第三十六話 懐かしき学び舎、しかし彼は宙に浮く
ふー。危ない危ない。書きだめがまたへるところでした。
それはそうと、新作というか読み切りが無事?完結しました。……それだけですね。
中学入学。タンカー座礁事件。ラクシアでの練習試合。レイ先輩からの宿題。そんなイベントが目白押しだった魔の1週間が終わり、1の日の朝。
普段通りに起きて、ユメ姉さんと朝ごはんを食べて、家を出た。そしてシズクちゃんとセフィと合流する。
「おはよー」
「おはようございます」
「うん。おはよう」
挨拶もそこそこに3人で歩き出す。登校時間があるので、立ち話をする暇はないのだ。
という訳で学校に向けてテクテクテク。勿論、その間に雑談はする。話題はレイ先輩からの宿題についてだ。
「それにしても、宿題どうしようかー」
「ああ。やはりアレは悩みますよね」
「まあ練習メニュー考えろってのはねぇ」
と言っても、3人揃って話せる程に形が決まっていないのだけど。
やはりこういうのは、ある程度ちゃんとした知識というものが必要になる訳で。シズクちゃんとセフィは選手一本でやってきたせいか、そっち方面は明るくない様子。僕は僕で、思いつく訓練が機動隊よりなせいで微妙なところだ。……いや、機動隊式訓練自体はめっちゃ効果あるんだけどね。ただ学生がやるには過酷かつスポーツ選手向きじゃないんだよ。
ま、それは兎も角。レイ先輩の宿題に、僕らは絶賛苦戦中という訳だ。
「なんて言うか、具体的にどうなりたいかはイメージできるんだけど、それを実現させるってなると難しいんだよねー」
「コーチは毎回こんな大変な作業をしてたんですよね。素直に頭が下がります」
「しかも教師の仕事と並行だからねー」
教師としての仕事をしながら、コーチとして効果的な練習メニューを考えるなんて、本当に大変なんだろうなぁ。……教師が部活の顧問をしたがらないなんて話が出るのもよく分かるよ。
そういう意味では、アドラ先生は稀有なタイプなんだろうなぁ。元々魔導戦技の選手だったらしいし、それだけ魔導戦技が好きなんだろう。お飾りの顧問じゃなくちゃんとしたコーチ業務をやってるのだから、相当な想いがなければできはしないだろう。
「そう考えると、やっぱりここはしっかりしたメニューを考えたいね!」
「そうですね。できる限りコーチの負担を減らせるように努力しましょう」
「……変に力むと空回るよ?」
……一応釘を刺してみたけど、多分これ聞こえてないなぁ。だって2人とも、ムンってやる気を漲らせるてるし。
こりゃ罰ゲームコースが色濃くなってきたなと、久しぶりとなる校門を眺めながら思うのだった。
で、学校に到着した訳だけど。
「うーん。やっぱりちょっと機を失した感があるなぁ」
初日ぶりに教室へと入った僕を待ち受けていたのは、クラスメートからの疎らな挨拶と少々の質問だった。
まあ、うん。転入?したばっかでいきなり連続欠席となれば、そりゃこんな感じにもなるよねぇ。今の僕の状況を一言で表すと宙ぶらりん。本来なら初日の質問責めに始まり、日々の会話を重ねてクラスに打ち解ける筈だったんだけど。僕が欠席し続けたせいでそれが叶わず、自然に打ち解けるタイミングを失ってしまったみたい。
まあ、うん。そもそも僕の場合、入学のタイミングすらしてズレてるからねぇ。1ヶ月もあれば、ある程度クラス内の交友関係も固まる頃だ。つまり遅れて入ってきた僕は異物。しかもクラスメートからしたら、歓迎しようした途端に連続欠席で梯子を外された訳で。
腹立たしいとかそういう感情は無いにしろ、さりとて既に時間が経っている状況で再び歓迎ムードを作るのもなぁ、と微妙な雰囲気になっているんだろう。
さて、どうしたものか。折角学校に通うのだから友達は欲しい。流石にシズクちゃんレベルで仲良くなりたいとは言わないけど、普通に学校生活を送る上で話せるような友人ぐらいは必要だ。じゃないとわざわざ中学に入学させてくれたユメ姉さんに悪いし。
んー……マイナス行動をした訳でもないし、きっかけ次第だと思うんだけどねぇ。何か丁度良いきっかけないかな?
と、そんな風に僕が内心で首を捻っていると、隣の席で鞄を降ろしたシズクちゃんが突っついてきた。
「ねえナナ」
「んー?」
「今日の放課後って空いてる?」
「うん? 予定はないねー」
振替で部活が休みなの、地味に昨日初耳だったんだよね。お陰で部活の為に開けておいた時間、丸々暇してます。
「じゃあさ……前に言ったご褒美のデート、どうでしょうか?」
ーーザワッ
「……それは良いけど、休日じゃなくて大丈夫? 放課後だと少ししか時間ないよ?」
「確かにそうなんだけど、休日は部活や自主練で中々時間がね。でも大丈夫! 少ない時間は密度でカバーするから!」
ーーザワザワッ
「じゃあ放課後どっか行こっか。どこ行くの?」
「場所はまだ考え中。……それでも良い?」
「大丈夫だよ。シズクちゃんの好きな場所で構わないから。もし決まらなくても、イメージを伝えてくれれば僕の知ってる場所で近いところ探すからさ」
「うん!」
という訳で、放課後の予定が大まかに決まったのだけど。……それはそれとして、何か教室の空気が凄いザワついてない?
キョロキョロと周りを見渡すと、クラスの女子たちはウズウズと、男子たちは目を見開いて固まっている。
「……え、何この感じ?」
「それはねぇ……うふふ」
クラスの変化に戸惑っている僕に対して、シズクちゃんは意味ありげに笑った後、パチリとウィンク。……取り敢えず、発端はシズクちゃんで故意的な行動だということは分かった。
そんな僕たちのやりとりが切っ掛けになったのか。固まっていた男子の1人(男子の中でも一際ガタイが良くて威勢が良さそうな)がツカツカと僕の方に。
「水無月、ちょっとこっちに」
「へ? ちょっ」
「はい連行!」
何と言おうとする前に、更に数人の男子に囲まれ教室の外にーー
「ストーップ。ちょっと男子たち? 水無月君を何処に連れてくのかなー?」
連れ出そうとする前に、素晴らしい連携で女子たちが男子たちの行く手を阻む。……ご丁寧に出入口まで抑えているし。
「レックスさぁ、この状況で水無月君を囲んで連れ出すのは、すこーし剣呑なんじゃない?」
「人聞きの悪いこと言うな! 単に男だけで話を聞こうとしただけだ!」
「どうだか。『俺たちのアイドルをよくも!この抜け駆け野郎!』なんて言ってリンチにするつもりだったんじゃないの?」
「そそそそんなことするか!」
声震えてるんですがそれは。……リンチまでは行かなくても、複数で囲んで軽く脅すぐらいはしようとしたんじゃないかなぁ。
「レックスー? 一応言っておくけど、ナナって魔導戦技のトップ選手と互角に戦えるぐらい強いからね?」
シズクちゃんもそれに気付いたのか、少々剣呑な気配を漂わせながらレックス君に釘を刺した。
「はえ!? いや、ストライムさん、決してそういう訳では!」
「そう? なら良いけど」
効果バツグンだなぁ。レックス君、シズクちゃんの一言に直立不動。……なんというか、典型的な思春期男子(女慣れしてない)って感じの反応だ。威勢の良さに反して、そっち方面では純情そうというか。
「じゃあ、教室で話をしても良・い・よ・ね?」
「クッ……しょうがないな」
あ、解放された。
渋々と離れていくレックス君たちを見ながら一息。状況は大方理解できたけど、それ故にコレがまだまだ序盤であるということも分かる。
「で、水無月くーん? シズクとは一体どういう関係なのかなー?」
「そうそう! 初日から怪しかったけど、やっぱり2人って付き合ってるの!?」
「どうやってウチの鈍感アイドルを口説き落としたのかな!?」
ほら来た。今度はクラスメートの女子たちからの質問責めだ。
「ちょっと、皆近いから! ナナから離れ、るっ!」
「キャー! それって独占欲!?」
「そうだよ!」
「「「キャー!」」」
あ、朝から黄色い悲鳴が頭に響く……。そしてレックス君を筆頭とした男子たちの、血涙を幻視するレベルの視線が突き刺さって気まずい。
「シズク、水無月君のカッコイイところは!?」
「全部!」
「仲良くなった切っ掛けは!?」
「魔導戦技!」
「何処まで進みました!? キスとかしたの!?」
「……恥ずかしいから内緒」
「「「キャー!!」」」
す、凄い……。飛んでくる質問をシズクちゃんがどんどん捌いてる。それに伴い女子たちのテンションがアップ。ついでに男子たちの憎しみもアップ。
「では次は水無月君!」
今度はこっちに矛先が向いた!
「シズクの何処が可愛いですか!?」
「え、笑顔ですね」
「どうやって恋愛レベル幼児のシズクを口説いたの!?」
「口説いた訳じゃ……。ただ思ったままに魅力的だって伝えただけで」
「ピャー! 凄い凄い! じゃあ何かシズクのことで1つ惚気けて!」
「の、惚気け? んー、あー……シズクちゃんってさ、蕩けた時の顔が凄い可愛いんだよね。茫洋としてるんだけど、全身でこう幸福感が溢れてて」
「ナナ!?」
「「「キャーーー!!!」」」
「あ」
予想外の質問がきたせいで、ちょっとシズクちゃんがアレだった時のこと話ちゃった。女子たちのテンションが天元突破だし、シズクちゃんもあの時のことを思い出したのか真っ赤になってる。……そして男子たちの何人かがデバイスを構え始めてる。キミらそれ4級デバイスだから攻撃魔法なんて撃てないでしょうに。
「やっぱり結構進んでるね!」
「 2人は一体何時から付き合ってるの!? もしかして入学前から!?」
「いや、僕が入った日が初めて会った日だし」
「……それにまだ付き合ってはないんだよね」
「「「「え!?」」」」
シズクちゃんの台詞にクラスの全員が固まった。まあそういう反応になるよねぇ。
「……それは一体どういうことなの?」
「現在進行形でナナを攻略中ってこと。この気持ちはまだ一方通行なの」
「……そんだけイチャイチャしてて?」
「それは私が甘えてるから。ナナは単にそれを受け入れてくれてるだけなの」
「……それは付き合ってるのとどう違うの?」
「私の気持ちの問題。恋人なら両想いになりたいじゃん!」
「そ、そっか……」
女子たちの中で両想いの定義が揺らいでいるような気もしなくはないけど、取り敢えずはシズクちゃんの言い分に納得したらしい。……その割には、僕を見る目が若干険しくなってるけど。
「……因みに水無月君は、シズクのことどう思ってるの? 」
ほら来た。
「可愛くて素敵な女の子だとは思ってるよ」
「だったら水無月君の方から告っちゃいなよ!」
「当人が決心してるのにそれは流石にねぇ」
告白を保留にしておいて、思わせぶりな態度を取ってるようなものだし、そう言いたくなるのは分かるんだけどね。でもそれは梯子を外すようなものだから、ちょっと違うんじゃないかなと。
「ま、僕からそういうことを言うつもりは無いんだ。待ちはするけど、それだけかな」
「……それはどうなの?」
僕がそう伝えると、クラス中が色めき立った。女子を中心に不穏な気配が湧き上がる。まあ何度も思うけど、パッと見だと僕がシズクちゃんで遊んでるようにしか見えないしね。そりゃそんな反応にもなる。
でも撤回はしない。理由は前に述べた通り、僕がまだシズクちゃんを異性として好きになっていないから。
「だってさ」
「だって?」
……ただ最近は、この理由もちょっと変わってきてね。好きじゃないのに付き合おうは上から目線みたいでちょっと、てのはそのまんまだ。でもそれ以上に、楽しみになってきてる僕がいるんだ。
「こんなナリでも、僕だって男の子だからさ。こんな可愛い子が、僕のことを夢中にさせるって言ってくれてるんだよ? 男冥利に尽きるし、ワクワクするじゃないか」
まだ出会って数日の中だけど、それでもシズクちゃんが魅力は十分以上に伝わった。可愛くて素敵な女の子というのは、お世辞でもなんでもない。
だからこそ楽しみなのだと伝えると、クラスの誰かがゴクリと喉を鳴らした。
「余計なガヤは要らないよ。この関係は僕たちだけのモノだ」
「わっ!?」
誰もが言葉を発さない中、見せつけるようにシズクちゃんを抱き寄せ、腕の中で拘束する。
「水を差す奴は許さない。邪魔をするなんてもってのほかだ。……キミたちはただ観ているだけで良い。シズクちゃんの奮闘を。僕が彼女に溺れてく様を」
そうして、リンゴみたいに真っ赤になったシズクちゃんの頬へと唇を落とす。
「ーー分かってくれたかな?」
「「「「キャーーー!!!」」」」
それと同時に、クラス中に黄色い悲鳴が、それも男女関係のないモノが響き渡った。
因みにナナ君ですが、内心ではそこそこサブイボ立ってます。だって自分のキャラは弁えてるもの。




