第四十五話 コネと立場は使い用
なんとか書けたー。最近仕事が忙しくて中々書けないなぁ。
宿題を発表した日から、なんやかんやあって次の部活の日。僕を含めた魔導戦技部のメンバーは、とある空き地にいた。
何でこんな場所にいるのかと言うと、僕の宿題が全てのきっかけである。あの時僕は皆にこう提案したのだ。『全力で魔法を使っても問題無い、尚且つ格安で継続的に使用できる場所があるんですが、どうですか?』と。
その結果が現在である。
「……ここが統括局の訓練施設か」
僅かに緊張を滲ませながら、レイ先輩が確かめるように呟いた。
そう。ここは統括局が管理する機動隊の訓練施設。主に市街戦を想定し、その為だけに街1つを丸々再現してみせた非常に大規模なフィールドであった。
「……本当にこんな所を使って大丈夫なのかしら? 移動風景を見た感じ、かなり大規模な施設のようだけど……」
ここまでの道程を思い返したのか、コーチが恐る恐るといった様子で僕に訊ねてきた。
まあ当然の反応だと思う。何せこの場所まで来るのに専用の車を使ったぐらいだ。それ程までにこの市街戦フィールドは広大で、そんな場所を一区画とは言え借り切ったのだから、事情を知らないコーチたちからすれば不安にもなるだろう。
とは言え、その不安は杞憂というものだ。なにせこの区画はちょっとした曰く付きなのだから。
「そんな構えなくても大丈夫ですよ。ことこの区画に限って言えば、そんな大それたものではないんです。此処は市街戦フィールドの端っこも端っこ。途中で予算が尽きたのか、一帯の建物はゼロという有様でしてね」
市街戦の為のフィールドなのに、周辺の建物がゼロ。遮蔽物すら全くない空き地なのだ。それはつまり、市街戦用の訓練ができないということでして。大人の事情で建設が止まったまま放置されたこの区画は、そんな訳で訓練用のフィールドとしては致命的なコンセプト違いをおこしているのですよ。
「この区画では市街戦の訓練はできません。しかしフィールド全体で見れば市街戦用の場所ですからね。必然的に全く使われないんですよ、この区画。無駄に移動が面倒なフィールド端だから余計に」
現状、この区画の存在意義は皆無に等しい。訓練ができない、移動が面倒、この区画である必要がないetc.。そんな様々な理由から、機動隊や統括局の面々から忘れ去られている訳だ。……何が悲しいって、別にこの区画がなくても市街戦の訓練自体はできるという理由から、最建設の話が流れに流れまくってるってことなんだよねぇ。必要ないものに予算を割けないという、世知辛い現実という訳だ。
結果として、現在進行形かつ将来的にも使われない区画が存在してしまっているのである。
「そんな背景があるので、僕らで貸し切っても問題無いんですよ。というかそもそも、問題があったら許可なんて降りません。許可証が発行されてる時点で不安になる必要は皆無です」
そう言いながら、僕は空間ウィンドウを起動して映像データを投射した。
映し出されたのは1つの電子書類。長ったらしく色々書いてあるが、要約すると『市街戦フィールドF-4区画を約1ヶ月間貸し切ることを許可する』というもの。
因みにどうやってそんな許可をもぎ取ったのかと言うと、超マイナーな制度を利用したのである。まず基本的に、この手の施設は訓練がなれければ使われることはない。かと言って必要時以外で腐らせるには色んな意味で勿体無い為、申請すれば個人での利用が許されているのである。具体的に言うと、機動隊関係者なら無料、外部の者や団体でも機動隊関係者の保証人がいれば、ほぼ無料と言って良い値段で利用できるのである。
その制度を利用して、僕は魔導戦技部の皆に練習場を提供した訳だ。レイ先輩の宿題の答え、つまり今後の練習の質を上げる手段として。
「1から10まで合法なんですから、後は思いっきり練習するだけでしょう? 折角の練習場所ですよ?」
「……まあ、理想的な場所であることは否定しないわ」
僕がそう笑いかけると、コーチはそう言いながらほぼ無人の一帯を見渡した。声音には未だ戸惑いの感情が混じっているが、隠しきれない興奮もまた確かに宿っていた。
まあそれも当然だ。事実上の放置区画とはいえ、ここもまた機動隊の訓練施設である。故にあらゆる規模の魔法の使用が許可されている。機動隊の訓練施設としては心許ない場所ではあっても、魔導戦技の練習場所という意味ではこれ以上ない場所である。なにせ魔法は好きなだけ使用可、広さも十分、人気も皆無、それでいて1ヶ月貸し切っても部費を圧迫しないレベルで格安なのだから。
デメリットとと言えば、学校からこの施設までの移動が面倒なこと、施設までの交通費が掛かること、そして移動による練習時間の圧迫ぐらい。尚、メンバー全員がデメリットについては一蹴している。フリットカップまで全力の魔法練習ができることの方が遥かに重要だと言って。
「コーチ。そろそろ練習始めましょう? 当分は此処を使うとは言え、それでも時間は有限ですよ?」
「……そうね。圧倒されるのはここまで! 切り替えるわよ皆!」
「「「「「はい!」」」」」
コーチの号令によって、漸く皆が動き始める。機動隊の訓練施設ということで固くなっていた面々だが、一度練習モードになれば動きは早い。むしろ興奮も相まってか、普段よりもテキパキと行動している。
そうして流れるようにストレッチとアップを終えた僕たちは、一度コーチの前に集合する。
「さて。まず今日の練習メニューだけど、強化魔法のスキルアップと、対遠距離型の立ち回りについてをメインにやっていくわ。良いわね?」
「「「「「はい!」」」」」
コーチの挙げたメニューは、先日の宿題の発表を元にしたものだった。恐らく、皆の希望をコーチが取り入れてくれたのだろう。勿論、単純にそれ等が僕らには欠けているという面もあるのだろうが。
「では強化魔法から始めるわ。まずはそれぞれ、強化倍率の操作をある程度自由に行えるようになってもらうわ。最終目標として、全員が重ねがけを習得すること目指すから、覚悟しておくように」
「「「「「はい!」」」」」
「で、悪いのだけど、レイとナナ。2人は既に重ねがけを習得しているし、私と一緒に他の3人の指導をお願いできるかしら?」
「「はい!」」
コーチの頼みに対して、僕とレイ先輩は二つ返事で頷いた。
強化魔法に関して言えば、他のメンバーの指導というのは、教える側にとってあまり身になるようなことはない。結局魔法は個人の感性の比率が大きいので、指導することで復習になるかと言われれば微妙だからだ。しかし、僕はそこまで勝ちに拘ってないので否はない。レイ先輩に関しても、そんなことで文句を言うような人でもないし、なにより面倒見のいい人だ。この人が拒否する筈もない。
「それじゃあ丁度教える側が3人だし、取り敢えずマンツーマンでやりましょうか。2人とも、何かあったら呼んでね」
「「はい」」
という訳で、僕たちそれぞれで教えることになったのだけど。
「はいはーい! ナナ! 私に教えて!」
「あはは……」
マンツーマンということで、早速シズクちゃんが挙手。明らかな下心に思わず苦笑が浮かんだ。
「はいそこ。部活中に私情を挟まない。という訳で相手はランダムに決めます」
シズクちゃんの公私混同をバッサリと切り捨て、コーチがマンツーマンの組み方を唱えた。残念ながらシズクちゃんへの慈悲はないらしい。
という訳で、僕たち指導組とシズクちゃんたち生徒組でまず別れる。そしてそれぞれの組で1から3までの数字を選ぶことに。
「はい1の人」
「あ、私です」
「じゃあルナは私とね」
「よろしくお願いします!」
1グールプ。ルナ先輩とコーチ。なんというか見ていてとても安心感がある。
「オレが2な。そっちは?」
「……あぅ。私です」
「……ほう? オレが相手じゃ不満そうだなオイ?」
「いえそういう訳では! よろしくお願いしますレイ先輩!」
2グールプ。シズクちゃんとレイ先輩。尚、早速シズクちゃんが口を滑らせた模様。
「となると、僕が教えるのはセフィか」
「そうですね。よろしくお願いしますナナ」
「はいはい。よろしく」
で、3グールプ。僕とセフィ。取り敢えずシズクちゃんの視線が痛い。
まあそれは兎も角。これでグールプ分けは終了。
「それじゃあ始めるから、それぞれの邪魔にならないように散らばって」
「「「「「はい!」」」」」
さてさて。それじゃあマンツーマンでの指導といきましょうか。
因みに今回の練習環境云々ですが、総合的に見るとラクシアに迫るレベルにまで上がってます。周囲を気にせず魔法をブッパできるのはそれだけで魅力的。
やはり世の中コネと立場。




