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第七十六話 VS多世界最強 その5

遅くなりました。

1つ報告が。作中における試合経過ですが、その3の時点で第2R終了。その4から第3Rに入ったという風に改稿しました。

理由は1Rでするには会話が長くなり過ぎた感じがしたからです。なので会話を第2、第3で分けました。……まあそれでも長いのですがね。

「待って待って! 急に何!?」


僕の突然の告白に、ファルシオン選手が狼狽える。まあ、当然の反応かな。実際に脈絡は無いからねぇ。


「変なこと言ってすみません。でも、それが全てなんですよ」

「だから何が!?」

「男の意地なんです」

「へ?」


答えは酷くシンプルに。そのせいかファルシオン選手はポカンとした反応だが、僕としてはこれ以上に的確な言葉が見当たらなかった。なにせこれは馬鹿馬鹿しいぐらい単純な動機で、100の理屈よりも尚雄弁なある種の本能なのだから。


「いやね、僕はあの子が好きなんですよ。いまさっき気付いたんですけど、無意識でも声を拾ってしまうぐらいにはぞっこんだったみたいで」


最初は可愛らしい子だなぁ程度の感情だった。好意を向けられた時は確かに嬉しかったけど、それ以上に苦笑的な感情の方が大きかった。それがいつの間にか、ずっとあの子に求められることが当たり前になっていて。



──隣で必死に頑張ってる姿が愛おしく思えて。



「さっき吹っ飛ばされた時、実は諦め気味だったんですよねぇ。応援してくれる皆のことは目に入ってましたけど、それでも『もう良いんじゃないかなぁ』って。あの時は散々痛いところ突かれてて、勝つ気とか完全に無くなってましたし」

「だろうね。今思い出しても腹立つもの」

「あはは。すいません」


笑って誤魔化したらジト目で睨まれてしまった。まあ、それで済んでる時点でさっきよりはマシになっているのだけども。心変わりをしてることが伝わってるお陰だろう。


「それなのに無意識にあの子の声を拾って、ギリギリのところで踏ん張ってて。最初は我ながら何かと思ったんですよ」


勝つ気がないのに負けないように動いた。最初はそれが心底不思議だったけど、その発端がシズクちゃんの声援だと気付いてからは一瞬だった。

あの時の僕は、あの子の声援に応えていた。無意識の領域で応えてしまっていた。だって自覚してなかっただけで、既に僕はあの子のことが大好きだったから。


「気付いたらとてもシンプルな理由でした。好きな子に『負けるな』って言われたから。あの時踏ん張った理由はそれだけです」

「はぁ!? そんな理由で!?」

「そんな理由なんですよねぇ」


理解ができないと絶句するファルシオン選手に、僕もあははと苦笑を返す。

いや、うん。実にくだらない理由だとは僕も思うよ。でもそれで身体が動いてしまったのだ。だって僕は、度し難い程の意地っ張りなのだから。


「好きな子の前で無様なところは見せられない。そんなシンプルな男の意地が、僕を心変わりさせた」


プライドのあまり無自覚で意地になって近接に絞っていた程なのだ。そんな馬鹿な男が、好きな子が見ている前でボッコボコにされることを良しとするか? ましてや全力を出した末の結果なら兎も角、手を抜いた上で足掻くことすらしていない。それを許容できるか?



──答えは否だ。この恋心に気付いてしまった以上、そんなカッコ悪いこと許せる訳がない。ちっぽけなプライドの産物、近接縛りなんて一瞬で放り投げた。それ以上にあの子の前でカッコつけることが遥かに重要なのだから!



「馬鹿馬鹿しい……。そんな理由で心変わりとか」

「男は基本的に馬鹿なんですよ」

「ああ、だろうね! 世の男性全てとは言わないけど、キミに関しては大馬鹿者だ!」


吐き捨てるようにファルシオン選手は言った。だが、言葉に込められているのは怒りというより呆れの色。


「……ああもう! 何を言い訳するかと思えば予想外過ぎる! 馬鹿馬鹿し過ぎて変に怒るのも阿呆らしくなってきたよ……」

「それはありがとうございます?」

「褒めてないし、さっきまでのキミの態度は許してないよ! 単に呆れてるだけ!」


試合中にも関わらず、頭が痛いとこめかみを抑えるファルシオン選手。


「大体さ、今更カッコつけるとか遅いでしょ……。私の見立てじゃ、ストライム選手は大の魔導戦技好きじゃん。今はどうあれ、自分の好きなスポーツであんなふざけた態度を取ってるような人、私だったら願い下げだよ?」

「そこは否定しませんが。ぶっちゃけると向こうの好き好きアピールに僕が絆された感じなので、全力で謝れば多分大丈夫かと」

「うわ腹立つ!! 惚れた弱味にめっちゃ付け込んでるじゃん!?」

「あははー」


それを言われると弱いなぁ。ただ僕だってシズクちゃんに嫌われたくないし、こういうのはダメージが少ないうちにさっさと方をつけるべきだし。惚れた弱味があるなら全力で付け込むぐらいはね?


「それに悪印象を持たれるって分かってるからこそ、全力でやって心変わりをアピールしないとじゃないですか」

「いや言ってる理屈は分かるけどさぁ……! 何だろうねこのモヤモヤ!? こっちが本気で怒ってもウジウジしたままだってのに、切り替える時は蚊帳の外だったこの感じ!」

「そこは本当にすみませんとしか……」


その点に関してはマジで申し訳なく思っているので、誠心誠意謝罪をしておく。

するとファルシオン選手は大きなため息を吐いた。


「はぁぁぁぁ……。もう良いよ。分かった。キミの心境の変化は理解したよ!」

「ありがとうございます」

「あのね? 念押しするけど、許した訳じゃないからね? キミのことは今でも選手とは認めていない! だから敬意だって払わない!」


キッパリと断言される。……まあ、そうなるかなとは思っていた。許されないことをしたのは事実だし、こんな馬鹿みたいな理由で納得して貰えるとは僕だって考えていない。本心を話したのは僕なりの誠意と償いなのだから。

しかし、ファルシオン選手の言葉はそれで終わらなかった。


「……でも、1人の女としてその心意気だけは認めてあげる。変な言い訳をされるよりは納得できるし、よっぽどマシだ」

「それは……」

「でもだからこそ! そこまで言ったんだから、全力でカッコつけてみなさい! 不甲斐ない試合にしたら、今度こそキミを本気で軽蔑する!」


ビシリと僕に指を突き付け、ファルシオン選手はこれが最後のチャンスだと宣言する。

……優しい人だ。まさかこんな最後通告をくれるなんて。チャンスなんて与えられずに『あ、そう』ぐらいで切り捨てられると思っていたし、これは本当に望外の幸運というものだろう。


「ありがとうございます」


なればこそ、ファルシオン選手の優しさには応えなければならない。誠意には誠意をもって、僕の全力を捧げよう。

感謝の言葉と共に、上限いっぱいの魔力を地面に流す。


「ここからは正真正銘の本気です」


何度も流す。何度も、何度も。その度に地面が爆ぜ、岩石が起き上がる。


「岩石操作……いや違う!?」


ソイツらを見て、ファルシオン選手が声を上げる。ああ、そうだ。僕のメインの魔法は岩石操作などでは無い。こんなものはただの素材調達(・・・・)の延長でしかない。



──リングの上に現れたのは、成人サイズの10体の岩人形。



「【ゴーレムクリエイト】!! それがキミの本当に魔法か!!」

「そういうことです!」


僕の本来のスタイルは、遠隔からゴーレムを操作し、物量によって戦場を支援する【広域制圧型】だ!


「正直なところ、正面からの戦いだと僕はファルシオン選手よりも遥かに弱いですよ。……でもそれはあくまで魔導戦技。一対一の戦いでのこと」


ここから先はこれまでの魔導戦技とは違う。ここから先は僕が得意とする戦場だ。


「多対一なら僕の領分です。舐めて掛かると痛い目みますよ?」

「……ハハハッ!! 上等!!! 最高に厄介そうじゃないの!」


その表情は僕が初めて見るものだった。これまで浮かべていた不機嫌そうな顔でも無い。試合の時に見せる真剣ながら楽しそうな顔でも無い。

そこにあるのは不敵な笑みだ。僕が選手として認められていないから。多対一という普通の試合とはかけ離れた状況になっているから。なによりファルシオン選手が達人という人種、戦う為に技を磨き、戦いを愉しむ気質を備えていたから。そんな諸々の理由が合わさって、彼女の選手ではない戦士としての本能が剥き出しとなったのだろう。

今更、僕にはファルシオン選手が望んでいた最高の試合を演じることはできない。だがその代わり、僕には最高の戦いを用意することができる!

より甘美な勝利の美酒を呷る為の試練を! より自分を魅せる為の舞台を! 今ここに!!


「掛かって来なさい恋愛脳。叩きのめして上げるから」

「できるものならどうぞ。多世界最強」

遂に解禁。ナナ君の魔法。つおいよ。

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