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少年魔導師の魔法スポーツ部活録〜これでも最強戦闘組織に所属してます〜   作者: みづどり
第三章 フリットカップに向けて
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第四十話 機動隊第7班嘱託陸上魔導師 水無月ナナ

いやー、今回の書きだめ難産でした! お陰でギリギリの投稿。また残基が減るところでしたわ。……ところで単純な足し算ができなくて勝手に残基減らした馬鹿の話すりゅ?……私です


題名を覚え書きのまま投稿するという特大ガバが発覚。失敬しました。

タイラー少年は想像以上に愚かだった。

折角人が忠告してやったというのに、タイラー少年は引き際を間違えた。口論の内に片付けようとわざわざ提案してやったのに、暴力に訴えてくるなんて。

胸倉を掴むまではセーフだった。僕だって結果として彼の手首に痣をつけたのだから、お互い様ということで済ませるつもりだったのに。こんな大勢の前で殴りかかってこられたら、対処しなければならないじゃないか。

ましてや『ぶっ殺す』なんて言葉と共に3級デバイスを起動させられたら、それはもう超えてはいけないラインを全力で踏み越えてしまってる。


「オイ!? これ一体何なんだよ!?」


その浅慮の代償がコレだ。地面に転がり、デバイスから呼び出した(バトルスーツと同じ原理)犯罪者用の魔法錠で拘束されたタイラー少年である。


「な、ナナ……?」


本人は勿論、騒ぎを眺めていた野次馬も、間近で見ていたシズクちゃんも、誰も彼もが状況を飲み込めていない中、僕は淡々と保安隊へと連絡した。


「機動隊第7班嘱託陸上魔導師の水無月ナナです。第一地区中央駅、フランプスポーツ用品店前にてトラブルが発生。私を含む当事者の内、1名が3級デバイスを起動させた上で『殺す』と殴りかかってきた為、殺人未遂の現行犯で拘束しました。応援願います」

「殺人!? オイふざけんな! 誰もんなことしてねぇぞ!?」

『了解しました。直ちに職員を向かわせます』

「お願いします」


取り敢えず、これで保安隊への連絡は完了。何やら足元でタイラー少年が喚いているが無視。

まずはショックを受けているであろうシズクちゃんのケアだ。


「ゴメンねシズクちゃん。折角のデートなのにこんなことになるなんて……」

「え、あ、うん……そ、それは大丈夫というか、原因は私だし」

「それは違うよ。原因はここで拘束されてる馬鹿で、キミは全く悪くない。そこは間違いないで」

「いや、そうじゃなくてっ。これってどういうこと!? それに嘱託魔導師って……」

「あー、うん……」


成り行き上仕方なかったとは言え、改めて説明するのはアレだなぁ。いや、流石にしなきゃ駄目なんだけど。


「まあ、はい。隠してたけど、機動隊の嘱託魔導師やってます。ざっくり言うとユメ姉さんの部下です」

「ええええっ!?」


すると案の定というか、シズクちゃんは驚愕で絶叫した。そして恐る恐るといった様子で尋ねてくる。


「な、何で隠してたの……?」

「騒がれるから」

「……それだけ?」

「それだけ」


シズクちゃんの言葉に頷く。

理由なんて本当にそれだけ。こう言ってはアレだけど、僕みたいな年齢で嘱託魔導師というのは相当珍しい。ましてや機動隊所属となれば、次元世界全体で見ても稀だと断言出来るレベル。隠さなければ騒ぎになるのが分かっているのだから、そりゃ隠すという選択肢を取るに決まっている。……因みに同じ理由で隠してることがまだあるのだけど、まあそれは置いておいて。


「えっとじゃあ、今のこれは……」

「……さっき言った通り、嘱託魔導師の権限で逮捕したんだよ。まあ、現行犯だし私人逮捕でも問題無いんだけど。因みに罪状は殺人未遂」

「ふざけんな! オレは殺そうとしてねぇぞ!」


またもやタイラー少年が会話に割り込んできた。だがまあ、今回はシズクちゃんへの説明も兼ねて答えてあげようか。


「いいかこの野郎。お前がやろうとしたのは何をどう言い繕っても殺人未遂だ。殺す気はなかったなんて言い訳は通用しない」

「何でだよ!? ただ殴り掛かっただけじゃねえか!?」

「デバイスを起動させたからだよタコが」

「はぁ!?」


はぁ!? じゃないんだよ。資格試験受けたんじゃないのかキミ。


「……あのな? 3級デバイスがスポーツ用なのは、ダメージ変換型防護フィールドに特化した仕様だからだ。魔導戦技を筆頭にした対戦型の魔法競技は、この防護フィールドに依存してる。この高性能な防護フィールドと、十分なマージンを取った使用魔力制限、この2つがあって初めて安全な競技が成立するんだ」


ダメージ変換型防護フィールドがあるから、選手は魔法を喰らっても怪我をしない。そして防護フィールドを突破できないよう魔力が制限されているから、魔法は競技は認められている。……勿論、使用魔力制限があっても防護フィールドを突破してしまうことはあるが、それは極々稀な事例である。またそうした場合でも、防護フィールドのお陰で重症化することは少ない。

ここまでの安全性があるからこそ、対戦型の魔法競技はメジャースポーツの地位を獲得できているのだ。


「だが逆に言えば、防護フィールドがなければこれらの行為は極めて危険なんだよ。なにせ強化魔法が掛かった拳は岩を砕く。射撃魔法は地面を抉る。他にも武装での攻撃etc.。そんなの生身で受けたらどうなるか想像付くだろ?」


考えるまでもない。どれもこれも致命傷だ。そんな致命の魔法を放てるのが3級デバイスなのだ。なにせ試合で使えるのだから、試合以外で使えない道理はない。


「だから3級デバイスは、有事の際をのぞいて許可された施設又は指導者の下でなければ起動させてはならないんだ。それなのにこんな場所で、喧嘩の為に起動させるなんて論外だ」


行為としては実弾が装填された拳銃を振り回すのと大佐ない。いやむしろ、魔法の分こちらの方がタチが悪い。本人の魔法領域によっては、テロレベルの破壊も可能になる訳だし。


「キミは人に凶器を向けたんだよ。だから殺人未遂」

「い、いや違う! 使うつもりなんてなかった! 起動させたのは、あくまで脅しのつもりで……! だから殺人未遂じゃない!」

「……残念なことに、本心はどうあれ『ぶっ殺す』って言っちゃってるから。殺意の証明はされちまってるの。無言で起動させたらまだ結果は違ったんだけどねぇ……」


だから馬鹿だって言ったんだよ。自分から罪のレベルを二段階も上げたんだもの。わざわざ自分の首を絞めるなんて、正真正銘の馬鹿としか言い様がない。


「ただ殴りかかってくれば補導ですんだ。無言で起動させてれば逮捕はされても、まだ希望はあったのにねぇ」

「い、いや違う! そ、そうだ! これは3級デバイスじゃない! 4級デバイスだ! お前の勘違い、勘違いだよ」

「そのガワは3級デバイスのでしょ。一応こんな職に就いてるから、規定デザインは全部把握してるんだよ」

「い、いや、これは魔導戦技をやっていることをアピールする為に、敢えて3級デバイスとガワを同じにしてるだけで……」

「3級以上のデバイスの通常形態は、統括局が定めたデザインにするのが規則です。逆に4級デバイスでそれらのデザイン、及び類似したデザインを使用することは禁止されてます」


3級以上のデバイスは危険物だ。だから個々人のスタイルがある戦闘形態は兎も角、デフォルトである通常形態は統括局が定めたデザイン群の中から選出し、一目で判別できるようにしなければならない。これはオーダーメイド品だろうが例外は無い。その為にガワのデザインは決まっているし、判別を容易にさせる為に4級デバイスでそれらのデザインを模倣することは法律上できないのだ。……まあ、判別の為とはいえデザイン性は必要という声があるせいで、規定デザインにしても結構な種類がある訳だけど。例えば僕のオーケストラなら【バッジーA型】、シズクちゃんのアトラクナカなら【ネックレスーC型】みたいな感じで。

まあそんな訳で、タイラー少年の言い訳は無理がある。


「ついでに言うと、3級デバイスの起動エフェクトが確認されてるから、何を言っても誤魔化すなんて絶対無理よ」


デザインと同様の理由で、3級以上のデバイスは起動の際に指定されたエフェクトが発生するようにプログラムされている。だから如何にガワが違うと言い張っても意味がない。


「ま、それでも言い訳したいんなら勝手にどうぞ。ただしそれは保安隊の署の方でね。……あ、ちょうど来たみたい」

「嫌だァァァ! 逮捕なんてされたくねぇよぉぉ!!」


到着した保安隊の方々を目にしたことで実感を得てしまったのか、遂にタイラー少年が泣き出してしまう。その様子は先程までのチンピラ然としたものではなく、幼い子供のそれ。その光景はなんとも痛々しい。

しかし現実は無常だ。超えてならない一線を超えてしまった以上、その代償は人生をもって支払なければならない。

そうしてタイラー少年が2人の保安隊隊員に連行される中、残った2人の保安隊隊員が僕らの方にやってきた。


「保安隊第一地区中央署のレイジー巡査長です。通報を受けて参りました」

「同じく巡査部長のグランです」


そう名乗りながら、2人は保安隊であることを示す手帳を僕たちの方に提示した。ふむ。若い女性の方がレイジー巡査長、中年に入るか入らないかの男性のグラン巡査部長ね。

そしてレイジー巡査長が1歩前に出る。どうやら僕らが子供ということで、威圧感の少ない彼女が主に対応するようだ。


「えっと、通報された嘱託魔導師の方は教えてくれるかな?」

「僕です」

「えっ!? あ、これは失礼しました。えーと、その、腕章の方は……?」

「ああ、すみません。学校の制服だったもので。腕章を付けると身元が広まる可能性が高くて」

「あー……」


名乗り上げると凄い驚かれたけど、理由を告げると納得してくれた。更に2人だけに見えるように、嘱託魔導師の証である腕章を呼び出したことで、対応そのものが変化した。具体的に言うとグラン巡査部長が前に出てきた。


「では、キミが彼を拘束したということで間違いないかな?」

「ええ」

「更にもう1つ。……キミの名前は水無月ナナというそうだが、あの水無月ナナで間違いないかい?」

「……あのと言われても分かりませんが、まあ恐らくその水無月ナナであってますよ」

「そうですか……」


そうしてグラン巡査部長は深く頷く。尚、シズクちゃんとレイジー巡査長は僕らの指示語だらけのやり取りに?マークを浮かべていた。

そんな2人を他所に、僕らは苦い顔で会話を続ける。その内容は当然、今しがた連行されていったタイラー少年についてだ。


「いやはや。あの少年も運が無いですな。まさか絡んだ相手があの水無月ナナ殿とは」

「僕としてもこんな大事にしたくはなかったですがね。色々手続きが面倒ですし。ただ現行犯となると流石に……」

「しょうがないでしょう。罪を犯してしまった以上、それを見逃すのもまた罪です。治安維持を使命とする我々が、それをするのは許されない」


犯罪者を捕まえる。それが僕らの仕事である以上、その役目を放棄する訳にはいかない。例え相手が子供であっても、内心でどう思うと職務は全うしなければならないのだ。


「全く……。面倒なことをしてくれましたよ本当に。お陰で折角のデートがパァです」


ましてや、デートを優先したいなんて理由で、罪を見逃して良い訳がない。……そんなことしたらユメ姉さんとロア姉さんに〆られる。


「はぁぁぁ……。取り敢えず、僕も署の方に向かいます。さっさと手続きを済ませましょう」

「そうですな。時間は有限ですし」

「あ、彼女の方は家に帰してしまって構いませんか? 検証に関しては、やり取りを全て記録してるので、そちらと僕の証言で事足りると思うのですが」

「ああ、それならば構いませんよ。データの方は頂いても?」

「こちらです」


証拠用にこっそり録画していた映像データを、グラン巡査部長のデバイスへと送信。これでまあ、検証の手間は大幅に省けるだろう。


「いやはや。こう言ってはアレだけど、勝手が分かってる人が事件関係者ってのは楽だねぇ」

「まあ確かに」


内容としては不謹慎この上ない台詞ではあるけど。こうしてスムーズに話が進むというのは、こういう仕事では有り難いものだ。僕も似たような経験があるから分かる。

そしてざっくりと映像データの確認をしたグラン巡査部長は、小さく頷いた後、隣に控えていたレイジー巡査長に指示を飛ばした。


「レイジー巡査長。問題無さそうだから、車1台使って彼女を家まで送ってあげなさい」

「了解です!」

「え、えっ!?」


尚、トントン拍子で話が進んでいくせいで、シズクちゃんが話についていけてない様子。


「な、ナナ? 私帰っちゃって大丈夫なの? こういうのって、取り調べとかされるんじゃ……」

「取り調べは大丈夫ですよー。貴女は被害者なんですから、そういうことはありません」

「え、でも、説明とかしなくちゃじゃ……」

「それもあちらの彼氏さんがやってくれますので、安心してください」

「か、彼っ!? いや、そうじゃなくて、流石にそれは……!」


駄目なんじゃと、シズクちゃんは声を上げるが、僕はそれに対してゆっくり首を振る。

確かにシズクちゃんの反応も間違いではない。証言は多い方が良いし、僕らは被害者という意味では重要参考人だ。帰さない方が良いという意見もまた正しい。

ただ今回の場合、元々僕が治安維持側の人間であるということと、騒動の全容が記録されたデータという明確な物証があるという2点から、被害者であるシズクちゃんにこれ以上の負担を掛ける必要は無いという判断が下された訳だ。

ただまあ、それに本人が納得できるかどうかは別の話のようで。


「ナナ、私も一緒に行くよ? 負担とか全く思ってないよ?」

「あのねシズクちゃん。これはキミに気を遣ってるとか、そういうのとは違う、嘱託魔導師としての僕の本心からの言葉なんだけど」

「う、うん……」

「この手の事後処理は本っ当に面倒だから、任せられるなら任せておきなさい。マジで」

「へ? え?」


いや本当に。今の時間だと調書とるだけでも下手すると1日終わるから。その他にも家族に連絡いったらてんやわんやになるし、絶対に疲れ果てるから。


「これはそういうタイプの話だから、素直に従っとこうね?」

「は、はい」

「うん、良い子」


気圧されたように頷いたシズクちゃんの頭を撫で撫で。素直で大変宜しいですね。


「じゃあねシズクちゃん。こんな形でお別れになって残念だけど、デート楽しかったよ。また今度、一緒に出掛けようね」

「う、うん!」


そうしてシズクちゃんは元気に頷いた後、レイジー巡査長と共に車に乗り込んでいった。


「……さて、と」

「いやー、ああいうのは初々しくて良いものですなぁ」

「逆にこれから生々しいお話になりますけどね」

「まあ、仕方ないでしょう」


そうですね。んじゃ、ヘヴィでシリアスなモードに切り替えましょうか。

因みタイラー少年がやったことを現実に当てはめると、クレー射撃orアーチェリーor居合の学生選手が喧嘩した挙句、試合道具(銃or弓or真剣)を構えて殺すと叫んだ感じです。現実でも多分殺人未遂となります。

後シズクちゃんが事情聴取を逃れたのは作中でも特例寄り。現実でできるかは不明です。まあフィーリングで読んでくださいな。

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― 新着の感想 ―
[一言] タイラー少年は呆れとかを通り越して、悲しくすらなってきますね。 現実でもナイフ構えておいて、怪我させてなければ罪に問われないと思っている人間もいると聞きますし、ありえそうなのがまたなんとも.…
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