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少年魔導師の魔法スポーツ部活録〜これでも最強戦闘組織に所属してます〜   作者: みづどり
第三章 フリットカップに向けて
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第五十二話 英雄ブートキャンプ(地獄)

前回チラッと書きましたが、タイトルとあらすじを変更しました。



それはそれとして今回はシズク視点です。

雨のように降り注ぐ魔法弾をなんとか凌いだ私たちに、ユメさんはこう言った。


「それじゃあ本番いこっか」


え?って思った。いや、確かに最初にユメさんは小手調べとは言ってた。言ってたけれど。でも、あんな大量の魔法弾が本当に小手調べだなんて思わないじゃん!?


「あの、アレが小手調べなんですか……?」


だからつい訊いちゃったんだ。有り得ないとは思ったけれど、もしかしたらユメさんなりの冗談かもしれないし。

そしたらユメさんは1度構えを解いてから、当然といった表情を浮かべてこう言ったの。


「うん。最初ので攻撃の意図をどれぐらい読み取れるかを見て、さっきので単純な回避能力を見ただけだもの。小手調べでしょ?」

「ソウデスネー……」


返事が片言になったのも、仕方のないことだと誰かに主張したかった。いや、最初の奴はまだ分かる。でも、あの弾幕は小手調べじゃ済まないと思うの。だって普通にキツかったもん!

そんな私の、いや多分『私たち』の内心を察したのか、ユメさんは朗らかに笑った。


「あはは。大丈夫大丈夫。確かにこれから本番だとは言ったけど、流石にさっきみたいな弾幕は張らないから。アレは狙わない代わりに量を増やしただけだよー」


さっきまでのは質より量だから大丈夫、か。……何でだろう。全然安心できない私がいる。

既に私の中では、ユメさんの評価が一変していた。普段は未だに素敵な憧れの人だけど、こと戦闘方面ではかなり厳しい気がしてならないというか……。

確認の為にチラリと障壁の向こう、具体的にはナナの方に視線を向けてみる。この場で1番ユメさんについて詳しい筈だし、表情から何か察せないかなと思ったから。


凄く慈愛溢れる眼をしていた。


「……」


コレは駄目だなって思った。

私はナナが大好きだ。愛してる。絶対に結婚すると誓ってるぐらいにはナナのことを想っている。だからナナの表情はどれもずっと眺めていたい。恥ずかしい話だけど、優しい表情を向けられたら身体が疼いてしまう。

……でも、今回ばかりは寒気がした。あの顔は違う。如何に慈愛溢れる表情だろうと、この状況下でのあの表情は駄目な奴だ。アレはなんて言うか、何かを見守る顔だ。具体的に言うと、ペットが予防接種を受けるのを見つめる飼い主みたいな表情をしている。

つまりナナからすると、私たちは注射の針をブスリと刺される直前のペット。ユメさんは、『大丈夫だよ〜』としつこいぐらいに可愛がりながら注射器を構える獣医さんという訳で。


「それじゃあいっくよー」


ああ。絶対に碌な目に遭わないなぁと確信しながら、ユメさんの言う『本番』が始まった。


「っ」


開幕は3発の魔法弾だった。放たれたタイミングは同じで、弾速にも違いはないから全て同種or【操作】と【威力】の魔法弾の混成かな。……弾速もさっき見た【速度】の奴より遅いし、やっぱり今言った2択だと思う。

取り敢えずは回避かな。【操作】の魔法弾の軌道変更が怖いから、紙一重ではなく余裕のある回避を意識する方向で。

私は徒手格闘のスタイルだし、遠距離や対遠距離で有効な魔法もない、または得意じゃないから迎撃は悪手寄りだ。できなくはないけど、それなら普通に避けた方が色々と都合が良い。

そんな判断の元に回避した訳だけど、意外なことに3発の魔法弾は何事もなく通過していった。

ちょっとだけアレ?と思いつつも、既に次の魔法弾が複数放たれていたので疑問は棚上げする。

パッと見た感じ、今度のは弾速はバラバラだ。ただ放つタイミングをズラしてる可能性もあるので、決めつけはしない。しっかりと魔法弾そのものの速さを見て判断する。

魔法弾の種類を判断する場合、弾速というのは非常に重要なファクターだ。基本的に魔法弾は、【速度】と【操作性】と【威力】でトレードオフの関係にある。発動者の配分に寄るけど、どれか秀でていればどれかが劣ることには変わらない。

そしてこういうのは、割と発動者の中でパターンみたいなのが決まってたりする。だって魔法を撃つ度にわざわざ魔力の分配を考えるのはめんどくさいもん。何か思惑のある攻撃なら兎も角、牽制の為の攻撃なら大体そんなものだ。

今回の場合もそれは当てはまる。【速度】の魔法弾が1番速いことは当然だけど、【操作】と【威力】の魔法弾にも弾速に若干の違いがあるんだ。さっきのトンデモ弾幕の中で見た限りだと、【操作】の魔法弾の方が若干速かった。【速度】>>【操作】≧【威力】という感じになる。これは多分間違いない。

これを踏まえると、今飛んできてる魔法弾は【速度】【操作】【速度】【速度】【威力】【威力】……って感じになる。一直線に並んで飛んできてる訳ではないので1回大きく避けてはい終わり、にはならないけど、それでもコレである程度のラインは見えた。

大きく動く必要があるのは【操作】の時だけ。あとはこうしてトントントンっと!


「……?」


回避を重ねていくにつれ、さっき棚上げした疑問が再び首をもたげてきた。

なんというか、割と攻撃が普通な気がするような。いや、攻撃自体のレベルは低くはないんだ。途切れることのない魔法弾は純粋に凄いし、攻撃もちゃんと回避の選択肢を潰してくるように置かれている。体感的には、現状でも十分良い練習になっていると感じるぐらいだ。

でも、だからこそさっきのナナの表情が引っ掛かる。アレは明らかに、何らかの『理不尽』が待ち受けてるのを知っている顔だもの。現状では、ナナがそんな表情を浮かべる理由がない筈。


その答えは唐突にやってきた。


魔法弾を回避し続けるのと同時に、ナナの表情の真意を探っていると、私の顔面目掛けて魔法弾が飛んできた。

弾速は遅めなので【威力】の魔法弾と判断。更にその右斜め後ろから【速度】と思われる魔法弾も見える。そして左側には魔法弾はない。いや正確に言うと、左側下方を飛んではきてるけど、タイミングが少しズレてる。アレならそのままステップを重ねれば当たらない。

故に左側なら直近の魔法弾を回避するルートとしては支障無し。そう判断して左側にステップを決めた瞬間。


「え」


パァンッと顔面に衝撃。痛みは殆どないが、予想外の衝撃に思わず身体が固まる。

何で!? 今の衝撃は何処から!? 軌道的に当たるような魔法弾なんて存在しなかったのに!

有り得ない被弾に反射的に頭の中で答えを探そうとし、気付く。


「しまっ!?」


左腰付近に強い衝撃。固まったせいであの遅れてた魔法弾に被弾した! しかもこの感じ、【威力】の魔法弾!

思考が別方向に行ってたせいで、踏ん張りも中途半端。そのせいで体勢が泳いだ。何とか体勢を立て直そうとした次の瞬間。


「きゃっ!?」


胴体に魔法弾が直撃。衝撃自体は弱いけど、体勢が悪い+踏ん張りによる重心のズレという悪条件が重なった。そのせいで耐えきれなかった。無様にゴロゴロと地面を転がる羽目に。

そこで魔法弾による攻撃が止まった。


「はいシズクちゃんアウト〜。仕切り直すから早く立ってね」

「は、はい!」


ユメさんにそう告げられ、慌てて私は立ち上がる。被弾はOKと言われていたけど、流石にアレはアウト判定みたい。まあ、試合でも確実にダウン判定だから当然と言えば当然かな。


「はいじゃあ再開するよ」

「お願いします!」


そして再び攻撃が再開された。

飛んでくる魔法弾を睨みながら、意識を集中させる。心の中では、今度はパニックになったりしないと強く違う。さっきは予想外の衝撃だったせいで混乱したけど、威力自体は大したことないんだ。それなら被弾することはさほど致命的ではない。

むしろ被弾はある程度折り込んで、さっきの不可解な一撃の考察をした方が良いかもしれない。


……そんな風に思ったのがいけなかったのだろうか。


「えっ、きゃっ!?」


今度は右から飛んできた魔法弾に、見事に軸足を払われた。そして倒れた私目掛けて幾つも魔法弾が追撃を掛けてきた。


「はいまたアウト〜」

「は、はい!」


ユメさんに再び仕切り直しを告げられ、慌てて立ち上がる。

でも頭の中は大混乱だ。何せあんな軌道の魔法弾は存在しなかった筈だもの。あの時右にあったのは3発の魔法弾。ほぼ真ん前を飛んできた1発目。顔の右側を通過する軌道だった2発目。腰の右側を通過する軌道だった3発目。タイミング的に怪しいのはこの3発だけど、どの弾も私の足を払うような軌道はしていない。

有り得るのは【操作】の魔法弾の軌道変更で、私の後ろで軌道がグニャリと曲がったという線。でもそれも不可解だ。今言った予想は、魔法弾の性質的に、何よりユメさんの技量的には余裕で可能ではある。ただユメさんがこのトレーニングで使っている【操作】の魔法弾は、大きく弧を描いたり、軽く追尾してくるレベルの性能に留まっている。それなのに、いきなり操作性を変えてくるようなことをするだろうか? いや、絶対にない。そんな小細工をする必要なんて、ユメさんにはない。あの人のスペックなら、私たちなんて真正面から捩じ伏せられるんだから。

となれば、あの不可知の攻撃には何らかのタネがある筈なんだ。それをどうにかして暴かないと、ずっと私はユメさんの手のひらの上だ。


そう決意したけど。


「はいまたアウトー。しっかり弾見ようね?」

「もう1度お願いします!」


3度目はまた突然顔面を撃ち抜かれ、目の前に星が舞ってる間に何発もの魔法弾を叩き込まれて転がされた。


「またアウトだねー。もっと周りに意識払って」

「も、もう1度お願いします!」


4度目は軸足の膝裏に不可知の一撃が叩き込まれ、魔法弾による膝カックンで転ばされた。


「お! 今度は良く避けたね。でも1発だけ避けても意味無いよ?」

「はい!」


5度目はいきなり目の前に現れた魔法弾には反応できたけど、ギリギリかつ全力で躱したせいで後に続く魔法弾に打ちのめされた。


「うーん。ちょっと被弾してからの対応がお粗末だったねぇ。アレじゃあそんな意味無いよ?」

「次は気をつけます!」


6度目はまたも不可知の一撃に被弾し、なんとか立て直そうとしたけど見事に封殺された。


「……試行錯誤するのは間違ってないけど、流石にアレは駄目だよ?」

「すみませんでした!」


7度目は不可知の一撃を見切ろうと、思い切って回避を捨て全弾受け止めるつもりで踏ん張ってみた。結果は細かいけど怒涛の衝撃で地面を転がされた。


「そうだねぇ……」

「次お願いします!」


8度目。


「んー……」

「次お願いします!」


9度目。


「えーとね?」

「次お願いします!」


10度目


……

………。


「んー、うん。皆そろそろ限界みたいだし、一旦休憩しよっか」

「…あ、ありがとう、ござい……ました……」


結果から言うと、私は大体30分ぐらいのトレーニングで、20回以上地面を転がる羽目になった。……小刻みに衝撃を喰らってたせいでちょっと乗り物酔いみたいになってる。……はぅ。

これは極めて個人的な感想なんですが、新タイトルとあらすじは結構会心のできです。

いや、タイトルに関しては旧題もそこまで悪くないとは思ってるんですが、あらすじに関しては新しい方がしっくり来るんですよね。物語のコンセプトが決まったというか。

まあ自己満足なんですが。

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