第八十三話 振り返り、立ち返る
遅くなりました!! ……最近仕事が忙しくて、何かと書けない日々が続いてます。ツラい。
「肋骨3本に肺挫傷ねぇ。また随分と楽しんできた様子で」
「そこそこな怪我人に向けた言葉じゃないよそれ」
苦笑を浮かべるユメ姉さんに対して、僕は小さく溜息を吐いた。
僕たちが今いるのは統括局直営のレストレード中央病院。結果から言うと、あの試合の後に僕は救急搬送されたのだ。
で、診断結果は右肋骨3本の骨折と肺挫傷。中々の怪我ということで、保護者兼上司であるユメ姉さんに連絡が行ったらしく、様子を見に来てくれたのがついさっき。容態を聞いた第一声が今の台詞である。
「普通はもうちょい心配するものじゃないの?」
「命に関わる怪我でもないし、3日後には退院するんだから心配する程じゃないでしょ」
「3日? ……ああ、随分早く治癒魔導士の派遣が決まったみたいだね」
「頑張ったんだよー?」
なるほど。どうりで心配した様子を見せない訳だ。
通常なら快復までかなりの時間を要するであろう怪我でも、希少魔法である治癒魔法を使えば一気に快復までもっていくことができる。それこそ僕みたいな重傷者、肋骨のような中々に治りずらい部位の損傷とかであっても、術者の技量次第であるけど数日から10日ちょいで快復する。……まあ、実際はかなり無理ある回復を行う為、対価として怪我人の魔力や体力がゴリゴリ減っていったり、超速回復の反動で激痛や痒みに襲われたり、そもそも治癒魔導士自体が超希少なので、そう簡単に使えるものではないのだけど。
僕の場合はユメ姉さんのコネや権力、機動隊での立場などがあり、それでいて反動の魔力消費等々にも十分耐えられる身体である為に、かなりあっさり決まったようだ。
「という訳で、顔も見たし私は帰るね。着替えとかはここに置いとくから。動けはするだろうし、何か足らないものがあったら売店で買って」
「はいはい。お手間をかけまして」
「いえいえ。ま、安静にね。幾ら3日で治るとはいえ、怪我は怪我なんだから」
「りょーかい」
そうしてユメ姉さんは去っていった。
入れられた病室がたまたま空き部屋だった為に、部屋にいるのは僕1人となる。会話する相手は当然ながらいないし、会場からそのまま運ばれた為に時間を潰すものもない。いや、デバイスを使えば通話とかはできるけど、ここ病院だし所定のエリア以外での通話はご法度だ。……まあ、そもそもそんな気分でもないのだけど。
「……ふぅ」
今はただ、この静寂の中に身を置いていたいのだ。そして噛み締めたい。あの敗北を。
「……初めてだったな」
勝ちたいと思ったのは、多分僕の人生で初のことだった。勝たなきゃならない状況は幾らでもあった。負けたら死ぬという状況は何度もあった。でも勝ちたい、負けたくないという感情は初めて芽生えた。
「ライバルねぇ……」
アテナさんの言葉がふいにフラッシュバックする。多世界最強のライバル。それも本心からの言葉ときた。どれぐらい名誉なことなのかは、この競技を始めたばかりの僕では推し量れない部分はある。でも、あの途轍もない選手にライバルと認められたことは素直に嬉しい。
だって、僕も内心ではアテナさんのことをそう考えていたのだから。これでも機動隊の一員。ブラストアーツがメインなら兎も角、本気を出した僕と互角以上に戦いうる選手がいるなんて思いもしなかったというのが本音。だからこそ、あの蛇腹剣の乱舞を見た時、密かに僕は彼女のことを真の大敵と認めていた。
「楽しかった……!」
お互いに認めたライバル同士の戦い。今思い出しても心が踊る。実戦のような冷たさもなく、模擬戦のような内容重視の戦いでもなく。全力で競い合い、勝利を奪い合う熱い戦い。あの胸の高鳴りは当分忘れられないだろう。
なるほど。皆が魔導戦技に夢中になる訳だ。あの競い合う心地よさを知ってしまったら、そりゃのめり込むだろう。勝ったら当然嬉しいし、負けたら悔しい。どうしたって次への歩みが止まらない。
僕だってそう。負けた事実を思い出すと叫んでしまいたくなる。でもそれ以上に、次は勝つという闘志が湧き上がってくる。
「……ユメ姉さんには感謝しなきゃ」
学生時代の思い出は一生ものだと、学校に行くことを指示したユメ姉さん。今ならその意味が分かる。世間で言うところの青春というものが。
今日の試合はそれだけ得るものが大きかった。自分の驕りを知れた。恋を知れた。スポーツを知れた。ただの子供が過ごす日々を知れた。その楽しさを知った。
もう止めよう。機動隊としての振る舞いや心意気を、頭の片隅でも意識しておくのは。公私を完全に分け、プライベートでは『ただのナナ』として過ごそう。シズクちゃんやセフィ、部の皆と。クラスメートと。アテナさんのように魔導戦技を通して知り合った人々と。なんてことのない日常をおくりながら、時々魔導戦技で熱くなる。そんな楽しい子供の時間を過ごしてみよう。
──ピピピッ。
「んにゃ? メール……皆からか」
『貴方のお姉さんから数日の間は入院すると聞きました。現在進行形で普通に動けているし、直ぐに退院するので問題無いとも。とは言え、一応入院でもあるので、コーチとして明日お見舞いに向かいたいと思います。問題ありませんか?』
コーチ。
『ナナ! 怪我は大丈夫か!? ユメさんから骨折ったって聞いたんだが!?』
レイ先輩。
『怪我が酷いから入院するとは聞いたけど、3日で退院ってどういうことなのかしらー? 教えてくれると嬉しいわー』
ユーリ先輩。
『……色々と言いたいことはあるけど、取り敢えずナイスファイト。怪我の方は大丈夫? 何かあったら連絡なさい』
ルナ先輩。
『ナナ。試合、お疲れ様でした。ファルシオン選手との試合はとても凄かったです。……それはそれとして、あの魔法についてはちゃんと説明して貰えますから。絶対に逃がしませんので悪しからず』
セフィ。
『ナナ……怪我は大丈夫? 明日、コーチがお見舞いに行くって言ってたんだ。大人数で行くと迷惑になるから、全員で押しかけることはしないとも。……でも、私とセフィは絶対についてくから! 今からコーチとも直談判してくるの! だからねナナ! 明日、ナナのことを全部教えて。怪我のことも、試合のことも! 全部全部! ……最後にこれだけ。試合の時のナナ、凄くカッコよかったよ!』
シズクちゃん。
「……ああ、うん。こりゃ駄目だ」
皆からのメールを見て、思わず天を仰ぐ。
「……ニヤける……」
実感してしまった。機動隊における同僚、戦友とも違うもう一つの仲間の形。ストリートチルドレン時代にあった、アングラな同族意識が根底にあるコミュニティとも違った形。と飴細工のように脆くありながら、仄かに暖かく、そして眩い。僕にとっては新鮮な『子供どうしのコミュニティ』。その心地良さに気付いてしまった。
改めて決意する。ただの子供として生きようと。この大切な友人たちと、1度きりの青春を謳歌しようと。
「……ふふっ。取り敢えず、全員に軽く釈明しながら返信しようか」
──例えそれが、一夜の夢の如く儚いものであったとしても。
一部完結マジかということで、あらすじの伏線というか設定を怒涛に回収していく最近。お陰で中々に話が生まれない。
因みに現在の私の状況ですが、仕事疲れ+ハイライト終了による燃え尽き気味+〆までに持ってくことに悪戦苦闘中+行き詰まって新作書きたくなっちゃう病の再発というどうしようもないもの。スランプって程じゃないけど、筆の進みが遅くれ気味です。
……でもこれを乗り越えるんだ!! だってこれリハビリと信用回復だもん!!!




