私のお話
ライプニッツはこれまでいくつもお話をしてくれた。でも最近はちょっとヘン。鳩魔法Lv10っていうとってもヘンテコなスキルの出てくるお話ばっかりしているの。一体何が言いたいのかしら?
「やあ、お姫様。いらっしゃい。」
「こんにちは、ライプニッツ。ねえ、何で最近ずっと鳩魔法Lv 10のお話ばっかりなの?そもそもあの魔法は何なの?」
「……お姫様、今日のお話を聞いてくれるかい。このお話だけは君にしなければならないんだ。」
「うーん…よく分からないけど、分かったわ。」
「よし、じゃあ始めるよ。」
「マイミー、君にはもう用は無い!今すぐこのパーティーから出て行け!」
宿の一室で声を荒げているのは、冒険者のインテグ。その実力から勇者と呼ばれ、人類の悲願である魔王討伐も期待されている青年だ。
一方彼に怒鳴られているのは、魔術師の少女マイミー。インテグの幼馴染故に彼のパーティーに在籍していたが、たった今パーティー追放を通告されてしまった。
「そんな、どうしてなの!いきなり出て行けなんて酷いよインテグ!」
「どうしてだと?決まっているだろ!君が魔術師として全く使い物にならないからだ!訳の分からない魔法しか使えない君を、どうしてこのパーティーに置いておかなければいけないんだ!」
インテグの言っていることにも一理ある。実はマイミーは魔術師でありながら、魔法が苦手なのだ。彼女が使える魔法はただ1つ。その名も鳩魔法Lv10。不思議な名前に加え、その効果も予測不可能、つまり効果は完全にランダムなのだ。
活動を始めた頃はまだパーティーの仲間たちも心に余裕があったので、彼女の魔法も受け入れられていた。だが次第にパーティーが結果にこだわるになるにつれて、彼女の存在は目障りとなったのだ。
「とにかくこれはパーティー全体で出した結論だ。今すぐ荷物をまとめて出て行け。退職金ぐらいは出してやる。」
「で、でも」
「いいから出て行け!」
「……分かった。」
こうしてマイミーは勇者パーティーを追放された。
「ハァー。これからどうしよう……。インテグ以外に雇ってくれそうなパーティーなんて無いし、かといってソロは厳しいし。」
そんな時、彼女に1人の老婆が話しかけた。
「そこのお若いの。もしかして暇かい?」
「え、私ですか?」
「そうそうあんたさ。実はちょっと困ったことがあってね。かといって冒険者に依頼できる程の金も無いのさ。頼まれてくれないかい?」
冒険者に依頼をするには、冒険者ギルドに一定の金額を納めなければならない。故に懐事情が危うい者たちが、こうして手伝いを求めるのも少なくない。
「は、はい!私で良ければ。」
「よし、じゃあついてきておくれ。」
老婆に連れられてやって来たのは、かなり年季の入った小さな建物だった。
「あの…ここは?」
「あたしの店だよ。薬屋をやっていてね。普段は孫が手伝ってくれているんだけどどうも体調を崩しちまってね。臨時の手伝いを探してたところさ。」
「なるほど、分かりました。薬の知識は無いのであまり色んな事は出来ないと思いますが、よろしくお願いします!」
「ありがとね。それじゃ中へお入り。早速だけど、在庫の整理をやってもらおうかね。」
「はい!」
2人は店内に入る。すると、店の奥から顔色の悪い青年が現れた。
「婆ちゃん、お手伝いさん見つかった?」
「こら、トール!休んで無いとダメじゃ無いか!」
老婆が青年の元へ駆け寄る。どうやら風邪を拗らせているらしい。
「あの、こちらの手伝いで来ました。マイミーといいます。よろしくお願いします。」
「この度はよろしくお願いします。ここの店員のトールです。こちらは僕の祖母のラノサです。ゲホッ、ゲホッ。」
「だからあんたは寝てなさい!マイミーさん、悪いけどよろしくね。」
「はい!頑張ります!」
マイミーはその日の仕事を乗り切った。どうやらそれなりに客は来ているらしい。
「お疲れ様でした。」
「お疲れ様。今日はありがとね。おかげで助かったよ。何なら明日からも来てもらいたいぐらいだ。」
ラノサの発言を受け、マイミーはあるお願いをする。
「あの、実は私行くあてが無くて。その、もし良ければ、ここで働かせてください!」
それに対し、ラノサは笑った。
「はっはっは。本当かい?むしろこちらも大歓迎さ。どのみちトールはまだ風邪気味だし、ウチも大助かりさ。よろしくね、マイミー。」
「はい!よろしくお願いします。」
「ああ、そうだ。どうせなら住み込みで働かないかい?代わりに薬の調合を覚えてもらうけどね。」
「いいんですか⁉︎勿論です!」
こうして、薬屋の看板娘マイミーが誕生した。
マイミーがラノサの元で働き始めて数ヶ月。マイミーも薬の調合をある程度覚え、回復したトール、ラノサと共に店を切り盛りしていた。
「お釣りの100アウです。ありがとうございました!」
客足が落ち着いたところでマイミーたちは休憩に入る。
「マイミー、お疲れ様。今から昼ご飯にするけど何か食べたいものはある?」
「何でもいいよ。トールの作るご飯全部おいしいから。」
「それが一番困るんだけどなあ。よし、頑張るよ。」
と、その時、店に1人の青年が入ってきた。
「すみません、今休憩中で……え?」
その人物はインテグだった。しかしマイミーが最後に会ったときから比べると、かなり顔色が悪くなっている。
「マイミー、すまなかった。どうか僕のパーティーに戻ってきてくれ。」
「インテグ、どうしたの⁉︎まずは事情を話して。」
「そうだな、説明するよ。」
インテグの話はこうだ。
あの後、マイミーを追放したパーティーは依頼を尽く失敗する様になった。実は、マイミーは戦闘で役に立てないならと、物資の調達や野営の準備など、パーティーの雑用を一手に引き受けていたのだ。そのマイミーが抜けたことでインテグのパーティーは瓦解し、少し前に解散したのだという。
「それって、今更私が戻っても意味ないんじゃ。」
「かまわない、戦闘は僕が引き受ける。実際パーティーが解散してからソロで少し魔物を狩ってみたが、全然全勝なんだ。君には支援として戻ってきて欲しい。頼む。」
「うーん、インテグだったら確かに戦闘は大丈夫だろうけど、私はもうこの薬屋で働いてるから。」
「頼む!一度だけでいいんだ!あと1つ仕事を終えたらもう君には迷惑をかけない、この通りだ!」
必死に頼み込むインテグ。マイミーは少し哀れに思えてきた。
「……仕事ってどんな内容?その内容次第だよ。」
「………魔王を討つ。」
「は……はあ⁉︎インテグ本気?」
「本気だ。僕は今まで勇者と持ち上げられ、その名誉に胡座をかいていた。僕は今までの僕を変えたいんだ。だから自分にしかできない事をしたい。」
「それで、魔王討伐……流石に無理でしょ。ていうか何で私を巻き込むのさ?」
「それしか手段が思いつかないんだ。今なら分かる。君は僕が出会った中で1番の冒険者だ。馬鹿なお願いなのは承知だ。だが君が、唯一の希望なんだ。僕は僕にできることで全力を尽くす。だからお願いだ!」
マイミーに対して頭を下げるインテグ。マイミーは、昔の彼を思い出していた。インテグも新人の頃は今のように誠実な性格だったが、いつの間にか傲慢な人間に成り果ててしまったのだ。そんな彼が自分を変えようとしている。マイミーは少なからず感動していた。
「………分かった。」
「ほ……本当か⁉︎」
「うん。今のあなた、昔みたいでちょっと見直した。昔の誠実なあなたに戻ってくれて嬉しいわ。だから特別よ、あなたの強さは信じてる。だから、魔王を倒そう。約束だよ。」
「……!ああ、約束だ!任せてくれ、勇者の実力を見せてやる!」
「………こうして2人は魔王討伐に旅立ったのでした。」
「………どうしたの、ノギトム?2人はどうなったの?」
「………そうだね。君に話そう。」
「うん、聞かせて。」
「2人はラノサとトールを何とか説得して魔王討伐に旅立ったんだ。そして運良く魔王城へ辿り着いた。ついに魔王との直接対決になったんだ。でも、ダメだった。」
「え?」
「魔王はそれだけ強かったんだ。インテグは重傷を負った。見かねたマイミーは咄嗟に自分の魔法を使ったんだ。運任せの鳩魔法Lv10を。そして、不思議なことが起こったんだ。」
「ライプニッツ?」
「鳩魔法Lv10は時を止め、2人を咄嗟に夢の世界へ放り込んだんだ。そして、その夢の世界で、2人は隣人の青年と幼女になった。幼女の方は魔法の反動で記憶を失った。」
「ライプニッツ、一体何のこと?」
「分かっているだろノギトム、いや、マイミー。君は、僕の、勇者インテグのせいでこんなことになったんだ。」
次で完結します。