第八十話 VS多世界最強 その9
続きです。今回は筆が乗ったので早め。
裂帛の咆哮と共に迫るファルシオン選手。神速の踏み込みによって横たわる間合いは瞬く間に喰い尽くされ、あと数歩もすれば僕にその拳が届くであろう。それ即ち敗北にほかならない。
だが、敢えて言おう。
「……甘いんだよ!!」
そんなことは想定内だと。魔導戦技における多世界最強。そんな格上の突破力をどうして侮れるというのだ。ゴーレムによる圧殺など叶えば上々、失敗して当然の心持ちで取った手段に決まっている。故にこそ、既に次の手は打ってある!
気合いと共に魔法を発動。行使できる全ての魔力をリングへと叩きつけ、分厚く長大な壁を地面から構築する。
斜めに!
「んな!?」
予想外の手にファルシオン選手が驚愕の声を上げる。
しかし、生み出された岩壁は無常にもそれを無視し、物理法則に則りファルシオン選手の方へと倒れていく。
この期に及んでゴーレムクリエイト? 否! 既にゴーレムたちではファルシオン選手に届かないのは明らか! 故にこそのこの一手。即ち、回避不能なタイミングでの圧倒的な質量攻撃!
長期戦の構えで勝ちを狙う? 格上である多世界最強、それも確実に短期決戦を狙ってくるファルシオン選手を相手に? そんな悠長な対応をしていれば絶対に僕の戦術を突破してくるでしょ! 苛烈には苛烈を。取るべき手段は同じく短期決戦の構え!
「はっ!」
そして更に念には念を。この質量攻撃すら突破してくる可能性を考え、倒れる壁を足場にファルシオン選手の後ろへと跳ぶ。もしファルシオン選手が壁を突破してきても、そこには僕はいない。壁が死角となってそれに気付けない。いるのは後方。即ち彼女が無視したゴーレムたちの後ろ!
──ゴォォン!!!
大質量の倒壊にリングが揺れ、会場全体に轟音が響き渡る。そうして土煙が舞う光景を宙で眺めながら、僕は思う。
一点突破の為にただでさえ少ないスタミナを振り絞ったのに関わらず、待っていたのは予想外の形でのカウンター。それも超高威力なもの。機動隊としての知識と経験から、この質量攻撃でも防護フィールドが突破されることは無いと断言できるけど、それでも危険攻撃の判定が下されかねない威力はある。当然マトモに喰らえば敗北は必至だし、しっかり防御を固めても尚ダメージは免れないだろう。
とは言え、突破口は無くはない。倒れきる前に岩壁を突き破ることさえできれば、ダメージは最小限に抑えられるし、僕の元に到達できる。……まあ、だからこそ僕も跳んだ訳だけど。
突破口を閃めかなければそれで良し。よしんば閃いたとしても、待っているのは再び開いた距離と立ち塞がるゴーレムたち。つまりはふりだし、最初からやり直しな状況。どう転んでも問題は無い訳だ。
この一手によってファルシオン選手のスタミナはもとより、精神的な疲労も甚大になるだろう。これなら如何にファルシオン選手と言えども
「──高みの見物とは余裕じゃんか!!」
「っんな!?」
眼下から聞こえてきた声、そして土煙を裂いて襲ってきた飛来物に思わず声が上がった。
裂かれた土煙の先、リングの上にはズタボロとなったファルシオン選手。そして飛んできたのは蛇腹剣。それが僕を切り裂く、のではなく右足へと巻き付いた!
「しまっ……!?」
攻撃の気配がなかったから油断した! いや、油断してなくても回避できたか!? 狙い打ったかのような拘束目的の一手。つまり完全に読まれてた!
「キミの周到さは嫌って程実感してるからね! どうせこんなこったろうと思ったよ!」
「だからって真正面から受け止めるか普通!?」
ああそうだ。あの攻撃で突破口を作ったのはワザとだ。あの分厚い壁をぶち破るには相応の力が必要。そして突破すればそれだけ真反対に移動してる僕との距離は開く。スタミナを削り、心を削り、勝機を削るのが僕の真の狙い。
短期決戦の構えで向かい打ち、もし倒せればそれで良し。そうでなくとも、苛烈な攻撃によってファルシオン選手の勢いを殺し、更に状況的にふりだしに戻して長期戦にも移行できる一手。そんな一手を打ったのだ!
──それをこの人は読んだ! だから敢えてあの質量攻撃を真正面から耐えて、僕が頭上を通るのをズタボロになりながら待ち構えていたんだ!
「これだから歴戦の戦士って奴は……!」
僕には分かる。ファルシオン選手は、あの一瞬でそこまで判断を理論立ててした訳じゃない。アレは本能だ。本人の天性の才覚と、勝負感、そして戦闘経験がこの一手を手繰り寄せた。理論なんか後付けで最適解をもぎ取ったんだ!同じような歴戦の英雄たちを知っている、それ以上のトンデモを知っている、そして僕もまた同類であるからこそそれが分かる!!
「はああああ!!」
右足に絡み付く蛇腹剣によってリングに、ファルシオン選手の元へと一気に引き寄せられる。その力は強化によって、なにより勝機を逃さぬという不退転の覚悟によって凄まじいものだ。
抵抗は……できる。炸裂魔法を使えばこの力に逆らうことはできる。右足から魔法を放てば蛇腹剣の拘束だって振り解ける。
「っ!」
──だが僕の戦士としての本能が叫んでいる。それをすれば負けると。その一瞬で生まれる隙を彼女は決して見逃さない。僕が新たに炸裂魔法を放つ前に、彼女は宙を跳び僕を仕留めるだろうと。
「なら……!!」
腹を括ろう。取るべき選択肢は1つ。抵抗は駄目。だからと言ってこのままなすがままと言うのはうまくない。だから逆に炸裂魔法で加速してファルシオン選手へと突っ込もう!!
「はっ、そう来たか!」
「そりゃこれっきゃねえもの!!」
僕の覚悟にファルシオン選手が笑う。僕も同じく笑う。お互いの間合いが重なる中で、揃って獰猛な笑みを浮かべる。
ああ、この状況に持ち込まれた時点で僕の読み負けだ。だからこそ、不利を承知で接近戦を仕掛けるしかない。
ここが勝負の分水嶺。とは言え状況は圧倒的にこちらが不利。純粋な格闘戦ではこっちは彼女の遥か下。故にマトモにぶつかれば僕が負ける!
「っ、んな!?」
マトモにぶつかればね!!!
今度はファルシオン選手が驚愕の声を上げた。四肢の動きを阻害する障壁によって!
この試合ではまだ見せて、というか見せる余裕がなかった障壁妨害!! それが運良くこの土壇場で突き刺さった!
脆く、それでいて確かな存在を主張する障壁を打ち破る為に、ファルシオン選手は一瞬を無駄にした。その一瞬は格闘戦、それもこの分水嶺においては致命的!
──この一撃はファルシオン選手の攻撃よりも若干速く、彼女の身体へと届くという確信があった。
「いっけぇええええ!!」
10メートル近い空中からの落下エネルギー+僕の体重+ファルシオン選手の力+炸裂魔法による加速+インパクト時の炸裂魔法。更にはファルシオン選手は攻撃の瞬間故に無防備。最大の隙を突いたこの全霊の一撃、耐えれるものなら耐えてみろ!!!
「っ、負けるかぁああああ!!!」
──だがしかし、それでも尚多世界最強は多世界最強であった。
またしても戦士としての本能か。圧倒的に詰みの状況の中で、またしても彼女は逆転の一手を打ってみせた。
全力の闘争。故に意識が拡張され、全てがスローモーションに変わる中で、僕はソレを見た。
ファルシオン選手の右手。放たれようとしている拳の先で、煌めく魔力の光を。放出された魔力。それはやがて形を帯び、小さな1本の棒、いや杖となった。
──固形化の魔力性質
この土壇場で形成された極めて短い魔力の杖。それは本来なら何も意味を成さないであろう。だが、この一瞬。この瞬間においては、絶大な意味を備えていた。
障壁での妨害によって、ファルシオンの拳は僅かに間に合わない。それよりも先に、僕の全霊の一撃が突き刺さる。
だからこそ、この小さな杖はその『僅かな差』を埋めるのだ。
「はぁあああッ!!!」
「らぁあああッ!!!」
互いに裂帛の気合いを放ちながら、全てを載せた拳を放つ。
そして、
「ガァッ!?!」
「ぐがッあ!!!?」
僕の拳がファルシオン選手の顎を捉える。魔力で形成された杖ごしに、彼女の拳が僕の胴体へと突き刺さる。
そして衝撃。拳に込められた炸裂魔法が。事実上の魔力弾である杖が。それぞれが決着の一撃に相応しい破壊力を解放したのだ。
吹き飛ばされ、薄れる意識の中で見た。僕と同じように吹き飛ぶ姿を。
ダブルノックアウト。そんな言葉が頭を過ぎった。
さあ、共に吹っ飛んだ両者! はたして勝敗は!?




