第八十四話 気付いて焦がれる
なんとか書き終えたぞー!! という訳で更新です。これでこの章は終わりです。
「セフィーー!! 頑張れぇ!!」
観客席でシズクちゃんが声を張り上げる。いや、シズクちゃんだけでなく、他の部の皆も、僕も揃って眼下で戦うセフィを応援していた。
『乱舞! 乱舞!乱舞!! クラウン選手の二刀による怒涛の乱舞! しかし、ファルシオン選手はこれを見事に避ける! 不滅の戦女神の異名は伊達じゃない!!』
実況によって会場中のボルテージが上がっていく。試合中の選手の集中を乱さぬよう、更に言えば余計な情報やヒントを与えない為に、遮音の加工がなされている実況であるが、観戦する立場からするとこれほど興奮するものもない。ましてやそれが、地区予選とは言え男女混合の部の決勝戦となれば尚更だ。
僕が敗北してから暫くの時が経った。あれから幾つかの試合が行われ、その大半において部の皆は良い結果を手にした。
レイ先輩。女子の部、6位入賞。都市本戦出場決定。
ルナ先輩。女子の部、8位入賞。都市本戦出場決定。
シズクちゃん。男女混合の部準決勝まで進むも、アテナさんとぶつかり敗退。但し、その後の3位決定戦では見事勝利し、3位入賞。都市本戦出場とシード権獲得。
そしてセフィ。
『激戦! ぶつかり合う轟音と破壊! 二刀と拳! その凄まじさは圧巻の一言!! 特にクラウン選手、ルーキーとは思えない大健闘だぁぁ!!』
男女混合の部における決勝進出。最低でも2位入賞は確定で、都市本戦出場とシード権を獲得している。
「いやはや……凄いもんだねぇ」
皆の戦績を思い返していたら、自然と賞賛が零れていた。なにせ僕以外の全員が都市本戦へと歩を進めているのだ。とんでもない成績なのは明らかで、実際に界隈においては結構な衝撃が走っているとのこと。『実績的には無名の筈の区立中学の部がヤバい』など、ネットの魔導戦技マニアの間では話題になっているらしい。
今日の試合もまた彼らの間で語られることになるのだろう。なにせ大会初出場のルーキーが決勝まで登りつめ、多世界最強と呼ばれたアテナさんと激戦を演じているのだから。
「セフィも良くやるよ。あのアテナさんと近接で真っ向からやり合うとか。とんでもないね」
「……事実上の次元大会決勝なんて言われた試合をした奴がほざくじゃない」
僕の呟きを拾ったルナ先輩がジト目で睨んでくる。
いやまあ、確かに僕とアテナさんの試合もかなりの評判にはなってたみたいだけども。
「僕、何だかんだで近接は避けてましたし。僕程度の腕じゃ、あの人の間合いに入ったら防戦一方にしかなりませんよ。実際そうでしたからね」
「どうだか。もうアンタが実は近接の達人でも誰も驚かないわよ?」
「……いやあの、本当にそれはゴメンなさいと言うか」
遠回しにゴーレムクリエイトのことをなじられ、自然とルナ先輩から顔を逸らしてしまう。
だがしかし、逸らした先には同じようにジト目を浮かべたレイ先輩と、苦笑気味のシズクちゃんが。
「こればっかりはなぁ。試合向きじゃないなんて言い訳まで用意して、かたっくなに実力隠してた奴にゃ、何も言う権利はねぇわ」
「あはは……。まあ、うん。ナナもすっごい真剣に謝ってくれたのは知ってるけどね? ただそれでも、やっぱり先輩たちの言いたいことも分かるかなぁ」
「……はい」
非があるのは完全に僕の方なので、二人の言葉には素直に頷いておく。
まあ、その、ね? あの試合の後、得意魔法を隠してた理由など包み隠さず全てを述べて、その上で皆に誠心誠意謝罪をしたのだけど。一応、皆許してはくれたけど、それでも微妙に納得いってないようで、こうしてちょくちょく擦られてしまっているのだ。完全に自業自得なので甘んじて受け入れてるけど。
……あ、念の為言っておくと、僕の恋心やカッコつけ云々のところだけは流石に誤魔化しました。僕としてもこんな形で伝えるのは不本意だし、なにより色々と待たせてしまってるシズクちゃんに悪すぎるからね。その辺りは、もっと然るべきタイミングで告白しようと思ってます。
「でも、もう私たちに隠しごととかは無いんでしょ? 試合や練習ではしっかり本気で戦ってくれるって約束したもんね?」
「うん。……まあ、役職的な関係で戦闘関連の機密というか、色んな意味で試合じゃ使えない魔法とかはあるけど。そういうのを抜きにすれば、もう手抜きはしないよ。全力でやるって誓う」
「うん! それなら私は良いと思うな!」
「……あー、ありがと」
「?」
シズクちゃんに笑顔を向けられ一瞬言葉に詰まった。……あぁー、駄目だこれ。うん、告白しようかなとは思ってるんだけど、そのタイミングを判断するのが難しそうだ。自分の気持ちを自覚しちゃったせいか、普段は大丈夫なんだけど偶にやられるんだよね……。
「……何か最近、アンタおかしくない?」
「やっぱり結構堪えてんのか?」
「ナナ? 何度も言うけど、先輩たちも私もセフィも本当に怒ってはないんだよ?」
……幸いなことに、僕の異変は正しい意味で勘づかれてはいないようだけど。多分、普段のキャラのお陰で僕の今の状態が想像されてないのと、直近で引き気味になってもおかしくないやらかしをしてるからかな。そういう意味では不幸中の幸いだったよ。いや本当に。
「あはは……。頭では分かってるんですけどねぇ……」
取り敢えず、この話題を続けるのは個人的に凄く不味いので、適当に話を合わせながら話題を変えよう。
「ま、その辺りはおいおい。今はセフィの試合です」
「それもそうね」
ルナ先輩たちがあっさり引き下がったことで、心の中でガッツポーズ。いやまあ、実際に僕の心境云々よりセフィの晴れ舞台の方が遥かに重要だしね? そもそもこっちで話ながらも、全員セフィの試合から意識は逸らしてなかったんだけど。
「……因みに訊くけど、実際にファルシオン選手と戦ったアンタら的には、セフィは勝てると思う?」
そんな訳で観戦へと集中したところ、ルナ先輩から僕とシズクちゃんにそんな疑問が投げ掛けられた。
それに対して、僕たちはお互いに顔を見合わせる。尚、その際に浮かべていた表情は同じものだった。
「……いや、まあ……」
「あー……、んー……」
「……その反応はほぼ答えてるようなもんだろ」
「「あはは……」」
レイ先輩のツッコミを受け、僕らは揃って苦笑。いやだって、しょうがないじゃないですか。
「中々に言い難いんですけどね……」
「現状の実力じゃ、セフィでもちょっと厳しいかなぁと」
つまるところ、僕とシズクちゃんの認識ではセフィはアテナさんに勝てないのだ。
確かにセフィの僕たちの中では、セフィの近接戦闘能力は頭1つ抜けている。剣技は高レベル、魔法も近接向き、戦闘スタイルとのシナジーも高い。それでいて元選手にして現機動隊隊員である、風と衝撃波の使い手たるミューの指導を受け、その実力を満遍なく伸ばしている。結論を言えば、都市本戦でも十分に戦えるレベルだというのが皆の共通認識だ。
……ただ、それですら届かないのがアテナさんってだけで。いや本当、あの人おかしいからねマジで。試合じゃ使ってないけど、双剣の腕はまず間違いなくセフィ以上。それでいて徒手空拳の方が得意と言い切り、事実その技量は他の武技よりも数段上。対峙したら分かるんだけど、本当に単純な技量差だけで圧倒してくるからどうしようもないんだよねぇ……。
「多分、今セフィが戦えてるように見えるのは、音魔法による妨害でファルシオン選手のパフォーマンスが多少とは言え下がってるからです」
「あとは観察に意識を回してるからでしょうね。セフィはまた都市本戦で当たるかもしれない相手ですし。できるだけ情報を得ようとしてるのかと」
「ああ、うん。私の時もそんな感じした」
あの人、格下相手でもそういうのは余念が無いからなぁ……。ちゃんと真剣に試合はしてるのだろうけど、それはそれって感じで分析も熱心にやってる感じ。決勝とは言え地区予選だし、ここで万が一負けても都市本戦には上がれるから、今の内にセフィの癖とか呼吸を把握したいんだろう。戦闘と戦略をしっかり分けてるせいで、本当に隙がないんだよね。
「セフィもそれは分かってるっぽいです。あの表情を見る限りだと」
「……ああ、うん。何か苦い顔してるよねぇ」
セフィが浮かべている表情は、決して明るいものではない。むしろかなり険しいもの。実況ではルーキーが多世界最強と互角に戦っていると言われているが、そうでないことは恐らく本人が1番分かっている。セフィだって才能溢れる選手なのだから、彼我の実力差は正確に把握できる筈。
「……なるほど。まあ、セフィも最初から負けるのは覚悟の上って言ってたしね。その上で全力でぶつかりに行くとも」
「次があるのはセフィだって同じだからな。今は自分がどこまで通用するのか知りたいんだろうよ」
先輩2人はそう言って肩を竦める。言葉に宿るのは共感。先輩たちとしても、セフィの気持ちは良く分かるものらしい。高く聳え立つ壁に立ち向かうことの楽しさというのは、本気でやっている選手ならば誰もが通る道なのかもしれない。
「……強敵と戦って、負けて。壁の高さを実感して。それでも悔しさをバネに次こそはと奮起して」
「そうそう! で、頑張って練習して。強くなって。勝って」
「また強敵と戦って、負ける。スポーツなんて大抵がそれの繰り返しよ」
「おう! どうやらナナも分かってきたみてえだな!」
僕の呟きに対して皆が笑う。
そのタイミングでセフィの試合が終わった。
『決着!! 勝者はファルシオン選手!!! 注目のルーキーも大健闘でしたが、惜しくも届かず! やはり多世界最強の壁は厚かった!!』
結果は予想通り、セフィの敗北。届かぬことは分かってはいたけど、やはり少し残念ではある。
──とは言え、
「……うん。やっぱりセフィも皆と同じだ」
その姿を見たら、すぐにそんな気持ちは吹き飛んだ。
悔しそうな表情でありながら、どこか楽しそうな。清々しい表情で立ち上がり、次こそはと挑戦的な笑みを浮かべて握手を交わす姿は。
「良いなぁ……」
僕の中に共感と羨望を芽生えさせる程に眩しいものだった。
という訳で第1部完
無理くり纏めた感じがするのは気の所為。……いやうん、本当は入院2日目のお見舞いシーンも書こうかなとか思ってたんですけど、長くなるかつ書くのがキツいということで没にしました。コーチ+2人のお見舞いとか、そこにアテナさんがバッティングするとか構想は色々あったんですけど。冗長かなと思い大幅カット。結果として一気に地区予選が終わったよ!!




