実力差ゆえにいじめる者
やあ、今日も来たね。じゃあ今日の分のお話だ。
人生ってやつは運の良さがモノを言う。そしてこの俺、冒険者のスナサは最高の運を持っていると断言できる。
さてそんな俺だが、今森の中でゴブリンの群れに囲まれている。ゴブリンつったら雑魚の代表格だが、見たところ数十匹はいやがる。普通だったらやべー状況だ。普通ならな。
「グエエーーー!」
1匹のゴブリンが俺に向かってくる。手にはボロボロの斧らしきものを持っている。
対して俺はというと、動いてない。動く必要なんてないからだ。
「グギャッ!」
汚い悲鳴とともに、ゴブリンの胴体が見えない刃に切り裂かれる。真っ二つだ。
その様子を見て、他のゴブリンどもも襲いかかってくる。
「あーあ、逃げりゃいいのに。」
俺に近づいてきた奴から順に死んでいく。死に方は色々だ。真っ二つになったり、体が弾け飛んだり、毒でも飲んだかのように苦しみ出したり。
数分後にはゴブリンは全滅していた。
「うひょー、大量大量!そんじゃ解体して帰りますか。」
俺は意気揚々と冒険者ギルドへ向かった。
あれは俺が冒険者ギルドに登録した日のことだった。ギャンブルと女で金を使い果たした俺は、一発逆転を狙って冒険者になった。魔物と戦ったことはなかったが、雑魚程度ならどうにかなるだろうと思っていた。
しかし、早速魔物を倒して有名になろうと森へ向かうと、謎の声が頭の中に鳴り響いた。
(鳩魔法Lv10を取得しました。)
は、鳩魔法Lv10⁉︎なんじゃそりゃ?なんかのスキルか?けど俺そんなスキル持ってねえぞ。
謎の声にパニックになる俺は、気が散っていたと言えよう。気づかないうちに、背後に人間大のトカゲがいたのだ。
「あれは、バ、バジリスクだと⁉︎」
バジリスクは人間大のトカゲの魔物で、目が合った者を石にする力を持つ。専用の魔法があれば防いだり治したりできるが、俺はそんなもの使えないし、使える知り合いもいなかった。
(滅多に会わないってのに、なんて運が無いんだ!)
恐怖で体が動かない。バジリスクは俺を食べるつもりなのか、ゆっくりと近づいてくる。もうだめだ、そう思ったときだった。
バジリスクの首が勝手に落ちたのだ。
「え?どういうことだ?」
(経験値50ポイント取得。10000ポイントまで残り9950ポイント。)
「本当に何なんだこりゃ?」
こうして俺の無双は始まった。
それから数ヶ月が経ち、分かったことがいくつかある。まず、バジリスクを倒したのはおれが直前に手に入れた謎のスキル鳩魔法Lv 10だ。こいつはどうやらおれに近づいてきた魔物を勝手に殺してくれるらしい。これが便利で仕方ない。
次に経験値なるものだ。魔物を殺したら勝手に頭の中でポイントが加算され、10000ポイントまで残りいくらか数えられる。何のためのポイントか分からねえし、10000貯まったら何があるのか知らねえが、害は無いからどうでもいい。ちなみに現在9972ポイントだ。
さて、そんな最強スキルを手に入れた強運の俺は、ゴブリンどもを解体して手に入れた素材を売るために、冒険者ギルドに来ていた。
「おーい、ゴブリンどもを数十匹くらい倒してきたから素材買い取ってくれー!」
「ひ、1人で倒したんですか⁉︎流石スナサさん、今日も絶好調ですね!」
まあまあの顔の受付嬢が俺を褒め称えてくる。つられて周りにいた連中も騒ぎ出す。
「いやー、俺が本気出しゃこんなもんすよ。」
そうしてゴブリンどもはあっという間に大金へと姿を変えてくれた。こりゃ適当に女捕まえて遊ぶか。
そうして冒険者ギルドを去ろうとした俺の目に、とある人物が映った。
「よお、豚肉、調子どうだ?」
「ひいっ、ス、スナサさん。」
そいつの名前はティム。ぽっちゃりしてて運動音痴だから豚肉って呼んでる。以前森で必死に筋トレしてるところに居合わせ、その様子があまりにも面白くてからかってやったらキレた様子がこれまた面白いのでその後も引き続き馬鹿にしてやっている。ちなみに一応冒険者だが、スライムすら碌に倒せないポンコツだ。
ティムを連れて俺は人目につかない路地裏に移動する。
「おめえ相変わらずデブだな、ええ?ああ、そういやさ、今ちょっとピンチでさ、金くれや。」
「で、でもスナサさん、今さっき素材売ってお金もらってて…」
「あ?るっせえ!豚肉の分際で喋りやがって。いいから黙って金よこせ!」
「ひいい!わ、分かりました。今日はこれしか持ってません。もう勘弁してください!」
「ちっ、こんだけかよ…。んじゃまた今度な、ああそうそう、プシュッ!」
「うっ!」
ティムの横腹を指で突いてやったら反応がこりゃまた面白えのよ。
「プ、ハハハハハ!おめえおもしれえな!」
そうして俺はその場を立ち去った。ティムは俺を睨んでいたが正直怖いどころか滑稽だ。
翌日、俺は再び森に来ていた。さて、今日は何が来るかなー。
そうすると、久々に森で筋トレをやっているティムを見つけた。
「ああっ、豚肉じゃねえか!筋トレとかまじうける、アハハハハハ!」
「……そうかい。それはそうと、魔物は見つかりそうかい?」
「ああん?」
ティムが敬語じゃねえとはどういうつもりだ?まあいい、こんなやつほっといて魔物を探そう。
その時、茂みの奥から久しぶりにバジリスクが現れた。
「おや、バジリスクだね。スナサ、さっさと殺りなよ。」
「は?何だその生意気な態度は?後で覚えてろ。」
そうこうしていると、バジリスクがこちらに近づいてきた。だが俺に近づいた瞬間、口から大量の血を吐いて死亡する。
(経験値50ポイント取得。10000ポイント達成。今までお疲れ様でした。返還を開始します。)
「は?」
その瞬間、体からものすごい量の魔力と力が抜けていくのを感じた。たまらずその場に倒れ込む。
「はあ、ここまで長かったよ。お疲れ、スナサ。」
「な、ティム!これお前の仕業か!俺に何をした!」
「何をしたって、力を返してもらっただけだよ。このスキルはこういないと強くなれなくてね。」
「んだと?どういうことだ!」
「君もしってるだろ、鳩魔法Lv 10。」
ティムは俺が誰にも話していないスキルの名を言った。
「てめえ!てめえもそのスキル持ってたのか!」
「てめえもって。これは元々僕のスキルだよ。」
「何だと⁉︎」
「このスキルはね、一度他人に渡して強くしてもらってから返してもらわないと強くなれないんだ。スキルを手に入れた時にそう頭の中に情報が流れ込んだんだ。助かったよスナサ。おかげで僕は強くなれた。君はせいぜい雑魚の気分をまた味わえ。」
「ざ、ざけんな!豚肉の分際で何ふざけたこと言ってやがる!」
「そうそう、その豚肉って呼び方いい加減やめろよ。あとギャンブルはまだしも夜な夜な女捕まえておもちゃにするのも。昨日だって僕の恋人が、お前に言い寄られたってすっごくこわがってたよ。」
「あの女がお前なんかの彼女だと⁉︎」
「まあね。それじゃ僕はもう行くよ。君と違ってこの力を人助けのために使いたいんでね。さっさと森を出た方がいいよ。今の君じゃゴブリンにも勝てないだろうから。」
そうしてティムは去っていった。ふざけるな、俺が雑魚に戻っただと?そんなこと信じられるか。今に見てろ。超強い魔物倒してまた豚肉って笑ってやる!
そうしてスナサは、やっと動けるようになった体を引きずって、森の奥へ消えていった。
その後、近頃売り出し中だった腕利きの冒険者が見るも無残な死体となって見つかった。有能な人材を失った冒険者ギルドだったが、それ以上に良いこともあった。
ティムという冒険者が急成長を見せ、かつてのスナサを超える活躍を見せていたのだ。ティムは魔物退治だけでなく、孤児院の建設などの慈善事業にも熱心に取り組み、その街で名を知らぬものはいないほどの冒険者となった。
スナサについては、作者の嫌いな人間の特徴を誇張させた感じにしてます。