第八十一話 VS多世界最強その10
盛大に遅れました。ごめんなさい。今回の話はちょっとキリがあれだったのと文字数が少なかったので、もう一話書いていました。
という訳で今回は二話連続投稿です。
「っ、なァッ……!!」
僅かな浮遊感の後、背中に衝撃が走る。
だがそれは意図したもの。吹き飛ぶ寸前に背後のゴーレムたちに指示を出し、なんとか僕のことを受け止めさせた結果生じたもの。……それでもかなりの数のゴーレムが受け止めきれずに砕けていった。今の一撃がどれ程の威力だったのかが良く分かる。
実際、凄まじいダメージだ。あんな釘打ちみたいな攻撃、よく土壇場で閃いたと思う。ただでさえファルシオン選手の拳は重いのに、杖越しになったことで打撃面積が完全に点になったのだ。その威力は計り知れない。もしあの瞬間地面に足が着いてたら、多分胴体をリアルに貫かれてた。で、そんな事実上の貫通技の後にやってくる魔力による爆発。追い討ちにしても冗談が過ぎる。
被害は甚大。咄嗟の判断が幸をそうし、ゴーレムをクッションにしたお陰でリングアウトはしていない。真横に吹っ飛んだ状態から受け止められたことでダウン判定も取られていない。……だがそれだけだ。ダメージで足は小鹿のように震えているし、脳震盪の判定が出たのか視界もぐわんぐわん揺れている。なにより杖をぶっ刺された右肋骨付近が凄い痛い。というか熱い。
仕事柄の慣れもあってまだ戦えなくはないけど、全て投げ出して楽になりたいと考えるぐらいにはキツい。それぐらいボロボロだ。
……ここが最後の分岐点かな。このままファルシオン選手が戦闘不能、または降参を選んでくれれば助かる。だからそうなる方に賭けたいのだけど……。
「……ッ、……!!」
……やっぱりそうはいかないか。
僕よりも酷い状態でありながら尚、ファルシオン選手はカウントの中でどうにか立ち上がり、ぎこちない動きでリングに戻ってきた。
「……」
何故そこまで戦おうとするのかと、思わない訳じゃない。それぐらいファルシオン選手はボロボロで、追い詰められているのだ。
僕と同じように吹っ飛んだファルシオン選手だけど、僕と違って彼女はそのままリングを飛び越え、壁へと激突した。その時点でリングアウトとダウン。形勢は絶望的なまでに傾いている。またダメージも甚大だ。僕の拳が捉えたのは彼女の顎。その衝撃は脳を完璧に貫いた筈。重度の脳震盪判定が下ったのは明らかで、覚束無い足取りでリングに戻る姿がなによりの証拠だろう。
「……ァ……ッ……!」
呻き声を上げるその姿からは余裕が感じられない。いや、実際無いんだ。さっきのようなダウンカウントギリギリまでの休息もしていない。そんなことをすれば負けると、どうにか闘志で繋いでいる意識の糸が切れると本能的に理解したんだと思う。だから死力を尽くして立ち上がり、意識も虚ろな状態でリングへと戻ってきたんだ。
「大丈夫かい?」
「……ァだ、……やれ…ます……ッ!!」
審判による意識確認。対して返ってきたのは途切れ途切れの、しかし明確な戦闘続行の意思。
ともすればそのまま倒れてしまいそうな程にボロボロなのに。次の瞬間にはセコンドからタオルが投げられそうな程に酷い状態なのに。彼女の虚ろな瞳に確かに宿る戦意が、その未来を否定していた。
「……わ、たしは…………ここ、で、…負ける……訳には、いかないんだ……!!!」
「っ……」
その言葉に思わず息を呑んだ。か細い叫びなのに、僕はどうしようもなく気圧されてしまった。それは僕だけでなく、審判も、両方のセコンドも、観客も、会場にいる全ての人間が、その覚悟に圧倒された。
右脇の痛みを堪えながら、できればこのまま倒れてくれと、諦めてくれと内心で願っていた訳だけど。……この姿を見る限り、彼女は決して諦めないのだろう。
復帰戦にかける想い。勝利への執念。多世界最強としてのプライド。魔導戦技に対する愛。全てひっくるめて『妄執』と呼んで差し支えない意思でもって、ファルシオン選手は立っていた。
「……本当にやるんですか?」
だが現実は非常だ。瀕死ながらもまだ戦える僕と、狂おしい程の戦意でどうにか意識を保っているファルシオン選手。再びぶつかり合った場合、どちらが勝つのかは明白。
ファルシオン選手の気概を見る限り、粘り強くできる限りの抵抗はするだろう。それこそ手負いの獣のように手強い可能性もある。しかし、それでも最終的には恐らく僕が勝つ。それぐらい状態に差があるのだ。
「……当たり、前でしょ……! 最後、まで、…ぜん、力でッ、たた……かうんだ! 」
だとしてもと、彼女は吼える。そんなことは関係ないと切り捨てるその姿は、選手としての理想そのもの。多世界最強の栄冠を手にした、魔導戦技という競技の頂点。
──だからこそ残念でならない。
「……ファルシオン選手。実に素晴らしい試合でした。色々と失礼なことをした僕ですが、それでも貴女と試合ができて良かった」
「……何さ、もう…勝った気で……いるつもり……!?」
僕が示した敬意に、ファルシオン選手は恐ろしい程の闘志で返してきた。……こんなズタボロになって尚これ程の圧を放てるのだから、もう尊敬を通り越して呆れてくる。
「そんなつもりは無いですよ。いや本当に」
「……はっ! あんな、〆の…言葉みたい、なの、吐いてさ……違うとでも……!?」
「ええ。違うんです。……〆の言葉ってのは間違ってないんですが」
確かに今の僕の台詞は、慇懃無礼な勝利宣言に聞こえるだろう。ポイント的にもダメージ的にも、僕の方が圧倒的に有利な状況なのだから。ファルシオン選手からすれば、今の台詞が『必敗』の未来を前にしたパフォーマンスのように感じてしまうのも無理はない。
……だが、実際は違うのだ。
「……こんな形でこの試合を終えるのは、とても残念でならないんですがね」
「……何、が、言いたい…訳?」
僕の言葉に不穏な何かを感じたのか、ファルシオン選手の声音に怪訝の色が混じる。
だがそれを無視して僕は告げた。
「降参です。この勝負、僕の負けです」
自分の敗北を。
という訳で勝敗は着きました。
理由は次回。




