第六十一話 かくして変わり者たちは動き出す
かけたー。ふう。この調子で進めていきたい。
時間が経つのは早いもので、フリットカップはあと16日のところまで迫っている。毎日部活をやっている訳ではないけど、それでもこの訓練場を既に半月近く利用していると思うと、時間の流れの早さを感じる。
とはいえ、時間の流れはあくまで体感の話。単純に練習の量と質という意味では、かなりのものになっている。整った練習環境の中、タイプの違う圧倒的格上との全力の模擬戦と、コーチによる技術指導が毎回行われているのだから、得られる経験値はこれまでとは段違いだ。更に全員が熱心で、しっかりと自習練も重ねているのだ。これで伸びない訳がない。
僕目線では、全員が以前より数段上の実力になっているように感じる。今ならラクシアの一軍とだって十分以上に戦えるだろうし、セフィに至ってはラピスさん互角ぐらいにはなっているんじゃないかと。
「ふーん。それは良かった」
という感じのことを、夕飯を食べながらユメ姉さんへと報告する。
これもまた最近の日課で、部活が終わった日はユメ姉さんに報告することになっている。機動隊メンバーを臨時講師にするのはユメ姉さんの案なので、何かあったりした時に責任を持つというのが理由だ。まあ、単純に部の皆のことを気に入っている+僕の学校生活を知りたいからとも言っていたけど。
そんな訳で、今日あったことをメインに僕の感じるアレやコレを姉さんに話していった訳だけど。
「あの子たちの為になっているのは良かったけど、ゼクスは相変わらずかぁ……」
姉さん的にはウチ(機動隊)の問題児が一番引っかかったようだ。
「中学生相手に腰引けてるとか何やってんだか」
「それは同感。それさえなければ良い講師なんだけど……」
「指導のテンポが悪いのは流石にねぇ」
情けない同僚(部下)に2人揃って溜息が出た。
いや、助かってはいるんだよ? ゼクスは機動隊レベルの実力者ではあるし、元有名選手という魔導戦技の実績もある。それに本人も真面目だから、しっかりと指導する時は皆と向き合っている。だから皆からの評価は悪くない。むしろ凄い良い。
ただね、それはそれとして口下手だからテンポが悪いんだよ。会話で地味に時間が割かれるし、その場その場で指摘が飛んでこないから指導の質が悪くなってる気もするし。こう、細かいところで粗が目立つというか。
部の皆からすると、機動隊や元有名選手という看板もあるし、模擬戦を繰り返すだけでも十分に得るものがあるから高評価。逆に僕やユメ姉さんからすると、そういう看板が効かない為にもどかしく惜しいと感じてしまうのだ。
「ゼクスもさっさと上げたいんだけどねー」
特に上司であるユメ姉さんは、その気持ちが強いようだ。
それはそれとして気になること言ったね今。
「何? ゼクス昇進するの?」
「そういう訳じゃないんだけどねぇ。ただ個人的には上げたいなって。口下手さえなければ十分優秀だし」
そう言って肩を竦めるユメ姉さんを見て、なるほどと納得した。
基本的に機動隊は、正式に配属される際には最下級である二等兵からスタートする。世間一般でいうエリートの卵である士官養成学校の卒業生も、下士官に当たる伍長〜曹長の階級に着くことはない。生前成績優秀者が一等兵か上等兵になるぐらいだ。
何故かと言うと機動隊は実力主義であり、それでいて兵と下士官、士官が大きな区切りになっているからだ。簡単に纏めると、兵はヒヨっ子、下士官はベテラン、士官からが歴戦の強者or英雄。この壁を超えるには相応の実績と実力が必要となる。士官養成学校の卒業生が兵から始まるのもそういうことで、あくまで学校は士官になれるだけの素養を鍛える場所であり、そこから先は自分で獲得する必要があるからだ。……尚、例の如くオーバーSに関しては例外的な処置が取られたりする。完璧ケースバイケースなので説明はできないけど。
でまあ、話をゼクスに戻す。ゼクスは18歳で機動隊に入隊し、現在は6年目だ。階級は伍長で、一般的に兵から下士官に上がるには5年〜10年ぐらい掛かるので、若手の中ではまあ優秀な方である。
「実力も実績も申し分無し。同期のラティだって軍曹だし、早すぎるという訳でもない」
「後は口下手さえなければ、ってこと?」
「そういうこと」
なるほどねぇ。道理でゼクスの扱いだけおかしかった訳だ。幾らゼクスが残念なコミュ障だからって、普通は僕らの指導を職務に当てるなんて有り得ない。それが通ったのは、ゼクスを昇進させたいユメ姉さんの後押しがあったからという訳だ。オーバーSはその特別性故に階級以上の権限を保持しているし、下士官1人の職務を弄るぐらい容易いのだろう。
「ユメ姉さんにしては公私混同っぽかったから変だなぁとは思ってたけど、どっちかと言うと公の方が多かったのね」
「まあね。優秀な人材には相応の権限を上げたいし、そういう意味では今回の件は丁度良かったんだ」
「それであの荒療治ね」
優秀な者には相応の権限を。そんなユメ姉さんの考えに基づいて、ゼクスはこっちに回されたらしい。これでコミュ障が治れば良しで、そのまま出世。治らずとも改善が見られればまあ良し。改善されなかったら……見限られて当分出世は無しってところか。
「ゼクスも大変だ」
「他人事みたいに言うねー?」
「実際他人事だもの。僕は今のところ関係ないし?」
嘱託魔導師だから、そういう出世云々とはまだまだ無縁だしー。
──ピピピピピピッ
そんな風に肩を竦めていると、デバイスに通信が入った。
「通信?」
「うん。誰だろ……って、ゼクスじゃん」
「あらタイムリー」
話題の当人から通信が入ってきて、僕とユメ姉さんは揃って目を丸くした。
まあ、それはそれとして何だろ? えーと、空間ウィンドウを機動してと。
『……ナナか?』
「はいはい。ナナですよー。どしたのさ? ゼクスが掛けてくるなんて珍しいじゃん」
『……少し聞きたいことがあってな』
「聞きたいこと?」
そう問い返すと暫く沈黙の続き、やがて意を決したようにゼクスが話し始めた。
『……実は、アクシア君の連絡先を訊きたい』
「は? 何で?」
ちょっと予想外の言葉が飛んできて、思わずノータイムで返してしまった。いやでも、本当に何で?
「え、どうしたのゼクス? 頭打った?」
『……俺は至って正気だ』
「じゃあ余計に何でよ。お前、部隊内でも私的に連絡取る奴なんて滅多にいない癖に。何でレイ先輩の連絡先を?」
『……指導の件で話がしたい』
「指導?」
どういうことかと聞き返すと、ゼクスはぽつぽつと語り始めた。
『……今日言った通り、俺はアクシア君に可能性を感じている』
「言ってたね」
『……スタイルも近いし、魔導戦技にも熱心だ。とても好感が持てる』
「うん。言い方が怪しいけど、それで?」
『……少しばかり昔の自分を思い出してな。それで思ったんだ。彼女の力になりたいと』
「……へえ?」
『……部活だけでなく、自習練の時でもマンツーマンで指導したいと俺は考えている。そのことをアクシア君に伝えたい』
「ほーほーほー」
なるほどねぇ……? それであのコミュ障のゼクスが、自分からそういう話を持ち出してきたのか。中々とうして、愉快な心境の変化が訪れてるみたいじゃないの。
実際、少し前までのゼクスでは考えられなかったことだ。だってアイツ、周りの話を聞く限りだと、通信どころかメールすらプライベートじゃ全く送ってこないみたいだし。本当に仲の良い極々一部のメンバーが連絡して、漸く返事が返ってくるレベルらしいし。
そんな奴が僕に連絡してきて、あまつさえ交流を経て間もないレイ先輩の連絡先を自ら聞き出してくるとは。それだけゼクスの中で魔導戦技が大きなものなのか、それともレイ先輩との相性が良かったのか。いや両方かな?
まあ兎も角。理由としては真っ当で、ゼクスとレイ先輩の双方に益のある話ではある。なら僕としては止める理由も無い。……今日自分で訊いておけば手っ取り早かったろうにという言葉は飲み込んでおく。ゼクスにゃ無理だ。
「分かった。取り敢えず連絡先を教えて良いかは訊いてみるから、一旦切るよ。返事はメールで伝える」
『……恩に着る』
そうしてゼクスとの通信が終わった。じゃ、ちゃっちゃとやることやりますか。
「にしても、ゼクスがねぇ……」
「本当にびっくりだね」
レイ先輩に送るメールを送りながら、先程の通信についてユメ姉さんと話し合う。
「効果が有れば良いぐらいだったけど、まさか自分からこうも早く1歩踏み出すなんて」
「良い兆候じゃないの」
思惑を達成できそうな気配に、ユメ姉さんは上機嫌でカップに注がれたココアに口をつけた。それと同時に空間ウィンドウを展開している辺り、ゼクスの成長を加味した予定でも立てているのだろう。
そんなユメ姉さんを眺めて時間を潰していると、僕のデバイスに反応が起きる。
「っと、レイ先輩から返事だ」
「お、きたね。何だって? 私的には了承してくれると助かるんだけどなー」
「それは姉さんの都合でしょうよ。……まあ、是非頼むって返ってきたけど」
予想はしてたけど、レイ先輩の食いつきは凄まじいものだった。
既に述べている通り、元々部のメンバーの中ではゼクスの評価は高い。能力的にも人柄的にも信頼できる。それでいてレイ先輩からすれば、ゼクスは1つの完成系で到達点だ。そんな人物からプライベートでマンツーマンの指導の話が飛んでくれば、まあ食いついてくるだろうさ。むしろ断る方が有り得ないレベルだ。
「それじゃあ、ゼクスに大丈夫って伝えて……」
ついでにレイ先輩の連絡先も添付して……。良し。送信完了。
「後は野となれ山となれ。ゼクスがどんな風に話を持っていくのか、乞うご期待だね」
「あれ? ナナ君は間に入って調整しないの?」
「分かってて言ってるでしょそれ。何で僕がそこまで面倒見なきゃいけないのさ? というか、ここで人に頼るようならお話にならないでしょうに」
「まあねー」
そう頷きながら、ユメ姉さんはクスクスと笑い声を上げる。どうやらゼクスの件で余程気分が良くなったらしい。全くこの姉は……。
──ピピピピピピッ
なんて呆れていたら、またもやデバイスに通信が入った。
予想外の連続に、僕とユメ姉さん揃って固まる。
「……まさかゼクス? 本当に頼ってきた?」
「……いや、違う。これグループ通信だ」
「なんだぁ……」
最悪、というより救いようのない想像が僕たちの頭に過ぎったけれど、流石にそれが現実になることはなかった。
如何にコミュ障なゼクスと言えど、コミユニケーションにおいて超えてはならないラインというものはしっかり理解しているようだった。
……じゃあこんな時間に通信、それもグループ通信なんてものを掛けてくる人間は誰だって話になるのだけど……。
「ラティ、バルム、ミューの3人か……」
「また濃い面子から連絡がきたねぇ」
掛けてきたのは機動隊の若手組、その中でもゼクスと並ぶ変わり者たちだった。
「全く……。一体何の用なんだか……」
変なこと言われなければ良いんだけど。
何か機動隊のポット出のキャラで2話ぐらい使ってますけど、これはちょっとした助走みたいなもんで。メインはナナたちです。
それはそれとして、前に言ってたのコソッと今度置いとこうかなって気持ちに傾き気味です。そうなっても基本こっちが優先なんで、当分放置の亀の進みになりますけど。




