第七十四話 VS多世界最強 その3
おそくなりましたぁ!! ゴメンなさい!!
……仕事:( ;´ཫ`;):
ちょっと編集します。次回以降も第2R継続→この話で第2R終了。という感じに文章改変しました。
「……随分と嫌われたわね」
「……そうですね」
ベンチに腰を降ろした僕は、コーチの言葉に静かに同意した。
現在はインターバルだ。防戦一方という言葉が生易しいぐらいに苦戦した訳だけど、どうにかこうにか第1Rは凌ぎきることができ、一時の休息を得ている。
……しかし、どうしても僕の心が休まることはなかった。
──そんなことは絶対に許さない!!
ファルシオン選手の言葉が、胸に突き刺さって外れないせいだ。
あの叫びは中々に堪えた。流石に観客席まで聞こえてはいないだろうが、セコンドには届くぐらいの声量、いや気持ちがこもっていたのだ。ああも真っ向からぶつけれてしまったら、後ろめたさも合わさって心がザワつく。
「……それでどうするの? 個人的には彼女の意見を尊重するべきだと思うけど」
「……どうしましょうね」
今更ではあるけれど、僕の心は揺れていた。……分かってはいたのだ。僕の態度は真剣にやっている人たちからすれば、到底許せないものであると。重大な理由も拘りもなく、薄っぺらい苦手克服というお題目の為だけに、『できない』ではなく『やらない』。それがどんなに罪なことなのかは、ちゃんと理解はしていた。
「はぁ……」
だが理解はしていても、実感はしていなかった。本気でやっている人の言葉は、怒りはこうも重いものであることを知らなかった。スポーツとは、いや、こうした勝負事とは縁のない人生を送ってきたが故に、僕はそうした『熱量』を理解できていなかったようだ。……負けないように戦ってきた僕には、勝つ為に戦う人の気持ちを理解するなど、土台無理な話だったのかもしれない。
今にして思えば、『強くなりたい』や『苦手な近接をどうにかしたい』など、訓練でやればことたりるこもを、わざわざ魔導戦技に持ち込み、あまつさえ続けたのだから、無神経にも程がある。
切っ掛けはどうあれ、僕は切り替えるべきだったのだろう。タイミングだって幾らでもあったのだ。その時にブラストアーツなんて放り出せば良かったんだ。それなのにこうもズルズルと引きづり、
「本当にどうしようかな……」
今も尚その選択をできずにいるのだから、あまりにも救いようがない。
いや、分かってはいるんだ。態度を改めるべきは僕の方だし、今からでも本気で戦うのがファルシオン選手に対するせめてもの贖罪だ。例え許されることはなくとも、真面目に向き合うのが誠意であるということはよく分かっている。
しかし、それと同時にこうも思うのだ。ここまでやらかしておいて、今更真面目に戦っていいものかと。真面目に、本来のスタイルで戦うことが嫌な訳ではない。ただファルシオン選手の言う通り、僕の本気は彼女と互角に戦えうるものだ。それはつまり勝つ可能性が僅かと言えども存在するということであり、今の状況でそんなもしもを引き起こしてしまうと考えると、どうしても躊躇してしまうのである。なにせ僕には、もはや勝者となる資格は無いのだから。かといって、誠意を見せる為に本来のスタイルに戻しつつ、勝つ可能性をゼロにする為に手を抜くのは本末転倒、火に油だ。なればこそ、失望されたままだとしてもブラストアーツを貫き通した方がマシなのではないか。どうしてもそういう思考が生まれてしまうのだ。
……駄目だなぁ。思考が堂々巡りで纏まらない。支離滅裂な考えがどんどん湧き上がってくる。どう決断しようにも、どうしても心の何処かで引っ掛かる。
──両選手、リングに戻ってください。
結局、どうするか決められぬままインターバルが終わってしまった。
そうして始まる第2R。未だ険しい表情のファルシオン選手と向かい合う。
「一応訊くけど、インターバルをおいて心変わりは?」
「……」
「……そう。分かった」
ファルシオン選手からの問い掛け、恐らく最後のチャンスであったけど、頭の中がこんがらがっている僕には答えることができなかった。
故に彼女は、小さく溜め息を吐き
「──消えて」
恐ろしく冷たい瞳で突撃してきた。
「くっ……!?」
斧のように力強い足払い。
「グッ……!?」
顎を正確に狙った鞭のようなフリッカージャブ。
「うぐッ……」
防御しても尚重たい衝撃が全身を貫く、破城槌の如き正拳突き。
緩急自在、千変万化の怒涛のラッシュ。ただ『敵』を倒す為に振るわれる、純粋なまでの戦技の数々は、着々と僕を追い詰める。
これは最早作業だ。ファルシオン選手が魔導戦技に掛ける、燃えるような熱量は皆無。ただ淡々と、気合いの声すらなく繰り出されていく。
「ふぅん。動きがぎこちなくなってる。疲労? ダメージ? ……それとも悩んでるの?」
「っ……!」
激しい攻防だ。そんな中で疑問なんか投げかけられても、答える余裕などある訳がない。逆に言うと、それができるぐらいに彼女には余裕があり、近接戦において圧倒的なまでの実力差があるということ。
そして余裕はあらゆるパフォーマンスを上昇させる。事実として、余裕によって加速した思考能力と、ファルシオン選手が持つ天性の洞察力が合わさり、彼女は僕の内面すら見事に看破してみせた。
「……馬鹿みたい。悩むんだったら最初からしなければ良いのに。ただ真っ向から怒鳴られただけで揺れ動くってことは、頑なに本来のスタイルに戻さないことに大した理由もないんだよね? ただ意地を張ってるだけなんだよね?」
「っ、まさか……!」
「へえ? 余裕だね。返事できるんだ」
「ぐぁっ……!?」
なんとか絞り出そうとした言葉は、更に苛烈となった攻撃によって叩き潰された。
凄まじい威力の籠った蹴撃を受けて大きく吹っ飛ぶ。ギリギリで防御できた為に、どうにか上手く着地できた。水平方向に飛んだお陰でダウン判定も取られてない。
これだけなら幸運と言えるだろうけど。
「改心してくれる可能性に掛けて、第1Rはちょっとだけ加減をしてたんだけど。もう本当に容赦しないから。多重掛けも倍率操作もガンガン使ってくよ」
「……やっぱり使えますか」
追加された報告を加味すると明らかにマイナスだ。
これまでファルシオン選手の攻撃をなんとか凌げてたのは、偏に掛けてる強化魔法の差、身体能力の違いという部分が大きい。僕の方が身体能力面では大きく圧倒していたからこそ、なんとか1Rを持ち堪えることができた。逆に言えばそっち方面で圧倒していて尚、僕は一方的に追い詰められているということであり。
「じゃあバイバイ」
「速っ……!?」
そこで差が無くなるとなれば、それはもう一方的な展開となる。
──そこから先は殆ど反応できなかった。
ただでさえファルシオン選手の動きは読みづらい。古流武術や近代格闘術が入り乱れ、更に緩急自在、剛柔一体の領域にまで研ぎ澄まされた技量。そこにルール上で許されるギリギリのレベルの身体能力が加わったのだ。
当然、僕には何もできなかった。マトモな回避すら許されず、一方的に打ちのめされた。未だに僕が立っていられるのは、倍率操作で強化の全てを耐久性に振った上で、これまでの経験を総動員してギリギリ致命傷を避けているからだ。
「……本当に勿体ない。キミがちゃんとした選手だったら、最高の試合になったのに」
「……く……は……」
ファルシオン選手が嘆く。そのタイミングで攻撃が止まり、漸く僕も息を吐き出すことができた。
……全力防御だ。亀みたいに縮こまって、呼吸を絞って肉体を締めて、それでギリギリ。訓練で精神ダメージには慣れてるお陰で意識自体はクリアだけど、肉体の方はもう殆ど動かない。それぐらいダメージが蓄積されている。
「……は……は……」
言葉を紡ぐ余裕もない。口から漏れるのは吐息と対して変わらない言葉の出来損ない。
……あらゆる状況が告げている。もう無理だと。ただでさえ試合に対する意欲は萎み、身体はボロボロ。それでいて当初の目的、『最低限観れる試合にする』というのは達成されている。幾ら防戦一方とは言えど、多世界最強を相手に1R保ったのだから、内容として十分だろう。
ならば、もう良いんじゃないかと。そんな思考が鎌首をもたげてくる。彼女に失望されたままではあるけれど、元々が魔導戦技においての雲上人。関わることなど滅多にないであろうし、それなら気にする必要はあまりない。せいぜい後味が悪いぐらいだ。
だからもうい
「あーあ、キミを応援している人達が可哀想でならないよ。あの子たち、あんなに頑張って声出してるのに」
「……え?」
切れかけた糸がかろうじて耐えた。そして反射的にファルシオン選手の視線の先を目で追った。
僕から見て右斜め上。コートを見下ろす形で設置されている観客席の一点。そこにいるのは見知った顔だ。
距離はある。他の観客の出す歓声やざわめきだってある。だから聞こえる訳がない。それでも感じた。
『オラ! 気張れナナ!』
レイ先輩。
『諦めるんじゃないわよ!』
ルナ先輩。
『ナナ、頑張ってください!!』
セフィ。
そして
「余所見。容赦しないって言ったよね?」
「しまっ──!?」
僅かに逸れた意識。それをファルシオン選手は見逃さなかった。……もしかしたら、彼女が僕のことを『選手』だと認識していてくれたのなら、自業自得とは言えこんな不意打ちのような攻撃はしなかったのかもしれない。後の祭りではあるけれども。
放たれるはボディ狙いの右ストレート。マトモな防御も回避も不可能。致命傷は避けられない。悪足掻きとして身体を締めるが、これまでの威力を考えるとまず間違いなく耐えられない。
「ガァッ……!?」
腹に感じる重み。そこから遅れてやってくる全身を貫くような衝撃。そしてもうスピードで流れる景色。……駄、目…だ……
『負けるなナナー!!!』
──その時、確かにあの子の声が聞こえた気がした。
「ッ、ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」
気付いた時には、リングの際で立ち尽くしていた。
目の前にあるのは2本の線。どうやら一瞬意識が飛んだ状態、無意識の内に踏ん張ってリングアウトを耐えていたらしい。全くもって驚きだ。
「アレを耐えるの……!?」
ファルシオン選手も久しぶりに感情を動かし、驚愕で声を上げていた。完璧に決まったと思ったのだろう。事実、それに足る程の威力の籠った一撃だった。……というか僕が1番驚いてる。
「何で!? 何で……!? 勝つ気なんて無い癖に、どうしてキミは倒れないの!?」
「そんなの……」
意味が分からないと叫ぶファルシオン選手。だが僕だって分からない。そう言おうとして、ふと言葉に詰まった。
あの瞬間、聞こえたのはシズクちゃんの叫びだ。幻聴ということはない。だって確かに聞こえた。何でか聞こえたかは分からないけど、確かに聞いた。『負けるな』というあの子の声援を。
「……力を貰った? 応援で?」
頭に過ぎったのはそんな考え。だが直ぐに否定する。そんなフィクションみたいなことはないだろう。だって僕はそんな純粋じゃない。そもそも勝つ気だってなかった。勝とうと思っていないのに、声援で気力が湧き上がる訳がない。
じゃあ何だ? 何が原因だ? 何で僕は負けることを拒んだ?
「………………ああ。そっか」
そして気付いた。気付いてしまった。身体に溜め込まれたダメージが余計な思考を打ち消したことで、僕の本能というべき部分が露出した。その上で今のできごとだ。
否が応でも理解した。今の僕の行動も。これまでの僕の行動も!
「はは……ハハハ!! アハハハハハハハ!!!」
そしたら自然と笑いが漏れた。急に笑いだした僕に、ファルシオン選手が目を丸くしている。でも、そんなことが気にならないぐらい笑いが止まらない。あまりにも馬鹿らしくて笑ってしまう。
「……はぁっ。色々すいませんね、ファルシオン選手。どうやら僕は、自分が思ってた以上に意地っ張りで、度し難かったみたいです」
そして、第2Rが終わった。
漸くこれで真ん中ぐらい。んー、長い。本当ならこの話でバトルの流れが変わる予定だったんですがねぇ。長くなってハイライトの部分が切れてしまった。
という訳で、次回ついにナナ君が覚醒。あと何でこれまで覚醒しなかったのかとか、耐えた理由も判明します。尚、本人の言う通りかなり度し難い模様。
……ところで皆さん。最近僕のところに泥棒がやってきましてね? 時間やお金をどんどん奪っていくんですよ。
……泥棒の名前はサマナ○ズウォーって言うんですけど。




