第五十九話 かくして産まれた三角形
いやー、難産したわ。お陰で前回述べた通り、ストックが無くなりました。この辺りはちょっと全体のプロット的に中弛みの位置なんで、筆が中々……。
ただ一応、これまで通りのルールで更新できるように努力していく予定です。不定期更新にゃせんぞー!
姉さんたちを交えた練習から数日が経った。あの日以降、練習は常にあの訓練場を使い、ついでに暇してる且つ魔導戦技に興味のある機動隊メンバーが顔を出すようになった。
お陰で練習内容は充実してきたと思う。姉さんたち程のインパクトは無いにしろ、他の機動隊メンバーもまた歴戦の強者たち。彼等の指導は、部の皆にも良い影響を与えている筈だ。
……とまあ、ここまでが部活としての変化である。それと同様に、個人的な変化もまたあの日を境に起こっていた。
それは勿論、セフィのことだ。
あの日、ロア姉さんからとんでもない事実を教えられて以降、僕とセフィの、いやシズクちゃんを踏まえた僕たち3人の関係は変わった。と言っても、ギクシャクしてるとか、そういう悪い風には変わっていない。むしろ、より親密になったというか……。
「ナナ。この前話した通り、お弁当を作ってきましたよ」
「私も! 是非食べて感想を聞かせて欲しいな!」
……変に距離が近くなったというか。
具体的に言うと、僕の為にお弁当を手作りして持ってきてくれるようになった。
「改めて思うけど、また随分変わったねセフィ」
「そうですか?」
「そうだよ」
僕が今ぱくついているこのお弁当が、何よりの証拠だよ。こんなこと前までは絶対にしなかったでしょうに。
いや、理由は一応聞いたけどさ。
「色々と気にかけてくれるのは嬉しいんだけど、本当に気にしなくて良いんだよ? だってそれが仕事な訳だし」
「そういう訳にもいかないでしょう。命の恩人なんですから」
「うーん平行線……」
僕が命の恩人だと発覚してから、セフィはこうなってしまった。恩返しと言いながら何かと世話を焼いてくれるようになったのだ。……お弁当を作ってくれたのだって、僕が大食いなのを知っていたセフィが、『そう言えばナナって凄い食べますよね? お昼それで足りるんですか?』と僕のお弁当(ユメ姉さん印の普通サイズ)を見て言ったのが切っ掛けだ。なんやかんやの押し問答を経て、セフィがお弁当を作ってくれることになったのである。シズクちゃんがそこに加わったのはご愛嬌だ。
他にも放課後に授業で分からないことがなかった確認しにきたり、部活中にサラッと飲み物を渡してきたりと、甲斐甲斐しいことこの上ない。
僕としてはこういうのは落ち着かないのだけど、何度言っても戻らないので困っている。
「諦めてねナナ。セフィって結構頑固だから」
そして僕よりも余程セフィに詳しいシズクちゃんがこう言っているのだから、多分何を言っても無駄なんだろう。
「それにしてもシズク。貴方のお弁当上手くできてますね」
「えへへ。そうかな? ちゃんと練習したからねー」
「その意気ですよ。料理を覚えるのは早い方が良いでしょうし。今回の件は良い切っ掛けでしたね」
「うん。こうやってナナに食べて貰えるなら、セフィの提案に乗って良かったよ」
というか、シズクちゃんは割とセフィ側というか、上手い具合に味方に付けられているのでどうしようもない。
いや、最初はシズクちゃんもセフィの行動に難色を示してたんだけど、完全にセフィの方が1枚上手だったんだ。僕の世話を焼くのと同時に、シズクちゃんのサポートをするようにして認めさせたんだもん。
僕の口から言うのは少しアレだけど、そもそもシズクちゃんが難色を示したのは『嫉妬』からだ。セフィがあれこれ僕の世話を焼こうとするのは、例えそれに恋愛感情が伴っていなくても穏やかではいられないようだった。一周まわってセフィの態度が使用人とかそのレベルになっていたら、シズクちゃんも戸惑いの方が勝っていたんだろうけど、幸か不幸かセフィの態度自体はこれまでと大して変わらなかった。それが余計にシズクちゃんの心を荒立てた訳だ。
しかし、セフィは上手かった。僕の世話を焼くだけでなく、そこにシズクちゃんを絡めることで僕たちの距離をグッと縮めにきたのだ。
今回のお弁当を例に上げると、セフィは自分一人がお弁当を用意することはせず、シズクちゃんにも作るように持ち掛けた。合法的に僕に手作りの料理を振る舞え、尚且つ今後も似たようなことを可能とする口実ができると言って説得したのである。そして、僕は僕でシズクちゃんも混ざっさことで、セフィの提案を断ることができなくなった。
こんな感じで、セフィはシズクちゃんにも積極的に利を齎す提案を繰り返し、最終的にシズクちゃんを丸め……オホン。味方に付けることに成功したのである。
「んぐんぐ。……お陰で周りの目が痛いこと痛いこと」
「それでも箸を止めないあたり、本当は大して気にしてないですよね?」
「いやお弁当に罪は無いし? 残すのは失礼だし、なによりコレ美味しいもの。特にアスパラの肉巻きが最高」
「本当に!? それ自信作なんだ!」
僕の感想に製作者が満面の笑み。うーむ、色んな意味で男冥利に尽きること。
「因みにセフィのお弁当だと、このBLTサンドが好き。胡椒とレモンのドレッシングが凄く合ってる。多分これドレッシング自作でしょ?」
「……人が一番力を入れた部分をピンポイントで褒めるあたり、本当に流石ですね……。相変わらずの口説きスキルです」
「単に美味しいものを美味しいって言ってるだけだよ?」
何でもかんでもそっち方面に持ってかないで?
しかし返ってきたのは溜息だった。解せぬ。
「はぁ……。そうやって臆面も無く人を喜ばせるようなことを言うから、余計に周囲の視線が痛くなるんですよ?」
「元凶がそれ言うかな?」
理由はともあれ、キミが世話を焼き始めたのが全ての切っ掛けなんだけどね? お陰で僕、素直に好意を向けてくる娘1名、なにかと尽くしてくれる娘1名っていうトンデモ状態になってるんですが。何処のラブコメ主人公ですかって話よ。
「一応僕とシズクちゃん、クラス内では公認の関係だったんだよ? そこにセフィが加わったことで『すわ幼馴染みによる三角関係か!?』みたいな噂まで流れてるんだから」
「まあ、傍から見れば私が横恋慕しに参戦したみたいですからね。地球世界風に言うところの、火のないところに何とやらですよ」
「火が何か言ってる……」
何でキミはそんなに堂々としてられるの? 立ち位置的には、キミが1番よろしくない場所にいるんだけど。
「良いんですよ。どうせ今後はこの感じで行くんです。いちいち気にしてたらキリが無いです」
「開き直ってるなー……」
まあ、言いたいことは分かるけども。セフィさん、全然意志を曲げる気無さそうだし。
「ぶっちゃけ、噂なんてどうでも良いんですよ。シズクさえ気にしなければ私はそれで。ね、シズク?」
「え? あー、うん。最初は確かにちょっと嫌だったけど、今は別にかなぁ。セフィの性格的に、少しでも恩人にお礼がしたいっていうのも分かるし。……あのトラウマの深さを考えると余計に」
以上が、昔っからセフィを知ってる幼馴染みの証言でした。
「……さようですか」
言い方は大変アレだけど、セフィの行動による1番の被害者(推定)がそう言うのなら、僕としては何も言えないんだよねぇ……。僕の方は周囲の視線以外に害らしい害は無いし、セフィの気持ちも分からなくもないから。全力で止めようとは流石に思えないのですよ。
という訳で、内心はどうあれ3人それぞれが現状を容認したので、僕たちの関係は今後はコレで行くことになるんだろうなぁ。……色んな意味で不安はあるのだけれど。
「まあ、アレだよね。私もよーく考えたんだけど、セフィがナナのお世話をしても、私の気持ちと覚悟は不変だもん。もしもコレでセフィが今後ナナに惹かれていったとしても、私がナナを好きなことには変わりないし、ナナの1番の譲る気も無い。だからその時は、正々堂々と勝負して勝つ。それだけ」
「……あの、シズク? 色々と勇ましい宣言をしているところ悪いのですが、まずその『もしも』の時点で有り得ないので。私、魔導戦技では自他ともに認めるシズクのライバルですが、そっち方面でシズクのライバルになるつもりはありませんよ?」
「……えー? さっきサラッとナナに美味しいって言われて喜んでた宣言してたし、絶対とは言い切れないと思うんだけど」
「…………ッ!?!? アレは言葉の綾ですよ!?」
「ふーん?」
……何か本当に色んな意味で不安だなぁ。
以上で3章終了。次回はフリットカップ編!
因みに前回の後書きで匂わせたアレ、単にこれの連載始める前から気が向いたらやってたので、本格的な横道にゃなりません。(まだ10話分ぐらいしかやってないし)
今は部活録優先。現段階でのラストである7章まで書き上げるまでは逸れたりしません。(やるにしても気分転換程度に軽く触れるぐらい)。まずは完結、これ優先。
……それまで殆ど更新しないでも良いなら、リメイク版を出すだけ出しておくのも吝かではないですが。こう、いつかやりますよっていう証拠的な感じで。
まあその辺りは皆様の反応次第ってことで。
是非って方はコメントで。
うるせーエタるかもしれん奴をコレ以上増やすなor変な期待させんなって方はクッソマイルドでオブラートに包んだ感じのコメントで。
おなしゃす!




