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少年魔導師の魔法スポーツ部活録〜これでも最強戦闘組織に所属してます〜   作者: みづどり
第三章 フリットカップに向けて
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第五十六話 救った者、救われた者

2時間はロスタイム。イイね?

今回はちょびっとシリアス。尚ヘヴィな内容ではない。

さて、本日の活動が終了し、現地解散と相成った訳だけど。僕たちにはまだやるべきことが残っている。


「それじゃあお話しましょうか」

「は、はい!」


そう。セフィとロア姉さんの対話だ。

そんな訳で、当事者であるセフィとロア姉さんを含めた1部のメンバーが居残りだ。今この場にいるのは、見届け人として親友のシズクちゃんと、そして仲介人である僕とユメ姉さんの計5人。コーチや先輩たちは、プライベートな話を立ち聞きする気は無いと言って帰宅した。相変わらずの気遣いである。


「えっ、と、あの……」


……実際問題、皆の気遣いがなければセフィの痴態を目の当たりにされていた訳で。本当にナイス判断じゃないかと。

そんな風に思ってしまうぐらい、セフィの緊張は酷いものだった。普段の飄々とした雰囲気が嘘かと思えるぐらいにガチガチで、見ているこっちがもどかしさでどうにかなってしまいそうだ。


「セフィちゃん。少し落ち着きなさいな」


見かけたロア姉さんが、宥めるようにゆっくりとセフィに語り掛ける。

セフィの様子から、真剣な話だということは理解したのだろう。ロア姉さんは吃るセフィを笑うことも、呆れることもしなかった。しっかりと向き合って、彼女の言葉を引き出そうとした。


「これから話そうとしていることは、セフィちゃんにとって大切なことなんでしょう。緊張するのもなんとなく分かるわ。でもね、力は抜いて良いの。私はどこにもいかないし、ちゃんと貴女の話を聞くのだから。身構える必要なんて何処にもないのよ」


まるで幼い子供に言い聞かせるように、ロア姉さんは言葉を紡ぐ。その声色は優しく、傍から聞いているだけで何処か心が落ち着くように感じる。……相変わらず手馴れているなぁ。職業的にパニックになってる人と接する機会も多い為、ロア姉さんは、というよりも機動隊メンバーはこういう時の対応が上手いのだ。

声や表情、時には身振り手振りまで交えたソレは、もはや1つの技術と言って良い。そして歴戦の機動隊隊員であるロア姉さんには、パニックになった多くの人々を正気に戻し、リラックスさせてきた実績がある。

セフィもその例に漏れず、ロア姉さんの優しい話術によって段々と緊張が解れていく。


「はい。一旦深呼吸」

「……すぅ、はぁ」

「落ち着いた?」

「はい」


そして最後の仕上げの深呼吸を終えた頃には、普段通りの凛としたセフィが立っていた。


「お手間をお掛けして申し訳ありませんでした」

「ふふ。大丈夫よ。手間だなんて思ってないもの」


頭を下げるセフィに対して、ロア姉さんは柔らかく微笑む。その言葉に嘘は無いのは、誰から見ても明らかであった。

だからこそセフィも、もう一度小さく頭を下げた後は、それ以上謝罪を重ねることはしなかった。

そして遂に、本題に入ることになる。


「ロア・アストレアさん」

「はい」

「2年前、私は貴女に命を救われました」

「……2年前……っ、もしかして、あの展望台の?」


セフィの宣言に対して、ロア姉さんはどうやら心当たりがあった様子。


「そうです! あの時に助けて貰った者です!」


そしてそれは、どうやら当たりらしい。まさかこんな直ぐに思い出して貰えるとは思ってなかったのか、セフィも興奮した様子で声を上げた。


「まさか憶えて頂けてるなんて……!」

「たまたまよ。セフィちゃんの顔を見ていたら、たまたま思い出しただけ」


……いや、絶対違う。今のところ、セフィから出た情報って『助けられたのが2年前』ってことだけだもの。幾らオーバーSの立場故にロア姉さんの出撃回数が少ないとは言え、たったそれだけの情報でセフィのことをドンピシャで当てるとか、偶然でできることじゃない。並外れた記憶力と察しの良さが齎した必然だろう。

それぐらいロア姉さんは優秀で、


「あの時、爆発と炎のせいで動けなくなっていた私を、窓を突き破って助けに来てくれて……! あの時のロアさんの背中は、今でも鮮明に憶えています」


だからこそ頼もしいのだ。

その時の光景を思い出すように、セフィは目を瞑る。きっとそこには恐ろしい光景が写っているのだろう。恐ろしい轟音の伴う爆発。黒煙を撒き散らしながら燃え狂う炎。

僕のはただの想像だ。セフィから詳しく話を聞いた訳ではない。ただなんとなく、今のセフィの台詞からイメージしただけ。

だがそれでも分かることがある。死を覚悟したその瞬間に、駆け付けてくれるその姿を。絶対の安心感を与えてくれる、その頼もしい背中を。オーバーSの証である金の刺繍があしらわれたコートをたなびかせ、不敵に笑う英雄の姿を。

結局のところ、僕のイメージではあるけれど。それでもセフィが憧れるのも無理はない。わざわざもう一度会って御礼がしたいと願うのも無理は無い。

それほどまでに、ロア・アストレアという女性は英雄だった。


「大変遅くなりましたが、あの時言えなかった御礼を言わせください。……助けてくれて本当にありがとうございました!!」


そう言って、セフィは深々と頭を下げた。

2年越しの御礼。言葉にすればそれだけだけど、そこに込められた想いは傍目から見ても途轍もない。……但し、決して重いと感じるようなものではない。

似たような経験(ロア姉さん側)があるから分かるけど、こういった御礼というのは受け取る側ですら心が揺れる程の熱量が込められてるもの。命の礼というのはそういうものだ。なにせその人の人生が熱量となって変換されるのだから、生半可なものではない。少なくとも、御礼をする側が本気ならば、そこに込められた想いは凄まじい熱を持つだろう。


「……こちらこそありがとう、セフィちゃん。元気な姿を見せてくれて、本当に嬉しいわ」


だからこそロア姉さんは、いや受け取る側である僕たちは、その熱量に真摯に応えるのだ。

ロア姉さんの言葉は、機動隊の総意と言って良い。その時から現在に至るまでの時間。その人が積み重ねてきた日常。それこそが僕たちが命を張った証であり、元気な姿というのは僕たちにとって最も尊いものである。


「助けられた人が平穏な日々を送れている。そのことが知れただけで、私たちは頑張れる」


救えなかった者がいる。守れなかった者がいる。犠牲になった者がいる。被害者にも、そして仲間にも。多くの隊員が何度絶望に打ちひしがれて、己の無力を嘆いたことか。

そんな中での数少ない光明。それこそが、かつて助けた者たちの平穏なのだ。彼ら彼女らの日常が、笑顔が、僕たちの戦いに意味を与えてくれる。無駄じゃなかったと教えてくれる。


「ありがとうねセフィちゃん。貴女の元気な姿は、私にとっての何よりの報酬よ」

「わっ、……は、はい」


だからこその『ありがとう』。セフィにとってはこれは一方的な御礼なのかもしれない。しかし、ロア姉さんにとっては、機動隊隊員にとっては、セフィの行為は同じぐらい有難いことなのだ。


「……何度見ても、良い光景だね」

「全くだよ」


優しくセフィを抱きしめるロア姉さんを見ながら、僕とユメ姉さんは笑い合う。

うん。本当にこういうのは、何度見ても良い光景だよ。力及ばずに零れ落ちてしまったモノが多い程に、この瞬間は報われると感じてしまうのだから。そういうのが比較的少ない僕でさえ、この光景には心が震える。


「……ううっ……セフィ、よかったね……」


そしてシズクちゃんもまた、目の前の光景に涙を流していた。僕たちが感じているものとは違い、セフィの心情を想っての涙だろうが。……まあ、感じるものは違えど、心を打たれていることには変わりない。

今はただ、素晴らしいという気持ちで、この光景を頭の中に刻んでおこう。

実はこの話、本来なら1話のところ2つに分割してます。

理由は次回。

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