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第5話

誤字脱字報告ありがとうございます!感謝です!

 そろそろお昼の休憩時間だということで次は食堂へ案内された。


食堂では各自トレイを手に取り、配膳カウンターで欲しい料理を受け取る。

職員は無料で食べることができ、食堂内の長テーブルが並べられたところならどこでも好きなところで食べてもいいそうだ。

会議室でランチミーティングをしたい場合など食堂以外で食事をすることも可能で、その時は自分たちで食事を持ち運びしなければならない。


フェリシアとロイドはトレイを手に配膳カウンターの行列に並ぶ。

フェリシアは前と後ろに並ぶ人たちにチラチラと見られていることに気が付いた。食堂に入った時から感じていたが、注目を浴びているようで居心地が悪い。


料理の種類はたくさんあったが、マークウェルド家の食卓でも見かけない料理が多い。ロイドが言うには『庶民的』な料理なのだとか。どれを選んでいいのかよく分からないのでロイドと同じものをトレイへ載せた。


テーブルへ着きロイドの向かいに座った。そしてまずはサラダから手を付けようとしたところだった。


「こんにちは、隣いいですか」


声をかけてきたのは知らない男性だった。

他に空いている席はあるのになぜ私の隣に、と思うが断る理由も見つからない。

ロイドの方を見ると渋い顔をしているためどうぞとも言えなかった。


「悪いけど彼女と仕事の話をしながら食事をするところだったんだ。

遠慮して貰えるとありがたい」


フェリシアの代わりにロイドが断った。


「まあまあ、隣に座るだけで仕事の邪魔はしないさ」


どうも、と言いながら男は図太くフェリシアの隣に座った。

なんとなく居心地の悪さを感じていると、今度はフェリシアの後ろからロイドに向けて声をかける人物がいた。


「やあ、ロイドじゃないか。

彼女がもしかして『月下美人の君』?一人占めしないで紹介してくれよ」


「何であなたに紹介しなくちゃいけないんですか。業務上かかわり合いのない他省庁の人にわざわざ紹介しませんよ」


ロイドが軽くあしらってくれるが、そこでまた別のところから声をかけられる。


「どうもー、私福祉省のマリナ・ガーランドよ!ガーランド侯爵家の三女。貴女が噂の『月下美人の君』ね!

女性文官同士、仲良くしましょうよ」


今度は女性文官が話しかけてきた。

わたしも!僕も!とあっという間にフェリシアの回りに人集りが出来上がっていた。


男性だけでなく女性にも話しかけられる。ロイドが「遠慮してくれ」と言ってくれるが誰もがお構い無しだ。


次から次へと話しかけられるせいでフェリシアは食事を進められないでいた。


「どうして文官になろうと思ったの」

「婚約者はいないの」

「夜会へ招待してもいいかな」


人見知りな性格のフェリシアはぐいぐい来られることに慣れていない。戸惑いながらも当たり障りのない返事をしているとあっという間に休憩時間が終わってしまった。


結局一口も食べることができず、あしらおうとしてくれたロイドまでほとんどを残していた。


申し訳なく思いながら手を付けられないままの食事を返却口へ返し食堂を出た。


「ロイド先輩まで食べられなくなってしまって申し訳ありません」


「僕こそ君を守ってあげられなかったな。お詫びと言っては何だけどこれから案内がてら売店へ行って何か食べるものを買ってあげるよ」


人好きのする笑顔を見せてロイドは言った。


「ありがとうございます!」


ロイド先輩はいい人だ。

フェリシアが悪い訳ではないが直接の原因であることに間違いない。見放さずに先輩として守ろうとしてくれた。それにせっかくの食事を無駄にしてしまっても笑顔で許してくれる。


───この人が付いていてくれるのならやっていけそう。


食堂の出入口から少し歩いたところにある売店で、ロイドはサンドイッチ、フェリシアはクッキーの小袋を買ってもらう。そして手早くその場で口へ運んだ。


そんな行儀の悪い食事が妙に楽しく感じてしまい、思わず笑みがこぼれるフェリシアだった。


 午後からは業務内容を教わることになった。

フェリシアの主な業務は各省庁からかき集められたデータの集計、書類の整理、集配物の配布や集荷、その他雑用だった。

席に着くなりアンナに呼ばれる。


「早速だけど、この書類のこのデータを集計して平均値からどのくらいばらつきがあるか計算して欲しいの。

分布表も作成してね。はい」


「か、かしこまりました…」


どっさりと抱えるほどの書類には王領地の地域毎に農作物の収穫高が記載されていた。

それを集計することでどこの地域が最も豊作か、どの農作物を育てるのが土地に適しているのか。

などその他諸々が分かるらしい。


フェリシアは席に戻ると顔から血の気が引いていく。


平均値からのばらつき……聞いたことはある。

いや、確実に学園で学習した。

偏差値だとか分散だとかよく分からない理屈だった。

その辺りのことは理解しようとしても頭に入ってこなかったのであきらめて公式だけを丸暗記して試験を乗り切ったのだった。

試験を終え無事文官となった今ではその公式さえも記憶の彼方へ追いやってしまっている。


「どれ、見せてごらん」


フェリシアの様子に気が付いて声をかけてきたのはロイドだった。


「ああ、僕も初めの頃はド忘れして四苦八苦したよ。公式はこれだよ。計算の仕方は…」


サラサラとメモ紙へ書くと、学園の教師より分かりやすく説明をしてくれる。


「ありがとうございます、ロイド先輩」


「最初は難しいかも知れないけど、慣れたらそう難しくはないよ」


「おいおい、ロイド。新人が美人だからって甘やかし過ぎじゃねぇか」


そう突っ込みを入れたのは見た目軍人のエミリオだった。


「最初だけですよ、最初だけ。

僕は厳しい教育係だからね」


ばちんとウインクをかますロイド。

全く厳しそうに見えないが、フェリシアからすればこのまま最後まで甘くあって欲しいところだった。


「どうだか。フェリシア、そのデータ後で俺が使うからできたらくれよ」


「はい、分かりました」


フェリシアが集計したものを更にエミリオが手を加えるらしい。

そこから何を導き出すのか。

そうなるともうフェリシアの知らない世界の話になる。


ロイドのおかげで与えられた仕事をこなすことができそうだったが、そもそも文系フェリシアには向かない仕事のように思えた。


───なぜ文系の私が理系の課に配属されてしまったの…。


フェリシアは小さくため息をつくと、コツコツと数字の洗い出しと集計を始めるのであった。


 集計が終わるころには定時間近になっていた。


「エミリオさん、集計できましたのでお願いします」


「思ったより早かったな。ふむ、ちゃんとできてる」


一先ず合格をもらえたようである。

フェリシアが小さくほっと息を吐くと、ズイッと横から大量の紙束が差し出された。


「次はこれを頼めるかな」


そう言ったのはレオナルドだった。


「は、はい」


「期限は今週中で。領地毎にまとめて欲しい」


「はい、分かりました」


ちらりと書類を確認すると領地毎の身分による収入が記載されていた。

貴族・豪商・商人・職人・農民・貧民と身分に分けて統計を取るようだ。


先ほどエミリオに渡した書類は農作物の収穫高が記載されていたが、なるほど…政府はこうやって国を管理しているのか。


一つ賢くなったフェリシアは、入省一日目の終わりを無事迎えた。


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