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第七十話 フリットカップ第1地区予選2回戦(セフィ) その2

アウト?……いや、うん。文章量的には最近の2話分ぐらいだから許して?

「あぐっ……!!」


腹部に走る激痛。反射的に理解します。これは『マズイ』と。


「【スタンビート】……ッ!!」


天秤など放り捨てて、即座に最も初見殺しとして効果的な【スタンビート】を発動。平衡感覚を失わせる程の轟音を、ランクル選手に浴びせかけます。


「ァァ……!?」


結果はまあまあ。マトモに大音量を受けたことにより、ランクル選手はふらついてます。これでどうにか正体不明の追撃を防ぐことができました。……この隙にKOできれば最上だったのですが、流石に間合いが開きすぎてます。何よりダメージが大き過ぎる。直後にマトモに動くことはできそうにありません。

精神ダメージは安全性の観点から、本来受けたであろう物理的な痛みよりは緩和されています。それでも尚これ程のダメージ。それは今の一撃がクリティカルヒットと呼ばれる類のものである証明です。もしかしなくても重症判定、ダメージに対応した擬似的なバットステータスが付与されるでしょう。

これがランクル選手の切り札であろう『何か』によって齎された結果。何をされたかは分かりません。ですが刺突の類なのは明らかです。しかし、どう考えてもレイピアの間合いではない。刺突に合わせて斥力などを飛ばす、所謂『飛ぶ』攻撃……? いやでも、その手の攻撃は相応の魔力の気配が発生しますし、反応ぐらいはできます。今の攻撃はあまりに唐突過ぎる。


「悔やむばかりですね……!」


己の見通しの甘さについ歯噛みします。切り札があるのは予想してましたが、ここまで厄介な代物だとは思いませんでした。これなら初手から魔法による速攻で始末しておけば良かったです。接近戦かつ万全の状態での【スタンビート】なら、ほぼ確実に一撃でケリがついていた筈ですし。……まあ、こんなこと言っても全ては後の祭りなんですけども。


「……っ、あぁッ、まだクラクラするなぁ!」

「っ、お互い様でしょう。私も腹部が異様に熱いですし。出血の重症判定ですよコレ」


ランクル選手は耳を、私は貫かれた腹部を押さえて文句をこぼします。状況的に考えれば痛み訳と言えなくもないです。

ランクル選手の状態は、恐らく轟音を浴びたことによるダメージ変換無しの純粋な耳鳴りと精神負荷。重症判定として三半規管のダメージによる平衡感覚の不調、鼓膜の損害による聴力の低下辺りでしょうか?

対して私ですが、重症判定として出血。被弾箇所の継続的な痛みと、時間経過で悪化する意識低下などの出血症状各種。

お互いにパフォーマンスに支障は出てますが、私の場合は出血判定によるタイムリミットもあります。ランクル選手のソレは恐らく一過性のものなのに対して、出血判定は時間経過でマトモに行動できなくなります。なので逃げに徹しられたり長期戦の構えを取られるとその時点で詰みかねません。総合的に見ると私が不利といったところ。

しかも、


「シッ!」

「っちぃ!」


この正体不明の遠距離攻撃! これがある以上、短期決戦でも下手したら詰みかねない!

不幸中の幸いなのは、予想通りあの攻撃はランクル選手の刺突に対応しているらしく、初動がわかり易いこと。なので攻撃自体は把握できなくても、ランクル選手の行動を注視しておけば『来る』ことは分かります。更に正面方向からの刺突と仮定すれば、避ける手立ても生まれます。

実際、今の攻撃は挙動に合わせて大袈裟に動くことで回避できました。


「っ、もう気付いた! やっぱりクラウン選手厄介!」

「それはこちらの台詞です!」


まあそれでも中々に冷や汗ものなんですがね! そもそも正体不明の遠距離攻撃とか、厄介にも程があるんですよ! 万全の状態なら兎も角、出血状態では動き回るにしても限度があるんです! 幾ら前兆がわかり易いと言っても、このままじゃジリ貧です!


「っ、せめて距離を!」


遠距離攻撃に付き合っていては、マトモな反撃はできません。音魔法は遠距離では妨害はできても直接的な攻撃力に欠けます。このままでは一方的に嬲られることになるでしょう。


「はぁっ!」

「くぁ!?」


決断と同時に牽制として【スタンビート】を発動。大音量によってランクル選手を怯ませ、その隙に一気に距離を詰めます。

如何に正体不明であろうと、あの攻撃は遠距離攻撃です。それなら距離さえ詰めてしまえば脅威は下がります。


「フッ!」

「チイッ!?」


そして接近戦なら私の方に分があります!


「ハァッ!」

「っ、よいな本当に!」


一合二合と剣を交わしていくと、段々ランクル選手の方が押されていきます。

なにせ純粋な剣技の腕前は私の方が上、それでいてランクル選手の獲物は片方が受けるに向いていないレイピアです。格上の二刀流に対して実質1本の剣 (しかもサブウェポン)で戦っているのですから、当然の結果ではあります。

とは言え、これはあくまで私とランクル選手の相性故。私の音魔法は操るものが『音』であるが故に防御が難しく、それでいて妨害に対して特に真価を発揮します。あの攻撃にどんなタネが隠されているのかは知りませんが、魔法の類なのは明らかです。となれば、タイミング良く集中力を乱してしまえば、なんとか距離を詰めることができます。……言葉を変えれば、普通の立ち回りでは距離を詰めるのが難しいということでもありますが。幾ら初動が分かり易くとも、当たれば致命的な威力を秘めている攻撃です。それでいて何度か見ても攻撃の正体が分からないのですから、迂闊な立ち回りはできませんし。


「シッ!」

「っと!」


しかも何だかんだで接近戦もこなせますしね!

連続して飛んでくる刺突は、やはり鋭く正確無比。立ち回りの素直さも、近接型の皮を被った遠距離型と考えれば納得です。むしろ遠距離型ならここまでの近接スキルは十分過ぎる。

総評すると中々の難敵。恐らく総合的な実力ではシズク以上。互いに初見の戦いでは圧倒的初見殺しを誇るシズクが勝つでしょうが、それ以降の戦いではシズクが負け越すかもです。

まさか都市本線クラスの実力者と、こんな序盤に戦うことになろうとは。お陰でお腹を貫かれ、伏せてた魔法を披露する羽目になってしまいました。



──そう考えると、自然に笑みが浮かびます。



「……全く。これだから面白いんですよ!!」


こんな序盤で、こんな隠れた実力者に当たるなんて。予想外のことが起きるから、魔導戦技は止めらない!!


「はぁぁぁぁ!!!」


湧き上がる闘志に身を任せ、されど振り回されることなく身体が動きます。斬撃は流れるように、それでいて絶え間なく。一撃一撃は鋭く、それでいて重く。

歓喜が満ちていく。身体のキレがましていく。腹部の痛みが闘志によって紛れていく。


「くっ、の!?」


ハイになっている。パフォーマンスも上がっている。それがしっかりと実感できる。

そして当然ながら、素の状態でも圧倒されていたランクル選手は、今の私に圧倒されています。……このままいけば勝てるでしょうか?


「……否っ!」


余計な思考を切り捨てます。既にそれで痛い目を見ているのです。ランクル選手は油断ならぬ強敵。ならば妥協は悪手も悪手!

音魔法は衆目に晒され、【スタンビート】の初見殺しの優位は消えた。音がキモとなることが分かれば、ある程度の対策もされるでしょう。ならば魔法を必死に隠す意味は薄い。それに私は出血の重症判定を受けている。余裕がないのは変わらない。

相手は強く。手札を隠す意味は薄く。そして何より余裕がない。ならば出し惜しみする理由はない!!


「【ハーモニクス】!!」


新たな音魔法を発動。対象となるのはランクル選手、ではなく私のデバイスであるシンセサイザ。

【シンセサイザ】はただの双剣型デバイスではありません。シズクのアトラクナカと同じく、私の魔力性質を補助する機能があります。その効果は振動の増幅と調整。簡単に言ってしまえばシンセサイザは音叉でありアンプなのです。故に音魔法の補助としても格別の性能を発揮します。

ですが、それと同時に『剣』でもあるのです。


「ハァッ!」


私の剣を防ごうとしたランクル選手ですが、シンセサイザとマウンゴーシュが交差した瞬間、


「うわっ!?」


彼の手からマウンゴーシュが吹き飛びました。

付与魔法【ハーモニクス】。その効果は対象への振動の付与。そしてシンセサイザの振動増幅。これによって生まれるのは、恐ろしい程の斬れ味と衝撃を備える高周波ブレード。大抵の物を切り裂き、振動によって破壊する私の魔剣。……まあ、制限の問題でデバイス破壊は不可能なんですがね。

ランクル選手のマウンゴーシュが吹き飛んだのは、シンセサイザの超振動が伝播したことによる衝撃と握力の低下が原因。

これによって、ランクル選手を守る盾はなくなりました!


「これでっ」

「っ!?」

「終わりです!」


がら空きの半身。既に身を守る盾となる剣は遠くに転がり、もう片方のレイピアは防御に向かない。そして私の手にあるのは、威力が大幅に上昇して魔剣となったシンセサイザ。

一刀。それだけでランクル選手は致命傷を負い、変換された精神ダメージで気絶、KOとなるでしょう。



──だからこそ、


「ハァッ!!」

「っ!?」


私はその攻撃に対して反応することができました。

視界の隅に生まれた煌めき。それと同時に全身に走る悪寒。それを感じた時点で、私はランクル選手への攻撃を止め、転がるようにその場から退避しました。


「っ……!」


そして即座に立ち上がり、追撃を警戒。油断なく周囲に意識を配りながら、再びシンセサイザを構えてランクル選手と相対します。


「……何で避けれるのさ……」


対してランクル選手は、険しく、それでいて苦りきった顔で私を睨んでいました。


「アレって今までお披露目したことのない、マジの切り札なんだけど?」

「……理由は幾つかあります。まず単純に勝利を確信した瞬間が1番危険だから」


もう油断はしないと決めてました。だから最大限に警戒してました。


「次に私がハイになってたから」


魔導戦技の楽しさだったり、腹部の痛みだったり。そんな諸々の要素が絡まりあって生じた高揚。それによって、私は最高レベルのパフォーマンスを可能としていました。だからあの不意打ちにも反応することができました。


「そして最後。正体不明の攻撃を忘れる訳がないでしょう?」

「……なるほど」


私の言葉に納得したのか、ランクル選手は大きくため息を吐きました。

色々言いましたが、結局のところ最後の理由に集約されます。ランクル選手の正体不明の遠距離攻撃。分かっているのは、ランクル選手の刺突に対応しているであろうということだけ。ならば何をしてきてもおかしくない訳で。近距離で使えてもおかしくないですし、なんなら刺突に対応していることもブラフの可能性だってありました。だから『マズイ』と思ったら即座に全力回避。そう決めてたんです。


「……ま、流石に顔面真横から刺突が飛んでくるとは思ってませんでしたが」

「躱した癖に良く言う」

「ギリギリでしたよ」


いや本当に。さっきのアレは、はっきり言って冷や汗ものでした。正面からの刺突と『仮定』に留めておいて、思い込まないようにしてしておいて本当に良かったです。視界の隅にキラリと光ったものが見えた瞬間、凄まじい悪寒が走りましたから。幾ら精神ダメージに変換されるとは言え、顔面を貫かれるのはゾッとしません。


「……その様子だと、やっぱりバレた感じ?」

「ええ。さっきのカウンターで決定的に。剣士の動体視力を舐めないでください」


視界の隅ではありましたが、確かに私は決定的な瞬間を目にすることができました。その結果導き出される結論。


「【転送魔法】。それが貴方の魔法ですね」

「……あー、幾ら絶対絶命だったとはいえ、やっぱり一発逆転なんて狙うんじゃなかったなぁ……」


それは遠回しの肯定でした。

ランクル選手の正体不明の遠距離攻撃。それは刺突に対応した魔法ではなく、刺突そのものだったのです。

タネとしては恐らくこうでしょう。ランクル選手は魔法を使い、剣先そのものを転送した。転送先は私の周囲。結果として運動エネルギーはそのままに、最大威力の刺突が私に突き刺さった訳です。……私の真後ろなどの死角からの攻撃がなかったことから、恐らく範囲的にはランクル選手の視覚内とか、そんな制限があるんでしょうね。

まあ、それでも実に強力な魔法です。転送魔法による間合いの拡張とか、普通は考えません。私もあのカウンター目にするまで考えつきもしませんでした。だって、


「びっくりですよ。こんな超超超高等魔法を、魔導戦技で使用できるなんて」

「……」


転送魔法は3級デバイス程度の魔法領域で使用できるものじゃありませんし、使用魔力だって膨大ですもの。

転送魔法、というよりも空間に作用する魔法全般は最上位クラスの難易度を誇ります。適性だって必要ですし、その使い手となれば超希少です。私の音魔法やピグマさんのゴーレムマジックを余裕で飛び越えるレベルです。

はっきり言って選択肢に浮かぶ訳が無いんですよ。適性持ちですら超希少。更には普通にやってはまず試合で使えないんですから。


「あの刺突の鋭さと正確さは必要故ですか?」

「……」


返答は無し。当然ですね。幾ら魔法が割れても、それ以上の情報を与える必要なんて皆無ですし。

取り敢えずこれは仮定としておきましょう。まあ、ほぼ確実でしょうが、念の為に確定とはしておきません。で、恐らくですが、ランクル選手は相当に普通じゃない方法で転送魔法を試合で使用しています。

魔法領域に関しては恐ろしい程の適性か、自前で膨大な魔法領域を所持しているのでしょう。他の魔法を使ってこない辺り、前者の線が濃厚ですね。

使用魔力。これは転送条件を相当に厳しくすることでクリアしてると思われます。サイズ、重量、共にかなり縛ってるんじゃないですか? 多分、レイピアの刀身がギリギリの条件をクリアしてるレベル。

手順としてはこうかと。①魔法を発動。②2つの空間を極小規模で結ぶ。③そこにレイピアを通す。多分こんな感じのことをやってるのでしょう。

刺突の正確さは確実に繋げた空間を通す為。鋭さは視認性を下げる為。立ち回りの素直さは、間合いも方向も殆ど自在が故。全てにしっかり意味が有った訳です。


「いやはや。改めて本当に強いですね、ランクル選手」


色んな要素が上手く噛み合ったスタイルと言いますか。近接戦闘もそこそこ。それでいて間合いは遠距離型とほぼ同じ。かと思えば初見殺しかつ近接殺しな、任意のタイミングでほぼ全方位からの攻撃が可能という鬼札。

本当に強いです。


「……惜しむらくは、私との相手が最悪に近いということでしょうか?」

「……シッ!」


返ってきたのは空間を越える刺突。それはランクル選手による不本意ながらの肯定でした。

ランクル選手のスタイルは強力です。ですがそれ以上に繊細さが求められるものです。勿論、実戦でもスタイルを維持できるよう鍛えてはきてるのでしょう。

しかし、私のような妨害を得意とする選手には攻略法が見えてしまいます。


「甘いです!」

「っく!」


1度目の刺突はこれまで通り大きく動くことで回避。2度目の刺突は、放たれる直前に【スタンビート】を浴びせることで封殺しました。


「くそっ!」


私の仮説では、ランクル選手の刺突は針の穴を通すような正確さが必要とされます。

ならば、そのタイミングで大音量を浴びせるなどすれば。正確さを奪ってしまえば。


「……本っ当に厄介……!」

「ええ。ですがそれはお互い様ですよ絶対」


タネが分かったからこうしていられますが、そうでなければ未だに私は苦戦してたでしょう。もしここまで相性が良くなかったら、敗北の可能性だって十分にありました。

貴方はそれぐらい強いんですよ、ランクル選手。


「……」

「……」


何度目か分からない見つめ合い。その行為に宿る意味な明白です。

さあ、戦いを再開しましょう。ランクル選手。油断ならぬ強敵。私は持てる全てを使って、貴方のことを降します。


「勝たせてもらいます」

「させるもんか!」

尚、試合の結果はセフィの勝ち。ネタバレじゃないよ? これでセフィの試合は終わるから。何か切り時分かんなくて無理やり1話にしてしまった。許して。


因みにこの話の目的ですが、ぶっちゃけセフィの試合描写が皆無だったから急遽突っ込んだりしてます。まああとは、セフィたち以外にも無銘の実力者はいるんだよっていう。別にあのメンバーが特別という訳ではないと。そういう意味を付け足してます。


そんな訳で急遽出来上がった敵キャラのランクル君。ネガティブ系オトコの娘でありながらガチの実力者。希少な魔法を使いシズクちゃん以上の実力を持つ。……あれ濃くね? これレギュラーレベルでは? ポットでかつ今後の登場予定は現状無いのに。


……まあ、それはそれとして。次かその次辺りからナナ君の試合に入ろうかなと思ってたり。本当は1、2ってきてるから3回戦に部の誰かの試合を書くか悩んだ(というか現在進行形)。ただそれ入れると長くなるのよなぁ、という問題が。読んでくれてる皆さんも早く主人公(ナナ君)の活躍みたいでしょ? え、見たくない?

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