家柄も関係してる」

定「じゃあ俺も今使おうと思えば使えるのか」

光彩「ちゃんとイメージできればね。まずは簡単に火を使えるようにしなさい、見本を見せてあげる。」

そう言って光彩は掌を天井に向け、少し前に右手を出した。

光彩「私が作るのは掌サイズの火。まずはフローチャート、火をイメージする具体的に。大きさ、形、場所、熱量これらのイメージが固まったらそこに魔力を流し込む」

そうすると光彩の右手に小さくゆらゆらと火が現れる。

光彩「こんな感じ、最初はイメージに魔力を流して形にするところからね。さっき話したショートカットキーとかはこれを自在に使えるようになってから教えてあげるわ」

定「やってみる」

光彩を真似て左手を出す。

「――手を覆い隠す大きさ、球状のオレンジ色の炎。

暖かい火、このイメージに魔力を流すっ!――」

左手に炎が出現した…が、イメージとはかけ離れたものだった。

天井に届く勢いで火柱が上がる。

光彩が慌てて手を叩くと、瞬く間に火柱が消えた。

「ふぅー、最初は何かあるとは思ってたけどここまで暴発するとは思わなかったわ」

定「すまない、これは加減が難しいな」

光彩「もっと小さいのから始めたほうが良いわね。ライターの火ぐらいからやってみて」

定「それなら事故は起きなさそうだな」

こうして第2段階の鍛錬が始まった。

あれから2時間程経過。

光彩「はーい、今日はこれぐらいにして終わりましょ。今週中に物にできれば上出来ってところね」

定「半人前まではまだ遠いな。イメージを形にするって感覚が上手く掴めない」

光彩「こればっかりはトレーニングを積み重ねて習得するしかないからなー。あんまり考えすぎても無意味よ」

定「一朝一夕でどうにかなるものじゃないな。明日からは手応え探しをしてみるよ」

光彩「今のあなたに良い言葉を教えてあげる。(人間が想像できることは、人間が必ず実現できる)有名な小説家の言葉よ。私達、魔法術者(Magus)にはピッタリよね」と微笑んだ。

定「的確すぎるな。ありがとうアプローチを変えるキッカケになるよ」

光彩「どういたしまして、どうする?リビングで少し休憩してく?」

定「今日はこのまま帰るよ、また明日もよろしく頼む」

光彩「そう、気を付けて」

こうして今日から新しいトレーニングが始まり、ほんの僅かではあるけれど魔法術者(Magus)として成長していた。


同日の夜

襲撃者の2人組ラルスとドミニクスが身を隠している廃墟。

ドミニクス「ダメだ魔力が全然足りねぇ。()()も未完成、俺の回復も間に合ってねぇしどうするよ?」

ラルス「目立つので出来ればこの方法は使いたくなかったのですがね。選り好みしてもいられなくなりましたし、使い魔を放ちましょう」

ドミニクス「仕方ねぇよな、このままだといずれ見つかっちまう。その前に準備を整えておかねぇとな」

ラルス「ええ。始めましょう」

来る日の戦闘に備えて2人は密かに動き出していた。


5月13日火曜日

昼休みになると席を立つ真理有を見て定が一に問いかける「淵見さんはいつも一人で何処に行ってるんだ?」

一「ああー、あいつは人を寄せ付けたがらないんだ。

一見すると美人で頭が良くて清楚なイメージだが、数え切れない男子が玉砕していったよ。返答は寸分違わず(ごめんなさい、私1人で休みたいから)ってな。まあ女子も漏れ無くだが」

定「そうなのか…クラスで話してるのをあまり見ないのはそのせいか」

一「月城とは良く話してるのを見かけるな。レアだが小坂とも話してるのを数回見かけた、気になるのか?」

定「まあ、なんとなくな」

一「……頑張れ」力無く応援された。


5月14日水曜日

啓介「遠夜〜昼飯一緒に食おうぜ」

定「悪い、今日はちょっと用事があるからまた今度」

「そうか」と返されて、真理有が教室を出ると定は後を追った。

真理有が向かう先は現在、使われることが殆どない小さな別館の1室。

図書室の入れ替えの際、古く読まれることのなくなった本はこの部屋に移されて保管されている。

覚悟を決めて真理有が部屋に入る前に定は話しかけた「あの突然ですまない、淵見さんと少し話をしたくて良かったらお昼一緒にいいかな?」

振り向きざま一瞬だけぎょっとした表情をして真理有は言った「ごめんなさい、私1人で休みたいから」

本当に昨日聞いた通りのセリフだった。

定「今…月城に教えてもらってて時間はまだ掛かるけど、俺も早く協力出来るように頑張るから。その時にまた話しかけても良いか?」

少しの沈黙を挟んで真理有は「足を引っ張らなければ…」歯切れの悪い返答に定は

「ありがとう、邪魔して済まない。それじゃ」

と嬉しそうに真理有の前から去っていった。

真理有「――変わった人ね――」

定は真理有とほんの少しだけ距離が縮まったそんな気がしていた。


5月15日木曜日

授業前の教室でクラスメイトの啓介がある話題を振ってきた。

啓介「よお遠夜。お前大丈夫か?」

定「ん?顔色でも悪いか?」

啓介「そうじゃねーよ最近物騒だろ?お前一人暮らしだし狙われるかもだぞ」

定「連続行方不明事件の話か。意識不明で見つかってる人もいるとか」

啓介「それだけじゃねえぞ昨日の夜、死体が発見されたんだってよ」

定「殺人なのか?」

啓介「報道ではバラバラにされてて、争った跡があったって事で殺人が濃厚らしい」

定「嫌な事件だな」チャイムが鳴る。

啓介「気を付けろよ!」

最近、この街を脅かしている謎の事件はまだ解決の糸口すら掴めていないようだった。


5月16日 金曜日

あの日から定は確実に進歩していた。

助言のおかげでイメージから形を作れるまではあっさりとクリアしていた。

あとは自由自在に操れるようになれば第2段階突破である。

そんな順調な日々の放課後のホームルーム。

一宮教諭が神妙な面持ちで話し始めた。

「ええ…大々的にニュースにもなっているから皆も知っていると思うけど最近、月名市で不審な事件が頻発しています。行方不明が7件、謎の意識不明で発見された人が3名、更に殺人の疑いがある事件が1件。

現状、犯人も捕まっていないので事態が収束するまでは不要な外出は控えるようにしてください。

これに伴い部活も禁止、授業が終わり次第速やかに下校してもらいます。

寄り道などは絶対せずに帰宅してください。

ホームルームは以上で終わります」

いつもとはまるで別人の一宮教諭の雰囲気に、他人事ではない事が伝わってきた。

最後は彼なりに取り繕って「はい!帰った、帰った!来週はテストが始まるから家でしっかり勉強するように!」と明るく振る舞っていた。

そんな中いつものように定は月城家にいた。

鍛錬を始める前に定は光彩に問いかけた。

「なあ、やっぱり最近の事件ってあの2人組が関わってるのかな」

光彩「どうしてそう思ったの?」

定「何もかもが異常だから。犯人の情報は一切無し、亡くなった被害者は損傷が激しい状態で発見されて何かと争った形跡があるそうだ。

行方不明者と謎の意識不明で見つかった被害者は手掛かりゼロで情報提供を求めてる。

犯人がいると仮定して、それが普通の人間だとしたら痕跡が無さすぎると思ったんだ」

光彩「良い推理ね正解よ。昨今の事件はあの2人組、厳密にはヤツらの使い魔の仕業よ」

定「そこまで知ってるって事は、調べたのか?」

光彩「街で見張りに出ていた真理有の使い魔が魔力の痕跡を見つけてね、何箇所か現地に行って色々調べたら先述の通り」

定「何故一般人を襲っているんだ?」

光彩「魔力の補給よ、意識不明になっているのは生命力を殆ど持っていかれたから。行方不明者は跡形もなく喰われて死んでいるでしょうね」

定「それで人を襲ってるのか。待った、行方不明者は死んでるなら何故1件だけ殺人として死体が残されてたんだ?その1件も行方不明に出来たはずだろ?」

光彩「あくまで推測だけど、想定外が2つ起きた。街に出没したのを真理有の使い魔に察知されて私達が向かっていたこと。被害者に目撃され抵抗されたこと」

定「間に合わずに殺してそのまま逃走したってことか。酷い話だな」

光彩「同意ね。この件は速攻片付けるわ」

冷たい口調で言った。

光彩「この話はこれで終わり。さ、始めましょ」

定「ああ、今日で扱えるようになりそうだ」

と意気込み練習を始めた。

1時間程過ぎると、驚くことに定はほぼ完璧に火を制御していた。

大きさ、色、形、熱量を自在に変化させ、火で不死鳥を作れるほどになっていた。

光彩「あなた器用ね、もうそんなに扱えてるなんてホントに初めて?」

定「月城のアドバイスのお陰で上達が早くなっただけだよ」

光彩「もしかしたらとんでもないポテンシャルを持ってたのかもね」

定「これで第2段階はクリアか?」

光彩「文句無しで合格よ、次は火以外を使えるようにするわよ。水、雷、風とか現実に存在するものから、こんなふうに…」右手に蒼白い光の球体を出現させるとそこから形を変え、鋭い光の剣に作り変えられた。

「現実には存在しないものを想像で創れるようになれば半人前も近いわよ」

定「精進する、まずは雷を使ってみるよ」

そう言っていとも簡単に左手に雷を出現させると調整はお手の物だった。

次いで水、風も難なく使いこなした。

定「意外と現実のものは応用するのが楽だな」

光彩「いや、遠夜君が異常なのよ。そんな簡単に使えたら皆苦労しないわよ」

定「違いは分かるんだけど説明するのは難しい。火が扱えるようになったからか、不思議と感覚で理解出来たんだ。」

光彩「直感型か、やっぱり珍しいタイプね。

さっき私が作ったような非現実的な物もあっさり出来るかもね」

定「さっきの月城が作ったものと同じで良いのか?」

光彩「出来れば別のものにしなさい。今後の魔法創作に役立つから」

定「他のもの…」そう呟くと朱く燃える半球と蒼く燃える半球を併せた球体を創り出した。

あまりにも高度で神秘的な球体を目の当たりにして光彩は息を呑んだ。

形が変化していく、朱と蒼が混ざり合って左腕に纏うと刃の形を成し膨大な魔力を放っていた。

定「思いつきで創り出したんだけど、どうだろう?」

問われて我に返る。

光彩「今のが思いつきだ!?あんたの脳内はどうなってんのよ!」

定「自然に浮かんだイメージだったんだが」

光彩「あんたがさっき創ったのは微量ではあったけど、魔力を底上げしてた。思いつきでパワーアップされちゃ堪らないって話よ」

定「そんな効果があったのか」

光彩「身体強化が出来れば今日から同行もありか」小声で呟いた

定「なんて?」

光彩「今から今回の最終ステップ、身体強化を覚えてもらうわ。成功したら今日の使い魔狩り、同行させてあげるけどどうする?」

定「もちろんやる!その身体強化ってのもイメージから創るのか?」

光彩「これはそうねやり方が主に2つあるの。1つは小さな魔法陣を身体に刻印して強化する方法、もう1つは詠唱を使って強化する方法。

どちらも今までのイメージからっていうのは必須ね」

定「その2つで何か違いはあるのか?」

光彩「魔法陣がオートマチックで詠唱はマニュアルチックって感じね。魔法陣は常に全体を強化した状態を意識せずとも維持できる、詠唱は一々強化しなきゃ行けないけど上手くやれば効率良く最大限に活かせるのが強みよ。

組み合わせて使うこともあるけど慣れるまでは苦労するから、最初は魔法陣がオススメよ。

やり方はこんな感じで…」

光彩がお手本を見せる「魔法陣の形を決めて、附帯する効果もイメージして身体に刻印する。

ざっくりこんな感じ、あと刻印する場所に指定はないから自分で決めなさい。

リミットはそうね今から3時間よ」

定「3時間か、なんとか完成させてみるよ」

まだ非力ながらも間に合えば少しは協力できる、自分は殺されかけた。

無関係を装って光彩と真理有ばかりに任せる理由にはいかない。

自分にも魔力がある、闘える。

身体強化の鍛錬を始めて2時間が経過した頃、ようやく定の魔法陣が完成した。

反応速度、跳躍力、全体的な動きが格段に軽くなった。

定「こんなにも違うものなんだな。まるで自分の身体じゃないみたいだ」

光彩「おめでとう、最初は慣れるまでフワフワするわよ。リビングで夜に備えて休憩しましょ」

時刻は20時50分

リビングにて光彩と定はコーヒーブレイク中。

光彩「何か食べる?カップ麺ならあるけど」

定「お言葉に甘えて頂くよ」

光彩「これから長くなるからねー、今のうちに食べとかないと」

2人で食事を済ませ、くつろいでいたのも束の間

「じゃあ、そろそろ真理有と合流しに行きますか。使い魔狩りに」

月名市で起きている謎の事件が解決に向かって動き始めた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ