01.星誕祭の、もうひとつの誓い
お待たせしました。
番外編の投稿を始めます。
とりあえず最初は、フィラムモーンとソニアの話を。
最初の1話目だけ短め(約2000字)です。
「お役目、ご苦労さまでございました」
大役を果たして控室に戻ってきた婚約者に、彼女は優しく微笑みかける。
「うん、ありがとう。——なかなか複雑な気分だけれどね。でも、もう区切りも付いたから、切り替えなくてはね」
アポロニアの司祭服をまとったフィラムモーンは苦笑しつつ、自らを出迎えてくれた婚約者であるカストリア侯女ソニアに言葉を返した。
フェル暦681年、寒季上月の下週の5日。星誕祭の夜に、イリシャ連邦マケダニア王国国王カリトンとその婚約者であるイリシャ連邦第三王女アナスタシアの婚姻式が厳かに、そしてしめやかに執り行われた。
フィラムモーンは陽神——太陽の祭祀を担うアポロニア公爵家の公子、すなわち次期公爵である。そしてアポロニアの祭祀を継承する司祭として、この国の玉座を占める新たな夫婦の門出を取り仕切り、祝福して、たった今戻ってきたところだった。
この国、マケダニア王国の筆頭公爵家に生まれた公子として、生まれも容姿も能力も知性も何もかも非の打ち所のない貴公子に育ったフィラムモーンにとって、アナスタシアは生まれて初めて、そして唯一心を奪われた女性であった。
その彼女の婚姻式を、まさか自分が取り仕切ることになろうとは。何という皮肉な巡り合わせだと思わなくもない。だが全身で幸せを体現したかのような花嫁の姿を目の当たりにした今となっては、彼はもはや諦めを通り越して、臣下として生涯彼女を支える気持ちにもなりつつある。
「お気持ちが固まるまで、わたくしはお側におりますから」
気付けばソニアが、すぐ隣まで歩み寄ってきていた。
だが彼女は、それ以上距離を詰めようとはしなかった。物理的にも、精神的にも。
それを察して、それにもフィラムモーンは苦笑するしかない。
「ソニア」
「はい」
「そう遠慮しないでくれ。貴女が、僕の婚約者なのだから」
「ですが……」
それでもなお言い淀むソニアは、フィラムモーンがアナスタシアと出会い、心を奪われ、そして振られるまでの一部始終を見て知っている。彼女がカリトン王と婚約すると同時に自分と彼も婚約して、それからもう3年にもなるが、それでもなお彼が自分に恋情を抱いていないことも。
その彼女の想いを分かっていて、それを否定しないまま、それでもフィラムモーンは彼女の右手を取った。
かすかに息を呑む彼女の様子を目の端で見留めつつ、フィラムモーンは彼女に正面から向き直る。そうして跪き、頭を垂れた。
「切り替えると言っただろう」
「…………っ」
「僕の婚約者は、貴女だ。それを違えることはないと、今ここで改めて誓わせて欲しい」
ソニアの指先がかすかに強張った。
それに気付かないふりをしながら、彼女の掌に、フィラムモーンは目を閉じてそっと口づけを落とした。
「対外的に関係を公にできないまま、婚約者候補のひとりとして、ずいぶん長いこと待たせてしまったね。それなのに貴女は常におおらかに、たおやかに、そして穏やかに寄り添ってくれた。そんな貴女だから、生涯を共にしたいと思えたんだ」
「フィラムモーンさま……」
正式に婚約を結んでから、もう3年になる。だが彼女とはそのずっと以前から、それこそ生まれた頃からの付き合いだ。
それなのに、彼が15歳、彼女が14歳になるまで正式には婚約の話さえ出たことがなかった。それどころか一時期は話自体が立ち消えになってもいる。
そして婚約を果たした今現在でさえ、国王夫妻が婚姻するまでという名目で待たせているのだ。考えれば考えるほど、酷い仕打ちと言うほかはない。
だからそれまでの贖罪の意味も込めて、フィラムモーンは跪いたままソニアを見上げる。今込められる精一杯の想いを込めて。
「恋慕の情がないと思われるかも知れない。姫に振られたから、その代わりにされるのだと思われても不思議はない。だけれど貴女を好ましく思っているのは事実だよ。——今一度、ここで誓わせて欲しい。貴女を生涯にわたって愛すると」
見下ろしてくるソニアの瞳が、みるみる潤んでゆくのが見えた。
それは今まさに窓の外で輝いている、どの星々よりも美しいと、フィラムモーンには感じられた。
余り者同士ではなかったんだけど、ほんのり振り回され属性のふたり(爆)。
ドンマイ、幸あれ!(無責任)
フィラムモーンとソニアの話、まだ書き終えてませんけど(爆)、4〜5話で12000〜15000字程度になる見込みです。
今のところは毎日更新の予定です。よろしくお願いします。
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