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少年魔導師の魔法スポーツ部活録〜これでも最強戦闘組織に所属してます〜   作者: みづどり
第三章 フリットカップに向けて
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第三十九話 如何に穏やかであろうとも

仕事が忙しい(衝動的に新作のプロット書いてた)せいで残基マイナス1。くそぅ

ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべながら、大柄の少年が近づいてくる。


「よおストライム。久しぶりだなぁ。こんなところで会うとは思わなかったぜぇ?」

「……うん。久しぶり、タイラー」


僅かに強ばった声音で、シズクちゃんは少年に挨拶を返した。タイラーと呼び捨てにしてるところを見るに、やはりシズクちゃんの知り合いのようだ。……但し、あまり宜しい関係ではなさそう。

とは言え、現状では挨拶を交わしただけ。険悪な雰囲気になってる訳ではないし、軽く挨拶をして終了なんて可能性もある以上、ここで割って入るのはマズイか。下手したら余計に話が長くなる。

取り敢えずは静観の構え。しかしいつでも動けるように要警戒だけしておこう。


「この店に用があるってことは、まだ魔導戦技やってんのかぁ?」

「まぁ、うん……」

「なんだよ歯切れ悪りぃなぁ。クラブチームでオレを笑いながらボコボコにした奴とは思えねぇ」

「っ」


タイラー少年のその言葉に、シズクちゃん身体が一瞬強ばった。……なるほどね。今の反応である程度察した。詳細を聞いた訳ではないけれど、多分このタイラー少年がシズクちゃんが抱えるトラウマの原因、というより切っ掛けなんだろう。


「いやぁ、あの時のことは今でも夢に見るぜ。なんせあの時のお前、本当に容赦無かったもんなぁ。怖すぎて俺もクラブ辞めようかと思ってたんだせ?ま、先にお前が辞めたお陰で続けたけど」

「っ、その節は本当にゴメンなさい……」

「オイオイ。謝ってくれるなよ。余計に俺が惨めになるだろう? お前に嬲られるぐらい悪かった俺が悪いんだからよぉ」


ああ、うん。流石に静観してる場合じゃなさそうかな。


「それはーー」

「行くよシズクちゃん」


何かを反論しようとしたシズクちゃんを遮って、僕は彼女の身体を引っ張った。これ以上の会話はするだけ無駄であると、店の中へと入ろうとする。


「アァ? オイオイいきなりなんだよお前。今オレが話してんだろうが」


しかしながら、タイラー少年が僕らの前に立ちはだかった。まあ当然か。ここで大人しく見送るようなら、あんなタチの悪い絡み方をする訳がない。


「僕は水無月。彼女の連れさ。悪いけど退いてくれないかな? 僕らは用事があるんだ」

「うるせえチビだなぁ。人が話してんのに邪魔するとか常識無ぇのか?」

「ハッ。アレは話すとは言わないよ。アレは過去をネタに虐めてるだけだ」

「オイオイ。何も知らねぇ奴が人聞きの悪いこと言うなよ。俺はただ昔を懐かしんでただけだし、その昔のことだってどちらかと言えばやられた側だぜ?」

「だろうね」


タイラー少年の口振りからして、彼がかつての加害者という訳ではないのだろう。シズクちゃんの反応的にも、どちらかと言えばシズクちゃんがやらかした側だ。恐らく、試合でシズクちゃんがヒートアップして、幼かったタイラー少年に圧勝。それが原因で周りから距離を置かれたとか、そんなところだろうか。そういう意味では幼いタイラー少年も被害者というか、運が悪かったのだろう。

しかしながら、現在進行形で吐き出される悪意は加害者のそれだ。


「ただその割には、随分と毒のある言い回しをする。嬲ったなんて、まるでシズクちゃんが悪者だ」

「だーかーらー! 何も知らねぇ奴がシャシャるなって言ってんだよ! あの時の試合を見てねぇ奴が入ってくんじゃねぇ!」

「あ、そう。ならキミも僕たちのデートの邪魔をしないで欲しいな。折角の楽しいイベントに入ってこられるのは困るんだ」

「アァ!? 」


タイラー少年の言葉をもじった上で返すと、どうもそれが癪に障ったのか声にドスを効かせて凄んできた。……だが悲しいかな。元ストリートチルドレンかつ現職の嘱託魔導師を威圧するには、残念ながら迫力が足りない。せいぜいが不良かチンピラでしかないタイラー少年の厳つい表情など、向けられたところで滑稽でしかない。


「オイこのチビ。女の前だからってカッコつけんじゃねぇよ。こちとら魔導戦技やってんだ。テメェをボコすのなんてわけねぇんだぞ」

「魔導戦技は僕もやってるんだけどね」

「ハッ。チビがイキんなよ。……ただまあ、それなら手っ取り早いな。俺はクローズ学園の所属だ。分かったらさっさと頭下げろ。惨めったらしく許しを乞えば許してやる」


ゴメンなさい何が言いたいのか全く分かりません。


「……えっと、有名校?」

「はぁ!? お前、魔導戦技やっててウチの学校知らねぇのかよ!?」

「ああ、うん。ナナ、魔導戦技始めたばかりでそういう情報疎いから……」


僕の反応にちょっと困った表情を浮かべたシズクちゃんが、クローズ学園について簡単に説明してくれた。

曰く、クローズ学園ははスポーツに力を入れた中高一貫校であり、その中でも魔導戦技部は有名。部は完全な実力主義を掲げていて、入部する為には厳しいテストをクリアする必要がある。また、入部後も部内のランキング制度によって、明確な上下関係が定められている。実力があれば中学生だろうが高校生の上に立つことができ、その逆もまた然り。……そしてそんな気風のせいか、実力こそ確かだがガラがあまり宜しくない部員が多いのだとか。

つまりタイラー少年は、所属を使って遠回しな実力マウントを取ろうとしていたと。……何か頭痛くなってくるな。


「ハッ!強がっておいて素人とは笑えるなぁ! 分かったらさっさと謝れよ! じゃねぇと本当にボコボコにすんぞ」

「さっきから思ってたけど、その脅しの仕方はどうなのさ……。キミ仮にも魔導戦技やってんでしょうに」

「アァ!?」

「いや『アァ!?』じゃなくて」


何でそこで不思議そうな顔するのかな。


「3級デバイス所持規約第9条。3級デバイスを所持するものは、試合及び許可された施設、監督者の管理下、自衛などの緊急時を除き、戦闘に類する行為を行ってはならない。違反者には罰則として3級デバイス所持資格の一時停止、又は資格の剥奪が行われる。……資格取得試験の時に言われなかった?」


端的に言ってしまえば、3級デバイスを所持してる奴は私闘などの暴力行為をするんじゃねぇと、そう規則で決まっているのだ。

なにせ3級デバイスは扱い次第では十分に危険な代物である。3級デバイスがスポーツ用とされているのは、内部のリソースの殆どを競技用の超高性能なダメージ変換型防護フィールドに注ぎ込んでいるからだ。そしてこれを言い換えれば、僅かに残ったリソースは手付かずということに他ならない。つまり使い方と本人の資質次第では、殺傷性のある魔法を使うことも不可能ではないのだ。

となれば、資格所持者に高い倫理観が求められるのは当然のこと。人を害せる代物を持ち歩く人間が、粗暴であっていい筈がない。つまりタイラー少年の脅し方は、魔導戦技の選手としては完全にアウト。実際に手を出せばその時点でタイラー少年の選手生命が危ぶまれるどころか、まず間違いなく牢獄行きだ。。


「あと仮にも人を脅すんなら、無闇矢鱈に身元を特定される情報を話さないの。そんなことしたら速攻で足つくよ?」

「うるせえなあ!? 何でお前にんなこと説教されなきゃなんねぇんだよ!」

「だって恫喝の仕方が素人丸出しなんだもの……」

「アァ!?」


なんて言うか下手なんだよ。マウントの取り方が戦技経験者だの、強豪校所属だの。荒事になった時のイメージが絶妙にしにくいし、手を出した場合の時タイラー少年のデメリットが浮き彫りになり過ぎてる。そのせいで言ってることの全てが張ったりにしか感じられない。シズクちゃんの情報が正しければ、確かにタイラー少年はそこらの人よりは強いんだろうけど、その強さが恐怖に結びつかないんだ。だって絡んできた理由もしょぼいんだもん。絶対に昔シズクちゃんにボコられたことへの仕返しでしょコレ。絡み方のねちっこさといい、根に持ってるのが丸分かりなんだよ。

総評すると、イキってるだけのただチンピラ。実力から溢れる凄みも、犯罪者特有の何しでかすか分からない獰猛さもない。中途半端な才能のせいで増長してしまったクソガキだ。


「やり慣れてないならあんまり人に噛みつかない方が良いよ。下手な奴に絡んだら返り討ちにあう」


なんなら現在進行形で逮捕権のある準公務員に絡んでるからね。恫喝でしょっぴこうとすればできるし、既にタイラー少年の未来は僕の気分次第ということだ。


「分かったら今後は大人しくしときなさい。行くよシズクちゃん」

「え、あ、うん……」


僕の真面目な忠告に呆気に取られるタイラー少年を無視し、シズクちゃんの手を引いて店の方へと進んで行く。


「っ、テメェ待てやコラ!」


が、またしてもタイラー少年に行く手を阻まれる。しかも今回は胸倉を掴まれるオマケつきだ。


「タイーー」

「いいから」


流石にそれはと声を上げたシズクちゃんを制止させ、タイラー少年に視線を向ける。気持ち強めに。


「さっきも言ったけど、3級デバイス持ちは暴力行為はご法度だよ?」

「うるせえんだよ! んなこと言うならしてみろよ! 女の前で先生や親にでも泣き付けるってんならなぁ!」


……泣きつくまでもなく拘束できるんだよなぁ。


「大体気に入らねぇんだよ! テメェみてぇなチビが俺に楯突くのも、ストライムみたいな気持ち悪い女がまだ魔導戦技やってるのもよ!」

「気持ち悪い、だって?」


思わずだ。思わず低い声が出てしまった。シズクちゃんが気持ち悪いと言われたから。何より彼女が傷付いた表情を一瞬だけ浮かべたから。

だが当のタイラー少年は、僕の言葉を疑問として受け取ったらしい。


「あーん? お前もしかしてストライムの本性知らねぇのか? コイツこんなナリして試合だとすげぇキモイんだぜ? ケタケタ笑いながら殴りかかってくるからもう最悪。昔のクラブでも、コイツのこと気味悪ーー」

「黙れ」

「……あ?」

「黙れって言ったんだよクソガキ」


……もういいや。仮にも機動隊所属だし、なによりシズクちゃんの前だし。乱暴な言葉は普段からできるだけ控えるようにしてたんだけど。大切な女の子をここまで侮辱されて、大人しくなんてしてらんない。それはもう、機動隊とかそういう問題じゃない。男として許されない。

心の中でスイッチを切り替える。善良な中学生の水無月ナナから、ストリートチルドレン時代の僕へと。

そうして徐にタイラー少年の手を掴み、


「まずこの手を離せ」


握り潰す勢いで力を込めた。


「ッ、イデデデッ!?」


これには堪らずタイラー少年も手を離した。予想外の握力だったのだろう。なにせほんの一瞬握られただけで、タイラー少年の手首には青紫の跡が刻まれたのだから。


「っ、テメェ!? 魔法使いやがったな!? そっちこそ法律違反じゃねえか!」

「使ってないよ」


大方、僕の見た目に釣り合わぬ握力に、強化魔法でも使ったと思い込んだのだろう。だがこれは僕の素の力だ。正確に言えば、魔導師としての僕の素の力だ。


「変に騒がれても面倒だから教える。今のはただの魔力強化」

「はぁ……!?」


【魔法】とは、魔力を消費することで発動する物理法則を超越した奇跡、それらを体系化したものだ。では魔法でしか奇跡を起こせないかと言われれば、それは否である。なにせ魔法は【魔力】を消費して発動する。言い換えれば、魔力には物理法則を超越できるポテンシャルがあるということである。つまり魔法などを使わなくても、多少の奇跡は引き起こせるということだ。

確かにタイラー少年の言う通り、魔法を使っての暴力行為はご法度だ。だが魔力による強化は、2つの理由から法律違反にはならない。

1つ目はコレが魔導師としての生理現象だから。肉体に魔力を宿す魔導師にとって、魔力による強化は常に発生している。人が力を入れる時に力むように、魔導師は力を入れる時に魔力を消費してしまう。これはそういうものであり、制御するには多大な努力が必要となる。そうである以上、法律で規制することができないのだ。

2つ目は効果が微々たるものだから。魔法が最大効率を突き詰めた技術であるとすれば、生理現象である魔力による強化は洗練が一切されてない最低効率。更に言えば、生理現象である以上活動に支障が出るレベルの魔力は消費されない。効果自体が乏しく、消費される魔力も個人の魔力回復量の1%から0.~%でしかないのなら規制する意味がない。なにせ非魔導師と魔導師を比較してみたところで『これただの個人差では?』と比較対象となった両方が首を傾げるレベルなのだから。

では何故僕の場合だと、こうも明らかなレベルで身体能力が上昇するのか。それは偏に保有魔力の差だ。魔力の回復量は保有魔力量に比例するため、結果としての僕の場合は魔力強化だけでも強化魔法に匹敵する効果を誇る。因みに僕は制御できる側だ。制御無しだとタイラー少年の腕は潰れてる。

……まあそもそも論として、逮捕権のある僕なら任意の魔法使用も許可されてるし、既にタイラー少年は魔法による拘束が可能な程度にはやらかしている訳だけど。具体的に言うと恐喝と暴行。

ただ流石にそれを言うつもりはない。まだ子供同士の諍いで済まされる範疇だし、一線を超えるようなことが起きない限り大事にするつもりもない。そんな法律のことよりも、僕にはもっと言いたいことがある。


「お前に言いたいことは3つある。まず1つ目。僕らが気に入らないだって? 同感だよ。僕も最初からお前が気に入らない。いきなり人の連れを侮辱する奴なんか大っ嫌いだ」


楯突くだって? 当たり前だろ。デートの相手を一方的に侮辱されてるんだ。言葉の一つ一つに毒を混ぜるに決まってる。それでイラつくだと? 舐めるなよクソが。僕はそれ以上にイラついてるんだ。


「2つ目。お前の価値観なんて知ったことか。僕にとってのシズクちゃんは可愛くて素敵な女の子だ。お前が馬鹿にしてくれた一面も、僕にとっては大切な彼女の個性だ。二度と僕の女を侮辱するな。不愉快だ」


人の価値観なんてそれぞれだ。だからタイラー少年がシズクちゃんをどう思うが自由だ。だが治外法権が適用されるのは脳内だけなんだよ。悪意なら秘めなきゃいけないんだ。それを口にしてしまったら、ぶつかり合うしかないんだよ。


「3つ目。これが最後の警告だ。口論で済む内にさっさと僕らを解放しろ。これ以上騒ぎが大きくなれば、僕も真面目に対処するしかなくなる。引き際を間違えるな」


既に僕らはかなり注目されている。なにせここは人通りの多い駅周りだ。そんな場所でこうもギャーギャー叫べば、当然人目を集める。今はまだ遠巻きに見られているだけだが、それは僕らの見た目が子供であるのと、ギリギリ口論の範疇に収まっているからだ。だがこれ以上ことが大きくなれば、保安隊に通報がいく可能性がある。そうなれば僕も嘱託魔導師の肩書きを使わなければならないし、タイラー少年も正式に処罰を受けることになる。

つまり今が引き時なのだ。僕は言いたいことを言った。タイラー少年もこれ以上は経歴に傷がつく可能性が高い。互いの内心はどうあれ、今この瞬間がお互いが幸せでいられる分水嶺で、超えてはならない一線なんだ。


「……ああ、分かったよ。お前の言いたいことは良く分かった」


だがしかし、僕の最後の良心からの忠告は、どうやらタイラー少年には届かなかったようだ。


「ぶっ殺す」


その言葉と共にタイラー少年は殴りかかってきた。3級デバイスを起動させた上で。


「ーー馬鹿が」

ナナ君の素が漏れた回。まあ如何に物腰穏やかだろうとも、元ストリートチルドレンだしね。相応にガラの悪い面もあります。……てか一人称視点の中で、ちょくちょく地の文がアレな時ありますし。

違和感はない(論破)

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― 新着の感想 ―
[一言] おっと、ナナくん元の性格だと中々に良い性格してるな...... いいぞ、もっとやれ!
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