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第30話 少年は先達の話をきく

書きだめが増えたので投稿。図らずも連投になってしまった……。

はい、負けました。案の定というか、第二ラウンドからはラピスさんに手も足も出ませんでした。第三ラウンドまではなんとか耐えてみせたけど、結局判定負けとなってしまいました。

……一応言い訳させて欲しいんだけど、何故だか第二ラウンドからラピスさんめっちゃ張り切ってんの。熱風も冷風もバンバン飛ばしてきたし、最終的には吸い込みしてくる炎と氷の竜巻とか出してきたし……。

縛りのある状態でアレは無理です。むしろKOされなかった事を褒めて欲しいよ。


「凄かったよナナ! カッコよかった!」


いや、現在進行形でめっちゃ褒められてるんだけどさ。


「まさかラピスラズリ選手を相手にあそこまで戦ってみせるとは。本当に驚きましたよ」

「おうよ! 試合の内容もそうだが、最後まで食らいついたのもオレ的にはポイント高ぇぞ! 良くやった!」


なんというか、大絶賛。試合を終えて戻ってみたら、賞賛の嵐が吹き荒れていた訳ですよ。

個人的には往生際悪く足掻きまくった上での敗北という、中々にアレな結果だったんだけど、どうも他の皆は違った感想を抱いたらしい。

お陰で凄くわちゃわちゃしてる。


「ハイハイ落ち着く! 興奮するのは分かるけど、ナナも疲れてるんだから! 集らない!」


見兼ねたコーチが皆を引き剥がしてくれたお陰で、漸く一息吐く事が出来た。うん、流石にちょっとお疲れです。


「全く……。まあ、皆の気持ちも分かるわ。まさか有名選手相手にあそこまで健闘するとはね」

「んー……。あれは健闘と言って良いんでしょうか?」


良くやったとコーチが褒めてくれたけど、個人的には首を傾げたいところ。第一ラウンドは兎も角、それ以降はボロッボロにされた印象しか無いし。

そんな訳で訊いてみたら、皆に苦笑されてしまった。


「あれを大健闘と言わずに何と言うの? 世界選抜クラスの選手を相手に、あそこまで食い下がってみせたのだから。胸を張りなさい」

「食い下がれたのは第一ラウンドまででしたけどねー」

「KOされなかっただけでも十分よ。平凡な選手なら一ラウンドももたないわ」


初心者で第三ラウンドまで食い下がるのなら、もはや偉業の範疇だとコーチは語る。

……いやまあ、コーチの言ってる事は分かるんだけどね? ただ僕、戦闘に関しては初心者じゃないから……。むしろ経験的にはベテランだから……。その事実を踏まえると、ギリギリ及第点に届くかどうかってのが、自己評価な訳でして。

まあ、これ以上言うのは止めとくけどね。実戦経験あるのは隠してるから、何言っても謙遜通り越して嫌味になるし。


「ふむ……。どうやら、あまり納得いってなさそうね?」


それでも何故かコーチにバレたよ。表情か雰囲気に出てたかな?


「コーチの立場としては、十分以上な内容だったと思うけど?」

「まあ、今回の試合で課題がかなり見えたので……」

「なるほどね。私はまだ貴方の事を殆ど指導してないし、その辺りの言及はしないつもりだったのだけど。本人が見えたというのなら気になるわ。教えてくれるかしら?」

「えーと、まず全体的に格闘面が駄目でしたね。割と初見殺しの類を連発したのに、全部ギリギリの所で防がれましたし。もう少し僕に技量があれば、接近戦の所でラピスさんを仕留められたかもしれません。後は立ち回りがちょっと。変則的なフットワークが僕のスタイルの持ち味なのに、距離を詰められないってのは問題かと」

「なるほどなるほど……」


僕が反省点を挙げていくと、コーチはふむふむと頷いていく。特に否定しない辺り、やはりコーチもその辺りは気になっていたのだろう。

そして僅かに考え込んだ後、コーチは結論を口にする。


「取り敢えず、反省点は分かったわ。今回は相手が悪過ぎたとも思うけど、向上心があるのは良い事ね。では今後は、格闘技術の向上と立ち回りの強化を図っていきましょうか」

「お願いします」


今後の方針が決定し、取り敢えず反省会は終了。


「最後にもう一度言っておくわ。良くやったわね、ナナ」

「ども」


コーチに軽く頭を撫でられた事で、話し合いに一段落着いた事を実感する。

そして次の話題に移る。


「さて。それじゃあヒーローインタビュー……といきたい所だけど、もう直ぐルナの試合が始まるわ。なので感想はお昼の時に。今は仲間の試合に集中する事」

「「「はーい」」」


コーチがそう言うと、皆は素直に頷いた。

そうして一瞬で空気が切り替わるのだから、皆がどれだけ魔導戦技に真剣に打ち込んでいるのかが見て取れる。勿論、皆がルナ先輩の事を大切に思っているというのも有るんだろうけどね。

そんな僕らに満足気な表情浮かべた後、コーチは主役たるルナ先輩へと視線を向けた。


「それじゃあルナ、準備は良いかしら?」

「はい。問題無いです!」


コーチの問い掛けに、ルナ先輩は落ち着いた様子で答える。実際、僕が戻った時も騒がず精神統一していたので、戦う準備は万端の筈だ。

そう言えば僕、ルナ先輩の試合モードも初めて見るかも。普段は苦労人っぽい雰囲気の方が勝ってるんだけど、試合モードだと生来の勝気さが良く出てる気がする。


「きなさい【イッカク】」


その言葉と共に、ルナ先輩の姿が光に包まれる。練習着は黒の道着に。指輪型のテバイスは、腕の長さ程の蒼い短槍へと変化した。


「……和装? ……んー、ちょっと違う? どっちかと言うと【カルタ服】かな?」


ルナ先輩の戦闘着は、地球世界の日本と似た特徴を持つ、【カルタ】という世界の服がベースになっているらしい。向こうの世界独特の紋様が描かれているので、多分間違いない。

因みに道着姿のルナ先輩だけど、めっちゃ似合ってる。ルナ先輩の勝気な印象が相まって、道場の一人娘って感じが凄い。こう、道着に通う男の子を張り倒してる系の。


「……何よ? そんなまじまじと見て」

「いえ、とても似合ってるなと」

「……絶妙に褒められてない気がするのは何でかしら……?」


褒めたのに渋い顔をされてしまっては、もう苦笑するしかない。内心ではやっぱり鋭いなと冷や汗をかいてたけど。


「ま、まあ、頑張ってください。ルナ先輩の戦う所は初めて見るんで、凄く楽しみです」

「何故吃ったかは後でじっくり尋問ね。……で、期待してる所悪いけど、私じゃあんたら一年みたいな試合は出来ないわよ。そんなに強く無いんだから」

「そんなの関係無いですよ。僕はルナ先輩の頑張ってる所が見たいんです」

「ナチュラルにホストムーブすんな」

「痛い」


本心を言っただけなのに、ルナ先輩に短槍の石突で小突かれた。


「ま、気持ちだけ受け取っとくわ。ありがとね」


そう言って、ルナ先輩はスタスタとリングの方に向かってしまった。

なんともサバサバした対応だけど、僅かに口角が上がっているのが見えたので、不快だった訳では無さそうだ。


「むー……」


……シズクちゃんがむくれてるので、やはり失言はしてないらしい。別の意味では失言なんだろうけど。


「ナナって、何かルナ先輩と仲良いよね……」

「仲良しなのは良い事でしょ?」

「そうだけどっ。そうなんだけど!」


私は不満ですと雰囲気で訴えてくるシズクちゃんに、思わず苦笑してしまう。

取り敢えず、頭を撫でてご機嫌を取っておく。


「むー……これで誤魔化されたり……にゅう」

「してます。猫ですかシズク……」


一瞬で雰囲気が柔らかくなったシズクちゃんに、セフィが頭を抱えていた。

なんというか、お馬鹿な犬猫に呆れる飼い主みたいな表情をしている。


「はぁ……。何でこうなってしまったんでしょう……?」

「可愛らしいじゃないか」

「元凶が何言ってんですか」

「キミも割と同罪だからね?」


少なくとも幇助罪ぐらいにはなると思うの。

……まあ、コーチ達の視線が痛いから、こういう話題はそろそろ止めとこうか。多分話しても水掛け論になるし。

そんな訳で話題転換。


「で、実際の所、ルナ先輩ってどんなもんなの? 本人は大して強く無いって言ってるけど」

「ルナ先輩の実力ですか……。んー、なんと言えば良いのでしょう……?」


僕が質問すると、セフィが何故か思案顔に。そんな難しい質問したかな?

首を捻っていると、レイ先輩が笑いながら会話に入ってきた。


「クククッ。まあ、ルナはルナで評価が難しいとこがあるからな。セフィが口篭るのもしゃーない」

「評価が難しい、ですか?」

「ああ。アイツと戦った奴は、大抵こんな感想を洩らすんだ。苦戦するような強さは無いけど、できれば次は戦いたくないぐらいには厄介』ってな」


ふぅむ? なにやら含みのある表現だね。そこまで強くは無いけど、厄介で戦いたくない。……癖のある戦闘スタイルってことかな?


「そうだな……おいナナ、さっき話し合いの時、ルナの対戦相手の話は聞いてたな?」

「あ、はい。シロ・クラークス選手ですよね? 最近ラクシアの1軍入りしたとかいう」

「そうだ。ルナの幼馴染兼ライバルで、公私共にもう何度も戦ってるらしい」


ほへー。ルナ先輩、シロ選手とそんな関係だったんだ。どうりであの時頭を抱えていた訳だ。


「この話でミソなのは、ラクシアの1軍選手とライバルってとこだ。ナナ、これがどういう事か分かるか?」

「えーと……」

「……あー、そういやスポーツ系の知識は無いんだったな。悪い悪い」


僕の無知を察したレイ先輩は、苦笑と共に説明を始めた。お手間おかけします。


「まず始めに、フリットカップがブロックごとのトーナメント形式を取ってるのは流石に理解してるな?」

「はい。流石にそれは」

「んで、トーナメントって形を取る以上、当然シード権ってものも必須になって来る。実績のある選手をトーナメント初戦に混ぜても、お互いに良い事無いからな」

「まあそうですね」


有名選手からすれば、無駄に試合を重ねて消耗する事になる。逆に無名の選手からすれば、初っ端からチャンスを叩き潰されるようなものだし。玉石混交の中から玉を探しだそうとしてるのに、そこに値付けされた宝石をぶち込むのは無粋というものだろう。

シード権ってものは、優遇というよりは棲み分けみたいな側面の方が強いと思うんだ。個人的な意見だけど。


「じゃあそのシード権を得るには、どれぐらいの実績があれば良いんだって話になる訳だ。これは主に個人と団体の2パターンが存在する」


あ、ここから僕知らないや。しっかり聞かなきゃ。


「まず個人の場合、前回の大会での成績が基準となる。例えば都市本戦出場者の場合は通常シード。地区予選では一つか二つ試合が免除される。都市本戦上位成績者の場合、準々決勝まで試合免除の特別シード。世界選抜出場者は、地区予選そのものが免除となる。こんな感じでどんどん続いていくんだ。他には魔導戦技の次元世界ランキングに載っている選手も、シードが与えられたりするぞ。説明が長くなるから今回は省くがな」

「はえー」


説明聞いて初めて知ったけど、魔導戦技って案外ガッツリ試合が免除されるんだね。地区予選ごと免除されたりするってのは、結構驚いた。

いやまあ、魔法なんて要素がある分、純粋戦技みたいにはいかないってのは分かるんだけど。魔法関係の才能って、同じ人間なのにマジで天と地レベルの差を付けたりするし。

一応、使用魔力の制限やデバイスの魔法領域制限とかでその辺りの公平性を保ってるんだろうけど、それだって限度があるもんなぁ。使用魔力を制限したって、元々の魔力量に差があったら少ない方が不利だ。デバイスの魔法領域制限にしても、自前の領域が広かったらあんまり意味無いし。

そういう本当にどうしようも無い部分の才能差をなんとかする為に、かなり大胆なシード制度を取っているんだろうね。


「次に団体でのシードだ。これはラクシアみたいな名門校の部活、有名なスポーツジムや道場みたいな、長年に渡って有名選手を多数輩出してきた団体に与えられる。所持するシード枠分、所属する選手を実績に関係無くシードに推薦する事が出来るんだ」

「そうなんですか?」

「ああ。まあ、生半可な選手じゃ駄目だがな。シードに推薦される選手ってのは、その団体の看板を背負っているようなもんだし。だからシードに推薦される選手ってのは、各団体が精査に精査を重ねて選ぶ本物の実力者なんだ。該当者無しなんて事もザラにある」

「はえー……」


なるほどなぁ。レイ先輩の説明で、団体のシード権について薄らとだけど理解出来た気がする。

つまるところ、団体のシードっていうのは個人とは逆なのだ。個人のシードが有名選手の選別なら、団体のシードは無名の実力者の選別。各団体に所属する、シズクちゃんやセフィみたいな実績は無いが異常に強い選手を隔離する為の制度なんだろう。

……そこまでして実力者を分けたいのかって気もするけど、戦闘関連の実力差って下手したらトラウマになるからなぁ。敵性オーバーSとぶつかって心が折れた機動隊員とかを知っている身としては、あんまし突っつけない。


「まあ兎も角、シードは個人にしろ団体にしろ、相応の実績が必要となるって事だけ理解しておけ。団体の場合は更に試合成績とは別種の信頼が要るがな」


ここまでは良いかと確認してくるレイ先輩に、僕は頷きを返す。

するとレイ先輩も満足そうな表情を浮かべ、続きを話始めた。


「さて。ここから本題だ。さっきもチョロっと言ったが、魔導戦技の名門校であるラクシアは女子の部のシード枠を三つ持っている。……ここまで言えば、ラクシアにおける1軍の意味が分かるだろ?」

「もしかして、1軍はシード権の候補者ですか?」

「そういうこった」

「わっ」


満足な解答だったのか、レイ先輩に頭を撫でられた。皆僕の頭撫でるの好き過ぎない?

いやまあ、それはそれとして。ラクシアの1軍っていうのは、そういう意味だったのね。個人競技、それも学生大会じゃないアマチュアの公式大会をメインに置いているのに、何で選手を分けているんだろうって思ってたけど。看板選手を選出してたのか。


「……あれ? ちょっと待ってください。今の話を聞く限り、シロ・クラークス選手って結構強いんじゃ?」

「そうだな。ラクシアの看板候補ってだけでも、地区予選じゃ注目株だ」

「そんな人とライバルなら、ルナ先輩も十分強いんじゃないですか?」


それなのに強くはないって評価されてるの?

僕が腑に落ちない表情を浮かべていると、レイ先輩は含み笑いを零しながらわしゃわしゃと頭を撫でてきた。……もう汗云々はレイ先輩完璧に気にしてないね。


「くっくっく。まあ見てれば分かるさ。多分、お前も驚くと同時に呆れるぞ?」

「呆れる、ですか?」

「ああ。アイツ、すげぇアンバンランスなんだよ。ある事に関しては都市本戦でも上位クラスなんだが、もう片方がてんで駄目でなぁ……」


ほれ見てろとレイ先輩に促され、僕は丁度始まったルナ先輩の試合に視線を向けた。

そして思わず目が丸くなる。そこにはーー。

実質魔導戦技のルール説明、というより設定の補強回。

それはそれとして、1番埋もれる場所で見せ場が終わる主人公。しょうがないね。試合順なんて二校の都合によるから。


因みにタイトルの雰囲気が前と違うのは気分です。今は真面目っぽいのが個人的なブーム

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