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第七十二話 VS多世界最強 その1

遅れました。


休みがない……( ´ཫ` )


「よろしくお願いします。良い試合にしましょう!」


多世界最強。そんな肩書きを持つ彼女の第一印象は、明るい人だった。年下で格下の僕に対しても丁寧な言葉で語り掛ける。そこにあるのはファルシオン選手本来の性格と、それ以上の相手選手に対する敬意だろう。

魔導戦技が大好きだから、どんな相手だろうと選手にはしっかりと敬意を表す。多分、そんな感じだ。明るいのも同じ。大好きな魔導戦技だからこそ緊張しないで、自然体でいられるのだろう。

知ってはいたけど、彼女もまたシズクちゃんやセフィの同類の魔導戦技大好きっ娘。いや、むしろ上位互換だろうか。


「こちらこそよろしくお願いします。良い試合になるよう、精々足掻かせて頂きますよ」

「あはは。そんな風に謙遜しなくても良いですよ。私、対戦相手の試合は毎回しっかり確認してるんです。だから分かりますよ。水無月選手、すっごい強いですよね?」


何てことのない台詞。ともすればお世辞にしか聞こえないような言葉。……それでも今の一瞬、僕の背中にゾクリとしたものが走った。


「……ありがとうございます。ファルシオン選手にそう言って貰えるなんて、光栄ですよ」


何とか無難な言葉を返せた。動揺は最小限に留められた筈。……蛇に睨まれたカエルの気分だよ。全部見透かされた気配をヒシヒシと感じる。

今のファルシオン選手の言葉、多分本気だった。お世辞やカマかけの類ではなく、本気で僕のことを『すっごい』と評してた。試合で使ったのは重ね掛けと倍率操作だけなのに、彼女の観察眼でそれ以上を看破された。

本当にしっかりと確認してるみたいだ。僕なんてファルシオン選手からすれば木っ端のような存在なのに!


「それでは両選手、デバイスの起動を」

「始めるよ。オーケストラ」

「きてタタラ」


審判の言葉を合図に、互いにデバイスを起動する。僕は紺のグローブと黒ベースの軍服に。ファルシオン選手は、シンプルな白銀の篭手と純白のコート型の戦闘着に。

……映像で何度も見たけど、実際に対峙するとなるとやはり違う。ファルシオン選手のイメージカラーとなっている白。それを纏った彼女の恐ろしさたるやだ。雰囲気が激変した訳ではない。むしろさっきよりも楽しそうで、より一層溌剌としている。そうにも関わらず止まらないこの胸騒ぎ……!


「では試合──」


ゆっくりとファルシオン選手が構える。何度も映像で観てきた構え。徒手空拳であらゆる状況に対応する為に僅かに重心を落とし、半身となって出方を隠す攻防一体の形。

そして、


「──開始!!」


ファルシオン選手の纏う気配が一変した。


「っ……!!」


あまりのプレッシャーに、全力でバックステップで距離を取った。ファルシオン選手は構えたままでその場から動いてすらいない。それなのに反射的に身体が飛び退いた。

何だこのプレッシャーは……。何だこのプレッシャーは……! スポーツ選手が放って良い気配じゃない! さっきまでの明るい雰囲気はどこいった!? 楽しそうに笑ってはいるけど、さっきとは明らかにモノが違う! 試合前が明るさが夏の花を連想させる暖かさなら、今の彼女の明るさは刃に反射する真剣の煌めきだ。下手なことをすればそのままズンバラリンと一刀両断されかねないというのが、嫌という程に分かってしまう。

というかこれ……!


「まさか、マジで掛かってくる気じゃ……!?」


明らかにこれまでの試合映像とは、ファルシオン選手の様子が違う。過去の彼女の試合は、本気ではあったけど全力ではなかった。一流の選手らしく、しっかりと相手に合わせて出す力を調整していたように感じた。勿論それは相手を舐めている訳ではなく、余計な疲労と情報を発生させない為のもの。大会そのものに真剣に取り組んでいるからこその、常に先を見据えた試合巧者的な立ち回りだ。

でも今回は違う。ファルシオン選手は明らかに本気だ。なにせ纏う気配からして物騒過ぎる。だって機動隊隊員である僕ですら戦くような圧なのだ。これを受けて平然としていられる10代の選手なんてまずいない。で、今までの試合で戦意喪失レベルで気圧された選手はいないことを考えると、やはりこの試合だけが明らかに力の入れようが違うことが分かる。……ていうかこれ、下手したら彼女が優勝したかつてのフリットカップでも滅多に見せてないんじゃないの? だって殆どの映像ではこんな鋭い眼をしてなかったよ?


「……あの、何かやけにこの試合に力入れてません?」


試合は始まっているけど、思わずそう尋ねてしまった。いやだって本当に不思議なんだもの! どうして僕をそこまで警戒してるのさ!?

それなのに、ファルシオン選手はとても不思議そうな表情を浮かべる。まるで何を言っているんだと言いたげに。


「いやだって、水無月選手ってすっごい強い、いや下手したら私より強いじゃないですか。そらゃ警戒しますし全力にもなりますよ」


そして返ってきたのは、あまりにも予想外の言葉。予想外過ぎてキョトンってなった。そして、そんな僕の反応にファルシオン選手もまたキョトン。

試合中にも関わらず、妙な時間が流れることになった。


「……本気で言ってますそれ?」

「勿論」

「何で!? 僕この通りの格下ですが!? 貴女からすれば多分雑魚の部類ですよ!?」


世間一般的には選手として強い方だと自覚してるけど、貴女目線からすると普通に弱い方ですが!?


「……そんな風に卑下するのは良くないと思います。それは水無月選手だけでなく、沢山の選手を貶す行為ですよ?」

「それはゴメンなさいですけどね!?」


僕が雑魚ならそれ以下は〜とか、そういうことなんだろうけども。でもそれって言葉の綾というか、単純にファルシオン選手がイレギュラー過ぎるから結果的にそんな表現になった訳で。

ということを伝えたかったのだけど、それより先にファルシオン選手が口を開く。


「そもそも──」

「っ!?」


それと同時に、僕とファルシオン選手の間に横たわる距離が消えた。ヌルりという効果音がつきそうな程に滑らかな歩法で、一瞬かつ自然に間合いを詰めたのだ。


「チィッ!」


そして僕の方も、違和感を感じたと同時に反射的に動いていた。

全力で地面を蹴りながら、後ろに倒れるように重心を移動。しかし、それだけでは足りない。既にファルシオン選手は間合いを詰め、白銀の篭手に包まれた拳を繰り出している。後手に回った以上、普通に回避しようにも必ず当たる。当てられる。

そしてファルシオン選手の拳は、タフネスが自慢の選手ですら一撃で降す破壊力を宿している。僕が当たればガードの上からでも砕かれる。絶対に当たる訳にはいかない!


「ラァッ!!」


後ろに倒れながら前方、ファルシオン選手目掛けて炸裂魔法を放つ。炸裂魔法の反動を使っての間合いからの脱出。ついでに音と衝撃で追撃を潰し、尚且つダメージを与えられれば儲けもの!

姿勢を整えつつも、ファルシオン選手から目を離さない。追撃は……ない。妨害が幸をそうしたのか、そもそも追撃するつもりが元から無かったのか。


「……今の一撃を綺麗に避けれるだけでも、卑下する必要は全くないじゃないですか」


変わりに飛んできたのは言葉。どうやら正解は後者、追撃の意識がなかったようだ。


「……偶然ですよ」

「偶然ねぇ」

「っ!」


徐に踏み出された1歩に、反射的に重心が落ちる。またもやあの反応が遅れる移動法、意識の隙間を縫うかの如き玄妙な歩法を繰り出されるところだった。


「……予備動作は無くしたつもりなんですが。反応しておいて偶然とは良く言います」

「いや本当に偶然ですよ。偶然、似たようなことをやってくる人たちを知っていまして」

「本当ですかそれ!? というか複数形!?」

「ええ。やべぇ人たちです」


上総大将を筆頭とした近接型のオーバーSの面々なんですけどね。その方々がやってくるんですよ、そんな感じの移動法。手合わせという名の地獄の特訓で嫌というほど経験してるから、ギリギリ反応だけはできるんです。あくまで反応だけですけど。『あっ』ってなった瞬間には負けてるんですけど。上総大将に至っては普通に目の前を散歩されても気付けないんですけど。

今回躱すことができたのは、ファルシオン選手のそれがあの人外陣営の技術よりも未熟だったから。……まあ、あのクラスと比べられる時点で十分に化け物なんだけどね。


「ほぇー。水無月選手の周りには凄い人が沢山いるんですね」

「現在進行形でその凄い人の1人と対峙してますけどね?」

「あはは。それはありがとうございます」


笑いごとじゃないんだよなぁ……。いや、分かってはいたけど、やっぱりとんでもないよファルシオン選手。だって相対的には遥かに未熟とはいえ、技量だけならあの人外陣営と比較できる程ってことなんだから。

多世界の最上位を知っている僕が断言しよう。彼女の戦闘技術は至高の領域、その爪先ぐらいは届いていると。

彼女は魔導戦技選手であると同時に、正真正銘の【達人】なのだ。


「いやはや……」


不穏が過ぎるね全く……。

という訳で本章のハイライトへ突入。まあまだ試合は序盤。なんなら一撃しか攻撃が発生してないのですが。ただ導入なので! これから段々どっちも暴れるんで!


尚、何度も言いますがアテナちゃんは達人ですが、オーバーSではありません。強いて言うなら英雄の卵です。

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