魔法少女
そうだね、まずはこのお話から始めよう。
文月リナは魔法少女に憧れていた。幼い頃、アニメで見た魔法少女たちの戦う姿とその可愛さに感銘を受け、以来魔法少女になって人を助けたいと思うようになったのだ。
つい先日中学生となり、そんなものは空想の中でしか無理だととっくに理解した彼女が通学路を歩いていたときだった。小学生の女の子とその子の腕を掴んでいる中年の男がいた。女の子は必死に男から逃げようとしている。
「いや、はなして!」
「うっせー!大きな声出すんじゃねえ!」
誘拐だ。周りにいるのは彼らとリナのみ。どうする?警察…いや、今から通報しても遅すぎる。では自分が助けに入るか?いや、残念ながら彼女は大人の男性を相手にできるほど腕っ節が強くはない。最悪自分もまとめてさらわれてしまう。どうすればいい、どうすれば………。
そんなとき、謎の声が彼女の脳内に鳴り響く。
(力が欲しいか?)
訳が分からなかった。だが今は謎の幻聴にかまっている暇はない。
(ああ、もう、そんなのどっちでもいいわよ!それよりも今はあの子を何とかして助けないと!)
(では力をうけとれ。)
(え?)
リナの体が光り輝く。制服と鞄が光の粒となって消え、その代わりと言わんばかりに新たな衣服が顕現する。
胸の部分にあしらわれたピンク色のリボン、フリフリのミニスカート、右手には可愛らしいステッキ。その姿は彼女がアニメで見てきた魔法少女の姿だった。
「え……な、何この姿⁉︎」
(鳩魔法Lv10を取得しました。)
(は、鳩魔法⁉︎それにいきなりLv10って、)
訳が分からなかった。この状況に対して訊きたい点が山ほどある。だが、心が叫んでいる。自分は魔法少女だと。あの子を助けるために戦えと。
「私が、魔法少女?って考えても仕方ないわね。いっけー!鳩魔法Lv10!」
彼女の杖が光り輝く。そして、変化は起こる。
「うおっ、何だこりゃ⁉︎体が勝手に!」
誘拐犯が突如ステップを刻み始めたかと思うとバレリーナの如く舞い踊り始めたのだ。
「何なんだこれ⁉︎たまらねえ!うおっどこ行くんだ⁉︎ああっ駄目だ!そっちには交番が………」
誘拐犯は舞いながら去っていった。
「………!そうだ!ねえ、きみ、大丈夫?怪我はない?もう大丈夫よ、悪い奴はいなくなったから。」
「え、えっと、大丈夫。ねえ、お姉ちゃん。」
「ん?」
「お姉ちゃんは、魔法使いなの?」
「………そうよ!私は魔法少女!悪い奴をやっつけてみんなを助けているの!」
こうしてリナは魔法少女となった。
数週間後
「ねえ、聞いた?また魔法少女が現れたって。」
「知ってる知ってる!今度は車に轢かれそうになってた男の娘を助けたんでしょ?素敵だわ。リナもそう思わない?」
「う、うん、そうだね。」
街では魔法少女の噂を聞かない日は無くなっていた。あの事件の後、リナは自分の力を人助けに使いたいと思い、正体不明の魔法少女として活躍していたのだ。
「それじゃ、私今日用事あるから。」
「うん、また明日、リナ。」
「また明日ー!」
学校を終えたリナは、今日もいつもの道を通って家に向かっていた。その時だった。
「きゃあー!誰か助けてー!」
助けを求める声がする。振り向くと、女性がひったくりらしき男にバッグを奪われようとしている。
「大変だわ!変身!」
リナの体が光り輝き、魔法少女の姿に変わる。
「待ちなさい!悪事はそこまでよ!」
「げげっ、魔法少女だ!」
男が逃げようとする。
「そうはいかないわ。鳩魔法Lv10!」
リナのステッキが光り輝く。すると、男にの元に大量の野良猫が集まってきた。
「うおっ!何だこりゃ⁉︎やめろ!俺は昔から猫は嫌いなんだ!しかし、こいつらを見てると悪いことをしたくなくなってくる。チクショー!お前ら全員俺が飼ってやる!その前にまずは保健所だ、ついてこい!」
「「「ニャーーーーー!」」」
男は大量の猫と共に去っていった。
「ねえ、あなた、怪我はない?」
「は、はい!助けてくれてありがとうございます!」
こうしてまた1人困っている人を助けた魔法少女だったが、どこか不安もあった。
家に帰ったリナは部屋で1人悩んでいた。自分は本当にこのままでいいんだろうか?確かに魔法少女としての生活にはやりがいを感じている。しかし、果たしていつまでうまく行くのだろうか?これまで何度も自分の窮地を救ってくれた鳩魔法Lv10。この魔法は使うたびに違う現象を引き起こす。誘拐犯をバレリーナにしたり、ひったくり犯を愛猫家にしたり、1度なんて芸歴30年の演歌歌手を下ネタ連発のボカロPにしてしまった。この力が今後も上手く働くとは言い切れない。そんなとき、彼女は思いつく。
「………そうだ、その手があった。」
数ヶ月後
「みんなー、準備はいい?」
「「「はーい!」」」
魔法少女姿のリナは河原で保育園児たちとゴミ拾いをしていた。
そもそも困ってる人を助けるのが自分だけだからいけない。みんなが助け合えるようにすればいい。それが彼女の出した答えだった。故にこうして子供たちに進んで良いことをするよう教育していたのだ。一方で、
「ねえ、魔法少女が子供たちとボランティアやってるよ。」
「なんかちょっとシュールだわ。でもあの光景よくない?」
「わかる。魔法少女と子供たちの一生懸命な感じがやばい、尊い。」
「俺、ヤンキー辞めるわ。魔法少女ちゃんに迷惑かけたくない。」
「だな、俺も廊下走るの辞めるわ。」
魔法少女を推す人々が急増し、彼女に迷惑をかけまいと、街で悪いことをする人間が激減したのだが、それはまた別のお話。