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第六十二話 見守る人

あと二・三話したらバトルラッシュになりまっせ。


それはそれとして先生とトレーナーって新米にゃ大変すね。

一部の機動隊メンバーからの通信を捌き終え、翌日。午前の授業を終えた僕らは、部室で集まってお昼を食べていた。

メンバーはシズクちゃんとセフィの毎度の3人。だけでなく、ルナ先輩とレイ先輩、ユーリ先輩もいる。何でお昼に部のフルメンバーが揃っているのかと言うと、昨日の通信が原因であった。


「いやまさか、機動隊の人たちからマンツーマン指導を提案されるなんてねぇ」

「本当ですよ。ナナから連絡が来た時は驚きました」

「でもスッゴイことですよねー! だって全員元有名選手ですよ!?」


そう。なんとゼクスだけでなく、ラティにバルム、ミューまで皆の指導に名乗り出たのだ。

何でそんなことになったのかと言うと、ゼクスが原因である。


「確か発端はレイ先輩なんですよね?」

「オレが原因みたいに言うな。ゼクスさんにそんな図々しいこと頼めるかよ」


シズクちゃんの質問に対し、レイ先輩は呆れながら首を横に振った。実際、レイ先輩とゼクスは顔を合わせてそんなに経ってない。それなのに個人的に時間を割いて練習を見てくれと頼むのは、図々しいと言えなくもないので、この反応は当然である。

という訳で、全ての事情を知る僕が説明しよう。昨日はもう夜だったし、個々で連絡してたからあんまり詳しい説明はしてないんだよね。


「昨日も軽く説明しましたけど、今回の話はぜーんぶゼクスが原因ですよ。アイツがラティに相談したのが切っ掛けです」

「相談?」

「そ。ゼクスは人付き合いがダメダメだから。プライベートでも指導をしようと考えても、色々悩みが浮かんだみたいで。やっても良いのかとか、迷惑じゃないかとか。で、よせばいいのにラティに相談しちゃったのよ」


当然ながら、ゼクスの相談はラティにとっては驚天動地の出来事で、それでいて愉快な話だった。『あのコミュ障が自分から人に関わろうとしてやがりますわ!?』とでも思ったのか、ゼクスの背中を押す裏で仲間内で情報を拡散。そこは暖かい目で見守ってやれよなぁとは思ったけれど、あのナチュラルSにそんな選択肢はある筈もなく。ついでに言うならあの二人は昔からの腐れ縁らしく(ゼクスがわざわざ相談相手に選ぶぐらいに親しい)遠慮がない関係でもあったからか、悲しいぐらいに拡散されてしまった訳だ。

で、『ゼクスがやって俺らがやらない訳にいかないよな?』とか、『1人だけがマンツーマン指導を受けられるのは不公平ですわ』とか、『乗るしかないこのビッグウェーブに』だとかを言い出したのが件の3人。正確には元選手陣の殆どが動こうとしたそうなのだけど、向こう側で(勝手に)話し合った結果がこの3人になったのだとか。

結果として、


近接ファイターのシズクちゃんは、同じく純正ファイターのラティが。


音と振動を使うセフィは、風と衝撃波を操るミューが。


天性の防御能力を持つルナ先輩は、現役時には不動とまで言われた防御技術を持つバルムが。


それぞれ名乗りを上げた訳だ。


「マジでその話聞いた時は、開いた口が塞がらなかったわよ」

「でもその割には、即答且つ食い気味で反応してましたよね?」

「「「「受けない訳がないです」」」」


おっと見事なハモリ。そんなになんだ。


「ナナは知らないかもしれないけど、全員現役の時は本当に凄かったんだよ? 魔導戦技好きの間じゃもう超が付く程の人気で」

「そうそう。私なんて、小さい時は何度も同じ試合を見返してたわ」

「私たちの世代だと、あの中の誰かに憧れて魔導戦技を始めたって人もいる筈ですし」

「実際、練習にあの人たちが顔を出した時とかマジでテンション上がったしなぁ」

「うーん。全く想像つかない」


僕にとっては、あのメンバーって完全に変わり者カテゴリーなんだよなぁ。あとは姉さんたちやベテラン組に扱かれまくってるイメージしかないし。……いや、世間一般的には十分強いんだろうけど、どうしても普段の姿と当時の人気だった姿が連想できないというか。


「まあ、アイツらが迷惑じゃないなら問題無いんですけど」

「迷惑な訳があるかよ。お陰で一層鍛錬に身が入るってもんだ」

「それは良かった」


話を持ってった手前、逆効果だったら目も当てられないしね。他の皆もレイ先輩と同意見なようで、ひとまず安心だ。


「んー、皆熱心なのは良いことだけど、しっかり休息も取らなきゃだめよー?」

「「「「んぐっ……」」」」


訂正。ユーリ先輩だけは、マネージャーとして少しだけ心配な様子。……まあ、釘を刺したら全員同じ反応をしたし、杞憂でないことが確定してしまった訳で。

はぁ……と溜息を吐く姿は、ルナ先輩とは違う方面でユーリ先輩も苦労してるんだなというのが感じられた。


「あのねぇ。もうフリットカップ、本番は目前なのよ? 熱が入るのは分かるけど、オーバーワークで故障したら目も当てられないわ。そんなの皆も嫌でしょう?」

「ま、まあな」

「だったらちゃんとメリハリをつけて、休む時はしっかり休む。休息だってトレーニングの内なんだからー」

「「「「はい……」」」」


ユーリ先輩からぶっとい釘を刺されたことで、皆のテンションが下がる、いや適切なレベルに落ち着いたというべきか。……このあたりは本当に流石だと思う。

このメンバーは全員が魔導戦技が大好きだ。口ではエンジョイ勢なんて言ってるルナ先輩ですら、それはもう熱心に魔導戦技に打ち込んでいる。その為、魔導戦技関係でヒートアップすると皆は止まらない。1人がヒートアップしても皆の基準も緩いから気付けないし、なんなら全員にそれが伝播して突っ走るなんてこともしばしば。

それを阻止するのがユーリ先輩の仕事なのだ。有り体に言うところのストッパー。勢いに任せて突っ走りそうになった皆に、冷水をぶっかけて冷静にさせるのが、マネージャー業と並ぶ彼女の仕事。魔導戦技は好きだけど見る専の為常に1歩引いた位置におり、それでいて部内での発言力はトップだからこそできる役割。

ユーリ先輩が駄目と言ったら駄目。少なくとも一端は冷静になって考えないと、いつも通りのニコニコ顔でじわじわ詰め寄られることになる。更に酷い時は無茶苦茶痛いアイアンクローも飛んでくる。実際、機動隊の元選手陣に指導を受けた後、興奮して自主練を延々続けようとしたレイ先輩がそうなっていた。アレを見て僕は『あ、ユーリ先輩ってそういう役割なんだな』と理解した。


「強化期間の約束その1。はい唱和ー」

「「「「「4と7の日は休息に当てる! ハードな練習は絶対禁止」」」」」

「約束その2」

「「「「「毎日睡眠をしっかり取る! 寝る前にストレッチも欠かさない!」」」」」

「約束その3」

「「「「「学業を疎かないにしない!」」」」」

「そ。コーチからはそれを条件に練習日を増やして貰ってるんだから、破るようなことはしちゃ駄目よー?」


『破ったら前までの練習日に戻すようコーチに提案するから』と続けられ、皆は無言で頭を何度も縦に振った。僕ですら本気でやるんだろうなぁと感じたのだから、僕よりもユーリ先輩との付き合いの長い皆は一層そう感じたのだろう。

皆の成長、ひいては試合の結果なんかよりも、健康や安全の方が大切だと言われてる訳だし、反論なんてできる筈もないし。


「どんな風に打ち合わせをしたのかは知らないけど、ちゃんと約束は考慮したものにするのよー?」

「「「「「はい(おう)!」」」」」

「あと、しっかりコーチに話を通して、ある程度の確認もとることー」


そうやってユーリ先輩に見守られながら、皆の練習はまた1歩先のものへと変化していくのだった。

どうしてもキャラが薄くなりがちなユーリ先輩の掘り下げ回。まあ大会ではセコンド役だしそこそこ出番は増える予定なのですが。


それはそれとして、もうすぐプロットの段階で思い描いていたシーンに辿り着くのです。

イメージ的には王道かつ胸熱。そしてナナ君の本当の見せ場その1になる予定です。

あとは私の表現力!

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