ep.6
✴︎✴︎✴︎
「伝令!伝令!」
突然、伝令兵の声が会議室の静寂を破った。
一体なんなんだ、わざわざ王都の近衛第一師団に話すような事でも起きたのか?
今、前線はアスベル平原の先にある北方前哨基地のバグラム砦の筈だ。帝国兵は白魔銀でできたバグラム砦の前で立ち往生してるって話だが。
アスベル平原は白魔銀のない地帯、しかし、ルミナリーの国民にとってはアスベル平原で取れる鉄鉱石等の石材が必要不可欠なので死守しなくてなならない土地だ。
だが、白魔銀がなければ無属性の民には勝ち目がない。
そこで、ベルメリア帝国が保守主義派と帝国主義派に分かれて内戦をしてる間、手薄になったアスベル平原に白魔銀の板を打ち付けた大理石の要塞の建設を急いで進めたのだ。
無属性の民が協力し合った結果、たまに遭遇する帝国兵に出会ってしまったりして犠牲者は何人か出たが、要塞建設は間に合った。
それから、ベルメリア帝国での内戦で帝国主義派が勝利し、アスベル平原に攻めてきたが、そのバグラム要塞のお陰で現在も事無きを得ているという事だが……。
「お前の近衛隊員番号と名前を言え、話はそれからだ」
「っは!番号3-2-1428 ロラン=エーリッヒ伝令兵です」
「…確認した。ロラン=エーリッヒ伝令兵、任務ご苦労。で、一体どうしたっていうんだ?」
「“アスベル平原”座標、2.3-7.4に高速に接近する敵影を発見、皇国協定医療キャンプをサンクチュアリ内まで防衛、後退の為、直ちに第一師団最低一個連隊、応援求む。とのことです」
「2.3-7.4だと!?敵の行軍速度は?」
「重装歩兵を伴っての行軍なので時速4km程かと思われます」
「まさか歩行だけでバグラム砦を迂回してきたわけではないだろうな……。一体どんな移動手段を使ったんだ。まぁいい、敵の行軍速度がせめてもの救いだな。ただちに近衛第一師団第一連隊が応援に向かうと伝えろ」
「っは!了解しました」
「隊長!いいんですか?師団長がいないのに独断で決めてしまって」
副連隊長が戸惑いながらそう尋ねてきた。
「師団長の判断を待ってるうちに敵がキャンプに着いたらどうするんだ?あそこにはルミナリー王国民だけじゃなくて【アレクシオン神聖皇国】から派遣された“白の民”の治癒術士がいるんだぞ!その治癒術士達を俺たちルミナリー王国の戦争に巻き込んで死なせたりしたら国際問題に発展しかねない。事は緊急を要する、上の判断を待たずに臨機応変に対応することも必要なんだ。なに、処分は俺が全部受ける。お前らは黙って俺につい来れば良い」
「っは!出すぎた発言をお許しください!私たちは最初から隊長に従う所存です」
俺に絶対の信頼を寄せる部下達に責任なんて取らせはしない、こいつらは俺の事を信じてどこまでも付いていく様な連中だ。だからこそ背中を預けれる。
「よし、行くぞ!何としてでもアレクシオンの人たちを救うんだ!!」
「「「オォォー!!!」」」
----------
「クリスちゃん、その人の治療が終わり次第、直ぐに避難の準備をしてね。“バグラム砦”を迂回してきた帝国兵がこちらに向かってきているそうよ」
私に声を掛けてきたのは妙齢のシスター、マリベルさん。
初めて私が派遣治癒術士としてこの国に来てから、いろいろとお世話になっている人。
治癒術士としてランクも高く、スキル≪プリースト≫も持っているベテランさん、私と同じで白の魔法系統で回復系がいちばん得意な人で、私よりも全然凄い回復魔法を使える。
そんなマリベルさんが、私に心配したようにそう言った。
「大丈夫です。もう少しで終わるので……」
「あなたがここで無理をして治療続けて捕まったりしたら、助けられるはずだった患者さんも助けられなくなるってことを覚えておいてね」
「それは……分かっています」
たしかに治癒術士が一人いなくなればその分治療できる患者の人数も減ってしまう。
戦争中の時なんかは一刻を争う重体の患者など珍しくないので、治癒術士一人分の穴は大きい。
それは分かっているけれど、目の前に助けられる命があるのに見捨てるのはできない。
何せ、絶魔地帯に入れば白魔銀によって魔法の攻撃はされないけれど、回復魔法ももちろん使えないのだから。
だから、なんとしてでも絶魔地帯に入る前に治療を終わらせたかった。
それが結果的に多くの犠牲者を出すという事を知っていても尚、マリベルさんみたいに割り切るのは私にはまだ難しい。
「目の前に自分が手を差し伸べれば助けることができる、そんな人を見殺しになんてできないっていうあなたの考えは分かってる。私もできる限り手伝うから。……そうね、エリアヒールを使いましょう」
高位のプリーストだけが使えるエリアヒールは、回復魔法の広範囲型だ。けれど、消費魔力量も多く、魔力を殆ど使い切ってしまっている状態のマリベルさんが使ったらかなりの頭痛と眩暈が伴うはずだ。
今後の治療も辛くなるに違いない。
「そんな事をしたらマリベルさんが……」
「大丈夫よ。ただ、エリアヒールを使った後は頼んだわ。たぶん満足には働けないでしょうから。」
「任せてください!私が患者さん達をちゃんと避難させます」
「そう、なら使うわね……。 【ああ神よ。貴方の御慈悲を我らに!あなたの奇跡の光によって我らに癒しをお与えください!!エリアヒール】」
マリベルさんを中心に、暖かな光の本流が迸る。
周りに集められた患者さん達の傷や、火傷が完全ではないけれど直っていた。
皆歩ける程度には回復したようで、無事に避難ができそうだ。
「クリス……患者さん達を馬車に乗せて……。急いで、サンクチュアリに向かうのよ……」
マリベルさんはずっと私と一緒に患者さんを回復していたのだ。マリベルさんのマナは魔力枯渇寸前だろう。既に息は絶え絶えで、立っているだけで辛そうだ。
私はすぐ言われた通りに患者さん達を馬車に誘導する。
「皆さん!早く馬車に!!帝国兵がこちらに向かっています、傷を完全に治療することはできませんでしたが致命傷は治療しました。今は避難を最優先にしてください!!」
致命傷を負ってさっきまで意識がなかった兵達に必死に呼びかける。皆状況をすぐに飲み込んでくれたようですぐに行動に移してくれた。
順調に負傷兵を乗せた馬車を出発させていき、最後に私も馬車を乗り込んだ。
その時だった。
【ッシュ ッシュ ッシュ ッシュ……】
空気が抜けるような音が規則的に聞こえてくる。
後ろを振り向くと、何か煙をだしている“黒い物”に跨った帝国兵がこちらにもの凄いスピードで迫ってきていた。馬車では到底逃げきれないだろう。
きっと帝国兵の兵器かなにかだ、このままでは追いつかれるのも時間の問題。
一体どうしたら……。
そんな事を考えている内に、その煙を纏った“黒い物”はどんどんこちらに迫ってくる。
姿が良く見えるぐらいに近づいたところで“黒い物”に跨ってる帝国兵は背中の槍に手をかけた。すると、槍の先端が炎を纏う。
まずい、あれは魔法付与に違いない。魔法付与された槍で一突きされれば、こんな木造の馬車など木っ端微塵だ。
何かしなければ、と頭で思っていても、体は金縛りにあったよう動かない。
だめだ、このままじゃ皆殺しにされる……。
目の前まで迫ってきた帝国兵は、私に向かって火炎の槍を振りかざした。
「い、いや……っ」
「ッガァ!この野郎、止まれ!!何してんだ!治癒術士さんはさっさと絶魔地帯まで逃げろ!!」
諦めかけたところで突然目の前に銀髪の男が現れた。銀髪の男は馬と同じくらいの大きさのその“黒いもの”を単身で受け止めており、私に向かって突き出された火炎の槍は私に届く前に停止した。
どうやら間一髪で助かったみたいだ、銀髪の男は青いラインの入った銀色に輝く甲冑を身に纏っている。きっと【ルミナリー王国】の近衛兵だろう。
それにしても、あのスピードで走ってきていた“黒い物”を単身で止めるなんてもの凄い力だ。
さすが無属性の民の精鋭軍なだけある。
「あ、ありがとうございます!」
急いで再び馬車に乗ろうとする、すると今度は爆発音が聞こえ、ものすごい熱風が私を襲った。
一体次は何が……。
誤字、脱字、ここ変じゃない?ってとこがありましたらコメントくださると嬉しいです!
感想もよろしければ……! めちゃめちゃ励みになります!!
引き続き明日も同じ時間ぐらいに投稿します!