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第六十五話 開会式2

何か長くなった開会式。……本当なら1試合目行きたかったんだけどなぁ。

魔導戦技における10代最強の少女、アテナ・ファルシオン。

彼女の存在は、会場に驚愕の嵐を巻き起こした。前々回とは言え、次元大会の優勝者。そんな超大物が地区予選に過ぎない場に立っているから


『……まあ、カッコつけて名乗りましたが、次元大会優勝者というのも過去の栄冠なんですよね。少し前まで選手は休業してたので』


──ではない。


『知ってる人もいるかもしれませんが、私は2年前、正確に言えば次元大会が終わった5日後に、結構な事故に遭いました。……大怪我でした』


本当の理由は、彼女が選手としてこの場に立っていることそのものであった。


『ギリギリ一命は取り留めましたが、お医者さんからはもう選手としては活動できないだろうと言われました。怪我で右手の神経はズタズタで、右足もなんとか切断を免れてたような状態だったので、そう言われても当然ですよね』


最も魔導戦技に愛された選手に起こった悲劇。会場の人間にその悲劇を知らない者はいなかったようで、誰もが言葉を発しなかった。……僕もその内の1人だ。彼女の話を聞いて、段々と思い出してきた。2年前の事故を。多世界中駆け巡った衝撃の事件を。

その日、アテナ・ファルシオンは日課の早朝練習に向かう為に、始発のバスに乗ったそうだ。そしてバスが動き出して、大型の交差点を走行中にそれは起こった。


大型トラックによる追突。暴走する巨大な鉄の塊が、彼女の乗るバス、更に言うなら彼女の座る座席目掛けて突っ込んできたのだ。


原因はトラック運転手の信号無視。飲酒、居眠り運転が引き起こした最悪の事故だった。

早朝だったこともあり、バスに乗っていたのは彼女だけ。トラックが追突したのはバスの最後尾近くだった為に、バスの運転手は軽傷。トラックの運転手も、エアバッグが見事な仕事をしたのか重症で済んだ。事故によって命の危険があったのが、栄光を手にしたばかりの少女だけだったというのは、なんたる理不尽であろうか。

……とまあ、ここまでが僕の知る事故の内容。流れてくるニュースを眺めてただけで、それでいて時間も経っているので、世間と同じ程度の情報しか知らない訳だけど。現実はどうやらもっと残酷で、ファルシオン選手にとっては地獄のような出来事だったみたいだ。

魔法と科学が融合した現代の医療はかなりのレベルだ。その中でもレストレードの医療は、多世界でも発達している方だ。そして当時多世界最強となったファルシオン選手ともなれば、まず間違いなく最高クラスの治療が行われた筈。

それでも尚、医者が選手としては活動できないと判断したのならば、それは余程の大怪我だ。恐らく医者としても、日常生活に支障が出ないギリギリのレベルに持っていくのがやっとだったのだろう。


『はっきり言って……泣きました。事件の原因となった運転手を恨みました。だってこれからだったんです。もっともっと、魔導戦技をしたかった!』


多世界最強。その称号を獲得するのが、どれだけ難しいことなのか。最近魔導戦技に触れた僕でも分かる。才能はあったんだろうけど、それ以上に努力をした筈だ。才能だけで世界を取れる者など全人類の極一部、オーバーSと呼ばれる領域にいる怪物たちだけ。そうじゃないのなら、それは偏に膨大な努力と──それを可能とさせる程の『愛』があったからこそ。

それを理不尽な理由で奪われたのだから、彼女の慟哭はどれだけのものだったか。


『散々泣いて。何度も恨み言を言って。苦しんで、怒って……! それでも私は、魔導戦技を諦めることができなかった!』


絶望に叩き落とされても尚、魔導戦技に焦がれた彼女の『愛』は、一体どれ程なのだろう。


『だから頑張りました。どんなに辛いリハビリも、一生懸命こなしました。無理を倒れたことも何度もあります。その度に血反吐を吐いて立ち上がった。だって私は魔導戦技が好きだから! 魔導戦技への関わり方は選手としてだけじゃないことも理解してます。それでも私は、選手としてリングの上に立ちたかったから!』


地獄の底ですら立ち上がってみせた彼女の覚悟は、魔導戦技にかける想いは、どれだけの熱を秘めているのだろう。


『そして私はこの場に帰ってきた! 魔導戦技をやるために、かつて戦ったライバルたちと再びぶつかり合う為に! 奇跡なんかじゃない! 自分の力でこの未来を掴み取って、選手としてここにいるんです! だって私は、魔導戦技が大好きだから!』


本気の言葉だ。彼女の言葉を聞いていると、特例が適応されるのも分かる気がした。かつて最強の栄光を手にするも、悲劇の運命によってそれを手放すことになった少女。それでも闘志と魔導戦技への無限の愛で立ち上がり、見事に選手として返り咲いた不屈のヒロイン。大会の幕を上げる号令に、これほど相応しい選手もいないだろう。

会場のボルテージが上がっていくのが分かる。ありきたりな式典でダレていた空気も無い。突如として舞い戻ってきた最強に対する驚きもない。

ここにあるのは熱狂だ。悲劇に見舞われても尚諦めなかった少女の、選手としての『本気』の言葉に魅せられた好敵手(ライバル)たちの魂の熱。


『私は強くなりましたよ! かつてぶつかり合ったライバルたちと、まだ知らない強敵たち戦う為に! 皆さんとこの場で、フリットカップで再び魔導戦技をやるために!』


歓声が上がる。彼女の一言一言によって、会場中の選手の心が沸き立っていく。


『私はもう多世界最強ではありません。今の私にあるのは、怪我で引退していたという事実のみ。私の怪我の具合を知ってた人たちからは、『本当にちゃんと戦えるの?』って心配されちゃったぐらいですし』


地区予選にいるのはその為だと、彼女は苦笑する。怪我の具合は関係各所にしっかり伝わっていたらしく、大会運営も大いに揉めたのだとか。『かつてのようなパフォーマンスは発揮できないのでないか』『できたとしても、身体に負担が大きいのではないか』『そもそも出場させて大丈夫なのか』などなど。それはもう大変な騒ぎになり、最終的に通常選手と同じように出場させて様子見することになったのだと、ファルシオン選手は頭を掻いた。


『まあ、自業自得なんですけどね。こういう大会じゃなくて、仲の良い選手と復帰戦でも組んでいれば、あんな騒ぎにならなかったでしょうし。……でも、ずっと前から決めてたんです。復帰の舞台はフリットカップにするって』


怪我を負う前に最後に戦っていた舞台。そして『最強』の称号を手にした舞台。それがフリットカップ。この大会はファルシオン選手にとって、特別な意味を持つのだろう。


『とは言え、心配は無用です。なので皆さん、特に男女混合の部の皆さん、全力でぶつかり合いましょう。むしろ全力で来てください。私はその為に戻ってきたんです。その為にいっぱいリハビリとトレーニングを重ねて──なんなら、あの時よりも強くなったんですから』


不敵な笑みが浮かぶ。そこには最初に見せていた緊張も、普通の少女としての顔もなかった。あるのは選手としての顔。そして最強の座に輝いた、頂点としての顔。


『さて。身の上話を交えたせいで、変則的かつ長くなっちゃいましたが、そろそろメインに入りましょう。そんな訳で宣誓です。──宣誓! 私はスポーツマンシップに則り、正々堂々、全力で魔導戦技に望むことを誓います!』


最強だった選手は告げる。全力を尽くすと。『私』はそうすると


『皆さんはどうですか? 全力で戦うと誓ってくれますか?』


──ワァァァ!!!


ファルシオン選手の問い掛けは、歓声をもって返答となった。その力強い叫びからは、例え言葉がなくとも伝わるものがある。明確な『応』という意思が。


『ありがとうございます!! ──それでは改めて宣誓! 私たちは、スポーツマンシップに則り、正々堂々全力で競い合い、この大会を素晴らしいものにすることを誓います!!!』


「「「「「誓います!!!」」」」」


その瞬間、会場の心は1つとなった。

かつて悲劇に襲われ、それでも尚魔導戦技を愛し、立ち上がってみせた不屈の少女。彼女を旗印として、大会開始の号令は数多の世界に伝わった。



──この日、近い未来において様々な意味で伝説となるフリットカップ地区予選が開催された。

まさかのアテナちゃんの宣誓で1話使う羽目に。それでもしょうがない。だってこの娘キーパーソン。


ちょっとした裏設定その1。

この世界には回復魔法は存在します。その効果も魔法的なもので、物理法則に喧嘩を売るような回復過程ですりなんなら部位欠損ですら一瞬で治せるレベルの人もいます。

じゃあ何でアテナちゃん魔法による治療受けられなかったのかというと、

単純に回復魔法の使い手がメタくそレア。

魔法の効果(物理法則を無視した超回復)的に患者の方に負担が掛かる。患者の負担は使い手によって前後するが、患者側の負担をほぼゼロにできるような達人は更にレア。

そんな理由がある為、魔法治療は患者に負担がいっても問題無いレベルの怪我or負担覚悟でもやらなきゃ死ぬレベルの怪我でしか使用できない。(アテナちゃんは重体ではあったけど瀕死レベルじゃなかった)

などの理由が挙げられます。

回復魔法の詳細な説明は、もしかしたら本編の方でやるかも。


裏設定その2

アテナちゃんが世界最強と言われながらトラックに負けたのは、彼女がただの選手だからです。一応、全力で防御すれば事故も軽傷で済みましたが、そもそもそんな不測の事態にスポーツ選手は対応できません。後あと、早朝ということでちょっと眠かった。そんな理由からほぼほぼ無防備な状態でトラックに突っ込まれました。……まあ、その経験から常在戦場の心得を習得してめっちゃ強くなったんですが。

なので逆に選手じゃない、ナナや機動隊メンバーなら訓練によって不測の事態もガッツリ対応できるので、トラックに突っ込まれてもかすり傷で済みます。……オーバーS? 例え爆睡しててもそれぞれ得意な方法で反射的に防いで無傷よ。

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