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少年魔導師の魔法スポーツ部活録〜これでも最強戦闘組織に所属してます〜   作者: みづどり
第三章 フリットカップに向けて
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第五十四話 英雄ブートキャンプ(大英雄VS英雄)

残基1。ギリギリを生きる。


セフィ視点です。

「変なハードルの上げ方されたぁ……」


皆の見ている前で、ナナはそんな風に嘆いていました。

個人的な意見としては、ナナの反応は予想通りのものでした。選手としては闘争心が薄く、実力はあれどそれを誇ることもしない。それがナナに対する印象でしたから。

ぶっちゃけてしまうと、ナナが機動隊の嘱託魔導師と言われても、あまりピンときていませんでした。いや、強いのは分かっていましたよ? 重ねがけだって指導して貰いましたし、本来のナナの実力が私を上回っていることは、しっかりと理解していました。

ただそれを踏まえた上で、普段のナナのイメージが強過ぎて『機動隊嘱託魔導師の水無月ナナ』と言われても、あまり違いがイメージできなかったんです。

でも、


「これは……」

「……おいおい、マジか……」

「あらまぁ……」

「うっそ……」

「うわぁ……!!」

「……とんでもないですね……」


その光景は私の中の『ナナ』というイメージを見事に叩き壊しました。


姿を捉えることすらやっとな速度で動き回るその姿は。


普段のマイペースな様子とはかけ離れた鋭い表情で、状況の把握に務めるその姿は。


私たちのトレーニングの倍近い数、速度の魔法弾を前にして、1歩も引かずに立ち向かうその姿は。


魔導戦技のルールでは不可能な規模の魔法を放つその姿は。


決して『選手』という言葉では片付けられるものではなく。ましてや『学生』でもなく。彼が私たち市民の平和の為に戦う『戦士』なのだということを、ありありと見せつけられたのです。


「どう? うちの秘蔵っ子は凄いでしょ」


目の前の光景に圧倒されていた私たちに、ロアさんは誇らしげな様子でそう言ってきました。

秘蔵っ子。ナナがロアさんの弟分だとか、そういった身内故の諸々を抜きにしても、その言葉が事実であることは明らかでした。

なにせあまりにもレベルが違うのです。ナナが私たちの中の誰よりも強いというのは、色々な出来事から理解していました。ですが、実際は私の想像の遥上をいっていました。

目の前では、数えることすら諦める量の魔法弾を、全てを紙一重で回避し、叩き落とし、炸裂魔法で一掃するナナの姿が。


「何であんな的確な対応ができるのよ……!?」

「全ての魔法弾の種類を瞬時に把握してるから、かしらね」


ロアさん曰く、軌道の変化が少ない【速度】と【威力】は紙一重で回避して消耗を抑える。【操作】は回避するよりも迎撃することでイレギュラーを潰す。そしてどうしても回避ができない時は魔法で一掃という選択肢を取っているのだとか。

その根底にあるのは、正確かつ高速な魔法弾の判別能力と、それに伴う弾道予測。視界に入る全ての魔法弾を瞬時に判別しているからこそ可能な超絶技能。それは正しく、私たちの目指すべき先。

……今にして思えば、ラクシアでの対シエラさんの感想が事実であったことが分かります。あそこまで的確な判断能力だと、シエラさんでは手も足も出ないでしょう。レイ先輩にやったような不意打ちは通用せず、ただ淡々と距離を詰められていく光景が容易に想像できました。

そして同時に理解しました。高レベルな魔法弾の判別能力は、それだけで遠距離型の選手を追い詰める武器になると。ラピスさんのようは範囲攻撃持ちを除けば、このスキルだけで優位に立つことができる程の、可能性を秘めていることに。


「これは是非ともあのレベルまでいきてぇな……!」


レイ先輩も同じ思考に至ったようで、力強く呟いています。シエラさんに煮え湯を飲まされた分、その気持ちはこの中の誰よりも強いのでしょう。

そんなレイ先輩の様子に、ロアさんはクスクスと笑みをこぼします。


「ふふっ。熱くなるのは結構だけど、まだまだこれからよ?」


その言葉は事実でした。


「えっ……!?」

「まあまあ……」

「何であれを躱せるんです!?」


目の前で起こった出来事に、思わず声が上がりました。

躱した魔法弾が後方で反転し、再びナナに襲い掛かったのです。しかし、ナナは真正面を向いたまま見事に躱してみせたのです!


「アレはまず、後ろに行ったのが【操作】の魔法弾だということを理解してて、警戒を怠ってなかったのが理由その1。で、真後ろからの攻撃をノールックで回避したタネだけど、実はあの子放出した魔力を常に纏ってるのよ。自分の支配下の魔力で半径3メートルぐらいの空間を満たしてるから、何かが通過すれば分かるの。……まあ、魔力制限のルールに引っ掛かるから、魔導戦技じゃ使えない技だけどね」

「なんとまあ……」


ロアさんの解説に、全員が唖然とします。

言ってる内容は分かります。理屈としても理解はできます。ただ、そんな方法を実行できることが驚きなのです。

意図的に散布した魔力を利用した感知技術。魔力の消費は勿論ですが、それ以上に有り得ないのが魔力操作のレベル。普通、そんな風に放出した魔力を周囲に留めることなんてできません。いや正確に言えば、不可能ではないですが他の魔法が使えなくなります。

なにせ数メートル規模で魔力を纏うということは、常に魔力を操っているということ。そんな状態で他の魔法を使うということは、同時に左右の手で別々の精巧な絵を描くことに等しい神業。

しかしながら、ナナは炸裂魔法による移動や迎撃を繰り返しているのです。同じ選手、いえこの場合は魔導師として、有り得ないと断言しましょう。


「……涼しい顔して、とんでもないことやってんだなアイツ」

「やっぱりナナは凄いですね!」

「……今回ばかりはシズクに全面的に同意するわ。私レベルじゃもう訳分かんないし。てか、普通に考えたらあの弾幕の時点で為す術なしよ」


ルナ先輩の言葉は、私たちの総意でもありました。

そもそもからして、あの数の魔法弾を捌けることがおかしいんですよ。あのレベルになってくると、魔法弾の種類とか関係ありませんもん。雨粒を避けるようなものですよ。


「そこは単純に強化の違いねぇ。注ぎ込む魔力に差がある分、諸々の身体能力が桁違いになるから」

「そんなに違うんですか?」

「ええ。皆が馴染みあるのは、魔力消費が300とかその辺りの強化でしょ?」

「はい」

「で、ナナが今使ってるのは、動き的にウチの訓練時の規定よりは下って感じだから……大体5000ぐらい?」

「ごせ……!?」


サラリと告げられた事実に、今度こそ全員が絶句しました。

使用魔力5000。それは成長し始めたシズクの全魔力量に等しい。私の場合でも8割近くとなる膨大な量です。

それをたった1度の強化魔法に注ぎ込むなど、普通に考えれば正気の沙汰ではありません。単純な魔力量は勿論、魔法そのものの難易度すらとんでもないことになります。そもそも魔法というのは、使用魔力が増えればそれだけ難易度、魔法領域に掛かる負荷が増大するのです。使用魔力5000の魔法など、一切の冗談抜きで大魔法に分類されるレベルです。


「……因みにそれって、強化的にどれぐらいのレベルなんですか?」

「そうねぇ……分配の仕方によるけど、反応速度とかならライフル弾ぐらいは余裕で目で追える。敏捷性なら音速1歩手前ぐらい。耐久性ならダンプで突っ込まれても普通に耐えられる。持久性なら全力で丸一日は行動可能。筋力なら殴り方次第で小さなビルは壊せるわね」

「「「「「……」」」」」


羅列された例の凄まじさに、私たちは言葉が出ませんでした。

勿論私たちだって、強化魔法を使えば踏み込みでコンクリートを砕くことも、打撃で鉄板を破壊することもできます。これだけでも武力的には十分脅威となるレベルでしょう。ですが、今の例はあまりにも規模が違い過ぎる。控えめに言っても災害じみてます。

やはり魔力消費5000など大魔法。それを平然と使うナナも、訓練でより強力な強化魔法を用いる機動隊も、全てがおかしいです。


「……なんというか……」


ここまで来ると、もう受け入れるしかありませんね。

オーバーSのロアさんにして、秘蔵っ子と呼ばれるだけの意味を。【機動隊嘱託魔導師】という肩書きの重さを。

一体どういう経緯で、ナナが機動隊に所属することになったのかは知りません。あそこまでの実力を備えるに至る過程が、どれだけの苦難に満ちていたのかは、想像することができません。

しかし、あそこまで己を鍛えてみせた意味だけは、なんとなくですが想像することができます。


「……ナナは私たちと違うんですね」


実力や立場。そんな色々な違いを実感してしまったせいで、自然とそんな呟きが漏れてしまいました。


「ん、何が?」

「あ、いえ! 単にナナとの実力差を噛み締めてただけです。そしたら思わず漏れてしまったというか」


慌てて取り繕ったところ、ロアさんは納得の表情を浮かべてくださいました。……危ない危ない。さっきの呟きは、あまりにも自分勝手が過ぎたものです。こんな浅ましいところ、憧れの人に知られる訳にはいきません。


「……んー、なるほど?」


……しかし、どうやらロアさんのことを甘くみていたようです。

一瞬だけ考え込んだ様子を見せたロアさんですが、一転してとても爽やかな笑顔を向けてきました。……これは嫌な予感といいますか、もしかしなくても変な勘違いをされたのでは?


「な、なんでしょう……?」

「いや、青春してるなぁって。若いわねー」


やっぱり!? いや、確かにさっきの台詞や弁明は、嫉妬とかそっち方面の意味で受け取れなくはないですが……!


「ち、違いますよ!? 別にナナの実力に嫉妬とかそういうことは全くなく!」

「大丈夫。分かってるから。そんな慌てないの」


絶対分かってないですこの反応!


「ナナが魔導戦技に全力で打ち込んでないことに気付いちゃったんでしょう? 魔導戦技の『選手』はあくまで過程、通過点。あの子の見てる先はいつだって『機動隊』だってことに。それが何となく嫌だった。違う?」

「え? ……あ、はい」


まさかの本当に分かってました!? ……え、何で分かったんです!?


「勘よ。こんな職だからね。流石にユメみたいな獣レベルじゃないけど、私も相応に勘が鋭いの。人の機微が混ざるものは特に」


職業病みたいなものよと肩を竦めるロアさんについつい唖然。今のは勘というより読心の領域だった気がするのですが。そしてユメさんはそれ以上なんですか。

……まあ良いです。こうも完璧に看破されてしまったら、誤魔化すのも無駄でしょう。私の幼稚な部分を悟られてしまったことは大いに恥ずかしいですが、ここはむしろ明け透けに訊ねてしまった方が良いでしょう。


「……やっぱり、自分勝手が過ぎますか? その人の将来について、他人がどうこう思うだなんて」


私が抱いた感情を言葉にするなら、思い通りにならないことへの苛立ちと悲しみです。

私の中では、ナナは同じ部活の仲間でライバルでした。何処か闘争心が薄くても。勝利に拘りがなくても。プロを目指すとか、そういうを抜きにしても。私とナナとシズク。3人で競い合いながら、魔導戦技の高みを目指していくのだと、そう思い込んでいたのです。

しかし、実際は違いました。ナナが見ていた先にあったのは機動隊。選手ではなかったのです。

ナナは魔導戦技を真面目にやっています。全力でやってもいます。しかし、本気ではないのです。我武者羅に、無我夢中で打ち込んではいないんです。そんな魔導戦技への熱が、ナナの中に宿ることがないと気付いて、私はショックを受けたのです。


「んー、そうね。色々と言えることもあるけど、ここは敢えて『さあ?』と『そんなことより』と言わせて貰おうかしら」

「え……?」


しかし、返ってきたのはあまりにも予想外の突き放しでした。

思わず驚きの声が漏れますが、そんな私の反応を無視してロアさんは微笑みながら言葉を続けます。


「だってそれは、貴女が考えることだもの。だから『さあ?』。思いっきり悩みなさい。悩んで悩んで悩み抜いて、その気持ちをあの子にぶつけなさい。個人的にはナナにも非があるとは思うし、絶対に嫌とは言わせないから安心して」

「気持ちを……ぶつける」


その言葉は、何故だか心の中にスっと入ってきました。


「ええ。でも、急がなくて良いの。だって時間はたっぷりあるもの。イレギュラーが無い限り、最低でも貴女たちが中学を卒業するまで。もしかしたらもっとかも。だから焦らないで。なにより思い詰めないで。大丈夫。ウチの弟分は馬鹿なところはあるけど、度量だけなら人一倍よ。貴女がどんな結論を出そうと、何を言おうと問題になんてしないわ。だから遠慮なんていらないの。なんなら罵声でも浴びせてあげなさい」

「それは流石に……」


ロアさんの物言いに、思わず苦笑が浮かびます。薄々気付いてはいましたが、ロアさんってナナに対してちょっと辛辣なんですね。けっこう甘めなユメさんとは、また違うタイプの『お姉さん』のようです。


「で、『そんなことより』。時間はまだあるのだから、そのモヤモヤは一旦棚上げしなさいな。今は中々見れない機動隊の射撃マスターVS秘蔵っ子の訓練を楽しむべきよ。悩むんじゃなくて、存分に驚いて興奮して自分の糧にするの。それが今できることの中で、1番有意義で素敵なことだと思わない?」

「……は、はい!」


気付いた時には、さっきまで感じていたモヤモヤは綺麗さっぱり無くなっていました。今心の中にあるのは、目の前の光景への興奮と、憧れの人に相談に乗って貰ったことへの嬉しさでした……やはり、ロアさんは素敵な人です。強くて綺麗で優しい、私の憧れの英雄でした!

俺TUEEEEっぽいことやってるのに盛大に描写が端折られる主人公。でもしょうがない。だって今回の話のメインは子供心理だから。


それはそれとしてロア姉さんのキャラが固定されました。

ユメ姉さん=基本甘々お姉ちゃん

ロア姉さん=色んな意味で可愛がってくる姉上

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