第六十話 強化練習期間
ギリギリセーフ。このペースで今後もいけたらなぁ。
あ、新章です。
僕企画のサプライズという名の強化練習初日から、暫く経ち。
「はぁぁぁっ!」
「ふむ……」
既にお馴染みとなった訓練場では、レイ先輩と本日の臨時講師である機動隊メンバーがぶつかり合っていた。
名前はゼクス・バークレー。元魔導戦技選手で、シズクちゃんたち曰く【雷光のゼクス】という2つ名が与えられた人気選手だったとか。……本人を知ってる身としては、その評価はなんとも微妙に感じるところ。いや、機動隊メンバーだし優秀なのは間違いないんだけどね?
ただそれはそれとしてというか……。
「ゼクス! ふむとかそれっぽいこと言って誤魔化してんじゃない! 余裕あるんだから指摘ぐらいしろ! いい加減マトモに喋れこの口下手!」
「「「ナナさん!?」」」
真横にいた皆がが何やらギョッとしてるけど、今はそれを無視して目の前の相手、気まずそうな顔で目を逸らすゼクスを睨み付ける。
現在、試合形式のルールでゼクスとレイ先輩が戦っている。それはゼクスが雷魔法のエキスパートで、レイ先輩にとって最高の相性だから。……少なくとも能力的には。
しかし、実際に蓋を開けたらコレだ。悲しいことに、本人の指導者としての資質が低いこと低いこと。さっきからゼクスは見事にレイ先輩の攻撃を捌いている。でも捌いているだけなのだ。それっぽく『ふむ……』とか『うむ……』って呟いているだけで、アドバイス1つしやしない。いや正確に言うと、しようとしはしてるんだけど口をまごつかせるだけで終わる。
あの男、雷光なんてカッコイイ2つ名がついていて、ついでに見た目もクール系のイケメンの癖して、極度の人見知りでコミュ障なのだ。
じゃあ何でそんな向いてない奴が指導者なんてやってるんだって話になるんだけど、まず単純にゼクスが元選手(それも優秀な)だけあって魔導戦技が好きだと言うことと、レイ先輩の師としては最高だと言うことが1つ。その上で1番大きな理由として──
「お前のソレ治すよう姉さんたちからも言われてんだから! さっさとやれこのタコ!」
コミュ障を治せという上官命令が下っているのである。
……いやね? 普通はこういう性格的な部分の矯正なんて、機動隊じゃしないんだけどさ。ゼクスのはちょっと度が過ぎてるんだよねぇ。職務中の意思疎通はできるし、必要とあらば民間人への聞き取りとかもできるんだけど……。それ以外はマジで駄目。普通のコミユニケーションは円滑に進まないし、新人とかが入ると慣れるまでギクシャクするんだ。
で、見兼ねた姉さんたちが、訓練ついでに送り出した結果がコレ。他の機動隊メンバーは休憩やら休日やら、空いた時間にこっちに来るのに対して、ゼクスは特別に職務扱いなってる程だ。まあ、流石に馬鹿正直に『コミュ障治療』とは言えないので、建前上は『前途ある地域学生との交流兼該当隊員の指導能力の向上を図る試験的な試み』となっている。僕はその監督役だ。
そしてだからこそ、僕もゼクスに対しては割と厳し目というか、部の皆に断りを入れた上で機動隊時の意識で接しているのである。
「……毎度思うけど……」
「ナナ、普段と違い過ぎませんか?」
そのせいで普段の僕とのギャップに皆が戸惑っているけど。お陰でちょっと気まずい。
「ふふ。そう驚いてあげなさんな。ナナも別に好きで口調を荒くしてる訳ではなくてよ?」
そんな僕の様子を見兼ねたのか、もう1人の臨時講師のラティ、元有名選手で【鉄拳のラティ】という二つ名を持つラティ・マルシェから助け舟が出された。
「普段は兎も角、今のナナは水無月大尉とアストレア少佐から、ゼクスの監督役を任されてますからね、一時的とはいえ上官の立場ですわ。上官が不甲斐ない部下を叱咤するには、多少の暴言も必要なんですわ」
「そうそう。僕だって不本意なんだよ。そういうのは僕よりもこっちのなんちゃってお嬢の方が──」
「ぶん殴りますわよ?」
「──普通にゼクスより階級が上のラティの方が適任なんだけど」
ドスの効いた声で脅され、本音から建前へと路線変更。……そんなんだからなんちゃってお嬢なんて渾名がつくんだよなぁ。
ラティ・マルシェ。機動隊における階級は軍曹で、機動隊の若い世代の中では比較的偉い方。オーバーSという化け物カテゴリーの姉さんたちを除外した一般枠なら、十分に優秀と言える才媛。それでいて生まれは名家という生粋のお嬢様で、口調はキャラ付けではなく素。……が、機動隊という関係で荒っぽくなり、本人の気質がドがつくほどのSな為、機動隊内の通称が【なんちゃってお嬢】という残念な人物だ。ぶっちゃけゼクスとどっこいどっこいである。
まあそれでも、階級はゼクスの伍長より上で(建前)、気質的にも暴言や毒を吐くのに抵抗がない為(本音)、僕よりずっと監督役に向いてるんだけど……。
「わたくし、本日は休日ですので」
残念なことに、オフの彼女に職務は任せられないのである。逆に僕は、嘱託なので依頼されれば普通に務められるのでこうなった。
「っと、ナナ。向こうが一段落したようですわよ?」
「ん? あ、本当だ」
色々話しているうちに、ゼクスとレイ先輩の組手が終わっていた。
「じゃあ僕はあっちに行くから」
「はいはい。それじゃあ皆さん、休憩は終わりですわ」
「次は順番にラティさんと組手。空いてる2人は私のところで強化魔法の練習よ」
「「「はい!」」」
ラティとコーチに連れられ、シズクちゃんとセフィ、ルナ先輩が離れていく。僕は僕で、ゼクスにツッコミを入れる仕事がある為別行動だ。
現在、僕たちの部はこんな感じで活動している。日替わり臨時講師(機動隊メンバー)と順番に組手、空いてるメンバーはコーチに技術的な部分を見てもらうといった風に。ただゼクスは職務扱いで例外的に頻繁に顔を出しているので、ローテーションでマンツーマン指導となっている。マンツーマンなのはゼクスのコミュ力の問題である。
……んー、練習としては悪くないんだけど、コミュ障の治療としては微妙なんだよなぁ。
「そこんとこどう思うよゼクス?」
「……スマン」
「スマンじゃないんだけど……」
そこはせめて頑張るとか言おうよ……?
「はぁ。駄目な講師ですいませんねレイ先輩。あと組手お疲れ様です」
「お、おう!? ……いや、全然そんなことないが!? 組手して貰えるだけでも十分勉強なってるぞ!?」
うん。それは否定しないですよ。ゼクスはスタイル的にも実力的にもレイ先輩の完全上位互換ですし。実際に手合わせするだけでも得るものは多い筈です。でもね?
「言外に『組手してるだけ』って言われてるんだけど、情けなくねえのゼクスさん?」
「……不甲斐ない」
「うおい!? 今のは言葉の綾だぞ!?」
レイ先輩が何やら慌てているが一旦無視。別に揚げ足取って貶めようとしている訳ではなく、僕は単純にこのコミュ障を問い詰めているだけなのだ。
「あのさゼクス。僕も姉さんたちもさ、別にプライベートでペラペラ喋るようになれとか、訓練で本職並の指導ができるようになれとか、そういうのは求めてないのよ? ただ軽い雑談したり、組手中に駄目なところの指摘ぐらいはさ、できるようになろうって言ってんの」
「……一応、気になる点は記憶している」
「それをその場で口にしろって言ってるんですがねぇ!?」
そこまでできてんなら後は喋るだけでしょうが! そりゃ後から纏めて指摘するのも指導方法の1つだろうけど、お前の場合は口に出せないだけって知ってるかんな!
「ったくもう。何でレイ先輩でも言葉に詰まるかなぁ……? 話易さでは僕を除けばこの部で1番でしょうに」
「……まあ、な」
戦闘スタイルはそっくりで、才能だってある方だ。素直に指導は聞くし、魔導戦技に熱心に打ち込んでいる。指導する側としては相当に楽な部類だろうし、それを取っ掛りにすれば雑談のハードルもかなり下がる。
それでこの体たらくってのは、流石に駄目過ぎる。
「……確かに、アクシア君は才能がある。粗は目立つが磨けば光る。このまま練習を続けれは、フリットカップでも良いところまで行くだろう」
「本当ッスか!?」
「……う、うむ。保証しよう」
「そこで身を引くなっての」
スパンとゼクスの頭を叩く。女子中学生に詰め寄られたぐらいで、逃げるように身体を反らすな。成人男性としてはその対応は間違っちゃないけど、今の状況でのその動きは明らかに近付かれてビビったろお前。
「本っ当、先が思いやられるよ。……マジで大丈夫なんだろうね?」
「……問題ない。今でも土台は十分だ。これから仕上げていけば、トーナメント次第だが都市本戦にも届くだろう」
「マジっすか!?」
「……、お、おう」
「だからそこで身を引くな!」
学習しないなお前はぁ!? コミュ障も大概しろよ本当!? レイ先輩なんて今日が初対面じゃねえだろ!
「頼むよ本当に……。時間だってあんまりないんだから」
「……うむ。最大限の善処はしよう」
「なるほど? つまり今の指導方法でも都市本戦に届く程度のところを、しっかり指導してそれ以上を目指すって解釈でいいのな?」
「……ハードルを上げないでくれ」
「いやそこは『問題無い』って断言しようよ」
何でそこでヒヨるんだお前は。
「はぁぁぁ……。まあ兎も角、本当に頼んだよゼクス。レイ先輩は勿論だけど、しっかり皆の指導お願いね?」
なんてったって、フリットカップまであと2週間近くしかないんだから。
因みにゼクスにツッコミを入れてるナナ君ですが、しっかり練習はしてます。
基本的に、ゼクスがいない日は皆と同じメニューを。いる日はメニューをこなしながら監督役をやってる感じです。ナナ君の場合、元の実力が機動隊レベルなので半分講師というかサポート役になってる。本人も魔導戦技の勝ち負けはそこまで気にしてないし。
因みにナナ君の口調は
普段<機動隊<事件現場or犯罪者と対峙<ブチ切れ
って感じで荒くなっていきます。
機動隊モードは口調的にそうでもない方ですが、それでも普段とのギャップが凄いので部のメンバーからは『ナナさん』呼ばわりされてます。




