第二十九 戦姫は語る、彼奴は何だと
もう一週間、だと……!?
はい普通に一週間経ってるのに気付きませんでした。
という訳で今投稿します。
今日はラピス目線でのお話。
「お疲れ様です」
「うむ」
第一ラウンドが終了しリングを出ると、妾のセコンドを務めるリリカが出迎えてくれた。差し出された濡れタオルで汗を拭い、用意された椅子に腰を下ろす。
「……それで先輩。大分手こずっていたようですけど、勝てそうですか?」
「リリカ、お主のう……。妾を誰だと心得るか。この学園のエースじゃぞ? 魔道戦技を初めたばかりの初心者に、負ける訳がなかろうて」
僅かに心配そうな表情を浮かべるリリカに、心配するなと笑顔で答える。
実際、ここまま行けばまず間違い無く妾が勝つじゃろう。第一ラウンドでは何度か不覚を取ったが、もうこれ以上ナナを近付かせるつもりは無い。まあ、また奇抜な一手で距離を詰められたとしても、接近戦でも妾が上手。恐れる必要は無いじゃろう。
「……なら良かったです。すみません、ちょっと動揺してました。セコンドとして有るまじき失態です」
「良い良い。妾とてお主の気持ちは理解出来る。弱小チームの1年が、あそこまで粒揃いとは誰も思わん」
頭を下げるリリカに苦笑しながら、妾は相手チームの1年生達に視線を向けた。
妾の対戦相手であるナナは、椅子に座りながら何やら思案顔をしている。恐らく、この後の戦略について考えを巡らせているのじゃろう。
妾の後輩であるリーナと戦ったセフィリア・クラウンは、驚きと興奮が混ざった表情でナナの事を見ておる。あの様子じゃと、ナナが戦った所を初めて見たのかもしれんのぅ。
同じく後輩のピグマと戦ったシズク・ストライムは、とても熱の籠った視線をナナに向けておった。ふむ、他校の事ではあるが、中々に面白そうな気配を感じるのぅ。
総評すると、3人ともまだまだ初々しさの抜けていない1年生。良くも悪くちみっ子じゃ。それが試合になると、とんでも無い猛者になるのだから面白い。
「リリカ。お主の見立てでは、あのちみっ子達の実力はどんなもんじゃ?」
「……水無月君は言わずもがな。シズク選手、セフィリア選手も、明らかに都市本線クラスの実力者です。もう本当にビックリですよぅ……」
「カカッ。まあ、マネージャーという立場からすれば、無銘の実力者というのは現れて欲しくないか」
リリカ達マネージャーは、選手のサポートの他に、対戦相手となる選手の情報収集を行うという役目がある。そうして得た情報から対策を練り、妾達選手の勝利に貢献するのがマネージャーの仕事なのじゃが、無銘の実力者というのはその努力を全否定するからのぅ。妾としては、歯応えと意外性がある故に大歓迎なのじゃが、マネージャーとしては勘弁願いたいのじゃろう。
出てきてくれるなと毎回天に祈っているのを知っている身からすると、今回はもう苦笑するしか無い。
「取り敢えず、あの3人のデータは早急に集めないといけません。試合記録とかがあれば良いんですけど……」
「やはり難しいかの?」
「多分……。あれだけの実力があって無銘という事は、データの残る公式戦の類にはまず出ていません。それどころか、マトモな試合すらしてるかどうか……」
「まあ、女子2人の方に関しては、試合経験は殆ど経験無いじゃろうな。あの最初の昂り方は、ルーキー特有のものじゃし」
あの2人と関わった訳では無いが、この予想が当たっている事だけは断言出来る。闘志がダダ漏れで、更にそれに気付いていないというのは、経験の少ない新人にありがちな状態じゃからのぅ。
……それはつまり、殆ど経験ゼロの状態であれ程の実力を誇っているという事でもあるんじゃがの。カカッ。将来が楽しみでもあり、末恐ろしくもあるのぅ。
「……逆に分からんのがナナじゃな。あやつだけ妙に戦い慣れておる。それで初心者というのだから意味分からん」
色々と分かり易かった女子2人とは一転して、ナナだけは終始気負わず自然体であった。てっきり試合慣れしているからこその態度かと思ったが、本人は魔道戦技は初めてで、スポーツ自体の経験も薄いという。あれには本当に驚いたのう。
その後も直接言葉を交わし、先程まで矛を交えていたというのに、ナナに関してだけは全く予想が立てられない。むしろ謎が深まった程じゃ。
「あの試合運びは明らかに経験者。それも相当な経験を積んでおる」
妾の不意を突くような立ち回りの数々は、確かな経験に裏打ちされた対応力の現れじゃ。不意打ちは奇抜な行動をすれば良いものでは無い。しっかりと王道を知った上で、敢えて調子を外して初めて効果を発揮するのじゃ。そこいらの素人に出来るものでは決して無い。
「そして何より、あの魔法能力。素質、練度ともにずば抜けておるの。こと魔法に限定すれば、妾よりよほど達者じゃ」
「そこまでですか!?」
「うむ。あの炸裂魔法による格闘術など、魔法を使う身としてはかなり狂気的じゃよ。あれを平然と使いこなしている時点で、妾とは比べるべくもないじゃろうな」
リリカが驚愕の表情を浮かべるが、これは紛れもない事実じゃ。
妾とて後衛型の有名選手。魔法能力の高さには相応の自負があるが、ナナのそれは妾の技術をもってしても真似出来ん。いや、技術でなんとか出来る問題では無いのじゃ。
「あんな戦法、考えても普通はやらんよ。あんなポンポン魔法を使えば、魔力がすぐ底をつくからの。他の魔法も併用すれば、一ラウンドと保つまい」
個人的な見立てであるが、ナナが第一ラウンドで消費した魔力量は5000を超えるじゃろう。これは一般的な十代の魔導師の魔力総量の七割程度。第一ラウンドで消費する量としては破格じゃ。
一般的な魔導師より魔力量が優れている妾であっても、短期決戦を狙わぬ限りあれ程の量は使わぬ。それだけの量を使って平然とし、更に戦い続けようと言うのだから、とんでも無い魔力量じゃ。
「まあ、それだけ膨大な魔力を持ちながら、本人は何故か格闘型を選んでおるがな。お陰でどうにか圧倒出来ておる」
「ではもし、水無月君が後衛型だったら?」
「それは考えたくないのぅ……」
リリカのifの質問には、妾もポリポリと頬を掻く。別に魔力量だけで勝敗が決まる訳では無いが、魔力切れを心配する必要が無いというのは大きなアドバンテージじゃ。ガス欠を恐れずブッパなせるというのは、それだけで強い。
故に歯痒くもある。
「うーむ……。対戦相手としては有難くはあるが、やはりちと勿体なく感じるのぅ」
「水無月君が格闘をやるのがですか?」
「うむ。妾のようにサブでやるなら兎も角、メインとなるとのぅ……」
あんまり人のスタイルに口を出したくないが、ナナが格闘スタイルなのは正直疑問に思う。いや、別にナナの格闘技術が低い訳では無いのじゃが、それ以上に後衛型の適性が高過ぎる。
あんな魔法でポンポン跳ね回らなくても、距離を取って魔法で弾幕を張った方が余程強いじゃろうに。
「遠距離系の魔法が苦手なのかもしれませんよ?」
「んー……適性の問題じゃから絶対は無いが、その可能性は少ないと思うのぅ。あやつの魔法は大概曲芸じみとるし、遠距離魔法だけ苦手というのは考え難い」
強化魔法の重ねがけ、炸裂魔法の連続発動、任意の場所への障壁魔法の高速展開。そのどれもが超高等テクニックを要求される。それが出来るというのに、遠距離魔法は苦手というのは無いじゃろう。
「格闘に純粋に拘りがあるのか、それとも他に事情があるのか。……まあ、その辺りは試合をしながら探れは良いか」
そう結論付けて、椅子から立ち上がる。そのタイミングで、コーチからフィールドに上がるよう指示された。
ふむ。簡単な雑談と分析だけでインターバルが終わってしもうたが、まあこれはこれで良いか。無関係な会話という訳でも無いし、何よりこれは練習試。多少緩くても構わんじゃろう。
「さて。第一ラウンドは不覚を取ったが、次からはそうはいかんぞ? 【戦姫】と呼ばれる妾の実力、しかと刻み付けてやろう」
口角が上がるのを感じながら、妾はフィールドへと上がった。
相対するナナの表情が、何故だか引き攣っていたのが印象的じゃった。……そんなに凶悪な笑みじゃったかの?
残基マイナス1。仕事が忙しいんじゃ……。
それはそうとナナの舐めプがうっすらバレてる件。まあ何が言いたいかと言うと、分かる人には分かる。




