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第二十七話 唸れよ拳、戦姫に届け

今回はナナ視点です。曲がりなりにも主人公なのでちょい長め。

「えへへ、勝ったよー!」


試合を終えたシズクちゃんが、笑顔を浮かべて戻ってきた。


「お疲れ様」

「お疲れ様です」

「お疲れ」

「おう。よくやったな」

「凄かったわよー」


見事勝利をおさめてきたシズクちゃんを、皆で暖かく迎える。

コーチも満足そうにしながら、試合の総評を語る。


「よくやったわね。相性の悪い重武装、それもゴーレムを纏った相手にあそこまで戦えるなら、十分フリットカップでも通用するわよ。特に今回の試合で、課題も見えたでしょう?」


コーチが試すように尋ねると、シズクちゃんは深く頷いて答えた。


「……そうですね。やっぱり一撃の火力不足を感じました。今回は作戦がハマったから1Rで勝てましたけど、そうじゃなかったら苦労したと思います」

「そうね。フルR使っての判定勝ちをもぎ取るか、拘束なりしてゴーレムがパージした瞬間を狙うしか、方法はなかったでしょうね。やっぱり火力の低さが目立つわ」


……ノーダメ1RKOしてる時点で、火力不足も何も無いと思んだけど。

いやまあ、言ってる事は分かるよ?

ピグマ選手のスタイル、つまり搭乗型ゴーレム使いというのは、シズクちゃんみたいに火力の低さを手数で補うタイプの天敵みたいなもんだし。硬くてデカいだけで単純に脅威で、感覚等が無いから怯む事も無く、更に多少の損傷なら回復してしまう。

求められるのは最終的なダメージ量ではなく、一撃の威力。シズクちゃんの実力とスタイルなら、下手な重撃タイプよりも最終的なダメージ量は上回るだろうけど、そもそも一撃が効かない相手にはどうしようもない訳だ。

だからこそ、2人は課題が見つかったなんて話し合っているんだけど。


「……火力不足も何も、今回は相性が悪かっただけでは……」


さっきの試合は、例外中の例外だと思うんだよねぇ。

いやだって、搭乗型ゴーレム使いなんて音魔法を使うセフィ以上に絶滅危惧種だよ? 確かにあのスタイルはシズクちゃんとかには天敵だけど、そもそもかち合う可能性が恐ろしく低い。

さっきの試合はあくまでイレギュラーであって、それを元に特訓したところで無駄になる気がするんだよねぇ。

……まあ、僕はコーチみたいに指導者って訳じゃないから、アドバイスはすれど、トレーニング方針には口を出せないんだけど。


「いや、でもなぁ……」

「別に良いじゃないですか。試合にでる以上、火力が上がっても不都合なんて出ないんですから」

「それはそうなんだけどねぇ。 ただシズクちゃんのスタイル的にさ、火力としては既に申し分ない訳じゃん。 それなのにゴーレムにも通用するぐらい一撃の威力が上がったらって考えると、凄い怖い事にならない?」

「まあ、世界選抜クラスには余裕で届くでしょうね」


シズクちゃんとコーチの話し合いを眺めながら、セフィと火力の上がったシズクちゃんを想像する。

……バインドで行動不能にされた上で、岩石を砕く威力の拳でのタコ殴り。普通に死ねるね。


「やっぱりめっちゃ怖いね」

「流石にそう簡単にはいきませんよ。シズクがあのスタイルなのは、魔力性質以外にも重撃タイプが向いてないという理由もありますし」


セフィ曰く、シズクちゃんは魔力量が並で、身体強化の倍率も反応速度と敏捷性以外はそこまで高くないらしい。

身体強化の魔法は筋力、耐久性、持久力、反応速度、敏捷性等を強化するが、どの項目がどれだけ強化されるのかは個人の体質による。魔法の倍率の他に、肉体の補正値も影響するため、同じ魔法でも個人差が激しい魔法なのだ。強化魔法の倍率×肉体の補正値(項目別)=効果量って表すと分かりやすいかな?

で、シズクちゃんはどうやら敏捷の補正値がたかい敏捷型らしい。


「予想はしてたけど、シズクちゃんは敏捷型か。それじゃあ通常火力を上げるのは難しいね」

「ええ。強化魔法の倍率を上げるにしても、魔力量的にも厳しいでしょう。シズクの魔力量は5000ぐらいだった筈ですし」

「あー、そりゃ厳しいわ。重ね掛けも無理かな?」


セフィの情報から使用魔力量等を計算してみたけど、シズクちゃんの魔力量では厳しいという結論が出る。

公式戦では1度に使える魔力の上限は300。強化魔法は継続消費系ではないので、初っ端に上限近い魔力で発動してから行動するのがセオリーだ。つまり最初から300近く魔力が減る。

しかし、魔力300以下では効果時間がギリギリ1Rもつかぐらい。激しく行動すればその分効果時間も減るので、5Rで考えると強化魔法だけで2000近い魔力を使う事になる。

そこに攻撃魔法や補助魔法の分を加えるなると、結構カツカツだ。

倍率上げや魔法の重ね掛けで身体能力そのものを上げるという手は、恐らく使えない。


「魔力が増えれば、話は変わるんですが」

「こればかりは成長を期待するしかないからねぇ」


基本的に、魔力というのは10代前半から大きく成長し始め、20代を超えたあたりで緩やかになっていく。成長率には当然個人差はあるが、それでも大人と子供では魔力量が大きく違う。

で、中一であるシズクちゃんは魔力が成長し始めたばかり。これから成長するとはいえ、伸び代は不明で、尚且つ直ぐに成長する訳ではない。

色々と予測不能なので、現状ではなんとも言えない。


「まあ、現段階での魔力量は魔導師ランクD以下でも、ルール内なら総合的にはC+ぐらいだし、十分だと思うけど……」

「都市本戦下位レベルまでなら、確かにそうでしょうね。それ以上では恐らく足りませんが」

「いや、魔導師ランクC+って、一応ベテラン一歩手前ぐらいの強さなんだけど……」

「1つ上の世界選抜では、Aランク近い実力が求められるそうですし、妥当ではないですか?」


セフィのセリフに頬が引き攣る。

統括局が定めているレートでは、戦闘系魔導師ならランクD帯が見習い、ランクC帯が通常、ランクB帯がベテラン、ランクA帯がエース、ランクAAが大エース、ランクAAAが人類最強となっている。オーバーSは強さの次元が違うので除外だ。

で、セフィ曰く、都市本戦より上は最低でもエースクラスの戦闘魔導師ぐらいの実力がいるらしい。なんという魔境。


「一応スポーツの筈なんだけどなぁ……」


ルール内限定とはいえ、魔導師ランクAに匹敵する実力者たちが試合を行うのだ。果たしてこれをスポーツと呼んでいいものか。


「もっとこう、スポーツって大人しいものなんじゃないないの?」

「戦技なんて言うくらいですから、こんなものですよ」

「それにしたって実力があり過ぎる気が……」

「……呆れてるところ悪いですが、ナナの対戦相手はほぼ世界選抜レベルですよ?」

「……そういえばそうだった」


セフィの指摘にハッとする。

そうだよ。ラピスさん、最高戦績が都市本戦5位だ。フリットカップがトーナメント形式だって事を考えると、世界選抜クラスみたいなもんじゃん。

うわー、一矢報いるとか言っちゃったけど、普通に瞬殺されかねないよこれ。ランクA辺りの実力者って、実戦でも条件次第では普通に面倒なのに……。


「ナナ。貴方もそろそろ準備しなさい。ステージの整地が終わるわよ」


このタイミングで呼ばれるのか!

ラピスさんの実力が想像以上だったお陰で、ちょっと動揺してるのに!


「頑張ってねナナ!」

「期待してますよ」

「あんたの試合、楽しみにしてるわよ」

「気張っていけ!」

「応援してるわー」


あ、駄目だこれ。動揺してるところ見せらんない。更に言うなら情けない試合も見せらんない。


「粉骨砕身の覚悟で挑んできます」


本当に砕けなければ良いんだけどなぁ……。

内心では不安がこんこん湧き出てくるが、大口を叩いた手前、皆に気付かれる訳にはいかない。


「オーケストラ」


出来るだけ堂々としながら、デバイスを起動。両手に紺のグローブが装着され、練習着は黒ベースの軍服風の戦闘着へと変化する。


「わぁ……! カッコイイ!」

「これはまた……。気合いが入ってますね」

「あはは……。ありがと」


2人の感想に、ついつい苦笑を浮かべてしまう。

少し恥ずかしいけど、この反応もある意味当然か。僕のフル装備は、機能等のソフト面こそ3級デバイスに準拠してるが、物に関しては実戦用の装備をそのまま流用してるから。

シズクちゃんやセフィの装備も使い込まれてあったけど、僕のは競技ではなく実戦仕様。そもそもからしてモノが違う。

素材も実戦に耐えうるいいものだし、デザインも造りも統括局お抱えのプロによるオーダーメイド。なにより生地についた細かな傷等が、無駄な風格を放っている。

メインになるのは魔法領域等のソフト面なので、僕の装備もレギュレーションの範囲内ではあるけれど、流用するのは少し躊躇ったぐらいだ。……新しく作るのも勿体ないので、そのまま踏み切ったけど。


「さて。じゃあ行ってきます」

「頑張ってー!」


シズクちゃんを筆頭に、皆の応援を受けながらリングに上がる。

結果、装備の風格も相まって、ベテランみたいなリングインとなってしまった。初心者なんだけどなぁ僕。


「ほほう? 中々に様になっとるのう。戦闘着も馴染んでおる」

「あ、どうも。そちらも大変お似合いで。流石はクレアリールの王族ですね」

「まあの。形式のみの王族とはいえ、この服が似合っとらんのは問題じゃからな」


そんな風に笑うラピスさんは、地球世界でいうところの漢服に似た戦闘着姿を着用していた。あれは確か、クレアリールの民族衣装、その中でも戦装束に分類されたものだった筈だ。


「それにしてもよく気付く。女子の服を褒める余裕があるとは。緊張はしとらんようじゃな」

「いやいや。内心はビックビクですよ」

「ははは。そういう事にしておいてやろう」


別に冗談じゃないんだけど……。

仕方ないとはいえ、ラピスさんにすら勘違いされる始末。口先だけの初心者って思ってくれた方がやりやすいのに。

いや、考え直そう。出来るだけ強い人と戦えた方が、いい経験になる。強くなるのが目的なんだし、これで良いんだ。


「うむ。いい目じゃな。やる気に溢れておる」

「開き直っただけですよ」


やけっぱちとも言うけどね。


「どちらでも構わぬ。見事な試合にしてくれればな」


そう言って、ラピスさんは不敵に笑う。

それと同時に、コイルさんが定位置につく。


「さて。そろそろ始まるが、先手は譲ってやろう」

「……それはハンデですか?」

「否。妾を相手に一矢報いると宣言してみせたのじゃ。その根拠を始めの一撃で示せ」

「つまりテストと?」

「うむ。妾の眼鏡にかなえば、望み通り全力で相手をしてやる」

「……なるほど」


さーて、どうしたものか? ぬるい一撃を放って、敢えて侮らせるのも、戦術としては有りだけど……。

いや、やめとこうかな。テストするって事は、期待されてるって事だ。その期待を裏切るのは忍びない。なにより、そんなみみっちい試合を、シズクちゃんたちに見せる訳にはいかない。

なら、放つのは今の僕に出せる、全身全霊の一撃。合格なんて飛び越えて、一撃KOを狙ってやる。


「じゃあ、全力でやらせて貰います。テストするって言うのなら、沈まないでくださいよ?」

「ハッ! 抜かしよるではないか!」


お互いに戦意は十分。僕は攻めるために、ラピスさんは受けるために、腰を落とす。


「それでは、試合開始!」


コイルさんの宣言と同時に、僕とラピスさんは身体強化の魔法を掛けた。


「ぬ?」


僕は更にその上から、使用魔力と倍率を弄った強化魔法を重ね掛ける。それを計4回。


「ここまでかな……?」


実戦ならもっといけるが、ルール内で済ませるなら5重が限界みたいだ。

強化魔法の重ね掛けは、回数が増える度に使用する魔力と魔法領域が上昇する。故にこういう制限がある場合、消費と効果を抑えた魔法を段々と重ねながら、条件内に留めるのがセオリーとなっている。

メリットとしては、上限ギリギリの1度の効果よりも遥かに強力な効果が得られること。デメリットは魔力消費が大きいことと、項目ごとの補正値のバラつきのせいで、効果がが大きくなるほど差が広がって逆に行動に制限が掛かってしまうこと。一応、倍率を弄る等の小技で誤魔化せるが、それをするとやはり消費が上がるので、上限300だと限度がある。

そんな訳で、強化はここで打ち止め。まあ、身体能力だけならラピスさんを上回ってる筈だし、なんとかなるだろう。

それじゃあ、やろうか!


「ふっ!」


呼気ともに一歩。更にもう一歩!


「ぬ?」


5重に強化された肉体は、たった2歩で彼我の距離を食い潰す。

ラピスさんは険しい顔で防御に移ろうとするが、それじゃあ遅い!


「はぁッ!」


気合いと同時に、身体にドンッという衝撃が走る。足裏から放った炸裂魔法によって、思いっきり加速したのだ。

そして目の前には、未だに防御の姿勢が整っていないラピスさんが。

驚愕で目を見開いているが、それを無視して無防備な土手っ腹に全力で拳を叩き込む!

拳にガンッという衝撃。


「ブラストォ!」


そこに更に追い打ちとして、全力の魔力を注ぎ込んだ炸裂魔法を放つ!

その反動で僕は後ろに吹き飛んだが、それ以上の勢いでラピスさんがリングの上を飛んでいく。


「……あー、もう……」


ゴロゴロとリングの上を転がっていくラピスさんを見ながら、一言。


「なんであれを防ぐかなぁ……」


手応え全く無かったんだけど……。

案の定というか、ラピスさんはピンピンした様子で立ち上がった。


「いやはや、驚いたぞナナ! 先手を譲るとはいったが、まさかダウンを取られるとは!」

「え? あれダウン判定?」

「あ、ああ。ダウンだ」


気になってコイルさんの方を向くと、驚きながらも頷かれた。どうも驚きのせいで、コールが一瞬遅れたらしい。

マジか……。確かに吹っ飛んで転がってはいたし、ダウンの定義は満たしてるけど。


「自分で飛んでおいて何言ってるんです?」


ほぼノーダメの癖にダウンって何だ。

最初の拳は、ヒットする瞬間に両手の鉄扇を差し込まれて防がれた。追撃の炸裂魔法も、後ろに飛んで衝撃を逃がされ、更に暴風の魔法で相殺された。

ラピスさんが転がったのは、後ろに飛んだ状態で暴風の魔法を使ったからだ。

完全に防がれた上でダウンなんて言われても、微妙な気持ちになる。


「いや。防御するか受け流すつもりだったのだ。だがお主の一撃は、マトモに受ければ防御の上からKOされかねんかった。かと言って受け流すのはタイミング的に無理じゃった。飛んで衝撃を逃がしたが、あれも咄嗟だったしのう……」


ラピスさんは苦笑しながら、両手をプルプルと振る。どうやら痺れているらしい。少なくとも最初の拳に関しては、咄嗟だったというのも嘘じゃないみたいだ。


「いやー、調子になんて乗るもんじゃないの。初心者なんて自称のせいでちと侮った。テストなんて生意気な事言って、KOされかけては世話ないのう……」

「いや自称って……。僕は自他ともに認める初心者ですよ」

「強化の重ね掛けを複数回やる初心者がいてたまるか。それ超高等技術じゃぞ」


まあ、それは否定しないけど。


「というかお主、そんなに魔力使って大丈夫か? 今ので2000ぐらい使ったろ。それともあれで決める気だったか?」

「ご心配なく。全然平気ですんで」


ガス欠を心配するラピスさんに、拳を構える事で問題無いと示す。


「それは重畳じゃ。もう試すなどせぬ。全力で往くぞ!」


それが再開の合図となった。


「我が【グフウ】の力、とくと見るがよい!」


ラピスさんは両手の鉄扇、【グフウ】を開き、それを思い切り振るった。

生まれたのは暴風。それもただの風ではなく、炎に匹敵する熱量の練り込まれた灼熱の暴風だった。


「あっつ!? 」


咄嗟に障壁の魔法で直撃を防ぐも、灼熱の暴風はその余波だけで、僕の身体を焼いていく。

流石に単純な物理障壁じゃ、暴風は防げても熱波までは防げないか。

なら、


「こ、んのっ!」


全方位に向けた炸裂魔法で、周囲の空気ごと吹き飛ばす!

よし、予想通り熱くない。


「これな、っらぁ!?」


なんとか暴風を無効化したと思った瞬間、半透明の何かが飛んできた。

バックステップでギリギリ回避したけど、ちょっと頬を掠った。頬に鋭い痛みが走ったので、今のは斬撃系の攻撃だったらしい。


「……鎌鼬かな?」


攻撃の内容から当たりをつける。

それにしてもやりにくい。鎌鼬のような直接的な攻撃はまだいいが、温度等の間接的な攻撃がキツイ。炸裂魔法で防げなくはないけど、必要な動作が増えるのは宜しくない。

かといって無視も出来ないのが辛いところだ。熱風なら炙られるのを我慢すれば多少は無視出来るが、コーチ曰くラピスさんは冷風も使うそうだ。体温の急激な低下はパフォーマンスに直に影響する。それは割とシャレにならない。

……長期戦はやっぱり不利かな。あと出来るだけ距離を詰める。気温の変化にラピスさんも巻き込めるかもしれないし。まあ、絶対対処はしてるだろうけど、少しでも対処に意識を裂ければ十分だ。

問題は距離を詰めると、性質上広範囲系になる風の回避が難しくなる事だ。とはいえ、そこは自分の機動力で回避するしかない。

とりあえず、方針は決定。なら動くだけだ。


「いっせー、っの!」


一歩を踏み出し、ラピスさん目掛け突進する。


「させると思うてか!」


僕の出鼻を挫くように、今度は極寒の暴風が吹き荒れるが、それの対処法はもう分かってるんだ!

全力の炸裂魔法で周囲の空気ごと吹き飛ばす。


「甘いぞ!」


しかし、すかさずラピスさんは鉄扇の片割れを振り、今度は灼熱の暴風を放ってきた。

これも同じように炸裂魔法で対応しようとして、止める。

目の前のラピスさんが、密かに鉄扇の片割れを畳めるようにしていたから。


(明らかに何か狙ってる。多分、近距離用の攻撃魔法)


距離でいえば、後数歩で近接の間合いになるけど……。このまま突き進むのは得策じゃないかな。

ただでさえ格上で、後衛タイプとはいえシズクちゃん以上の格闘能力があるらしいラピスさんだ。このまま馬鹿正直に突っ込んでも、カウンターで張り倒される。

なら、ここは意表を突いて。


「なぬ!?」


炸裂魔法を、暴風を吹き飛ばすためでなく、自分を打ち上げるために使う!

強化された身体能力、炸裂魔法、小柄な体格。これらが合わさった事で、僕は容易く横向きに吹き荒れる暴風を飛び越え、ラピスさんの頭上に至る。

そして真上に炸裂魔法を放ち、その衝撃を利用して急降下。

通常では有り得ない方向転換に目を見開くラピスさん目掛け、全体重を乗せた踵落としをぶちかます!


「ぐっ!?」


如何にラピスさんといえど、この攻撃には反応が遅れた。鉄扇で防御こそされたが、回避はされなかった。

そしてこれは上からの攻撃だ。衝撃は下に向かって走るため、最初みたいに後ろに飛んで威力を逃がす事は出来ない。

踵落としの威力によって、ラピスさんの足がリングへとめり込む。


「っ、はぁっ!」

「うわっ!?」


だがやはりラピスさんは強い。僕の渾身の踵落としは、ギリギリのところでいなされた。

無理に踏ん張らず、あえて脱力する事で打点をズラし、全身を捻る事によって受け流されたのだ。

しかも、受け流されて体勢が泳いだ僕を、身体を捻った勢いで蹴り飛ばすオマケ付きだ。


「いてて……。あれでもダメかぁ」

「痛いのはこっちなんじゃが……。リングにめり込んだぞ」


僕は蹴られた脇腹を。ラピスさんは両手首と腰辺りをさすっていた。

蹴りによって中途半端に距離が開いたせいで、仕切り直しのような雰囲気になった。

お互いに隙をつけば一瞬で距離を詰められ、一瞬で距離を取れる距離。それが僕とラピスさんの間に横たわる。


「全く……。末恐ろしいものよな。ここまで苦戦する事になるとは思わなんだ」

「苦戦って……。僕の攻撃、マトモにクリーンヒットすらしてないんですが?」

「お互い様じゃろ。お主だって簡単に距離を詰めるではないか。妾のスタイルは、近付く事すら難しいと評判なんじゃがなぁ」

「確かに風ってだけで移動に制限掛かりますしね。ただその割に、近接戦が達者過ぎではないですかね?」

「嗜みじゃよ嗜み」


お互いに軽口を叩きながらも、動き出すタイミングを探っていく。

中途半端に距離がある為、迂闊に動けないのだ。僕は近接戦をする為に、無理矢理突っ込んで体勢を崩されるのは避けたい。ラピスさんは、生半可な風では僕に防がれる事を知っている。

距離を詰めたい僕と、離れたいラピスさん。やがて軽口もなくなり、ただ相手の挙動に注視するようになる。


(膠着したか……。このまま睨み合ってるのも悪くないけど、3Rしかないのに無駄に時間を潰すのもなぁ……)


作戦的には悪くはないけど、精神的にはよろしくない。睨み合いが続くのは、中々にすり減るものがある。

……よし。いっちょ賭けにでましょうか。

覚悟を決めると共に、僅かに重心を前に出す。

そんな些細な変化を察知したラピスさんもまた、僕の一挙一動を見逃すまいと集中しだした。

鉛のように重くなった空気の中。


「………あ」


僕はふとコイルさんの方を向く。

僕に対して過敏になっていたラピスさんも、ついつい釣られてコイルさんの方に意識を向けてしまった。


「む?」


その一瞬の空白を待っていたっ!


「よっしゃ隙有りぃっ!」

「っ、おおお!?」


狙ってやったのだ。当然、こんな恰好の隙を見逃す筈はない。

即座にラピスさんとの距離を詰め、近接戦の間合いへと侵入する。


「お主ちと卑怯じゃないか!?」

「それは引っかかった方が悪いという事で!」


ラピスさんの苦情は敢えてスルー。勝負は無情なものという事で、ぜひ許してください。

さて。それじゃあ殴り合いの再開だ!

はいまた書けなかった。残基マイナス1。

忙しいってのもあるのですが、章まとめの話に苦戦中です。



……ところで話は変わるのですが、コレってローファンタジーであってます? リア友から違くね?とツッコミ入ったのですが

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― 新着の感想 ―
[一言] 異世界の話であり、世界観が作り込まれていることを考えると個人的にはハイファンタジーな気がします。
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