表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/87

第七十七話 VS多世界最強 観戦トーク

遅れましたー! ごめんなさい。

今回はシズク視点です。

「「「……」」」


沈黙が支配していた。私も、魔導戦技部の皆も、一緒に観戦していたラクシアの方々も。ナナとファルシオン選手の試合を前にして、誰もが言葉を失っている。

それほどまでに、目の前で行われている試合はレベルが違うのだ。……いや、そもそも最初からおかしかった。

最初の方はナナが防戦一方だった。試合の立ち上がりとしては実に宜しくない流れ。ファルシオン選手と実際に対戦した経験のあるラピスさんが『アテナの奴、珍しく最初から攻めておるの』と零すぐらい、彼女の攻撃は激しかった。

更に流れは悪い方向に向かった。ファルシオン選手の攻撃が更に苛烈になっていったんだ。まるで『敵』を打ち倒すような容赦のなさ。距離もあったし、なにより激しく動いていたから、どんな成行きでそうなったのかは分からないけど、ファルシオン選手の迫力には鬼気迫るものがあった。

でも、それはナナが突然笑い出してから一変した。近接スタイルを投げ捨て、凄まじい練度の魔法を使い出したナナ。かと思えば、先程までの苛烈が失われた中弛みのような格闘戦が始まり。

そして最後には、お互いに獰猛な笑みを浮かべてぶつかり合った。ファルシオン選手はこれまで以上に苛烈な格闘術で。ナナは何体もの岩石の兵士を操って!


「……凄まじいの」


絞り出すようなラピスさんの言葉。それはこの場にいる私たちの総意だ。数多のゴーレムを粉砕していくファルシオン選手も、破壊されても尚ゴーレムを生み出し続けるナナも。何方も規格外。こんな試合、アマチュアどころかプロであってもお目にかかれない。


「アテナは兎も角、ナナもあれ程か。素質とスタイルがチグハグだと思っておったが、こうもガッツリ隠しておったとはのー」


そう言いながら、ラピスさんはチラリと私たちの方を見た。その意味を察して、全員が首を横にふる。


「私たちも初めてみました」

「はい! ナナがゴーレムマジックを使えるなんてビックリです!」

「まさかあんな魔法を使えるなんて、って気分ですよ」

「あの戦い方も知らなかったな。いや、強いってことは知ってたが……」


そう。私たちの誰もがナナの本来のスタイル、それどころか得意魔法すら知らなかった。魔力性質だとか、機動隊に相応しい実力の持ち主だとか、本来のスタイルが中・遠距離型ということなど練習の時に聞いてたけど、結局ナナの戦闘力に関する核心部分は有耶無耶になっていた。

だからこそ、私たち全員が驚いているのだ。あまりにも予想外のナナの魔法に。あまりにも常識からかけ離れた戦い方に。


「ピグマ。同じ魔法の使い手として、ナナのことはどう思う?」


次にラピスさんが話し掛けたのは、同じくラクシアの魔導戦技部に所属しているピグマさんだった。

彼女はこの場にいるメンバー、私たちとラクシアの両方を合わせて、ある意味で最もナナのことを理解できるであろう『もう1人のゴーレムマジシャン』。だからこそ、ラピスさんもピグマさんに意見を求めたのだろう。

でも、


「……違います。あんなの私の知ってるゴーレムマジックじゃありません」


返ってきたのはそんな戦慄混じりの言葉だった。

別物と断じるピグマさんに、ラピスさんも首を傾げる。


「ふむ。どういうことかの? ゴーレムマジックに種類などあるのか?」

「そんな問題じゃないんです! 有り得ないんですよ! あんな風に延々とゴーレムを生み出すことも! 生成に掛かる速度も! ゴーレムそのもの完成度も! 何もかもが滅茶苦茶なんです!!」

「お、おう!?」


突然の叫びにラピスさんが面食らう。あの大人しいピグマさんが、こんな風に叫ぶなど予想外だったんだろう。でも、それぐらいピグマさんにとってもナナのやってることは衝撃的なことだったんだ。


「良いですか!? ゴーレムっていうのはトンデモ無く造るのが大変なんです! やってることはロボット制作と殆ど変わんないですよ!? どういう風に動くかとかを魔法領域でしっかり、それこそ本当にプログラムを作るように組み立てなきゃならないんです! だから1体造るのにも魔法領域に凄い負荷が掛かりますし、造れたとしてもマトモに動かないことだってザラなんです!」

「そ、そうなのか? その割にはピグマも普通に試合で使っておろう?」

「あれは! 寝る間も惜しんで試行錯誤して、漸く完成したテンプレートを使ってるんです! 少しでも魔法領域に掛かる負荷を減らす為に、私自身が乗り込んで直接操作する形にしたりとか、色んな工夫を組み込んでいるんですよ! それでやっと実戦レベルになったんです! それまでどれだけ失敗したと思ってるんですか!?」

「そ、そうか。それは悪いことを言ったの……」


ピグマさんの剣幕に、先輩である筈のラピスさんもたじたじとなる。ピグマさんにとっては、あのゴーレムマジックはそれ程大事な、文字通りの意味で努力と苦労の結晶だったみたい。


「それでもですよ!? テンプレートを使っても尚、魔法領域に掛かる負荷は大きいんです! 一体造るのだってかなりの時間が掛かるんです! 試合中となれば尚更!」


その言葉で、ピグマさんとの練習試合を思い出した。

確かにあの時、ゴーレムを造り出すまでピグマさんは回避一辺倒だった。ゴーレムマジックの術式を処理し、発動するまでの時間稼ぎということは分かっていたけど、あれは最初から用意していた術式を使ってたんだ……。てっきり全部その場で組んでたのかと思ってた。だからあれだけ時間が掛かっていたのかと。

そこまで言われれば、ピグマさんがここまで興奮する理由も見えてきた。それと同時に、ナナがやっていることのトンデモなさも……。


「私のゴーレムは自律制御に掛かるプログラムを殆ど削っています。そこが一番情報量が多いところですから。それでも尚発動まで時間が掛かりますし、負荷のせいでゼロから造るのは1体が精一杯です。……だからこそ有り得ないんですよ! 同じ魔法を使う私だから分かります! 彼の魔法は次元が違い過ぎる!」


リングの上では、ナナの生み出すゴーレムたちがファルシオン選手を取り囲んでいた。1体1体の強さはそこまで高くないようだけど、その動きはとても滑らか。それでいてしっかりとした連携を、『数の力』をもってして、戦闘力では遥か上のファルシオン選手と渡り合っていた。


「あそこまで高度な自律制御が組み込まれたゴーレムを造るのに、1体どれ程の魔法領域が必要だと!? 並の魔導師では専門のデバイスを用意して、然るべき準備を整えて漸く生み出せるような代物ですよアレは! それをあんな生成速度で、あんな延々と生み出してるんです! 幾らテンプレートを用意してても、あんなことやったら文字通りの意味で脳が焼き切れる! 一体何者なんですか彼は!?」


機動隊の嘱託魔導師です。……って言えたら、話は早いんだけど。流石にナナのプライベートな部分だし、勝手に話すのは憚られるかな。まあ、本人はそんな必死で隠してる訳ではないっぽいけど。

そんな訳で、裏事情というか、ナナの肩書きを知ってる私たちと、ラクシアの方たちで大きく反応が別れたのだった。

私たちはナナのスタイルには大変驚きはしたけれど、それと同時に納得もしていた。ナナが機動隊という多世界の英雄たちが集う組織の一員である、その理由の一端を理解したから。それだけ卓越した魔法能力があるからこそ、子供ながらに英雄たちと肩を並べることができているのだと、そう実感できたのだ。……まあ私の場合、機動隊と交流の深いパパから『ナナが10代最強の一角』という証言を受けていた訳だし、ナナがケタ違いに強いものだと最初から思っていたのだけど。勿論、恋愛感情からくる贔屓目というものも多分に存在していたけど。

逆にそういう情報がないラクシアの方たちは、ナナの実力がただただ理解できない様子。ピグマさんの説明によって、皆さんのナナを見る目に若干の畏怖というか、控えめに言って化け物の類を見る目になっている気がする。唯一ラピスさんだけが思案顔になっているけれど、それでもナナの見せた実力のインパクトが大きいのは明らかだった。

いやまあ、ナナのやっていることは確かに化け物染みているのだけど。私の感情とか、立場とかを諸々を抜きにすれば、今目の前で起きている光景を『異常』と断じていただろうから。

『試合』という意味ではそれだけかけ離れているのだ。私たち魔導戦技選手にとって、試合とは基本的に1VS1で行われるもの。戦闘距離の違いこそあれど、この原則は変わることはない。しかし、ナナのそれは広義的に見れば1VS1であっても、実際のそれは複数 VS 1 という光景にしか見えない。破壊されることすら想定された高度な連携によって完成する『数の暴力』。その恐ろしさは私たちの想像を遥かに超えていた。

『試合』ではなく『狩り』。囮を使って隙を伺う。その身を犠牲に隙を生み出す。絶え間ない攻撃によって消耗させる。常に死角に立つことで神経を削る。それは獣のが行う猛々しいものではなく、蟻のような無機質な冷たさをもったもの。冷徹でいて残酷。それがナナの戦い方。

だからこそ、


「マジかよ!? アイツやりやがった!!」

「嘘!? あのファルシオン選手が倒れた!?」

「これがナナの本気ですか……!!」


獲物となったファルシオン選手が追い詰められるのは、また必然なのかもしれない。



──とは言え、これはまだ始まり。多世界最強の戦女神に膝を着かせた偉業故に、私たちは声を上げ、会場全体もどよめきに包まれる。



しかし、それと同時に私たちはなんとなく察していた。ファルシオン選手のダウンの意味を。


「……ふむ。もしかしたらこの試合で初めて、あの【タタラ】の本領が見れるかもしれんの」


試合はまだ終わらない。

という訳で、シズク視点という名の事実上のピグマちゃんによる説明会でした。

因みに、2人のゴーレムマジックを超ザックリ比べると


ピグマ:自宅のデスクトップと子供のお小遣いを貯めて買えるぐらいの個人用3Dプリンター。


ナナ:最新スパコンと業務用3Dプリンター(複数)


ぐらい違います。そりゃ絶叫するよねという。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ