第七十一話 少年に後悔があらんことを
遅れたー! すみませんでした!
という訳で更新! 今日からナナ君のターン! 他のメンバーの試合は大幅カット。描写は次章の合間合間となります!
時間が経つのは早いもので、僕たち魔導戦技部のメンバーは順調にフリットカップを勝ち進んでいった。
レイ先輩はゼクスとの訓練の成果か、雷魔法のスキルがぐんぐん上昇しており、危なげなく4回戦を突破。都市本戦への出場が決定した。
ルナ先輩はユメ姉さんのアドバイスを伝えたことで、致命的だった攻撃面に改善の兆しが見え初めた。僅かであるが確実に上昇した攻撃面と、バラムとの訓練でより堅牢さを増した防御面によって、辛勝ながらも4回戦を突破することに成功。つまり女子の部の方は全員都市本戦へと歩を進めた訳だ。
シズクちゃんは3回戦まで安定に勝利。幸いなことにバインドアーツを披露することなく勝ち進んでいるので、まあ都市本戦には普通に進めるでしょう。
セフィも3回戦までは勝利。2回戦は意外な強敵との試合で音魔法を使う羽目になったけど、逆にそのお陰で魔法の制限が緩くなった為、3回戦は瞬殺していた。
で、僕。一応、3回戦までは順調だった。試合で使ったのは重ね掛けと倍率操作のみ。ほぼ最低限の手札しか晒さずに済んでいるし、結果としては上々だと思う。……まあ、順調なのは今日までなんだけどね。
「ついにかぁ……」
自然と声が漏れた。でもそれは仕方ない。本日は僕の4回戦目、即ち元世界最強との決戦なのだから。
アテナ・ファルシオン。悲劇の天才にして不屈の戦女神。開会式での衝撃の復活以降、多世界中から注目を集めている今現在最もホットな競技選手だ。公式サイトに掲載されている今大会での彼女の試合の全てが、100億再生回数を突破しているのだから、その注目度合いも分かるというもの。結果など分かりきっているにも関わらずコレなのだから、最早笑うしかないよね。
そしてそれは、ファルシオン選手とぶつかる僕も同じく注目されるということに他ならない。元世界最強+100億以上の人の目。ついでに4回戦目からは個別のリングではなくフルコートで試合が行われるので、この上ないプレッシャーだ。
「流石に緊張してる?」
そんな僕の様子に、コーチがそう尋ねてくる。否定する気もないのでここは素直に頷いておく。
試合は既に間近に迫っている。選手用の控え室に設置されているモニター。その中に選手は映っていない。少し前に試合が終わり、今はコートの整備が行われている。
それが終われば、晴れて僕の試合。最強にして最も注目されている選手とぶつかることになる。いやはや。何度も思うけど本当に運が悪いね僕。
「僕がボッコボコにされるところを、これから全世界に放送されるんですねぇ」
「何でボコボコにされる前提で話すのかしら……」
僕の言葉にコーチはため息を吐く。……しかし、それだけだ。情けないと怒ることは無い。僕が勝てるような相手ではないと、コーチも理解しているから。
「凄いですよね彼女。あのレベルの子がスポーツ選手、それもアマチュアでいるとは思いませんでしたよ」
ファルシオン選手対策として、僕は過去から今大会までの彼女の試合映像を確認している。コーチや部の皆は勿論、ユメ姉さんを筆頭とした機動隊メンバーとも話し合った。そして至った結論は、酷くシンプルなもの。
──アテナ・ファルシオンの実力はスポーツの枠組みに収まるものではない。
当然、強いことは知っていた。多世界最強なのだから。だからコーチや部の皆は、彼女の才能をそういうものだと、ただの多世界最強選手なのだと素直に受けとめていた。
対して僕ら、機動隊組は違った。僕やユメ姉さん、ロア姉さんのような、魔導戦技にそこまで詳しくない側は驚きながら。ゼクスやバラムたち、魔導戦技に詳しい側はしみじみと。アテナ・ファルシオンという規格外の天才を正しく理解していた。
彼女の実力は競技に限定すれば魔導師ランクAAA。オーバーSを除けば人類最高クラスであり、正しく世界最強と言える実力者だ。
では競技ではなく実戦なら、彼女の実力はどれ程になるか。まず前提として、スポーツと実戦では求められるものが違う。故に実戦に身を置く人間の方が優れているとは一概には言えない。本来の魔導師ランクというものは、戦闘行為を含めた総合的な実力で判断するものである以上、条件付きのランクの差などそこまで重要なものではない。
勿論、どちらも戦闘行為である以上、必然的に濃密な経験が得られる実戦経験者の方が有利ではあるのだろう。ただそれは経験値の問題である為に絶対ではなく、相手の土俵で戦えば実戦経験者でも競技選手に遅れをとることなど普通に有り得る。結局のところ、土俵が違うという一言に全てが集約されるのだから。
それを踏まえた上で、僕ら機動隊メンバーが判断した実戦における彼女の実力。魔導師ランクA+。
これはとんでもないことだ。勿論、選手である彼女が純粋なランクA+の魔導師と同じ活躍ができる訳ではない。しかし、戦闘魔導師としての訓練を詰んだ場合、それこそ機動隊に1ヶ月程混ざれば、彼女は多世界の英雄に相応しい活躍を見せるだろう。下手をすればAA、AAAの領域にすら届くかもしれない。
それほどの才能を、僕らは彼女の試合映像から感じ取った。単純な戦闘力は勿論、技術、判断力、察知能力などの全てが卓越していた。スポーツ選手としての領域を超えていた。
「……ぶっちゃけ、ファルシオン選手に勝てる選手なんてまずいないと思います。試合という条件下なら、当時は勿論、今のゼクスたちだって多分勝てない。彼女はそんな怪物です」
「そうね」
「当然、今の僕じゃ逆立ちしたって勝てない訳で」
「ええ。前に言った通り、1Rもつかも怪しいわね」
そうだ。コーチですら認めている通り、純然たる事実として僕は勝てない。僕が弱いとかではなく、ファルシオン選手が強過ぎるのだ。
現状の僕の実力は自惚れではなく決して低くない。不運故に地区予選落ちが確定しているが、そうじゃなければ都市本線の上位ぐらいまでには届いただろう。皆からの評価や、これまで目にした多くの試合の内容を纏めたところ、この分析はほぼ間違いない。勿論、個人的にはまだまだ満足できる実力ではないが、それでも低いと断言すれば多くの選手を侮辱することになるので、しっかりと高い方であると宣言しよう。
そんな僕が、都市本線上位に届きうる選手が、一矢報いることすら怪しいレベルなのだから、もうこれはただただファルシオン選手がおかしいとしか言いようがない。指導がどうとかそういう話ではない。
「彼女に掛かれば、大抵の選手は瞬殺でしょう。まともに試合になるのは世界選抜クラス、もしかしたらが起こるとすれば次元大会レベルが必要なんじゃないかと」
「かもしれないわね」
まあ、1つの世界最強が集まっても尚『もしかしたら』ってレベルな辺り、本当にどうしようもないのだけども。
「なので僕はこの試合で勝ちにはいきません」
「……勝てないから手を抜くと? 流石にそれは貴方の指導者として見過ごせないわよ?」
「まさか。勿論、全力は尽くしますよ。ただ下手に勝負に出ようとしないで、最低限は観れる試合にすることを1番に考えます」
「……」
何度も言うけど、僕はファルシオン選手には勝てない。それどころか瞬殺される可能性だって高い。そんな実力差がありながら勝利を掴みにいける程、僕は純真でも貪欲でもない。
だから目的を変える。
「この試合は沢山の人が見てます。僕の知ってる人だっていっぱいいます」
ファルシオン選手の戦い方を分析する為に、あと一応僕を応援する為に、違う地区でありながらわざわざやってきてくれたラクシアの皆さん。
この日の為に有給を使って観戦にきてくれているユメ姉さんにロア姉さん。あとゼクスたち一部の機動隊メンバー。
そして何より、僕のことを全力で応援してくれている部の皆。
「あの人たちの前で、かっこ悪いところなんて見せられません。少なくとも1Rは突破しないと、わざわざ見に来てくれた皆さんに申し訳がたちません」
だから僕は、今日の試合で全力を出す。勝利の為にではなく、無様に負けない為に僕は戦う。
「……そう。分かったわ」
「あれ? 怒らないんですか? 僕、結構情けないこと言ってますよ?」
「自覚してるなら言わないの、全く。……まあ、思うところが無い訳ではないけど、今回は目を瞑るわよ」
そう言ってコーチはため息を吐く。
「以前にも言ったわ。貴方はまだ魔導戦技の初心者。だから熱を持たないのもしょうがないって」
「ああ、言ってましたね」
「そんな貴方だから、今の結論を私は否定しない。今の私に言えるのは1つだけ」
そのタイミングで、僕への呼び出しが掛かる。試合がもう直前だと、アナウンスで告げられる。
「今後、貴方の今日の選択を後悔できる日が来ることを、私は願っているわ」
──そして
「水無月ナナさんですね。宜しくお願いします。是非素晴らしい試合にしましょう!」
僕は多世界最強の選手と対峙した。
生い立ち故に命懸けでぶつかり合うことは知っていても、スポーツなどを通して競い合う楽しさを知らない。育ち故に負けられないことを知っていても、負けたくないという気持ちを知らない。故にこその迷走。何故ならナナ君は知らないから。心にあるのは知り合いたちからガッカリさせたくないという小さな見栄だけ。コーチが不愉快になるかもしれないと思いながら語ったのは、そんな彼なりの誠意であります。
──しかし、そんな見栄が通用するほど、大敵たる戦女神は甘くない




