ゲイのあなたに会いたくて
ゲイビとは
ゲイビデオ(和製英語: Gay video)とは、男性同性愛者や男性両性愛者向けのアダルトビデオやそのソフトのことである。男性のオナニーや男性同士のセックスなどが収められている。ホモビデオ、ゲイAVなどともいう。Wikipediaより
「あ…!Hey!…Ethan!」
キョロキョロと辺りを見回したあと、私の持ったプラカードに気が付いた浅黒い男性が近付いてくる。
見られる事に慣れたオーラが漂う、外国人にしては低めな身長。
"出て来れたってことは麻薬は大丈夫だったんだ、良かった"なんて思いが頭を掠めた。
「Hi」
「Oh my god」
なんて素敵な立ち姿…全てが尊い。
照れくさそうに笑う唇を見ただけでその場に崩れ落ちそうなのに、これから1週間も一緒に生活するなんて。
「Hm,Aya?」目の前で手を振らないで。
「は、はい!」
「Relax,ok?」
「あいかんと」思わず飛び出すイギリス仕込みの英語も片言になってしまう。
「Pardon?」
訝しげに寄る眉毛は既に私を怪しんでいるらしかった。
「呼べばいいじゃん」
その時の姉の一言はまるで雷のようだった。
「え、無理でしょ」
「海外遠征はダメって書いてあったの?」
「分かんない、多分書いてない」
子供たちをお風呂に入れているほっとする一時に何となく話し始めたことがこんな展開になるなんて。
「じゃあお金払えば来てくれるんでしょ?そうちゃんのお迎えとか一緒に行ったら?!」
あはは!と笑う能天気な姉。
「いくらかかんのかな…」
「100万あれば大丈夫っぽくない?」
そんなお金…あるにはあるけど。
「推しに課金するには高くないか?」
「そうかな。100万積んでも会えない芸能人に課金するよりいいじゃん」
こもっともすぎる意見に曖昧な笑みを返すと、風呂から上がった子供たちの着替えの為に立ち上がった。
そうか、お金払えば会えるのか。
その日から私の頭はその考えに占領された。
「So…What do you want me to do?」
成田からの帰り道、夫の運転するベンツに揺られながらEthanが微笑む。
アメリカ南部出身の彼の英語はイギリスで英語に慣らした耳には非常に聞き取りにくいのだけれど。
聞き返すのも申し訳なくて曖昧な笑みを浮かべてしまう。
「えっと…nothing…」
「Nothing?」
「Not exactly…I just don't need your sexual services」
sexualという言葉を使った時、夫がルームミラーを見上げた。
「Hmmm…What should I do?」
「なんて言えば良いんだろ」
「エッチな事はしないんでしょ?そう言えばいいじゃん」
呑気な夫の声の方にEthanは反応する。
「With your husband…」
「Oh!No,No,No,no way」
なんて素敵な笑い方をするんだろう。やばい、固まってしまう。
「I want you to enjoy Japan」
「That's it?」
「Yeah.May be」果たして私の英語は通じているんだろうか。一抹の不安が頭を過ぎる。
「あ、あwith me and my son」
「Of course」
通じているらしいとほっとした途端瞼が重くなったけど、せっかくのEthanを拝まなくてはいけない。一分一秒も惜しい。そんな気迫で何とか目を開けていた。
この話は一介の主婦である「私」がいかにして推しに出会いわざわざ海外から呼び寄せて共に一週間を過ごしたか、を綴った記録だ。
まずはこの非現実的な推し活を成功させた影の功労者たちについて語りたいと思う。