常途一変 前
時刻は6時半いつもの登校時間より早くに目が覚める。
疲労による頭痛とボロボロな身体も大分回復していた。
上半身を起こしてカーテンを開け放すと外光が差し込む。
彼女は伸びをしながら「この調子なら何かあっても対処はできそうね真理有もいることだし」そう呟き彼女はベッドから起き上がると身支度を始めた。
やるべきことが昨日の出来事をキッカケに一つ増えたいや一つでは効かないかもしれない。
「今日は朝から生徒会の仕事、は現実的に考えてすぐ終わりそうね放課後にしなかったってことはそういう事でしょ
問題は遠夜の警戒ね。今日で解決出来れば御の字って所ね
学校は唯一そんな心配事が殆ど無い場所だったのになー」
今日これから起こるであろう事を想定して再び考えに耽る。「どう確認するかが1番のネックね堂々と魔法使える?魔法って知ってる?なんておちょくってるようにしか聞こえないしなー
まずはあいつに魔力があるか調べるのが手っ取り早いか。でも昨日は魔力の魔の字も感じなかった訳だし一筋縄では行かないな」
時刻は7時を回り、真理有とも相談してからにしよう。そう決めて彼女は学校へと向かった。
学校へと到着7時20分を過ぎた頃、ここまで予定通りだ。
生徒会顧問が待っているであろう職員室へと向かう。
ノックを2回「失礼します。2年の月城です。生徒会顧問の一宮先生はいらっしゃいますか?」
手を振りながら「おはよう月城さん。朝早くからごめんね」
明るい笑顔でいつものデスクに一宮 俊はそこに座っていた。
年齢は20代後半〜30代彼の第一印象は満場一致するほど見た目通りだ。
柔らかい雰囲気で優しい印象本気で怒っている所を見た者はこの学校にいないだろう。
それも彼の人間性が故か生徒も反抗的な態度を取る生徒は皆無と言って良い。
光彩「おはようございます、一宮先生それで朝一から急用ってなんですか?」
少しトゲを含んだ言葉を投げかける。
一宮「本当に申し訳ない。この間の提案の擦り合わせしておきたくてね今日会議があるからその事前準備を」色々突っ込まれると思うからと顧問は言う。
それから30分程。提案内容についての擦り合わせは終わり生徒会顧問は「うん、問題なさそうだね!」満足気に言うとこの会話は幕を閉じた。
ここまでの一宮教諭とのやり取りの間にも一人の存在が光彩の頭の片隅にチラついていた。
光彩「一宮先生、今日転校してくる男子生徒がいるとか」
一宮「そうそうよく知ってるね!突然の事で生徒達にも周知出来てなかったからね。教師陣しか知らないと思ってたよ」
光彩「風の噂で。 それで学年とクラスは」
一宮「学年は君と同じ2年生だよクラスは…ホームルームのお楽しみに!」と満面の笑みで返す。
一宮「それにしても君がこういうイベント事に興味を持つなんて意外だなぁ、いつもは我関せずって感じだったのに」
光彩「偶々思い出したのでこの機会に聞いてみただけです。特に他意はありません」そっかと残念そうに返す一宮教諭。
光彩「では私は教室に行きます」と立ち上がり職員室の出口へと向かう。
光彩「失礼致しました」ありがとうねと一宮教諭が見送り少女は自身の教室へと向かった。
時刻は8時を回っていた。教室内には半数ほどの生徒が登校しており、その中には光彩が数少ない信頼を置いている真理有の姿もあった。
光彩「おはよう真理有、昨日のメッセージは確認してくれた?」
真理有「おはよう確認はしたわ。あなたは厄介事を抱えてないと生きていけないのかしら」
光彩「悪かったわね厄災女で。陰陽道で考えてあと2年くらいは猶予あるはずなのになぁ」
真理有「年齢関係なくあなたは生まれつきね」
光彩「ほっとけ」
光彩と軽口を言い合うクラスメイトは淵見 真理有。
光彩とはこの世界の日常、非日常においても長い付き合いだ。「淵見 真理有」彼女もまた魔法術者である。
黒く肩まで伸びた髪、少し日本人離れした顔立ち、見続けていると引き込まれて溺れてしまいそうになるほど深みのあるダークブルーの瞳、一見すると幼く見える様相が所作言動によって大人らしさとが絶妙なバランスで混在している。
あまり他人を寄せ付けず、口数は多くはない。
古くからある淵見家の魔法を受け継ぐ正統後継者である。
光彩「それより例の件さっき一宮先生から聞いたら2年生だそうよ。」
真理有「クラスはどこなの?」
光彩「ホームルームのお楽しみってはぐらかされて聞けなかったわ」
真理有「そう、同じクラスになれば色々手間も省けそうね。その場合光彩に任せることになりそうだけど」
光彩「どのクラスになっても私でしょ。あなたは人付き合い向かないタイプだし」
真理有「それもそうね。サポートという面では同じクラスかどうかで出来ることはだいぶ変わるけれど」
光彩「問題はどうやって確認するかよ。隠蔽することが可能だとして真理有なら見破れる?」
真理有「程度にもよるけど、判別は可能よ」
光彩「それって見ただけで分かるものなの?」
真理有「それだけだと難しいわね。より精度を上げるには相手に触れる必要があるわ。問題はその後」
光彩「そうね慎重に進めて場所を選ばないとね」
真理有「正体について考えられるパターンは3つぐらいね」
光彩「1つ目は故意に隠しているパターンこの場合、早急に対処しないといけなくなる。
2つ目無自覚に有してるパターンこの場合は要観察って事になるわね。
3つ目がイレギュラーなただの一般人。偶然なら私達がどうこうするまでもない放っておいて問題ないわね」
真理有「そうね。一応あなたにはこれを渡しておくわ」
光彩「これは?」手渡された長方形の小箱を開けるとそれは裁縫の針のようなもが入っていた。長さは7センチ程度で先端は目視できないほど細くなっており折れているようにも見える。
光彩「何よこれ先が折れてるじゃない何かの失敗作?」
真理有「それは私の特別性よ。急造品だけど性能は保証できる。その針は使用時に…力を流すと使用者に力を帯びた先端が見えるようになるわ。それを相手に刺すの。対象が細工をしていればそれに反応してその針が解いてくれるわ。だからそれを使うタイミングはシビアにね」言葉を詰まらせながら。外で魔法について話はしたことがない二人は濁しながらどうにか会話を成立させていた。
光彩「なるほど理解したわ。とっ、話し込んでたらもう時間ねまた休み時間に」
真理有「ええ、ホームルームが終わってからが本番ね」
そうして光彩は自分の席に付き、ほどなくしてホームルームのチャイムがなった。
ガラガラと扉が開きクラスの担任が教卓に立つ。
朝の職員室で顔を会わせていた一宮教諭は光彩のクラスの担任だ。
少し遅れてもう一人制服を着た生徒が教室内へと姿を現したその瞬間、光彩と真理有は一気に警戒態勢に入った。
クラス内は騒然としている。それもそのはず誰も転校生について聞かされていない。
一宮「はーい、皆静かに〜。突然ですが転校生を紹介します。ほら、挨拶」と優しく促す。
「はじめまして、今日からこのクラスでお世話になります遠夜 定です。分からないことだらけなので色々教えてもらえると助かります。よろしくお願いします」
一宮「自己紹介お疲れ様。遠夜君はこの街に引っ越してきたばかりだから皆、学校内とこの街のことを色々と教えてあげてほしい」
定「改めてよろしくお願いします」
斯くして遠夜 定は光彩の学校生活に変化をもたらし、今日が始まった。