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第六十八話 水無月ユメの分析

遅れたァ! だってゴールデンウィークは繁忙期! くたばれ祝日!!

「ナナ君、醤油とって」

「はいはい」


夕飯時。いつものように僕とユメ姉さんは、向かい合ってご飯を食べていた。因みにメニューはお刺身。ビーバー騒動から解放されたマルス主任が、ストレス発散とばかりに海釣りに突撃して釣ってきたのを貰いました。


「……で、どうなの?」

「何が?」

「いやほら、学校とかその他諸々?」


パクパクとご飯を運んでいると、おもむろにユメ姉さんがそんなことを訊ねてくる。最近恒例の雑談兼日常報告だ。訊き方が口下手親父のそれなのは兎も角。


「学校ねぇ。まあ良くやってるよ。どうしてもメインは部の方になっちゃってるけど」

「そこはね。でも折角の夏休みなんだから、ちゃんと友達とも遊びなよ?」

「分かってますとも」


そこは勿論。部の練習、それも最近は特にその辺りが濃くなってしまっているけれど、何だかんだで同じぐらいクラスメートとも過ごしている。途中参加とは言え、一学期を終えるぐらいの付き合いは育んでいるんだ。その辺りの人間関係を疎かにはしない。


「ん。宜しい。じゃあ大会の方は?」

「普通そっちが先じゃない?」

「メインは後でしょ」

「まあ、ね?」


メイン。確かに現在の僕の日常の中で、フリットカップが一番のイベントであるかな。とは言え、今日までちょくちょく話しているので、特別何かを言えることはないんだけど。


「取り敢えずは順調、かな? 僕たち男女混合組は全員初戦突破。女子組も2回戦まで突破したし」


試合の成績的には問題らしい問題は無い。大会初日の男女混合の部では、僕たち1年トリオは圧勝と言って良い結果だった。

その次に男子の部を挟み、2日後に先輩たちの出る女子の部。尚、開会式の関係で1試合しかしなかった男女混合の部と違い、男子女子の部は1日丸々使って2試合だった。曰く、参加人数と注目度の兼ね合いでこうなってるのだとか。

で、レイ先輩とルナ先輩であるが、初戦は2人とも危なげなく突破。2回戦目はレイ先輩が圧勝。ルナ先輩は途中膠着したけど、一瞬の隙をついたカウンターで見事KO勝利を勝ち取っていた。


「へー。皆優秀だもんね」

「うん。自称部最弱のルナ先輩ですら、何でかんだで光るものがあるし」

「ルナちゃんねー。あの子は結構面白いよね。前にバルムと話したけど、割と機動隊(うち)向きな感じ」

「あ、やっぱり?」


ユメ姉さんの評価は、僕がこっそりルナ先輩に感じていた印象そのままだった。

というのも、機動隊というのは純粋な戦闘能力は勿論だけど、それ以上に粘り強さや生き汚さが必要とされるからだ。

機動隊が出動する上で想定される最悪の事態。それは大災害や大事件ではなく、敵性オーバーSとの遭遇である。その最悪の状況において重要となるのが、如何にして救援までの時間を稼ぐか、そして何より死なないかである。オーバーSに勝てるのはオーバーSのみ。この大原則に則って、救援であるオーバーSが到着するまで死なないしぶとさが、何より機動隊に求められる資質なのだ。

そしてルナ先輩であるが、そういう面では中々の逸材だ。魔導師としての総合力的には、現時点では合格ラインには届かない。いや、ぶっちゃけると募集ラインにすら届かない。でも、あの天性の防御能力は買いだ。既に選手としてかなりの粘り強さを見せつけているし、訓練次第でアレはもっと伸びるだろう。なんというか、ルナ先輩のアレはそっち方面ではかなり伸び代がありそうなんだよなぁ。


「ユメ姉さん的には、ルナ先輩の防御ってどう思う? バルムは絶賛してたけど」

「んー、多分アレ感知系の特殊体質だよ。生存本能や防衛本能とか、そういう『防ぐ』ことに特化してるんじゃない?」

「へぁ!?」


なんとなしにルナ先輩の才能について訊ねてみたところ、返ってきたのは予想外の言葉。

特殊体質とは、簡単に言えば異能の類だ。単純に常人とは違う身体的特性だったり、共感覚のような特殊な才能、原理不明なれど魔法の如き効果を発揮する凄まじいものまで千差万別。どちらにせよ言えるのは、多世界的にもかなり珍しい事例であるということ。

ユメ姉さんは、ルナ先輩がそんな稀有な人間であるという。普通の人間が言うのであれば、一笑に付すか半信半疑ぐらいの反応となるが、相手はユメ姉さん。こと直感方面では野生の獣より野生している、ある意味特殊体質みたいな人だ。この人がそう言うんなら、そうなのだろう。……まあ、オーバーSなんて全員特殊体質の塊みたいな人種だけども。ただ、ユメ姉さんみたいな直感方面で強いのは、オーバーS全体でも4割ぐらいだから。オーバーSだから納得というよりは、ユメ姉さんだから納得なのだ。


「因みに何でそう思ったの?」

「ルナちゃんの攻撃。あのぎこちなさ、ちょっとおかしいもん。防御と攻撃なんて表裏一体。得意不得意の差はあっても、あそこまで普通は乖離しないよ」

「……まあ、確かに」

「多分だけど、アレって感知能力の暴走が原因だと思うんだよね。攻撃→防御からの反撃っていう可能性を感知して、身体が固くなってるんじゃない? カウンターだけやけにスムーズなのは、そういう反撃の可能性が許容範囲まで落ちるからなんじゃないかなー」

「な、なるほど……」


言われてみればというか、有り得なくもない推論に思わず慄く。そんなに指導してない癖に何故そこまで見抜けるんだろう……?


「質問的に予想はしてたけど、ナナ君は気付いてなかったか。いや、反応的に部のメンバーは全員気付いてないっぽいね」

「うん。ルナ先輩の攻撃方面は、呪いレベルの才能の無さとしか……」

「呪いって。というか、その口ぶりからするとルナちゃんのソレ、一切手を付けてないってことか。せめてバルムは気付きなさいよ……」

「いや無理でしょ……」


ユメ姉さんの溜息に、思わず頬が引き攣る。脳内のバルムも『無理無理無理!!』と全力で首を振っている。普通はそういう感覚的な、しかも当人すら気付いていないような代物など、大抵の人間は気付かないって。出会って間もないバルムなら尚更だ。……まあ、少ししか練習に顔出してないユメ姉さんが看破しちゃってるんですけどね!


「……取り敢えず、ルナ先輩とコーチにはこのこと伝えとくよ」

「うん。ただタイミングは考えなよ? 今は大事な時期なんだから、下手なこと言って余計に混乱させないように」

「了解」


正論だったので素直に頷く。……ルナ先輩じゃなくて、先にコーチ単独に話を通しておくかなぁ。それでどう伝えるか考えて貰おう。


「で、話を戻すけど。大会の方はどんな感じなの? 皆はどこまで行けそう?」

「んー、男女混合の部だと、シズクちゃんは都市本線はほぼ確実。セフィもそんな感じ。ただ2試合目の選手がちょっと怖いかも、みたいな話はしてた」


ユーリ先輩が持ってきた試合映像をみたコーチ曰く、『ちょっとキナ臭い眼をしてるわね。何か切り札がありそう』とのこと。因みにその選手の試合映像を見た僕の感想としては、割と綺麗な戦い方をしてたなと。


「へー。セフィちゃんの実力で不穏ねぇ。相手の子、どんな感じなの?」

「んー、スタイルとしてはレイピアとマインゴーシュの二刀流。初戦の映像を見る限りだと、純粋な剣技のみで勝ってたかな。技量的にはセフィよりは下っぽいけど。分かってるのはそれぐらいかな?」


相手の人、僕たち1年組と同じで今大会が初の公式戦っぽいんだよねぇ。完全に無名のようで、データが無いってコーチとユーリ先輩が顔を顰めてた。


「なるほどねぇ。じゃあ油断はできないか」

「うん。まあ、それぐらい全員承知してるだろうけども」


あのメンバーがそんな初歩的なミスをする訳がないし。


「後は女子の部だね。レイ先輩も8位入賞まではいけそうだから、都市本線には出れそう。ルナ先輩は相手次第。ギリギリいけるかどうかってコーチは分析してた」


ただルナ先輩に関しては、さっきのユメ姉さんの情報次第では良い感じに転びそうなんだよねぇ。はてさてどうなることやら?


「とまあ、部の皆はこんな感じかなー」

「おーい。何か〆に掛かってるけど、一番肝心な自分の情報が抜けてるよ?」

「え、僕?」

「うん」


いや、うんて。あれ? 前に話さなかったっけ?


「僕、4回戦目でとんでもない相手と当たるんだけど」

「元多世界最強選手でしょ? それは聞いた」

「じゃあ結果なんて分かりきってるでしょうよ」


4回戦負けだよ。普通に考えてさ。


「えぇ? それはどうかなぁ?」

「何でそんな胡乱げなんですかね」


如何にもわざとらしい、ねっとりとした口調。思わず半眼でユメ姉さんを睨む。


「そりゃナナ君がつまらない意地を張ってるからでしょ?」


しかし、返ってきた言葉は存外に低いトーンだった。現在のユメ姉さんはオフモードで、普段よりもだらけている。しかしながら、眼光だけは職務中のように鋭い。つまるところ目が笑っていない。


「……意地なんて張ってないけど?」

「自覚してるかどうか何て関係無いよ。私にはそう見えてる。だから言ってる」

「ぬぐっ……」


あまりにも自分勝手な言葉。しかし、反論することはできない。ユメ姉さんの人を見る目が、どれ程のものなのかを嫌という程に知っているから。


「ま、キミは賢いし、わざわざ具体的に何かを言うつもりは無いけどね? こうして少し釘を刺せば、後は勝手に考えるでしょ」

「……良くお分かりで」

「そりゃそうよ。私はキミの家族なんだから」


家族の性格なんて把握してるに決まってる。そう笑顔で言い切られては、僕としては色んな意味で何も言えなかった。


「だからとやかくは言わないよ。忠告するのは1つだけ。──ねぇナナ君」


そうして吐き出された言葉は、僕の深層心理に確かな楔として打ち込まれた気がした。


──多分キミは、初めの1歩から間違えてるんだよ。

サラッと明かされるルナ先輩の才能。尚これはプチ覚醒フラグ。


それはそれとして、地味に作中では夏休みまで時間が飛んでるという事実。それにかこつけて裏話。


男女混合の部はフリットカップの目玉とされています。その目玉が初日に回されたのは、参加人数の都合。数が少ないから開会式後でも問題無しという感じ。で、後日やる男子の部、女子の部は、1日フルで使うことで2試合やる。それで無理矢理試合数を調整して、男女混合の部を事実上の最後に回しています。……まあ、ぶっちゃけどうでも良い話です。


次回はセフィの試合です。

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