邂逅初期衝動
人知れずこの世界には魔法術者が存在する。
一般社会に溶け込み生活をしている。
医者、政治家、教師または学生であったりと
16歳の少女もまた学生として日常に溶け込んでいた。
多少問題ごとはあっても日常生活に支障はなかった
高校2年生のゴールデンウィーク最終日ある少年と出会うまでは…
ここから物語は動き出す何でもない日常から。
5月6日ゴールデンウィーク最終日
その夜、誰にも感知されることなく
私達の歯車は動いてしまっていた。
なんてことない出会いだった。
時刻は20時を回っていた。
この街"月名市"は静寂に包まれていた。
この街に限った話ではなくこの国日本の殆どがこのイベントを名残惜しく思いながら時計は等速で終わりを告げようとしている。
斯く言う私、月城 光彩もその一人である。意に反して休みの大半は不運にも消費せざるを得なかったのだが。
「…もう20時過ぎかー、流石に連日の反動が来てるなこれは…」
頭が重い、起きたばかりで虚ろな目、もう一度目を閉じて束の間微睡む。
「とりあえずお腹減ったな、まる1日何も口にしてなかったし何か食べよう インスタントの買い置きがあったはずだし」
パッチリと目を開け頭痛と倦怠感のある身体にムチを打ってベッドから起き上がる。
真っ暗闇の部屋に光が灯る。
室内は16歳の年頃の少女にしてはかなり質素だった。
部屋の真ん中には2、3人で使う程度のテーブルと部屋の隅には本棚がポツリと鎮座していた。
キッチンのある1階へ向かう。
いつもストックしている戸棚を開けて唖然とした。
「はぁー…なんでこういう時に限って何も無いのよ
そういえば昨日食べたのが最後だったんだっけ
仕方ない、コンビニにでも行くか」
「こんな体たらくじゃ出歩けないわね」姿見に映った自分を見てそう呟く。
素早く身支度を済ませ時刻は21時手前ここからコンビニまで徒歩十分程度、「30分には帰ってこれるか」
そうして少女は家を出た。
「そういえば明日は委員会の仕事があるから早めに行かなきゃならないのよね
わざわざ連休明けに早出させるなんてなんの嫌がらせよ
しかも休み直前に言い出すなんて、前もって言ってくれれば事前に終わらせられたかもしれないのに」
なんて不満を抱いているうちに目的地に到着した。
店内に入ると店員が一人お客も私以外に一人しかいなかった。
「とりあえず飲み物とお弁当、ハムサンドあと…いやこれでいっか」
空腹のせいであれもこれも美味しそうに見えてしまう
ついつい他の商品にも手を伸ばしたがすんでで留まった。
レジへ並ぶ、先にいた1人が会計中だった。
ふと「同い年ぐらいに見えるけど見かけたことないな
同じ学校だったら見たことぐらいはあるはずだし」
少女の数少ない店内の視覚情報が少年を捉えた。
「ま、気にしても仕方ないか他校の生徒でしょ」
そう簡単に結論付けて自分の順番が回ってきた。
会計を済ませて店の外へ。時計を見ると10分を少し過ぎた所予定より早めに帰れそう、そう思った矢先見知らぬ声に呼び止められた。
「あの、すいません月名高校の生徒ですか?」
帰路に着こうとした少女の足を止めた。
その声の主は先に光彩の前に会計をしていた少年だった。
周りに人は少女と少年の二人しかいないのだから間違いなく光彩に掛けられた言葉だった。
「それは私に聞いてるの?」確認の意と警戒の意も込めて突き放す様に問う。
「明日から月名高校に転入するんだけど、引っ越してきたばかりで道とか学校の場所もイマイチ分かってなくて確認しておきたいんだけど案内してくれないかと思って」話し掛けたと少年は言う。
光彩「そんなの地図アプリとか使えば簡単に着くじゃない」
少年「それが何度試しても道に迷うんだ。おまけにスマホの充電もなくなって八方塞がりで、買い物して帰ろうと思ったら同い年くらいの君を見かけて」
光彩「あなたどれだけ方向音痴なの?GPSとマップを使っても目的地に着けないなんて前代未聞ね」
少年「面目ない」
光彩は頭を悩ませる。すぐにでも帰って空腹を満たして明日から始まる日常生活に備えるそれが最善手なのだが、それを彼女の性格が良しとしない。
自分にとっては赤の他人であろうともその後の事を考えるとモヤモヤとした感情が残ることを嫌っている。
「お人好しなのは分かってるけど私が案内しないことで明日、こいつが道に迷って遅刻しました、事故に遭いましたなんて事になったら目覚めが悪い」と決意して
光彩「はあー分かったわ案内してあげる。まさかとは思うけど自分の家も分からないわけじゃないでしょうね?」
少年「自分の家は流石にわかるぞ」
光彩「それは何より、じゃ行きましょう」
少年と少女は誰もいない校舎を目的地に歩き出す。
少年「そういえば自己紹介がまだだった俺は遠夜 定よろしく」と握手を求めて左手を差し出す。
光彩「そういうのは柄じゃないからごめんね月城 光彩よ。よろしく。」
定「よろしく月城さん」ゆっくりと左手を戻す。
光彩「さんは要らないわあなたは遠夜君でいい?」
定「それで良いよろしく月城」
それから歩くこと20分学校の目の前まで来た。
ここまで会話は一切なかった。少年はトコトコ後ろを付いてくるだけだった。
光彩「ここよ、ここから帰り道は分かるんでしょ?」
定「ああ本当に助かったありがとう今度お礼をさせてくれ」
光彩「別に要らないわ、見返りが欲しくて案内してあげた訳じゃないから」
定「それでも同じ学校なら会うときもあるだろその時にでも。このまま何もしないのは何か落ち着かない」
光彩「それは…そうね何となく気持ちは分かるからじゃあ今度ジュースでも奢ってもらうわ」
定「そうしてくれ今日は本当に助かったこれで明日は安心だ。」
光彩「良かったわ。それじゃ私は帰るわね」
定「また学校で」
そうして二人は別々の帰路に着く。
光彩が家に着くと時刻は22時過ぎグッタリと居間のソファーに身体を沈ませる。
「疲れた、ふらっとコンビニに行っただけでこんなに体力を消耗する事になるなんて」
不満が溢れる。不思議と忘れていたがひと息ついたせいか空腹が募ってきた。
「さっさとご飯食べちゃお」
弁当を温めてる間にハムサンドを平らげ温め終わった弁当を頬張る。
お腹も満たされソファでくつろいでいると時刻は23時を回った。
「とりあえずここ数日で一段落はしたし今日は休もう」
そうして光彩は部屋に戻りベッドへと潜り込む
「それにしても驚きよね現代のテクノロジーをもってしても目的地に辿り着けないなんて、この街そんなに入り組んでもいないしまるで見えない迷路にでも迷い込んだような…」
見えない迷路?確かにこの街に見える迷路はないだが認識されない人を欺く見えぬ迷路なら彼女は確かに見知っている。その現象に気付いたのと同時に自分のミスにも気がついてしまった。
「!そういえば結界の範囲広げたままだった…
一般人だから気にもとめてなかったけどすっかり失念してたわ。
結界の影響であいつは道に迷い続けてたってことね
とんだマッチポンプ逆にお詫びしなくちゃなぁ。―――」
ここでもう一つ重大な失念をしていた事に気付き少女の心拍数が上がった
「!?待て待て!この結界は魔力に反応して相手を欺くための結界、じゃああいつも魔力を持っていた?いやあれだけの至近距離で感知できないはずがない
だとしたらそれを隠す魔法を行使していた?
なら私に接近してきた理由も頷けるけど
こっちは無警戒の状態だったいくらでも殺る機会はあったはずなぜ仕掛けてこなかった?
駄目だ遠夜の意図が全く読めない。
これがイレギュラーならそれで良い偶然結界に一般人が結界の影響を受けた。それならね?
警戒しておくに越したことはない真理有にも報告しておこう。これで守りは盤石になる遠夜もまさか真っ昼間から仕掛けてはこないでしょうし」
出来うる限りの対策は施せるが、解決策はこれからだ。遠夜 定の動き次第では殺し合いになるだろう。
「一難去ってまた一難少しは空気を読んでほしいわ。ま、今ウダウダ言ってても仕方ないわね。
良し!明日起きてからが勝負ね」
そうして少女は眠りに就く。
こうして感知された歯車は動き始めた
少女の数時間という1日のごく当たり前の行動の中で出会った少年のお陰で心配事がまた一つ追加された。