⭕ 海の家で、かくれんぼ 5
「 どういう事…? 」
「 キィちゃん、ムィちゃんの鱗は彼処から此処まで落ちていたんだ。
そして今も、鱗は彼処へ向かって落ちているね。
かくれんぼをしていたら、鱗を落としたり、置いたりなんてしないよね? 」
「 …………お兄ちゃん? 」
「 ……もしかしたら…だけど──、ムィちゃんは鱗を落としたり、残したりしないといけないような状況に遭ったのかも知れない… 」
「 それって… 」
「 かくれんぼをしていたムィちゃんは、知らない誰かに見付かって連れて行かれた──って事も考えられるよ 」
「 ムィちゃんは無事? 」
「 いや…僕にも分からない。
けど、ムィちゃんの鱗はあの海の家に向かって落ちてるみたいだから、もしかしたら……ムィちゃんはあの海の家の中に居るのかも知れない… 」
「 ムィちゃん……。
お兄ちゃんとお姉ちゃん達を呼んで来る!! 」
「 えっ、キィちゃん?!
でも、未だ居ると決まったわけじゃないんだよ?
確かめてからの方が── 」
「 ………… 」
「 ……分かったよ、キィちゃん。
キィちゃんの代わりに僕が海の家に向かうよ。
ムィちゃんが中に居るか探してみる。
だから、キィちゃんはお兄さんとお姉さんと一緒に海の家に来てくれるかい? 」
「 うん! 」
僕に大きく頷いたキィちゃんは、僕から離れると海に向かって走って行く。
キィちゃんは薄暗い中で海の中へ入って行くと姿を消してしまった。
僕はキィちゃんが溺れたのかと思ったけど、自分から海に入って行った事を考えると大丈夫なのかも知れない。
それよりも僕は海の家へ向かう事にした。
海の家は貼り紙が貼られていて閉まっているけど、明かりが灯っているから中には誰かが居るんだと思う。
「 さてと…何処から中に入ればいいかな?
やっぱり勝手口かな?
海の家の勝手口と言えば── 」
僕は裏へ回って勝手口を探した。
勝手口のドアを見付けたから、ドアを開けようとドアノブを掴もうとしたら、手がドアノブをすり抜けた?!
どういう事?!
だけど、好都合かも知れない。
僕は思い切って勝手口をすり抜けて、海の家の中へ入った。
1階は店内になっているみたいだ。
どうしてなのか分からないけど、此処に居る誰にも僕の姿は見えてないみたいだ…。
こんな好都合があって良いのかな??
兎に角、ムィちゃんを探そう!
僕は1階を隅々まで探してみたけど、ムィちゃんの姿は見えない。
ムィちゃんがどんな子なのか僕は知らないけど、キィちゃんと似てるんだろうとは思う。
僕は2階に上がる事にした。
海の家の2階に上がった僕は、部屋をすり抜けながらムィちゃんを探した。
落ちていた鱗は海の家に続いていたからムィちゃんが居ると思ったんだけどな……。
「 何で居ないんだろう??
……もしかして、何処かに閉じ込められて居るのかも知れない。
……どうしたらムィちゃんを見付ける事が出来るんだろう… 」
僕は子供の頃に有明古さんから貰ったワッカをギュッと握り締めた。
僕がワッカを握っていると何処からか声が聞こえた。
とても弱々しくて小さな声だ。
何処から聞こえて来るんだろう?
僕は確りと耳を澄まして声を聞いてみた。
声のする方へ向かうと小さな扉があった。
声は小さな扉の中から聞こえて来るみたいだ。
僕は小さな扉へ向かって身体をすり抜けさせた。
其処で見たのは少女の痛ましい姿だった。
この幼い子がキィちゃんの探しているムィちゃんなのかな?
キィちゃんには僕の姿が見えていたし、話も出来ていたからムィちゃんとも話が出来る筈だ。
「 君はムィちゃんかな?
キィちゃんとかくれんぼをしていたムィちゃんで合ってるかい? 」
どうやらムィちゃん(?)は両目を開けれないみたいだ。
余程恐い目に遭わされたのか、見知らぬ僕を怖がっているのか……、ムィちゃん(?)の身体を小刻みにブルブルと震えている。
小さな身体は傷だらけで、まるで身体の肉を削ぎ取られているみたいに見える。
下半身も酷い傷が付いていてボロボロになっているように見える。
下半身は人間の足じゃなくて──、まるで絵本で読んだ事のある人魚姫に似たような足……と言うよりも尾ヒレ??
綺麗な鱗だって分かるけど、無理矢理剥ぎ取られたりしたのか血が滲んで見える。
「 ……外に落ちていた鱗なんだけど、ムィちゃんの鱗で合ってるかな?
今ねキィちゃんが、お兄さんとお姉さんを呼びに行ってるんだ。
キィちゃんが此処に、お兄さんとお姉さんと一緒に助けに来てくれるよ。
お家に帰れるんだよ 」
ムィちゃん(?)女の子は震えるながら小さな声で懸命に僕へ何かを伝えようとしてくれている。
だけど、僕には目の前の子が何を言っているのか分からない。
この狭い部屋から出してあげたい。
だけど、この小さな扉の鍵を僕は持って居ないから、この子を出してあげる事が出来ない。
僕はムィちゃん(?)の弱々しい手を握ってあげた。
早くキィちゃんに来てほしい。
1階がやけに騒がしい。
どうしたんだろう…。
バタバタと階段を駆け上がって来るような音が聞こえて来た。
乱暴なその足音はこの部屋に近付いて来ているみたいだ。
「 ムィちゃん、僕が様子を見て来るね。
キィちゃんが迎えに来てくれたのかも知れないよ 」
ずっと目を閉じているムィちゃん(?)は不安そうな顔をしている──ように見える。
僕はムィちゃん(?)の手を離すと部屋の外に出た。
廊下に出るとキィちゃんが居た。
「 ──キィちゃん!
此方だよ! 」
「 ──お兄ちゃん!
お兄ちゃん、ムィちゃんは居た? 」
「 ムィちゃんか分からないけど、人魚の女の子なら居たよ 」
「 本当?! 」
「 此方だよ。
鍵が無いから僕には扉を開けられないんだ。
怪我をしていてね、かなり弱っているよ。
早く手当てをしてあげないと… 」
僕はキィちゃんをムィちゃん(?)が閉じ込められている場所へ案内した。
「 この扉の中に居るよ 」
小さな扉の前に立って、キィちゃんに教えるとキィちゃんは扉を一瞬で壊した。