第五話 ハーレム(単に男がいないだけ)
「ん? シズクか。今日は遅かったな」
シズクちゃん達を追う形で部室に入ると、サンドバッグを殴っていた女子生徒がこっちに来た。
「あ、レイ先輩。こんにちは! 今日はなんと入部希望者を連れてきたんです! クラスメートの水無月ナナ君です。3級デバイスの所持資格もちゃんと持ってる期待の新人ですよ!」
シズクちゃんが、じゃーんって感じで僕の事を紹介した。期待の新人って持ち上げ過ぎじゃない?
「おお、そうか。オレは3年のレイニー・アクシア。一応この部の部長だ。気安くレイって呼んでくれ。よろしくな」
「よろしくお願いしますレイ先輩」
ニカッと笑いながら、手を差し出してくるレイ先輩。
なんというか、姉御って感じだねこの人。一人称オレだし、シズクちゃんの反応から面倒見も良さそうだし。
部長という役職も、なんとなくだけど合ってる気がする。細かい事は苦手そうだけど、決めるべきところでは決めてくれそうな人だ。
「入部希望者って聞こえたんだけど」
「どんな子なの?」
レイ先輩を皮切りに、ぞくぞくと人が集まってきた。
「こんにちは。水無月ナナです」
「あらあら、ちっちゃくて可愛いらしい子ねー。私は3年のユーリ・クリストファ。ここのマネージャーをやっているわ」
ユーリ先輩は正にお姉さん、といった感じ人だ。かなりの美人さんなので、そういうのが好きな人からは絶大な人気を誇っていそう。
あとなんとなくだけど、ユメ姉さんに通じるものがありそう。だってニコニコ笑いながら僕の頭を撫でてるし。完全に子供扱いされてるねコレ。
「2年のルナ・フリゲートよ。よろしくね」
「よろしくお願いしますルナ先輩」
端的な自己紹介をしたルナ先輩は、猫みたいなツリ目とツインテールが特徴の女の子だ。パッと見の印象では少し気が強そう。ただ身長が僕やシズクちゃんと大して変わらないので、迫力はそんなにない。
「一応、これでウチの部は全員だ。あとはコーチだが、ちょっと遅れてくるらしい」
どうやら現状、5人が魔導戦技部のフルメンバーらしい。……少なくない? あと皆美人さん。顔面偏差値が高い。
「……あのー、部員って5人しかいないんですか? というか男子は?」
部員が少ないのは別に良いんだけど、男子がいないのほ気になる。ここって女子魔導戦技部って訳じゃないよね? シズクちゃん普通に連れてきてくれたし。
どういう事なの?と尋ねると、返ってきたのは苦笑いだった。
「魔導競技、特に戦技系って部員確保が結構大変なのよ。3級資格がいるから、そもそもからしてハードル高いし、更に戦技系になると痛い思いも沢山する事になるから。お陰で部員が全く増えないの」
「へー、それは意外ですね。魔導戦技って結構人気あるのに」
魔導戦技の大会とか、かなりの視聴率を取れてるって言うけど、実際にやろうって思うのは案外少数なのかな? でも、保安隊や機動隊には学生時代に魔導戦技をやってたっていう人、結構いたんだけど。
その疑問に答えたのは、レイ先輩だった。
「さっきユーリも言ったが、魔導戦技は特に始めるハードルが高い。3級資格の他に、上を目指すなら高い魔法能力と戦闘技術が要求される。だから魔法能力や身体が出来上がってない小中学生の内から、魔導戦技をやる奴ってのは案外少ねぇんだ。勿論いない訳じゃねえが、そいつらは大抵優秀だからなぁ」
「つまり、普通の学校じゃなくて、魔法学校や魔導戦技の名門校の方に通っていると」
「そういう事だ。後はどっか有名なジムに通ってるかだな。わざわざ普通の学校の部活でやろうって奴は、殆どいねぇ」
ふむふむ。メジャーな競技の割に、部員が少ないのはそういう事なのね。まあ、魔導競技全般がまず敷居高いのに、更にもう1段階高いとなれば二の足も踏むのも当然か。
それでもやりたいって子は、普通の学校の部活程度じゃ満足出来ないだろうし。
ただそうなると、この部活のメンバー全員が、何か訳ありか変わり者って事になるんだけど……。
「そんな訳で、ウチの部は人数が少ない弱小なんだ」
だがしかし、僕の中に芽生えた新たな疑問には気付かないまま、レイ先輩は説明を続ける。
「そんで男子部員に関してだが、入ってくる当てはない。数年前まではいたんだが、その人も卒業しちまってすっかり女所帯になっちまったんだわ。お陰で男子は気後れしがちでなぁ。余計に男子の新入部員が来なくなっちまった。……まあ、希にそれを狙って入ってこようとする馬鹿もいるが、何回かKOしたらビビって来なくなるし」
女所帯に、それも全員が並以上の容姿を持っているとなれば、思春期男子が混ざるのは流石に無理があるみたい。
話を聞く限り、勇気と下心を携えた阿呆もいたようだけど、根性が足りなかったようで、たたき出されたようだし。
こりゃ僕も下手したら拒否されるかな?
「ああ、安心しろ。ちゃんとやる気があるなら大歓迎だ。それともオレたちに変な気を起こすつもりか?」
「まっさかー」
「……即答ってのも気に入らないなオイ」
じゃあどうしろと……。
「まあ、それならこっちとしては問題ねえな。んで、入るのか?」
「あ、はい」
「じゃあ入部届け書いて、後でコーチに渡してくれ」
「因みにコーチ兼顧問は担任のアドラ先生だよー」
「え、そうなの?」
シズクちゃんの言葉にビックリ。
アドラ先生って、仕事出来る美人秘書って印象だったのに、まさかの戦闘系の人だったとは。
「昔は魔導戦技の大会で、結構いいところまで行ったんだって」
「人は見かけに寄らないね……」
いやまあ、見た目詐欺で言えば僕の方が断然酷いんだけども。それでもいざやられる側に立つとビックリするよ。
まあでも、顧問が担任なら、書類を渡せる機会は多いかな。明日の朝礼終わりにでも渡そうか。
「さて、それじゃあコーチが来るまでどうすっかな? 自主練でもいいが、新人も入った事だしな」
「なら、彼の実力の確認も兼ねてスパーはどうですか?」
「でもそれだと、着替えて貰わないといけないわよ? ナナ君、運動着もってる?」
「あ、持ってます」
思い付きで機動隊の訓練に飛び込む事もあるから、運動着は持ち歩いてるんだよね。
「あ、そうなんだ。持ってなかったら私の貸そうかなって思ってたけど」
何言ってんだろこの娘。
「シズクちゃんは女の子でしょー? そういう事は言わないの」
「んー、私は別に気にしませんよ?」
「気にする気にしないって問題じゃないから! 普通男に自分の服は貸さないでしょ!」
「他の子なら確かに嫌ですけど、ナナなら別にいいですよ?」
本当に何言ってんだろこの娘。
「……シズク、それってもしかして……」
「うん。ナナって何か男の子って感じしないし」
「まあそんな気はしてた」
やっぱりというか、僕は異性として見られてなかった。サイズ感が近いってのと、僕自身が異性を意識した様子を見せないからだろうね。
というか流石に、今日あった女の子が好きになるほど、僕は魅力的じゃない。
ただ、他の人たちはそこまで頭が回ってなかったようで、ドッと疲れたような顔をしていた。
「もう……ビックリしました」
「あんまり人を驚かすような事を言うなこのバカ」
「あはは、ごめんなさい。でもほら、ナナって女の子の服似合いそうですし」
「……まあ、それは確かに」
「そこで納得されると僕が困るんだけど」
確かに女装させられた事もあるけれども。それとこれとは話が別でしょ。
「まあなんだ、取り敢えず着替えてきてくれ。奥の方に男子更衣室があるから」
「わかりました」
「はっ!? ちょっと待って!」
「んおう?」
奥に向かおうとしたら、ルナ先輩に止められた。それはもうがっしりと捕まれて。
どしたの?
「ルナ、どうしたんだ?」
「レイ先輩! どうしたんだじゃないですよ! 男子更衣室は、その、あれじゃないですか!」
「……あっ!?」
「あー、そう言えば……」
「今まで男子部員がいませんでしたからね……」
あ、四人の反応で察したよ僕。これ多分、男子更衣室に私物とか置いてる奴だ。
「そう言えば、何時も男子更衣室でジャージや下ーー」
「はいストーップ!! 折角私たちが誤魔化したのをぶち壊すな!」
「洗濯物まで干してるのね……」
「そういうのは気付いても言わないものよー?」
シズクちゃんはルナ先輩に、僕はユーリ先輩に頭を掴まれ、締め上げられた。
「い、痛いです! 何で怒られてるんですか!?」
「自覚無しか!? もっと恥じらいとデリカシーを持ちなさいアンタは!」
「ちょ、頭ギリギリ鳴ってるんですけど、ユーリ先輩、マネージャーじゃなくて選手の間違いじゃ」
「あらー、失礼な事を言うのはこの口かしらー?」
余計な事を言った僕とシズクちゃんは、同じタイミングで折檻をされたのだった。
「むきゃーー!?」
「痛い痛い痛い」
「似たもの同士ですか、全く……」
そんな僕たちを見て、セフィは呆れていた。