ウィズ・ザ・ガール
百合があるの、今回だけです。
すみません。
よく来たねお姫様。それじゃ今日のお話を始めよう。
私、風ノ宮陽子は私立猫ノ環学園に通う高校1年生。突然だけど、今私は恋をしている。相手は同じクラスの宮城亜紀さん。容姿端麗、テストでは常に学年1位、100メートル9秒50と、まさに才能の塊のような少女だ。
さて、そんな私ですが、現在遅刻中です。やばいやばいやばい!まさか自分が食パン加えて全力疾走するなんて。てかこれ息が……。
そうして前方への注意が薄れていた私だが、気がつくと目の前には人がいた。
やばい、ぶつかる、
私は地面に倒れていた。くそ、せめて誰かが「躱せ!」と叫べば助かったかもしれないのに。
「ごめんなさい!怪我はありませんか?」
聞き覚えのあるその声にふと顔を上げる。そこには、心配そうな顔でこちらを見つめる宮城さんの姿があった。
「み、みみみみみ宮城さん⁉︎」
「ええと、はい、そうです。あの、怪我は?」
「だ、大丈夫です!あああ、ありがとうございます!」
か、可愛いいいい!顔近い!声可愛い!あ、めっちゃいい匂い。
「………好きです。」
「……え?」
「え?」
「あの…その…好きって」
「?」
「今、『好きです。』って言いましたけど。」
「え、ええええええええええええええ!!!」
待って待って待ってどういうこと?まさか、宮城さんの尊さにやられて本心が空也上人したとでも言うの?ああ終わった終わった終わった!絶対変な奴だと思われたよこれ。さようなら、わたしの恋。せめて宮城さんからやたら改行まみれのメールを受け取った後、背後から刺されて死にたい人生だった。
「うう……ごめんなさい。変な奴って思いましたよね?これからはなるべく近づかないようにするんで私のことは気にしないde」
「いいですよ。」
「へ?」
「その、お友達からで良ければ、よろしくお願いします。」
「へ、へええええええええええええええ!!!よよよ、よろしくお願いします!あの、わ、私、同じクラスの風ノ宮陽子っていいます!」
「うん、よろしくね、風ノ宮さん。あ、陽子でいいかな?」
「こここ、光栄であります!」
「ふふ、何で敬語なの?友達どうしなんだからタメ口でいいじゃない。」
「そそそ、そんな、恐れ多いです!」
「じゃあ、友達である私からのお願い。タメ口で話して、陽子。」
「ええっ⁉︎じゃ、じゃあ、よ、よろしくね、ああ、亜紀。」
「うん、よろしくね。じゃあ学校いこっか。」
「う、うん!あれ、そういや私遅刻しそうなんだった。あれ、じゃあ宮城さ、じゃなくて亜紀も……。」
「……。」
その直後、亜紀が一気に加速する。は、速っ!さすが100メートル女子全国4位。恐ろしく速いスタートダッシュだ、私でなければ見逃していただろう。
(鳩魔法Lv10を取得しました。)
私が亜紀のスタートダッシュ(と美脚)を眺めていると、謎の声が頭の中で鳴り響く。なんそれ?
(風ノ宮陽子と宮城亜紀は登下校時に一緒にいないと、1回につき偏差値が1下がります。)
な、何それ⁉︎どういうこと?何か色々整理したいことしかないけど、仮にそれが本当だったら、週に一度一緒に通学しなかったとして、3ヶ月で偏差値10以上下がるじゃない!やばい!早く亜紀にも教えないと!
ふと前を見ると、亜紀が立ち止まってこちらを見ている。そしてこちらに近づいてくると、こう言った。
「ねえ、陽子、その、何でかは言えないんだけど、これからは、毎日一緒に学校に行ってくれない?帰りも一緒に帰って欲しいんだけど。」
不安そうな顔でお願いする亜紀。やばい尊い、このままでは語彙力が……ん、待てよ?
「もしかして、亜紀も?」
「え、まさか陽子も?」
「うん、何か変な声が聞こえて、『鳩魔法Lv10』だとか、一緒に登下校しないと偏差値下がるとか。」
「わ、私も。」
「そうなんだ。何なんだろこれ?」
「分かんない。でも、一緒に学校いって帰れば問題無いんだよね。」
「そうだと思う。」
「じゃあその、一緒に行こ。」
「う、うん。」
それから、私と亜紀は学校に行く時も帰る時もいつも一緒にいるようになった。まあ亜紀と一緒にいられるから悪くないというか、むしろ最高だった。
自然と亜紀との会話も増えた。好きな小説とかゲームの話をしたり、勉強についてアドバイスしてもらったり、とにかく楽しかった。それ以外の時間でも、亜紀とよく話すようになった。
そうした生活が始まって数ヶ月後。
「亜紀、おはよー!」
「うん、おはよう、陽子。」
亜紀がなんだかよそよそしかった。何だろう、何かあったのだろうか?
「亜紀、どうしたの?」
「えっと、その、陽子、私と付き合ってください!」
その日、私は亜紀と恋人同士になった。そのときの事は混乱のあまりよく覚えていないが、亜紀曰く、静かに号泣していたとのことだ。
亜紀と付き合い始めてから数ヶ月、私は亜紀の家にいた。テストが近いので勉強を教えてもらっているのだ。
「はあー、疲れた。休憩!」
「いいよ、ジュースあるけど、飲む?」
「うん、欲しい!」
勉強を一旦中止して、亜紀と駄弁る。ふと、気になったことがあるので亜紀に訊いてみる。
「そういえば、亜紀、お母さんとお父さんは?」
すると、亜紀が途端に顔を赤くする。え、何、どうしたの?
「その、今日は、2人とも仕事で帰ってこなくて……」
「……」
その日は急遽、亜紀の家でお泊まり会となった。何があったかは言わないでおく。
そうして時間は流れ、無事に2人そろって同じ大学に合格し、卒業式の日を迎えた。
長ったらしい式を終えた私たちは、2人で帰路についていた。そのとき、あの声が久々に頭の中に話しかける。
(有効期限となりました。鳩魔法Lv10が消失します。)
「亜紀、これ」
「うん、消えたみたいだね。」
私たちの偏差値を人質に、一緒に登下校することを強制していたそれはなくなった。
「……ねえ、亜紀。」
「何?」
「あの変なのはもう無くなったけど、私、大学も亜紀と一緒に通いたい!」
「……うん、私も。これからもよろしくね、陽子。」
「うん、よろしく、亜紀!」
その後、とある大学で、極めて尊い百合ップルを見守る人々が現れることとなる。
その百合ップルは後に結婚し、生涯を共にすることを誓い合うのだった。