現実の話
「……さて、これまた随分と癖の強い夢だよ。君はとっても賢い幼女ノギトム、僕は彼女にお話をする青年ライプニッツ。これを演じたらここから脱出する権利を得る。それが今回の鳩魔法Lv10。思い出したかい?」
ライプニッツは、いや、勇者インテグは真剣な表情で私に語りかける。私も、いつまでも忘れてはいられない。
「うん、ごめんね、こんなお芝居に巻き込んで。」
「何を言ってるんだ。もともと巻き込んだのは僕だ。君だったら魔王討伐なんて馬鹿げたことにも付き合ってくれるって、僕が君の優しさにつけ込んだんだ。」
「………これからどうするの?」
「………分からない。」
インテグのこれは、いわゆる自暴自棄ってやつだろうか。いや、ただの八方塞がりか。もう私たちはこの鳩魔法Lv10の夢から脱出できる。だが、出て行ったところで何になる?向こうでは時間は進んでいない。だがここから戻ったら、時は進み始め、待ち受けるのは重傷のインテグと、魔王だ。詰んでいる。
だったら、私は、
「だったら、戻ろう。」
「……正気か?死ぬぞ。」
「だって、ここにいてもどうにもならないでしょ。」
「そ、それはそうだけど…でも、戻ったところで魔王を倒せないことには」
「倒せばいいんでしょ?」
「え?」
そう、私たちが八方塞がりな原因はそもそも魔王だ。あいつさえ倒せばインテグを助けて、帰ることができるかもしれない。
「倒せるのか、君に?」
「何言ってんの?インテグが倒すんだよ?」
「……は?」
「だーかーらー、インテグが魔王を倒すんだよ。」
「い、いや待て待て待て!マイミー、君は馬鹿か?現実の僕はボロボロで、放っておいても死ぬかもしれないんだぞ!」
「だったら治せばいい。」
「何言ってんの?」
「怪我してんなら治せばいい。魔王に勝てないならインテグが強くなればいい。」
「待て、そんなこと出来るわけ…」
「できるよ、私の鳩魔法Lv10なら」
この魔法は、ツッコミどころしかない。まず名前に『Lv10』とついてるのなんてこの魔法ぐらいだし、効果もランダムで、しかも毎回クセが強い。だが、1つだけ良いこともある。この魔法、魔力の消費が極めて少ないのだ。
私は仮にも魔術師だ。魔力は常人よりもある。この魔法だったら実質無限に近い量を使える。だったら話は早い。良い効果が出るまで使い続ければいい。当たりが出るまで博打を続ければ、実質負けなしってやつだ。
「正気か⁉︎そんな作戦うまくいくわけが」
「馬鹿なの?そもそも魔王相手にうまくいく作戦なんてないでしょ。」
「ええ…」
呆れるインテグに対し、私は語り続ける。
「あなたは勇者よ。奇跡の1つや2つ起こして見せなさい。」
「インテグ……」
「私が何でこんなアホな旅について来たと思う?」
「何でって…」
「あんたが勝てるって信じてるからよ。」
「!」
私だって夢想家になる程のお人好しではない。生死がかかってる選択では、ちゃんとした理由をもとに結論を出す。
インテグはおそらく現役の冒険者、いや歴代のあらゆる冒険者の中であっても1番になれるほどの実力だ。私はそう信じてる。
「勝ちなさい、インテグ。一緒に帰ろう。」
「……ふふ、こりゃとんでもない無理難題だな。いいぜ、やってやる!任せろ、マイミー!」
「ええ、信じてるわよ!」
「その代わり、俺もお前の運を信じてるぞ。その魔法を役立ててみろ!」
「ええ、任せて!」
次第に景色が揺らいで、崩れていく。今から私たちは、絶望の待つ現実世界に戻っていく。待ち受けているのは重傷のインテグと、彼を圧倒した魔王。
それがどうした。
確率は0ではない。何としても私たちは生きて帰る。大丈夫、私たちは、勇者インテグと、そして、鳩魔法Lv10の使い手マイミーだ。魔王よ、首を洗って待っていろ。
2人の意識は覚醒した。
数ヶ月後
「ラノサさん、薬草が足りなくなって来たのでちょっと森に行ってきます!」
「あいよ、魔物に気をつけてね。」
「大丈夫ですよ、今回はあの馬鹿が一緒ですから。」
「あいつかい、全くあの馬鹿はマイミーを危険な目に遭わせよって。今度会ったらただじゃおかないよ。」
「ははは、そうですね……。それじゃ行ってきます!」
あの後、結局魔王は倒せなかった。だけど私たちは何とか生き延び、こうして元気にしている。
インテグは冒険者を辞めた。まあ、あんなことがあれば当然だけど。今は、こうして時々私が薬草を集めるのを手伝ってくれている。
これは決して夢ではない。私は、1秒進んだ現実の中で、確かに生きている。
おかげさまで完結しました(というかさせました)。謎なラストですいません。m(_ _)m