第四十六話 指導者ナナ
1週間経つの早すぎませんかねぇ!?
マジでもうストック尽きるのですが!
という訳で、セフィと一緒に適当な場所に移動。
「さて、それじゃあ始めるけど。まず強化魔法に関して幾つか質問するよー」
「了解です」
指導を始めるにあたって、まずはセフィの強化魔法の練度の確認から入る。こういうのは基本となる情報がにゃ始まらないからね。一応、練習で多少は目にしているからある程度の予想はできるけど、それでも自己申告はあった方が参考になるし。
そんな訳で質問。
「まず根本的な所から。セフィは強化魔法が得意? 自信、または苦手意識はある?」
「得意という程ではないです。ある程度使いこなせているという自負はありますが」
「はいはい」
なるほどなるほど。取り敢えず、本人的には不得意ではない感じ。それでいて客観的に見るとそこそこの練度と。
「次。強化タイプは?」
「筋力、反応速度、敏捷性の技巧型です」
「なるほど」
技巧型はある程度の力を備えた上で、繊細で素早い動きを可能とする準万能型の強化タイプだ。基本的にパワーより技術を必要とされる武器、槍や片手剣、刀などの使い手と相性が良く、セフィの二刀流ともベストマッチしている。
「次。倍率操作はできる?」
「一応は。但し自在とはいきません」
「ふむ」
当分の課題となる強化魔法の倍率操作だけど、セフィ曰く練度的には『使える』だけか。これを早い段階で『使いこなせる』レベルまで持っていくのが理想。……とは言え、倍率操作は重ねがけ程ではないが高等テクニック。一朝一夕でなんとかなるようなものではない。
「最後。強化魔法の構築は? 自前? それともデバイス?」
「はい。デバイスのテンプレートを使っています」
「……なるほど……」
セフィの強化魔法はデバイス依存型と言われるもの。独力で魔法を発動させるのではなく、デバイスに登録された魔法の術式を構築して発動させるスタイルだ。……これだけ聞くと道具頼りの小手先の技術のように思えるが、魔導師の中では割とメジャーなテクニックだったりする。なにせ登録された魔法に限り、魔法領域に殆ど負荷を掛けず、それでいて素早く魔法を発動できるというメリットがある。実質魔力を注ぐだけというのは、戦闘だけでなく色んな場面で対応できる圧倒的な恩恵だ。
……ただ今回に限って言えば、少しばかり問題があったりする。
「……んー……ぶっちゃけて良い?」
「……何でしょう?」
「セフィが、というよりデバイス依存型の場合なんだけど、倍率操作や重ねがけとの相性が宜しくない」
「……やはりですか」
意外なことに、僕の出鼻を挫くような発言に対して、セフィは驚くことなく静かに受け止めていた。……まあ、倍率操作や重ねがけは強化魔法関連ではメジャーなものだし、相性云々は何処かで耳にしていたのかもしれない。それか使ってて感覚的に理解していたか。
それでも念の為ということで、何故この辺りの技術がデバイス依存型との相性が悪いのかを説明していく。
「まず倍率操作って言うのはさ、ざっくり言ってしまえば元々偏った効果を更に意図的に偏らせる技術な訳よ」
「……偏らせる。言い得て妙ですね」
「でしょ?」
強化魔法というものは元々が不完全な魔法である。なにせ筋力、耐久性、持久力、反応速度、敏捷性の項目ごとに強化の偏りが生じてしまうのだから。この偏りが中々に曲者で、場合によっては強化後の方が弱体化することもある。
極端な例を挙げれば、他高倍率の敏捷性の一点特化で、他の項目の倍率は0とする。敏捷性は簡単に言ってしまば挙動そのものが素早くなるのだが、それが完全な一点特化で強化されるとなると高確率で自爆してしまう。まず実際の挙動と本人の知覚とのズレが生じてマトモに動けないし、例えそれをクリアしても通常の耐久性で通常以上の挙動をしている以上、物理的なダメージのフィードバックが襲いかかってくるのである。多分この場合だと、良くて数日は筋肉痛で行動不能、悪くて重度の筋繊維断裂による後遺症生活だ。
とまあ、今のは超極端な例だけど、強化魔法というのは単純に使おうとすると中々に面倒な代物なのだ。なので大抵の場合、自分の中で許容できるズレのレベルの強化に納めるか、特定の項目に魔力を集中するように術式を弄り、強化の倍率を操作して最高倍率の項目との差を縮めるのである。……まあ、世の中には全ての強化倍率がほぼ等しい万能型と言われる恵まれた人種も存在するのだけど。因みにその1人が僕です。
「で、そういう効果の偏りを生み出す上で、どうしてもデバイス依存型だと不都合が出てくるの。なにせ術式が登録されてるせいで融通が効かないからね」
効果が画一的で融通が効かない。デバイス依存型のデメリットな訳だけど、これが殊更倍率操作系の技術と相性が悪いんだ。なにせこういうのは、その時の状況で最適解が違ってくる。肉体というのは流動的だ。万全な状態、普通の状態、体調が悪い状態など様々。その時のコンディションに応じて倍率を弄らねばならない以上、術式が固定されていては対応ができないのである。
「だから強化魔法で最高のパフォーマンスを発揮するには、デバイス依存型から自己構築型にシフトする必要がある訳」
「なるほど。だからこその高等テクニックですか」
「まあそうなるね」
ただ漠然と己に強化魔法を掛けるのではなく、自らに最適な形にその都度調整した上で、効果を上昇させていくのが倍率操作や重ねがけといった技術である。そういう意味では、単純な強化魔法の数歩先にある技術と言えるだろう。
「まあそんな訳で、まずセフィの場合は強化魔法の自己構築に慣れることから始めようか」
「……そこからですか」
「そこからです。何事も一足飛びにはいかないものだよ」
僅かにゲンナリとした表情を浮かべるセフィに対して、僕は肩竦めながら諦めるよう告げた。まあ気持ちは分かるけどね。既に習得してる魔法を、違う方法とはいえ再習得しろってことだもの。そりゃ億劫にもなる。
とは言え、自己構築型の魔法というのは反復練習がものを言う。何度も繰り返して自分の中でのコツ、というより術式のテンプレートを作り上げ、それを最適化させていくのが上達への近道だ。武術でいうところの型や素振りと同じなのだから、蔑ろにするのは愚の骨頂である。
「……これなら最初から自己構築型にしておけば良かったです」
「そこは微妙な所だねー。強化魔法の場合、普通に使うならデバイス依存の方が色々楽なのは確かな訳で。この辺の技術が必要になる層も限られてるから、手っ取り早く術式登録して他磨くのも全然アリだし」
「まあそうなんですけど……」
ぶっちゃけ倍率操作や重ねがけって、近接でもやらない限りあんまり必要ないからねぇ。いや、一定以上のレベルになると話は別なんだけどさ。機動隊とかになると戦闘スタイル関係なく習得必須だし。
ただ魔導戦技みたいなスポーツとかだと、まあ近接型の上位選手でしか必要ないよねってなるのが正直なところ。遠距離型なら単一の強化魔法だけでも十分戦えるし、近接型でも魔力制限の関係で割と本人のセンスが入る余地があるから。……実際僕なんて、重ねがけの更に上の技術の多重がけを使ったにも関わらず、近接でラピスさんのこと崩せなかったし。ラピスさん、重ねがけぐらいしか使ってない筈なのにあの結果だからね。本当に技術とセンスって大事だよ。
「ま、これって割と結構な人が通る道だから。大人しく受け入れなさいな」
特に才能がある人に多いんだよね、この再習得の流れ。才能ある人って大抵長所伸ばしてるから、強化魔法はデバイスに登録しがちなのよ。で、倍率操作や重ねがけが必要なレベルにまで成長してから、楽してた跳ね返りが飛んでくるという。
セフィもその例に漏れず。基礎からやり直す羽目になった訳だ。まあ中学1年でこの問題に直面する人はかなり珍しい方だけど。大抵は高校生〜成人までの間でぶち当たる問題だし。
そういう意味では通常以上に面倒かもしれない。幾ら才能があっても、精神的にはまだ成熟してる訳ではないのだから。……それでもモノにしなきゃいけない以上容赦はしませんが。
「じゃあまず、強化魔法の自己構築を嫌というやっていこうか。魔力は最小で、効果が早く切れるよう運動しながら。効果が切れたら掛け直しを……そうだな。最低でも100回」
「自己構築で100回ですか!? それ凄いキツくないですか!?」
「そうかな?」
最小魔力+運動有りの場合、強化魔法の持続時間は大体10秒弱。つまり最短時間で17分とかそのぐらい。魔力消費は500〜800ぐらいだから……。
「……まあセフィならいけるよ。うん」
「魔法オバケのナナ基準で語らないでください!」
「魔法オバケて」
いや確かに魔法能力は飛び抜けてる方だけども。その形容の仕方は如何なものか。
「これ本当に効果あるんですか……?」
「反復作業なんだからあるに決まってるでしょ。なんなら機動隊や保安隊の訓練生メニューだよ」
効果自体は公的機関お墨付きだよ。
「それなら組手を所望します! 流石に単純作業であのノルマはキツいですから」
「……それは良いけど」
「やった!」
嬉しそうだなー。流石は魔導戦技大好きっ子。転んでもタダでは起きない。……組手の何処に喜ぶ要素があるのかは別として。普通にキツいというか、むしろ疲労レベルが上がってる気がするのだけど。
「まあ良いや。……あ、因みにだけど。魔法の発動速度はできるだけ速くする意識をね。取り敢えず10回発動ごとに測定していくからそのつもりで」
「……ま、まさか更に条件を上乗せしてくるとは。……いえ、良いでしょう。やってやりますよ……!」
「上達してったら、徐々に魔力も増やしてくからねー」
「上等です……!!」
うん。やる気があるようで何より。
「それじゃあスタート」
「はい!」
で、大体20分後。
「おーい。セフィさーん? 大丈夫ー?」
「……はぁ、はぁ……だ、大丈、ぶ……です……っ。……ただ………今は…話、かけないで……ください……」
セフィは疲労で死にそうになっていた。……まあはい。組手なんて組み込むから当然ですね。
仕事が忙しいんじゃー。書く暇ないよー(しくしく)




