第三十一話 人は彼女をこう評した。それはまるで指導のような
ルナ先輩視点です
リングの上で、私とシロが向かい合う。
「やっほー」
「はいはい」
シロが軽い様子で声を掛けてきたので、私も雑に返事を返す。これで会話は終わり。
シロとは長い付き合いだ。試合前の雑談なんてこれぐらいで十分。特に私たちの場合、息が合いすぎて試合中でも普通に喋る。だからここで無駄に話す必要は無い。
お互いにさっさと武器を構え、開始の合図を待つ。こうしてみると、やはり私たちは似ている。
「試合開始!」
開始の掛け声と同時に、デバイスである長槍を構えたシロが駆け出してきた。既に強化魔法を発動しているようで、その動きは機敏だ。
「はぁぁぁぁぁ!!!」
そして裂帛の気合いと共に飛んで来る、長槍による鋭い乱れ突き。
その槍の冴えは見事と言う他無く、ライバルであるシロの成長がこれでもかと伝わってきた。
……とは言え、これならまだ防げれるレベルだ。少なくとも、うちの1年女子コンビの攻撃みたいな厄介さは無い。
「確かに強くっ、なってるわね!」
感想を述べながらも、迫り来る槍先を1回1回丁寧に捌いていく。
時に躱し、時に逸らし、時に払い。そうして計5回捌いた辺りで、シロが一旦距離を取った。
「……あーもうっ! 相っ変わらず守りが堅い!! 少しは当たれ!!」
「誰が当たるかバカ」
「なんだとう!?」
長槍をブンブンと振って抗議してくるシロに、私は思わず苦笑を浮かべた。ここ最近は会っていなかったたが、この幼馴染兼ライバルは相変わらずのようだ。
無邪気で天真爛漫。猫のように気分屋で、その癖試合となると狩人の如く冷静になるコワイ奴。
今も子供のように地団駄を踏んでいるが、私が気を抜いた瞬間には同じ表情のまま貫きに来る確信がある。相変わらずの抜け目なさだ。
「あーあー。折角成長したってのに、やっぱりルナの防御は抜けないかぁ。本当に鉄壁」
「あのね。私だってアンタと同じで成長してんのよ。そう簡単に抜かれるかっての」
「でもどうせ成長してるのは防御だけで、攻撃は相変わらずへっぽこなんでしょ?」
「やっかましい!!!」
シロに図星を刺され、思わず怒鳴り声を上げてしまった。
「そい!」
そして予想していた通り、その瞬間を狙って閃光の様な突きが飛んで来る。……まあ余裕で防いだけど。
「アンタも本当、良い性格してるわよね……」
「手首返しただけで防いどいて何言うか……」
お互いに変わりない事を確認し、私達は同時に溜息を吐いた。
「取り敢えず、アンタが成長したのは実感した訳だけど。……何で貴重なラクシアとの練習試合で、もう嫌という程戦ってるアンタと試合しなくちゃなんないのよって話なのよ」
「それはもうほら、私達ってライバルじゃん?」
「それとこれとは話が別でしょうに……」
ぬけぬけと言い放つシロに、思わず頭を抑え、
「隙あり!」
「甘いっての」
ついでに飛んできた突きを防いでおく。
「……ついにノールックで防ぎやがった!? 余裕かコラ!?」
「単純にアンタの行動パターンが分り易すぎなのよ!」
「なんだとう!?」
シロが抗議の声を上げるが、事実故に撤回する気は無い。もう何年の付き合いだと思っているのだ。何を狙っているのかなど、目か声音を意識すれば大体分かる。
今だって、悔しげな表情を浮かべながら次の展開を考えている癖に。
「くぬぬぬっ! そりゃあぁぁぁ!!!」
ほらやっぱり。
予想してた通り、シロは長槍を振るって来る。一見してやぶれかぶれの攻撃だが、その裏では綿密な計算を張り巡らせている筈だ。
攻撃は大振りの薙ぎ払い。ベターな選択肢としては回避だが、ここは敢えて【イッカク】を下に添え、攻撃を上方面と流す。
そして、その流れで距離を詰めーー。
「っ!」
やけに軽い手応えに悪寒を感じ、咄嗟に身体を後ろに逸らす。それとほぼ同時に、鼻先スレスレを光球が通過した。
「っ、魔法弾!?」
「これでも駄目か!?」
私がなんとか魔法を回避した事を確認し、片手を突き出したシロが舌打ちをした。
どうやら今の薙ぎ払いは、受け流されるのを承知の上での攻撃だったようだ。敢えて甘めの力で長槍を振るい、此方の防御アクションと同時に片手を空け、魔法を放ったらしい。
「至近距離での魔法射撃! 嫌らしいにも程があるわね!!」
「ハッ! 躱した癖に良く言うよ! 折角魔法を控えてたのにさ!」
「アンタ初っ端から企んでたの!?」
どうりで強化魔法以外の魔法を使う素振りを全く見せなかった訳だ! 何時もならあの手この手で攻め立ててくるのに、長槍での攻撃に拘ってた理由はそれか!
魔法の存在を選択肢から薄れさせ、至近距離からの不意打ち。しかもご丁寧に、こっちが攻撃を防いだのとほぼ同時のタイミングで打ち込んできたのだから堪らない。
まあ防いだけど。防いだけども、それはもうシロが遠慮する必要も無いという事でっ……!!
「もうガンガンいくかんなっ……!!!」
魔法を解禁した事で、シロの攻撃はより一層苛烈になった。
長槍での攻撃は勿論の事、その隙を埋めるように展開される射撃魔法は本当に厄介だ。単純に手数が増えた以上に、私の行動を呼んだ上で置かれる攻撃がキツイ。
下手に動けば置かれた長槍か魔力弾に当たり、動かなければ本命の一撃に当たる。
「……っ、本当に、強くなったわね……!!」
幼馴染兼ライバルの成長に、攻撃を防ぎながら思わず私は笑ってしまった。
まるでボードゲームのように、理詰めで追い詰められていくこの感覚。魔導戦技ではオーソドックスな長槍と、基本的な魔法である魔力弾と身体強化のみを使う、シンプルな戦闘スタイル。奇抜さも無い堅実な戦闘スタイルは、シンプル故に強く。それでいて扱う本人は、狡猾なまでに周到。
この二つのシナジーはただでさえ凶悪なのに、純粋に選手としてのレベルも上がっているときた。名門ラクシアで一軍に選ばれるのも納得だ。
「……んー、やっぱりルナに褒められるのは何か釈然としないんだよねぇ……」
「どういう事よ!?」
「攻撃全部防がれてるからだよ! 更に言うなら攻撃が一向に飛んでこないからだよ! アンタはコーチか!?」
「んぐっ!?」
折角褒めたのにと文句を言ったら、それ以上の文句が籠った叫びで返されてしまった。
そしてそれは、私としても自覚があるので少々気まずいものがある。
「あーもう! 今度こそルナの防御を抜けると思ったのに、案の定また固くなってるし! 何でこう人の成長を易々と越えてくるかな!? それならいっそぶっちぎりで強くなってよ! 何で相変わらず攻撃手段がカウンター一択なのさ!」
「んぐっ……!?」
シロの渾身の叫びは思い切り私に突き刺さった。……いや動揺するな。これはシロお得意の精神的な揺さぶりだ。
確かに私は持てるポテンシャルを全て防御面に回したと言われる程に攻撃が下手だ。攻撃面で得意と言えるのはカウンターぐらいしかなく、それも防御面程特化している訳ではない。無闇に連発しても効果的なカウンターは放てないが、条件次第ではクリティカルを出せるというのもの。総評すると『防御は都市本戦上位並、攻撃は初心者よりはマシ、カウンターのみ並より上』。
これらの要素を組み合わせた結果生まれたのが、私の戦闘スタイル。相手の攻撃をひたすら防御し続け、疲労やらなんやらで大きな隙を晒した瞬間、致命的なカウンターを叩き込むという一発逆転型。監督曰く『亀のように耐え、蜂のように刺す』スタイル。シロ曰く『ランダムなタイミングで爆発してくるサンドバッグ』戦法。
これはシロも重々承知している。攻撃の殆どを防がれる歯痒さも、攻撃が基本的に飛んで来ない味気無さも、油断した瞬間に致命的な反撃が飛んでくる不気味さも。その全て理解した上で私達は試合を重ねているのだから、本心で言っている訳がない。
というかそもそも、シロが勝つ時は大抵判定勝ちで、私が勝つ時はシロのスタミナ切れor致命的な隙からのカウンターKO。勝率で言えば私の方が少ないが、実力的にはなんだかんだ拮抗しているというのが私達の共通認識。
つまり気にする必要は無し!
「ヤジ飛ばしたって意味無いわよ! そんなんで私が動揺するとでも!?」
「いや割と本心なんだけど……」
「しみじみ言うんじゃない!!」
攻撃止めてまでコメントするな! 私だって攻撃下手なの内心気にしてんだから!
「こんのっ!」
「相変わらず動きがかったいなぁ……」
気まずさを振り切るようにシロ目掛けて【イッカク】を振るうが、やはりというか簡単に防がれた。
「シッ!」
そして流れるようなシロの長槍による反撃。
これは来る事が予想出来ていたので、しっかりと【イッカク】で受け止めつつ、その反動でバックステップ。
「残念、逃がさないっ!」
「むっ!?」
しかし、シロはそれすら予期していたようで、私の着地点目掛けて魔力弾を放ってきた!
ノータイムでの追撃。それも此方の両足が地面を離れているタイミングを狙ってか! 相変わらず巧いわねっ。
このままでは確実に当たるーー。
「っぶない!」
なので【イッカク】で地面を叩き、着地点を無理矢理変えて回避。
だが、これはあまり宜しくない。しょうがなかったとは言え、無理な回避で体勢が崩れた。この隙を見逃すシロじゃない……!
「そこぉ!!」
やっぱり来たか! しかも予想よりもかなり速い! やばっ、間に合わなっ!?
「アグッ!!」
鋭い衝撃が身体を貫き、私の身体は宙を舞う。
イッカクによる防御が間に合ったのでギリギリ持ち堪えたが、かなりイイのを貰ってしまった。多分だけど、直撃してたらKOされてた。お陰で身体の反応が……!
「まだまだぁぁ!!」
「くぅぅ……っ!?」
動きが鈍ってしまったせいで、シロの攻撃を防ぐのが難しくなった。いや、防げはするけど、衝撃が逃がせない……!
というか、攻撃の速さといい重さといい、さっきまでの比じゃないんだけど!?
「これっ……まさか重ねがけ!?」
「その通り! これが私の奥の手だよ!!」
「どうりでっ……!」
ここまで攻撃が重い訳だ! まさかこんな高等技術を実戦レベルで習得しているいるなんて!
強化魔法の重ねがけ。それは一流選手と呼ばれるための登竜門とされる高等魔法技術。肉体を損傷させない限界を見極める自己管理能力、魔法を重ねることで広がる強化項目ごとの差を調整するための繊細な魔力運用、そしてなにより重ねることで跳ね上がる要求魔力を満たせるだけの魔力量が求めるられる代わりに、生半な才能や技術の差なら容易くひっくり返す程の身体能力を得られる一種の決戦技術だ。
「この土壇場で、そんなもんぶち込んでこないで欲しいわね……!!」
「それでもギリギリで防いでる癖に!!」
「本当にギリギリなんだ、け、ど……!?」
シロが苛烈な攻めと共に文句を言ってくるが、文句を言いたいのはこっちだ。今まさに決戦技術と呼ばれる所以を身をもって体験しているんだぞ私は!
筋力、耐久性、反応速度、敏捷性の大幅な上昇。単一の身体強化だけでは太刀打ちできない、圧倒的な力の暴力。同じ近接型同士なら余程の実力差が無い限り、身体強化の重ねがけが出来る側が勝つと言われてるのも納得だ。そりゃママチャリと大型バイクで競えばママチャリが負けるでしょうよ!
「よくもまあ、こんな高等技術、覚えたわ、ね!?」
「だって普通にやってもっ、ルナの防御抜けないじゃん! なら防御の上から仕留めるしかっ、ないでしょ!?」
「だからって実践されたら堪んないだけど!?」
飛び交う言葉こそ軽いが、繰り出される攻撃は途轍もなく重い。もはやシロの攻撃は受け止めることは不可能で、なんとか【イッカク】で受け流してる状態だ。だがそれでもスピードとパワーが違い過ぎる。速すぎて攻撃に上手く合わせられないし、逃がしそこねた衝撃のせいで身体が軋む。
「これは、本格的にマズッ……!?」
「あったりまえでしょ!! 何の為にこんな高難易度の技術使ってると思ってんのさ!? これ本当に難しいんだからね!? こっちだってギリギリなの! これでダメなら私マジで泣くかんな!!」
「そりゃ、良いこと、聞いた、わっ!」
なるほど。どうやらシロも、まだ重ねがけを完全に使いこなしている訳では無いようだ。いやまあ、身体強化の重ねがけは一流選手の登竜門なんて言われてる技術だし、そんな簡単に完全習得なんて出来る訳無いと言われればその通りなんだけど。
「ウチの、後輩は、あっさり、使ってたけど、そこまでキツイ、の?」
「いやアレはマジで頭おかしい。1回の重ねがけですら、魔力運用が複雑過ぎて他の魔法が使えなくなるレベル。それを複数回重ねるってだけで私じゃ発狂もんだし、その上であんなポンポン他の魔法を使ってたら脳が焼けるよ」
「おうそこまでか……」
時間稼ぎになればと思ってナナを引き合いに出したけど、まさか攻撃の手を止めてまで食い付いてくるとは……。いや確かにナナの所業にはコーチも愕然としてたけど、そこまでなのかアレ。重ねがけを習得していないから、私じゃイマイチ実感湧かないのよね
「後衛型トップ選手のラピス先輩ですら、純粋な魔法能力じゃあの子には勝てないって認めてた。近接型やってるのが不思議なくらいだって」
「マジかアイツ……」
そこまでか。そこまでなのかアイツ。近接型の私じゃ想像出来なかったけど、ラピスラズリ選手が勝てないと認めるとかよっぽどだぞ。……何で私の後輩達は、揃いも揃ってあんなにケタ外れなんだろうか?
「なんというか、優秀過ぎる後輩ってのも困りものね」
「……ルナだって毛色は違うけど似たようなもんでしょ。攻撃がド下手だから私のライバル扱いされてるけど、並レベルの攻撃ができるようになれば私なんて一瞬だ」
「そこが致命的なんだけどねー」
ぶーたれてるシロに思わず苦笑が浮かぶ。あの天才児達と、私が同類なんてある訳無いというのに。
確かに私は、防御だけなら都市本戦に届くと散々言われてきた。だがそれと同じぐらい、攻撃は初心者より幾分マシという評価を受けてきているのだ。シロの言う並レベルが果てしなく先だということは、嫌という程実感している。並外れた防御の才をこの身に収める代わりに、攻撃の才がどっかに行ってしまったのだろう。
それに比べてあの後輩達はどうだ。セフィは攻防一体の特殊魔法と、高レベルの二刀流を自在に操る魔法剣士。シズクは強力な魔力性質と、類まれなる格闘センスがシナジーした極悪戦法を使うインファイター。最後のナナに至っては、近接能力こそ前の二人に劣るものの、それを補ってあまりある最高クラスの魔法の才を備えているときた。
その才能は明らかに私の遥か上。致命的な欠点を抱えている私とでは比べるべくもない。
「私はたまたま防御の才能が突出してるだけ。所詮は一芸特化の一発屋よ。ウチの後輩たちとは似ても似つかないっての」
「その一発屋に苦戦してる私はなんなのさ……」
「ハッ。ラクシアで一軍張れるアンタが何を卑下してんのよ。選手としての完成度なら、歪な一芸特化の私よりも遥かに高いでしょうよ」
ラクシアでの一軍なんて、強豪一歩手間の中堅校クラスならエースを張ってもおかしくないレベルだ。ましてやシロは決戦技術である重ねがけも習得しており、それでいてまだまだ発展途上。現在は勿論、将来性込みでも世間の基準的には十分以上に優秀だと言える。……そんなシロとライバルな私も、自惚れだろうけどそこそこの評価をされている筈。
「ここは敢えて自惚れ覚悟で言うけど、私たちは優秀よ。ただウチの後輩たちがそれ以上ってだけ」
だからこれはそう。単に上には上がいるという話なのだ。シロは確かに優秀だが、ウチの後輩トリオはそれを超える正真正銘の天才というだけ。あの3人は将来的にはトップ選手に名を連ねかねない強者の卵。戦闘センスだけでなく、肉体的にも何らかの天性の資質を宿した、私たちとは根本から異なる寵児たちだ。
「……随分とまあ、後輩を持ち上げるじゃんか。才能で負けて悔しいとは思わない訳?」
少しばかり釈然としない表情で、シロはそんなことを訊いてきた。どうやら私が、後輩たちに勝てないとあっさり言ったことが気に入らないらしい。……これがライバルとしての言葉か、幼馴染としての言葉かは分からないけど。
ただまあ、尋ねられたらこう返そう。
「じゃあアンタはラピスラズリ選手に嫉妬するの?」
同じように綺羅星の如き才能を間近で見せつけられ、アンタはそんなことを思うのか。
「……プッ。ハハッ、アハハハハッ!! そりゃそうだ! 確かにラピス先輩に嫉妬するなんて馬鹿らしいね! あの人は私たちの憧れ。少しでも近付けるよう、そしてあわよくば真正面から対峙してみせようと奮起することはあっても、嫉妬することは有り得ない!」
答えは予想通り。シロが破顔するのも想像通り。
当たり前だ。だってあの才能は眩しすぎる。あんな輝きを前にして、嫉妬なんて後暗い感情を向けられるものか。そんなことできるのは身の程知らずの馬鹿だけだ。嫉妬なんて、心のどこかで自分が上と思ってなければできないのだから。
遥か上の才能は、嫉妬するのも馬鹿馬鹿しいもの。ただ見上げ、いつか自分もと目指すモノ。
「はぁー笑った。にしてもルナ、そこまで言い切るんだ。後輩たち大好きかよ」
「当たり前でしょ? 大事な後輩なんだもの。そこに可愛いくて優秀が加われば、そりゃ溺愛するっての」
マイペースで隠れ熱血なセフィ。天真爛漫で蠱惑的はシズク。物腰柔らかで女誑しのナナ。癖の強い3人だけど、全員私の可愛い後輩だ。
「……そっか。じゃあルナも先輩として、そろそろカッコイイとこ見せないとね? こんな見え見えの時間稼ぎは止めてさ」
「……やっぱりバレてた?」
「私そんな馬鹿じゃないんですけどー?」
「知ってる」
シロは馬鹿っぽいだけで、実際はめっちゃ頭が良い。冷静沈着な狩人タイプと言うへぎか。……会話してるとそうは全く見えないけど。
つまりこれまでの会話は、全て分かった上でシロは付き合っていたということ。その理由は簡単で。
「さて。久々に面とルナと向かって話したし、そろそろ再開しよっか。そっちは楽しくやっているようで良かった良かった」
「わざわざ試合中に確かめなくても良いでしょうに……」
「これが私たちのスタイルでしょー?」
まあそうなんだけど。
「じゃあ切り替えるよ。重ねがけの恐ろしさ、ガッツリ刻んでやるかんな!」
「私の勝ち筋は、アンタの限界がくるまで耐えきることね。……全く。何でこんな面倒な持久戦をしなくちゃならないのかしら?」
「それはルナが防御特化し過ぎだからでは?」
「うっさいわね! ほらやるわよ!」
「うわ理不尽!?」
聞こえない聞こえなーい! さあ試合再開よ!
ルナ先輩は防御特化の人でした。強いというより厄介な人というのが周囲の評価で、本人もそれは認めています。
魔法系の基礎能力と攻撃センスがあれば、十分にエースクラスを貼れるという歪な才能の持ち主。それでいて優秀過ぎる後輩たちを屈託なく賞賛できる凄い人です。